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殲滅

非常に遅れてしまい申し訳ありません。


そこにあるものは、唯、白。

辺り一面、吸い込まれてしまいそうな深い深い白色


どこが上で、どこが下か何て全く分からない。

いや、もしかすれば、そんな概念すらも存在していないのかもしれない。


ふと、そんな空間に何かの音が響き渡る。



「-----、-------。」



何かに呼び掛けるように、何かに導かれるように、

優しく、繊細に、声が響く。



「----様、------様。」



その音は、やがて人の声を成していく。



「--白--様、----龍様。」



優しく、繊細だった声は、少しばかりの怒気と、焦燥を孕んだものに変化していく。



「--白--様、-----白龍様!!」



「…………ああ、ごめんなさい。」



呼び掛けられていた声が届いたのか、やっと彼女(・・)がその声に答えた。



「……夢を、見ていました。……あの人の、夢を。」



「………はぁ……しっかりしてくださいよ、貴女は、我々の王なんだから。」



呆れるように、何かが言葉を発する。



「わかっています…………ところで、なにか用が有ったのでは?」



「ああ、そうでした。あの方…………いえ、奴の呪いを解く、鍵玉を持ち出した者が出ました。」



「なんですって………!?いったい誰が!?行方は分かっているの!?」



先程とはうって変わって、焦る様子を彼女は見せる。



「その点についてはご安心ください。既に場所は割り出せています。恐らく、下界かと。」



「下界……………!?」



告げられた言葉に、彼女は先程とは違った焦り方を見せる。



「どうかなさいましたか?確かに、早く連れ戻さないと危険なのは確かですが………」



彼女が焦らないわけが無い。人間界には、()がいるのだから。然るべき場所に閉じ込められなかった、彼が、いるのだから。



「その者を連れ戻して来てください………今すぐに!!」



「は、はいいぃぃ!!」



彼女の気迫に気圧されたのか、その場から消えるようにその声の主が立ち去った。



「何てことなの………せっかく……上手くいったと思ったのに!!」



彼女は、やり場の無い焦燥感を白い空間にぶつける。それほどまでに彼女は焦っていた。



「ああ…………ごめんなさい…………」



届きもしない言葉を、ただ一人嘆く。

大好きな人への想いを。ただ、一人。



「ごめんなさい……………黒龍(・・)様………」



彼女の言葉は、やはり誰にも届くことは無いまま、

白い世界に消えていった。
































時は夕方。

リディウムが目を覚まして、約三時間後になる。

殆ど日も落ち、夜の気配が空を覆い始めている。

深い藍色に染まりつつある空に点々と輝いている無数の星々は、この辺りの空気がとても澄んでいる事を教えてくれていた。


そんな中、リディウムとギルは村の東側の門の前にいた。


門の柱に寄りかかって、くつろいでいるリディウム。それに対して、ずっとソワソワして落ち着かない様子のギル。 これから起きる出来事を考慮すると、ギルの態度の方がこの場には相応しいと言えるだろう。



「少年…………本当に大丈夫なんだな?」



ギルが確認するかのように、リディウムに疑問の言葉を投げ掛けた。



「ああ、大丈夫だ。」



そんなギルの心配をよそに、やはり余裕そうに返事をするリディ。



「あんたこそ、逃げなくても良いのか?もう村の人間は全員避難したんだろ?」



そんなリディウムの疑問に、今度は逆にギルが笑って見せた。



「ワシは村長だ。この村の行く末を見届ける義務がある。」



そうか、とだけリディウムは返した。

再び、なんとも言えない静けさが辺りを支配する。

詩人か何かのような、洒落の効いた言葉でこの状態を表現するならば、嵐の前の静けさ、とでも言えるだろう。


しかし、そんな静けさは唐突に打ち破られる事になる。



「………………!!来た…………!!」




言葉と共にすぐさま立ち上がり、身構えるリディウム。

彼の耳は、たしかに捉えていた。砂塵と共に此方に突っ込んでくる大量の魔獣の足音を。



「来たか…………疑ってはいなかったが、本当に凄い量の群れだな。」



酷く落ち着いた声で、ギルが呟く。



「危ないからアンタは下がってろ、直ぐに終わらせる。」



ギルにそう言い、その場から一歩前に出るリディウム。彼の右手には、先程リディウムがギルに頼み、用意してもらっていた得物ーーー 一振りの剣が、握られていた。



「ハアァァァァァ…………」



リディウムが剣を握る手に一層力を入れた刹那、

彼の右腕に変化が現れる。


どす黒い、まるで瘴気のような何かが、その腕から滲み出すように現れる。

そのどす黒い何かは腕を水のように伝って行き、やがて剣にまで行き着く。

すると、ソレは染み込んでいくかのように剣に吸い込まれていき、鈍い輝きを放っていた刀身を黒く染めつくしていく。



「よし………やっぱり付与術式(エンチェント)も使えるみたいだな…………」



確かな手応えを感じ、リディウムは少しばかりの笑みを浮かべる。



「その魔素の色…………まさか、黒属性!?」



ギルが、この日何度目か分からない驚きの声をあげる。リディウムが大量の魔素を保有しているのは娘から聞いていた。そして、その魔力がもたらす魔術の強大さも彼は理解していた。

そんな聡明な男でも、もうこの世には存在しない筈の属性(・・・・・・・・・)を彼が保有しているとは流石に予測出来なかったようだ。



「………事情なら後で軽く話す。それより、今はこっちだ。」



そう言い、リディウムは魔獣の方に目を向け、手に握った剣を肩越しに振りかぶりーーーー




「……いっっ」




ーーーー投げた。




「けぇぇッッ!!」




ゴオオオオォォッッ!!!


人間の力では到底実現できない速度で、剣が遥か上空に向かって飛んでいく。

かなりの距離を飛んだ後、剣に変化が現れる。




ーーー突然、剣が空中で制止したのだ。



ピタリ、とだ。

あらゆる慣性の法則を無視して、剣がその場に縫い付けられたように止まってしまったのである。


変化はそれだけではなかった。


剣の刃に収束されていたどす黒い何かがーー黒属性の魔素が剣を離れ、空中に離散し始めた。

細かに分裂した黒属性の魔素は、それぞれが肥大化、再構成されていき、何かの形を造りだした。



細身のシルエット、二本の長さの違う長方形が直角に交わっている形状。

まさしく、それはーーーーーーー




「十字架…………?」




ーーーー紛うことなき、十字架だった。


それもただの十字架ではない、縦の他よりも長く突き出している部分の先端に鋭い刃がある、黒く塗られた十字架だ。


そんな十字架が、頭上の空に数え切れないほど浮いているのである。


リディウムが剣を投げてここに至るまで僅か12秒。


魔獣の群れも、突然の変化に立ち止まり呆然と空を見上げている。



すると突然、群れの魔獣の一匹が、何の前触れもなく、グチャッと音をたてて絶命した。

他の魔獣たちは何事かとそちらに視線を送る。


そこには、一本の十字架に背を突き刺され、絶命した無惨な魔獣の死体があった。


特別、何かが起きたわけではない。

ただ、空中に縛り付けられていた十字架の一本が束縛から放たれ、慣性に従い落下してきただけなのだ



しかし、何も十字架は一本だけではない。



まだ空に何千とあるーーーーー



魔獣達はそう理解した瞬間、悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすかのようにバラバラに逃げ始めた。

身の危険を感じたのだろう。先程とはうって変わって各々が必死で逃げている。


だがーーーもう遅いーー遅すぎたーーー。


逃げ惑う魔獣達に一斉に十字架の雨が降り注ぐ。

子供も成獣も、関係なしに次々と十字架はその命を奪い尽くしていく。

断末魔を上げ、もがき、十字架の雨から必死で逃げようとしても直ぐに十字架に地面に縫い付けられてしまう。



剣を媒介として高濃度の魔素を付与し、その剣の魔素を操作し、大量の十字架を作りだし、一気に対象を殲滅させる。


その十字架の雨は、数多の命を踏み潰し、やがて地面に佇む。魔素が死体を喰らい尽くすため、後に残るのは大量の十字架だけ。



これこそ、リディウムが人間であった頃に生み出した付与術式(エンチェント)の応用技。



「付与式殲滅魔術…………『黒塗りの墓標群』」



リディウムがそう呟いたときには、もう断末魔も止んでいた。

























戦闘(というか殲滅)描写が少し入りましたが、どうでしたか?


よろしければ感想等お願いします。

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