目覚め
少し短いです。
「う……あ…」
……ここは…………………………何処だ!?
俺は体に掛けられていた布団をはねあげ、周りを見回す………って、あれ?
「これは………布団?」
布団。ずいぶん懐かしい物だ。俺がまだ人間だった頃よく世話になっていた…って、今はそんなことどうでもいい。
何で、俺は今布団で寝ているんだ?
そんな事を考えていると、
「気がついたんだね。よかった~」
突然聞こえた人間の言葉に、驚いて声が聞こえた方に意識を向ける。
そこにいたのは、真っ赤な髪の色をした少女だった。150センチ程の身長で、幼くも整った顔で屈託の無い笑みを浮かべるその姿には、何処か小動物のような可愛らしさが感じられる。
「それにしてもビックリしたよ~。村の外を歩いてたら目の前に貴方が落ちてきたんだから。」
「君は……?」
「私?私はフィリア。この村の村長の娘だよ。」
村?村長の娘?
いまいち状況がつかめないが、どうやら俺は目の前の女の子に助けられたらしい。
何はともあれ助かった。あのまま動けない状態で地面に倒れ込んでいたら、俺は今頃魔獣の腹の中に収まっていた所だ。
まあ、もしそうなったとしても、抜け出すのが面倒なだけで、死んでしまうわけではないのだが。
「だ、大丈夫?」
そんな事を考えていると、どうやら苦しそうにしているように見えてしまったようだ。
少女が----フィリアが心配そうにこちらの顔を覗きこんでくる。
「ああ、もう大丈夫だ。」
そう言って布団から上体を起こす。
やはり考えていた通り、俺の能力を呪いで封じ込める事ができても、俺の龍としての力までは封じる事は出来なかったようだ。
人間の姿になっていても、いつも通りの力が出せるだろう…………ん?
「う…嘘……傷が…無くなってる!?」
………あぁ、さっきから静かだなと思ったら、そう言う事か。つい、さっきまで傷だらけだった奴の傷が跡形もなく消えているのだから驚くのも仕方ないだろう。
「…すまない、小さい頃から傷の治りが速くてな。どうも医者によると、体内の魔素の異常な量が原因らしいんだが……怖かったか?」
まさか「俺が黒龍だから」なんて言えるわけがないので、適当なことを言って誤魔化す。
「う、ううん。ちょっとびっくりしただけ。」
……どうやら、うまく誤魔化せたらしい。
「そうだ、貴方の名前は何て言うの?」
………名前、か。
「俺はリディウム。言いにくいだろうからリディとでも呼んでくれ」
リディウム。これは俺がまだ人間だった頃の名前だ。この名前を人に名乗るのは何百年ぶりだろうか。
「分かった。じゃあリディ、今からお父さんに貴方が目を覚ましたって伝えに行って来るね。」
そう言うや否やフィリアは部屋の外に元気よく飛び出していった。若干顔が赤かった気がするが、どうかしたのだろうか。
「…………あっ」
よく考えてみれば、俺は服を着ていない。
落下中に力尽きて、この姿に無理やり戻ったんだから服を用意している訳がない。
(そう言う事か。)
俺は心の中で、服を来ていなかった事に後悔した。
私、フィリアはリディがいる部屋を出て、さっきの光景を振り払うように走っていた。
(は、初めてお父さん以外の男の人の裸をみちゃった……)
それにしても改めて彼を見ると、すごく綺麗な顔立ちをしていた。
鋭い紅い瞳に、この辺りでは珍しい短く切られた黒い髪。程よく筋肉のついた引き締まった体………って
(な、なに考えてるの私っ!!)
思い出してしまった彼の事を再び頭から振り払い、
父さんのいる村の役所に急いだ。
戦闘はもう少し先になりそうです。