第3話
さて、国王と王妃との食事会も終わり、今後の身の振り方を問われた。
王宮に住み、様々な時に色々な場所で勇者としての活動を行ってほしいと言われたが、そんなのは御免だ。僕は自由に憧れる。以前の暮らしでは出来なかった自由を手に入れてやる。
昔誰かが言ってたな、不自由と嘆く自由は誰にでもあると。
僕が出した要求はこうだ。
①王都に一軒家を用意すること(いずれやってくるだろう最低でも2人の分の部屋を用意しておかなければならない)
②当座の生活資金(無一文で放り出されてはたまらん)
③しばらくの間家庭教師を用意すること(こちら側の常識とか、色々教えてもらわなければならない)
まあ、他にもおいおい要求はさせてもらうことにして今日一日は王宮にお邪魔させていただくことにした。
いくつかわかったことだが、この世界にも四季が存在する。今の季節は春のようだ。暦は僕の居た日本と変わらず1月から12月までが存在する。無駄に何とかの月とか覚えなくて済みそうだ。時刻は二時間おきに鐘が鳴ることで知らせている。朝の六時に一番最初の鐘が鳴る。その後二時間おきで最後に鳴るのは夜の十時だそうだ。これは、一般的な町や村などだけであり、軍隊、騎士団等ではまた違った形になるらしいが、そこは僕が覚える必要もないだろう。
王宮の来客用ベッドで横になりながら考えるのはいつ頃にシェリーとリリスの2人がやってくるかだ。あの2人はその気になれば召喚魔法など利用せずともこちらの世界に来ることができる。
その頃までにはひと財産稼いでおかなければ男としてのメンツが保てそうもない。まあ、向こうに居た時も財産など持っていなかったのだが。
さて、翌日朝も早くから例の護衛の少女に起こされ、朝食もさっさと済ませ、国王自らの案内で貴族街に連れて行かれた。王都はおおざっぱに言うと一般区画、工業区画、貴族区画、王宮に分かれる。一般区画は更に色々分かれるが貴族街と一般区画との間に大きな広場があり、そこには市が立っている。平民や貴族の下働きなどが食材その他を買うことができる区画だ。王都は外側から工業区画(鍛冶屋や織物等どちらかと言うと職人の多く住む街)・一般区画・貴族区画・王宮という順になる。それをさらに城壁で囲んでいるという具合らしい。
ちなみに国王自らの案内で紹介されたのは一年ほど前まで某伯爵が住んでいた屋敷だ。某伯爵は跡継ぎに恵まれず、残念なことにお家断絶となったらしい。そこそこに広い庭、二階建ての十数部屋はある屋敷だ。何十人か座れる食卓や、厩舎もあるらしい。しかし、借り手や買い手がつかず、一年ほど放置してあるため、此度の勇者様のお屋敷にと相成ったわけだ。
「タダでこれほどの屋敷に住めるのなら幸運だな」
そんな僕の独り言に国王はそんなわけなかろうと返した。
「一年の家賃は金貨10枚だ」
なん…だと?
ちなみにこの世界のお金は銅貨・銀貨・金貨で成り立ち、銅貨1000枚で銀貨1枚、銀貨1000枚で金貨1枚という計算になるようだ。平民は食堂などでの一般的な食事が銅貨50枚前後ということらしい。宿屋に泊るとなると、宿屋のランクにもよるが、二食付きで一泊銅貨200枚前後が相場らしい。
貴族区画だと、一月の家賃も馬鹿にならず、一年で金貨10枚だと破格の安さだそうだ。そこに加えて下働きの人件費など、1年の必要経費はとても大量の金貨が必要になるらしい。
だが、僕はこの屋敷を借りることにした。なんとなくこのくらいの広さがいつか必要になるだろうという、イヤナ予感があったのだ。そして、いい予感というものはほとんど当たらず、イヤナ予感というのは何故か当たりやすいと相場が決まっている。
当座の生活資金として金貨数枚と銀貨500枚ほどを貸してもらい(勇者なのに借金まみれとは)、僕の異世界嘔吐ライフ(誤字にあらず、これからはそういう場面も多くなるかもしれない)が幕を開ける。
しかし、一番驚いたのはそれではなかった。
「フィリア・ストラスブールと申します。今後は勇者であるシンヤ・クドウ様の身の周りのお世話を仰せつかりました。よろしくお願いいたします」
例の護衛の美少女が何故かメイド服に身を包み、僕に頭を下げてきた。
おいおい、他人の面倒などみきれんよ。王都でのメイドさんの人件費はいくらほどだろう? 僕の腐った脳細胞は悲鳴を上げだした。
「お前さんの要望にあった家庭教師の件だがね、例の騎士をぶちのめした一件のせいでな、なり手がいなくなってな、彼女が住み込みで働いてくれることになった。彼女の給料等は王宮から出すから心配するな」
国王、無駄な優しさはいらんのだよ。
こうして、僕の異世界嘔吐ライフはフィリアさんとの共同生活にあたり、ルール決めや家具等の選別(なにせ、ベッドもない)などから始まることになる。先が思いやられるな。
おかしいなあ。異世界召喚モノの定番と言えば、装備品を整え、仲間を募り、さっさと冒険の旅に出かけるのが当たり前なのに、まだ、貴族区画からすら出ていないんだぜ。
ふふふ、早く美少女を仲間にして冒険の旅に出かけたいものだ。