帝国出発
アレスの奴…起こす度にでこにつつきやがって…
チュン…チュチュン……チチチチ……
朝である…
(ズイッ…)時政が寝ているベッドの脇に一つの影が……ゴスッ!
「痛てぇっ!!なにしやがるっ!!アレスッ!!」
寝ている時政のおでこに嘴でつついたのだ…。《さっさと準備しないかっ!今日は帝国に仕官しに行く日だろう…。寝ている暇があるはずがなかろうっ!帝国の試験日と帝国の行くための日数を考えれば、今日出発しないと間に合わないぞっ!早く起きないかっ!!》
「だからってつつく事ないだろうがっ!」よほど痛かったらしく涙を滲ませている。あの死闘から10日たっている…時政とアレスの死闘は凄まじく魔獣の王国の森三分の二を燃やすほどであった…。地元では悪魔が降臨したのではと疑い、恐れたほどの死闘だった。(燃え盛る炎で夜空が真っ赤に染まるほどだった)
その後時政は死闘を制しアレスを無事パートナーにする事が出来た。(その姿を見た地元の住人達は時政に中に'闘鬼'を見た)《お前は普通に起こしても起きないからな。これで丁度いいぐらいだ…。》
時政は一度寝るとなかなか起きない…以前フェーゼが時政が寝起き使ってる小屋のすぐ横で魔術実験をして魔術が暴走、暴発した事があった。それ程巨大な音がしたにもかからわず、小屋でグースカ寝ていたのだ。これにはフェーゼも呆れた。以来時政を起こすには、頭を叩くか、アレスに頼んで嘴でつつくかしているのだ。
《それよりフェーゼが呼んでいたぞ。早くいったほうがいい。》
「わかったよ。全く…。」
ブツブツ言いながら小屋の外に出て行った…。
《…あの寝起きの悪さは致命的だな…起きてすぐ戦闘体制に入る事が出来なければ意味はない…。帝国につく前までには直してやらねば…。》
主の弱点克服にむけて新たな決意を固めるアレスであった…。
「師匠…呼びましたか?」
「ああ…来たか……ぷっ…くくっく…。」フェーゼは時政の顔を見て思わず吹き出してしまった。見事な瘤ができていたからである。
「師匠まで酷いですよ…。」
「いやいや…すまんすまん。つい笑ってしまった。しかしアレスの気持ちもわかるぞ…お前の寝起きの悪さは致命的だ…起きてすぐ戦闘体制に入る事が出来なければ無防備な状態で敵の攻撃を受ける事になる…帝国に入るまでには直しておく必要があるな…。」
「わかってるよ…。全く…。」
「此処から帝国まで10日ほど掛かる…その間に直せばよかろう…ほれ、これを持っていけっ!」
師匠はそう言って新しい武器と肩からかける事の出来る旅人用のバックと金の入った袋をわたされた。
「その剣は昔わしが使っていた剣だ。帝国の北方に位置する山脈…コア山脈からとれた鉱石で出来た剣だ…。加工が難しく加工の過程でほとんど者が匙をなげるほどの鉱石で出来た剣だ…。世界に数本しかない剣で現在のお前の力に耐える事が出来る唯一の剣だ。大切に使えよ。」
アレスとの死闘で以前使っていた剣がボロボロになっちまったからな…。
戦闘の度に使い物にならなくなったら意味はない…そのあたりの事を心配してこれをくれたんだろう…。
「それと、剣と契約しとけよ。」
「契約?」
「その剣は契約した者しか持てないんだよ。契約しない者が持つには契約者が側にいる必要がある。そうして譲渡してきた。わしもわしの師匠からそうして譲渡された。今度はお前の番ということさ。契約するには魔力を剣に込めれば成立する。やってみろ。」
師匠にいわれて魔力を込めてみた…すると剣がそれに応えるように鈍い光を帯び始めた…。
「契約成立したな。これでその剣はお前の物になったわけだ。」
すごい…吸い込まれるようだ
「その剣はお前が必要とする限りお前を裏切る事はないだろう。バックの中には試験に必要なプロフィールを書く為の用紙と世界地図が入っている。金が入った袋はお前が修行時代にモンスターを倒して手に入れた牙や毛皮を売った時に作った金だ。」
「え゛…」
「なんだ…その顔は」
「あれってモンスターを倒す事以外に意味があったんですかっ!?」
「当たり前だろうが…一体何だと思っていたんだ…。」
俺は絶句した…あれにはちゃんと意味があったんだ…。
「それと、もう一つこの手紙をアレックスという将軍に渡して欲しい。」
「渡せばいいんですか?」
「渡せばわかる。」
「わかりました。会う機会があれば渡しときます。」
「頼んだぞっ!」
師匠が念を押して頼むなんて余程の事なんだろうな…
「それでは、出発しますっ!!アレスッ!!」アレスは身体を小さくし俺の肩に乗ってきた…(高位のドラゴンは身体の比重と身長操作できる)
「お元気でっ!!」
その時師匠の顔から一粒の涙が…
「馬鹿っ!こっちを見るなっ!」
俺は反射的に振り返りそして歩き出した。
《これでよかったのか…?手紙を渡したところでアレックスは…。》
「わかっている…。手紙を渡しても破り捨てられるのがオチだろう…アレックス済まない…。」
師匠がアレックスと言った時寂しい顔をしていた…アレックスという人と何かあったんだろうか…?