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第6話 恋自覚


 小鳥が里奈に模擬戦を挑まれた次の日、学園は朝からその話題で持ちきりだった。というのも毎年模擬戦が解禁になる最後の指導の日までは新入生の実力というのはあくまで成績上でしか反映されない。それゆえに自分が実力者であると示したい新入生が多数、模擬戦を行うのだ。小鳥は燈矢との一件で新入生の中では有名な人間であり、相手である里奈も評価試験でトップの成績を残したことから期待の新入生として有名だった。

 その二人が模擬戦解禁早々に戦うというのだ。話題にならない方がおかしく、変な噂が流れたり、賭けまで成り立つなどしていた。



「大丈夫なの?」


 悠里が小鳥を心配そうに見つめる。親友の実力を知っている彼女にとって、今回の模擬戦はいささか無謀にも思えた。


「あはは、うん、先輩に教わってるし、きっと大丈夫だよ」


 小鳥は力ない声で返す。笑顔も少し引きつっており、あまり大丈夫とは言いがたかった。


「まあ、頑張りなさい。私も少しは手伝ってあげるから」


「うん、ありがとうゆうちゃん」


 力になってくれるという悠里に小鳥はお礼を言う。こうして応援してくれる親友の存在に小鳥は少し前向きになった。





 同じ頃、燈矢はクラスで透と話していた。


「それで実際、勝てそうなの?」


「演習での魔術行使は実戦のそれとは違うからな。勝算がないわけじゃないが、結局は」


「小鳥ちゃんしだいってわけだ」


 燈矢たちは模擬戦のことについて話し合う。演習で魔術をうまく使えても、実戦ではダメだったというのはよくある話であった。

 実戦では演習のように安全が確保されているわけではなく、相手が居る。刻一刻と変わる状況や相手の存在に焦ってパニックになるなど珍しいことではない。


「金に物を言わせて魔術球でも買い漁るって手もないわけじゃないんだが……」


「それやっちゃうと小鳥ちゃんの評判が下がるよ」


「わかってる、言ってみただけだ。この模擬戦が正々堂々やらなきゃ意味がないのは当然だろう」


 燈矢の意見に通るが冷静に突っ込む。模擬戦で魔術球などの道具を使っても、それは個人の力量ということにはならない。道具を使ったことでかえって卑怯だと罵られることが目に見えていた。それにもともとこの模擬戦は小鳥の力量を里奈に見せるために行われるものだ。道具など無粋なものでしかない。


「それで相手の新庄って女の子の情報は手に入ったのか?」


「ま~ね、といっても簡単なものだけど」


 透はファイルから紙を一枚取り出すと、それを燈矢に渡す。それは里奈のプロフィールや成績などが書かれたものであった。


「ねえ燈矢~、流石にちょっと卑怯じゃない?」


「相手のことを知っとくのも必要だろう。何なら、フェアになるように相手に相沢と俺のプロフィールでも渡したら?」


 燈矢は紙に書かれた内容に目を通しながら、透に言葉を返す。プロフィールは相手の能力がどの程度なのかを知るためのもので対策を練るつもりもないのだが、勝負がフェアであることに越したことはなかった。


「そうだね。そっちの方が面白くなりそうだし、彼女の指導担当にでも渡しておこうかな?」


「そっちの方がフェアだろうな」


 燈矢の言葉を聴くと、透は席を立った。里奈の指導担当に小鳥と燈矢のプロフィールを渡すためだ。


(そういえば、新庄って子の指導担当は誰なんだ?)


 燈矢はそんなことを考えるが、あまり気にしないことにした。結局戦うのは自分ではないのだから、小鳥に頑張ってもらえばいい。


「それにしてもかなり成績良いんだよな」


 手元にある里奈のプロフィールと成績を見て、思わず言葉が漏れる。燈矢は学園の噂や新入生のことにあまり興味がないため里奈のことを知らず、彼女がかなりの実力者であることにここで気づいた。


「へえ~、意外とスタイルいいんだ」


 プロフィールの中にスリーサイズや体重など余計な情報が入っていたが、それをちゃんと確認するあたり、燈矢も男であった。






 放課後、演習場に燈矢と小鳥はいた。


「とりあえず基礎能力の向上と平行して、模擬戦ひいては実戦で役立つ魔術やその使い方とか教えていくから」


「はいっ」


 燈矢の言葉に小鳥は元気よく返事をする。模擬戦までの時間は限られている。勝つためには頑張るしかないというのは小鳥も理解していた。


 燈矢はまず小鳥の魔術のどこが悪いのかを確認することから始めていった。彼女の魔術行使が下手な理由がわかれば彼女の力量を上げることも容易になると考えたからだ。


 結果は簡単にわかった。


「要するにお前は魔術の基本があまりできてないんだよ」


 燈矢は小鳥に簡潔に説明する。小鳥のセンスは悪くはない。ただ、魔術の構成の独自性が強かった。魔術というのは基本的に個人によって少しずつ術式が違う。教科書に載ってある構築法では理論と実際の構築に差が出てバランスが悪くなるのだ。燈矢も魔術の構成に独自性が強いが、根底にはしっかりとした基礎技術があるため、ちゃんとした魔術の行使ができる。小鳥の場合、基礎の独自性も強く、そのため教科書の構築方法では上手くいかず、結果的に魔術の行使が上手くいかなかったのだ。

 そして、独自性が強いためか基盤となる基礎の出来も良くなかった。


「どうすればいいんでしょうか?」


 燈矢が説明すると小鳥は困った表情を見せる。自分の欠点がわかったが、それを直すための手段が思いつかない。


「術式がお前に合うように改良していくしかないな」


「そんな簡単に出来たら苦労しませんよ~」


 燈矢の言葉に小鳥は落ち込む。術式の改良なんてすぐに出来るものではない。彼女自身未熟なこともあってかそれほど術式の構築や改良は得意ではなかった。


「でもやるしかないだろ。それに術式の構築や改良なんて必須の技術だ。一年の授業でもやることになるんだから、やっておいて損はないぞ」


 燈矢はそう言って小鳥にやる気を出させる。小鳥も燈矢の話を聞いてか、気持ちを立て直して頑張ることにした。


「まずは基本の射撃魔法の術式からだ」


「はい」


 燈矢に言われ、小鳥は術式を展開する。これは燈矢に改良してもらう前のものだ。


「そこの収束の部分をコレに変えて、後は発射するときの術式もだな」


「わかりました」


 燈矢に言われ、小鳥は魔術に使われている術式を少し変える。


「じゃあ、撃ってみてくれ」


「はいっ」


 小鳥は自分の前に置かれてある的に向かって魔術を放つ。


 放たれた魔術は一直線に的に向かい、的を撃ち抜いた。


「もう一度」


 今度は的の数が増やされ、その増えた的に向かってもう一度魔術を放つ。


 魔術はすべての的をきれいに撃ち抜いた。


「うそ……」


 小鳥は自分の放った魔術の結果に驚く。今まで、こんなにきれいに的を打ち抜くことは出来なかった。燈矢が前に術式を改良した魔術に比べても、今のほうが格段に命中率、威力ともに高い。


「驚いたな。まさか、すぐにここまで変わってくるなんて」


 燈矢も驚きを隠せない。いくら基本である射撃魔術とはいえ、少し術式を変えただけでここまで結果が違うとは想像できなかった。


「高度な魔術は術式の数も構築法も段違いに難易度が上がるからともかく、簡単なのはなんとかなるかもな」


「先輩ッ、すぐにやりましょう!! 時間がもったいないです」


 小鳥は自分の行使した魔術に気持ちが高ぶる。今までよりも確実に向上していることが理解できるので、モチベーションが上がる。


(楽しい、面白い)


 魔術を使うのがこんなにも楽しいのはいつ以来だろう。少なくとも最近はなかったよね、と小鳥は思う。


 自分の成績が他の人よりも劣っていて、人から馬鹿にされたこともあって最近は少し魔術を使うのに疲れていた。


 でも、こうやって魔術を使うのは楽しいと、今向上している自分の力量を肌で感じてそう思う。


 結局、この日、二人は小鳥の魔力が尽きるまで練習することになった。






 それから一週間ほどが経過し、小鳥は燈矢の力も借りて順調に魔術の術式の改良に取り組んでいた。


「そこはダメだ。効率は良くなるが、構築が無理矢理なせいで結果的に効果が下がるし、魔術が安定しなくなる」


「えっと、それじゃあ、こうですか」


「うん、それならバランスが取れてる。ただ、少し難易度は上がるけどな」


 燈矢は自分で術式を構築する機会が多いためか、魔術に関しての知識が深い。それは小鳥の術式の改良、構築にかなり役立っていた。


「ふう」


 小鳥は展開していた術式を解除して一息つく。流石にこの作業をずっとやり続けていくのは精神的にも疲れがたまった。

 あれから数日で基本的な魔術の術式の改良をメインに放課後は過ごしていたが、模擬戦も近づいてきたため、魔術の行使や基礎能力の向上をメインに練習を行っている。


「先輩」


「どうした相沢?」


 小鳥は燈矢の返事に少しムッとなる。


「できれば苗字じゃなくて名前で呼んでください」


 そう、小鳥が不満に思っていたのは燈矢の自分に対する呼び方だった。ここ数日ずっと放課後練習していて仲良くなったと思っているのに、今だ苗字で呼ばれるのは少し寂しかった。


「ああなんだ、そんなことか。わかったよ、小鳥」


 燈矢は小鳥の言葉を聞いて、すぐに呼び方を変える。特に迷いも躊躇いもなかった。


(私って先輩に特別に思われてないのかな~?)


 小鳥は特に気にした様子もなく、自分の名前を呼ぶ燈矢に悩みを抱く。小鳥はここ数日で燈矢に特別な感情を抱いていた。


 ---―最初は間違いなく尊敬する相手だった。評価試験の時に初めて彼のことを知って、憧れて、あんな風になりたいと思って。その後、演奏を見てその気持ちが強くなって……

 一緒に練習するようになって、どんどん距離が近くなってる気がして、そして憧れから恋へと変わった。


 小鳥は普通の女の子である。当然ながら、恋愛ごとに興味はあるし、恋人だってほしいと思う。そんな普通の女の子だった。


「小鳥?」


「ひゃう、な、なんですか先輩?」


「いや、急に黙ったからどうしたのかって?」


 燈矢は訝しんだ表情で小鳥を見る。小鳥は慌てて取り繕った。


「だ、大丈夫です。なんでもありませんよ」


「そう、ならいいけど」


 小鳥の言葉に燈矢は表情は変えないが、これ以上追求もしない。


(うう~、変な子って思われたかな~)


 小鳥は自分の取った態度に対する燈矢の反応にもどかしい気持ちになる。


「それより模擬戦だけどさ、今のままだとちょっときついと思うんだよね」


 燈矢は小鳥の力量を見て考えていたことを話す。正直、術式の改良によって小鳥の力量は上がってはいるが、それでも、プロフィールで見た里奈の能力には敵わない。


「そう、ですね」


 小鳥も燈矢の言葉に同意する。確かに実力は上がっているが、まだまだ自分が劣っているということは小鳥自身も自覚できていた。


「だから、ちょっと秘策をいくつかね。小鳥に授けるよ」


 そう言った燈矢は少し無邪気そうな表情を浮かべていた。

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