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第3話 学校という閉鎖空間ではよくあること

 二人が出会った日の翌日、燈矢は学校へと登校していると自分に向けられている視線が多いのが気になった。というのも家を出てから学校へと近づくにつれて、自分と同じ朱里学園の生徒がこちらをじろじろ見てくるのだ。

 燈矢自身、こうやって注目を浴びることは慣れている。というのも、燈矢は朱里学園の二年生の中ではトップクラスの実力を保有し、その特殊な戦闘スタイルと本人自身そこそこ容姿が整っているため、何かと注目を集めるのだ。とはいえ、自分のことを知っている同学年や上級生ならともかく、まだ入学して間もない下級生までもが自分に視線を向けているのは気になった。いくら、演習のときに下級生の前で戦ったとはいえ、それだけで注目されるとは思わないし、それだけなら上級生が自分に視線を向けるのはおかしかった。


 燈矢はあまりに奇妙なこの状況に首を傾げながらも、教室の中へと入った。すると、物凄い勢いでクラスメートがこちらのほうへと振り向く。


「なにこの状況?」


 燈矢はクラスメートの視線に怯えながらも自分の席に到着すると机の上に鞄をを置いた。するとクラスメートたちが燈矢へと集まる。


「逢瀬君! 彼女ができたって本当!?」


「逢瀬、下級生に手を出したとかマジか?」


「入学したばかりの新入生に手を出すとは、なかなかやるな逢瀬!!」


 彼らは燈矢に口々に話しかける。そのどれもが同じ内容であった。つまりは燈矢に女ができたと。


「ちょ、ちょっと待て、何の話だよ?」


 いきなりのことに状況を理解できない燈矢は彼らの言葉を止めると一旦、事情の説明を要求した。すると、クラスメートの一人が自分の通信端末の画面を燈矢へと向ける。そこに映し出されていたのは朱里学園の生徒がつくった学園のコミュニティーサイトであった。

 学園のコミュニティーサイトでは学園の情報や演習などの授業でのアドバイス、それ以外にも学園の噂話や部活動の活動報告などがアップされ、学生同士での交流なども盛んに行われている。

 その画面にはコミュニティーサイトのトップ画面が表示され、本日の話題という欄にはこう書かれていた。


『二年生逢瀬燈夜に恋人か?』


と。燈矢は通信端末を借りると、そのページを開く。するとそこには、昨日公園で出会った少女、相沢小鳥と自分のツーショット写真が貼られ、それだけではなく燈矢が飲み物を小鳥に手渡している写真やハウンドが現れた際、小鳥を燈矢が抱えていた写真も貼られていた。どうやら、昨日の公園での出来事を学園の誰かに撮られていたようだ。


「どうりで、朝から注目されるわけだ…」


 学園のコミュニティーサイトは新入生も入学の際に資料を配られ紹介されており、基本的に登録しておいて損がない以上、多くの生徒が登録している。


「というわけで説明を要求する!!」


「「「「そうだ、そうだ!!」」」」


 男子も女子も関係なくクラスメートは燈矢に詰め寄る。高校生にとってこの手の話題はいつの時代も変わることのない娯楽なのだ。


「昨日、たまたま公園で会っただけだって。んで魔物と遭遇して戦闘。つうか、この娘には昨日始めて会ったんだぜ、それで恋人とかねえよ」


「マジ?」


「いやでも、一目惚れとか?」


「ねえよ」


 燈矢の説明と恋人疑惑の完全否定にクラスメートは、とりあえず理解を示したのか燈矢から離れ、おのおので談笑しだす。その中で一部のクラスメートたちがお金を渡したり、受け取ったりしているのを燈矢は見逃さない。


「お前ら、俺で賭けをしてただろ?」


 燈矢がクラスメートたちに向かって聞こえるように問いかけ、ついでに術式の展開も行う。クラスメートのは燈矢の言葉にビクッとしたものの、その内一人が燈矢のほうを振り返りこう言った。


「むしろ、この手の話題で賭けをしないなんてありえないぜ!!」


「死んでろ」


「ぐわぁ」


 あまりのサムズアップにイラっときた燈矢はためらいなくソイツに魔術を撃ち込んだ。他の奴らにも術式を向けるがすでに全員が防御の術式を展開している。


「はあ」


「まあ、そう呆れるな…って言いたいんだけど、これは流石に無理だね」


 燈矢が無駄に抜け目のないクラスメートたちに呆れ、ため息を吐きながら術式を解除すると金髪の男子生徒が話しかけてくる。柔らかそうな笑みと中性的な顔立ちをしたその生徒は佐久川透、先日小鳥が見た演奏のときにいた一人であり、燈矢の親友である。


「でてめえはいくら賭けてたんだ?」


「賭けにならない勝負はしないよ」


 透はサラッと燈矢の質問を流す。実際はこの賭けを企画したのが透であり、お金こそ賭けていないだけで胴元としてお金を稼いでいた。透はその顔立ちから女性に人気があり、きれいな金髪と表立っての性格が良いことから王子などと言われているが、実際の性格は腹黒く、今回のように裏で色々と動いている。


「それで相沢小鳥ちゃんとはどうなの? 連絡先を交換したみたいだけど」


 ボソッと燈矢にだけ聞こえるように透は本人たちにしか知らないことを質問する。


「な、何でお前がそのことを知ってるんだよ? それによく新入生の名前を知ってるよな?」


「この学園の生徒のプロフィールは全部持ってるし、それに昨日、僕もあの公園にいたからね」


 透はあっさりと燈矢に真実をばらした。燈矢は右手で頭を押さえつつ、透の言葉を整理する。


「この際、この学園のプライバシーについては言及しないがお前は昨日あの場所にいたんだよな?」


「うん」


「ということは魔物に遭遇したときもお前はあの場所にいたんだよな?」


「うん」


「手伝えよ!!」


 燈矢は思わず、透に向かって大声でツッコミを入れる。あの場所に透がいたのであれば、一般人の誘導や周辺の警戒などは楽になった。


「いや~、二人のことが気になってね。ああ、ちゃんと魔物がいないか探索はしていたし、一般人に被害が出ないように注意もしてたよ」


「もう、いいわ」


 透のあっさりとした言葉に燈矢は何を言っても無駄だと悟り、項垂れる。

 透はこの学園で燈矢と同じくトップクラスの実力を誇っており、魔術による周辺の探索や防御などの補助に限って言えば、間違いなく学園のトップだ。そして、燈矢は透の奥の手を知っている以上、彼が周辺の警戒をしていたのは本当だろうし、一般人に被害が及ばないように注意していたのは事実だと理解する。


「ちなみにコミュニティーサイトに話題をあげたのも僕だから」


 透が更に暴露するものの燈矢にはそれを攻めるだけの気力がなかった。そんな燈矢の姿を透の楽しそうに見ている。これが燈矢たちのクラスの日常風景であった。





 小鳥がクラスに入ると親友である悠里が話しかけてくる。


「おはよう小鳥」


「おはよ~ゆうちゃん」


 二人が挨拶を交わすと悠里は小鳥に詰め寄った。


「それよりアンタ、コミュニティーサイトに書かれてあるの本当?」


「ふぇ、なんのこと?」


 小鳥は悠里の質問をわけがわからず聞き返す。コミュニティーサイトの存在のことは知っているが、通学中に見ながら登校するのもどうかと思い、小鳥が学園に来るまで開かなかった。


「ほらこれよ、これ」


 悠里は自らの通信端末を取り出し、コミュニティーサイトを開くとその画面を小鳥に見せた。小鳥も出された画面を見る。そこにあったのは自分と燈矢のツーショット写真であった。


「あっ、これ昨日の……」


「本当に逢瀬先輩に会ってたんだ?」


 小鳥の口から思わず、漏れた言葉を悠里は聞き逃さず、さらに小鳥に追及する。


「うん、昨日公園でたまたま先輩と会ったんだ~」


 小鳥は昨日のことを思い出して、機嫌よく悠里に話す。


「それだけ?」


「魔物に遭遇したりしたけど、それだけだよ?」


「魔物ってアンタ大丈夫なの?」


 小鳥が昨日魔物と遭遇したのを知って、悠里はは心配そうに見つめる。


「うん、先輩がいたし、怪我一つないよ~」


 すると小鳥の悠里の会話を聞いてか、クラスメートの女の子たちが二人に話しかけてくる。彼らもコミュニティーサイトを開いたとき、自分のクラスメートが話題になっているのを見て、ずっと気にして聞き耳を立てていたのだが、ついにここに来て直接聞いてみることにしたようだ。小鳥は気づいていないが、燈矢と同じく小鳥も登校しているときから注目されていた。


「ねえ相沢さん。もしかして逢瀬先輩の戦闘見たの?」


「いいな~逢瀬先輩の戦闘を見れるなんて」


「しかも密着してるし、うらやましいわ~」


 小鳥はクラスメートが自分のところへ集まってきたことに驚くが、先日の燈矢の模擬戦や燈矢の容姿のことを考えると不思議ではないことに気づく。

 クラスメートたちに昨日起こったことを説明するとそれを話題にして各々で盛り上がる。


「先輩って有名なんだ……」


 クラスメートへの説明が終わり、小鳥の口から言葉が漏れる。まさか、ここまでみんなが聞いてくるなんて思っていなかった。


「そりゃあね。逢瀬先輩はトップクラスの成績であの容姿だし、有名にならないわけないわよ。それに逢瀬先輩の戦い方って特殊だし」


 小鳥の漏らした言葉に悠里が返答する。悠里自身、逢瀬の戦いを直接この目で見たわけではないが、コミュニティーサイトに上がっている動画を見たことがある。まるで、アーティストのライブを見ているかのようだった。


「まあ逢瀬先輩と付き合いたいなら、少なくともあれだけの女子に勝たなくちゃいけないわよ」


「付き合いたいとかそんなんじゃないよ~。先輩はただの憧れです」


 悠里の言葉に小鳥はそれを否定する。小鳥が燈矢に抱いているのは純粋な憧れだ。アーティストに抱くように、小鳥は燈矢を尊敬している。

 悠里も小鳥の表情から恋愛感情が見られないことから本当なのだろうと思い、この話題をやめることにする。すると、ちょうどよくチャイムが鳴り、この日の授業が始まった。

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