序章
二次ファンの規制に伴い、オリジナル作品の投稿です。
作者は就活中なので更新は滞りがちになると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
世界に魔物と呼ばれる怪物たちが現れてから数百年、人間は魔物に対抗するための手段『魔法』を手にいれ、魔物の討伐を専門とする者たち、通称ハンターが現れる。そのハンターを育成するための機関が作られ、人間は魔物と日々、魔物を恐れ、そして戦いながら生活していた。
魔物に対抗するための教育機関、通称アカデミー。ここの卒業生は魔物ハンターとして世界で活躍している。
日本にあるアカデミーの一つ、朱里学園の演習場、今ここで一人の少女が十数メートル先の的に手をかざしていた。
「まずは集中、指先に魔力をこめて、術式を展開」
少女が言葉を発すると、少女の指先から幾何学的な文様が展開される。それは術式と呼ばれ、魔術を扱うために必要な儀式であった。
魔術とは魔法がイメージで扱われるものであったのに対し、それをより理論的に解析し、魔法に比べてより扱いやすく、より高度に作り変えたものだ。
「術式に魔力を通して、そして発動!!」
少女の展開した術式から光が放たれる。その光は一直線に的に向かい
「あれ?」
的の横を掠めた。少女は的に当たらなかったことに落胆していると、少女のそばに女性が寄ってくる。
「威力は及第点、ただし術式展開速度と命中率が悪い、評価E」
少女は女性から下された評価を聞くと、その場所から移動する。今日はアカデミーに入学して最初の授業で、先ほど行ったのは現在の技量を判断するための評価試験であった。少女は最初の授業ということもあり気合が入っていたのだが、うまくいかなかったため低評価を下される。そのことに軽く落ち込んでいると、もう一人の少女が彼女に駆け寄ってきた。
「そんなに落ち込まないでよ小鳥」
落ち込んでいた少女、相沢小鳥は自分に声をかけてきた少女を見つめる。
「だって~ゆうちゃん~」
「今回の評価試験は実際の成績に反映されるわけじゃないでしょ。これからの授業でちゃんとやっていけばいいって」
小鳥を慰めた少女、花城悠里は目の前で目に涙を浮かべている親友を見て、小鳥のことを考える。
アカデミーは一般の学校と同じように小学、中学、高校、大学と存在する。現在、高校生である彼女たちは中学からアカデミーで魔術を学んでいるが、目の前にいる小鳥の成績はそれほど高いものではなかった。
「ほら、向こうで練習しよ」
「うん」
二人は評価試験の邪魔にならないように試験場所から離れたところで練習を行う。何度か続けていると悠里の評価試験の順番が回ってくる。
悠里は自らの評価試験のためにパンッと両手で自分の頬をたたくと小鳥を残して、試験を受けに行った。
一人取り残された小鳥は悠里が戻ってくるまで練習をしていようかと思ったが、そんな気にもなれずに周囲を見回した。すると、自分たちが評価試験を行っている場所とは少し離れたところに人だかりできているのが見える。
なんだろうと思い、小鳥はその人だかりのほうへ歩いていく。するとそこでは二人の男子生徒が対峙していた。
「逢瀬、今日は勝たせてもらうぜ!!」
「いや、それ言って勝ったやついないし」
逢瀬と呼ばれた生徒は相手と対峙している状況にもかかわらず、あまり力の入っているようには見えない。むしろめんどくさそうに普通に立っているだけだ。
「あの、これって何なんですか?」
小鳥は近くにいた女子生徒に何が起こっているのかを聞いてみる。女子生徒の制服を見ると胸の刺繍から二年生ということがわかる。
「あっ新入生? これは模擬戦よ。君たちもある程度のカリキュラムが進んだらやることになるわよ」
「あ、ありがとうございます」
「君も運がいいわね。逢瀬君の模擬戦が見られるなんて、よく見ておいたほうがいいわよ」
女子生徒はそういうと二人の対峙している場所へと目を向ける。小鳥も同じくそちらに眼を向けた。
対峙していた二人は合図もなしに戦闘を開始する。先手を取ったのは逢瀬の対戦相手のほうだ。術式を即座に展開すると逢瀬に向けてそれを放つ。術式から放たれたのは魔力弾だ。それは奇しくも小鳥が先ほどの評価試験で使った術式と同じものであった。しかし、小鳥とは違い展開速度がかなり速く、複数の魔力弾が正確に逢瀬に向かって飛んでいく。
それを逢瀬はステップで横に跳びつつ、右腕を払うように振るうと術式が展開され、襲ってきた魔力弾をすべて防いだ。その魔力弾を防いだ音は通常の防御音とは違っていた。通常、術式で防御を行った際に発せられる音は爆発音だ。しかし、逢瀬の防御で発せられた音は軽く心地よいピアノの音であった。
そのことに小鳥は驚く。そして次の瞬間、さらに驚くことになった。
逢瀬がステップを踏むたびに足元に術式が展開され、術式を展開するたびに音が生まれる。まるで演奏しながら踊っているかのように。そして、展開された術式から光があふれ、さまざまな色となって相手を襲う。
「凄い」
小鳥の口から思わず感嘆の声が漏れる。すると、先ほど小鳥が質問した女子生徒が小鳥に話しかけてきた。
「凄いでしょ。あれが逢瀬君の魔法演奏。普段はやらないから、こうやって見られるのは本当に運がいいわよ」
女子生徒は二人の戦闘から目を離さない。それは小鳥も同じであった。まるで戦闘ではなくアーティストのライブを見ているかのように小鳥の目は釘付けであった。
そして、二人の模擬戦はあっさりと終わることになる。逢瀬が放った魔術を相手がさばき切れなくなったのだ。一度の命中を皮切りに無数の魔術が相手を襲い、模擬戦は終了した。
模擬戦が終わると、模擬戦を見るために集まっていた人だかりは消え、彼らは自らの演習へと力を注ぐ。小鳥が質問した女子生徒も友人を誘い、模擬戦を行っていた。
小鳥は上級生の邪魔にならないように先ほど悠里と練習を行っていた場所まで戻る。すると悠里もちょうど評価試験が終わったのか、戻ってきていた。
「ゆうちゃん、どうだった?」
「まあ、そこそこね。Bだったわよ。それよりどうしたのよ?」
「えっ?」
「表情、さっきまで落ち込んでいたのに今は明るいじゃない」
小鳥は自分の頬に手を当てる。そういえば評価試験が終わって落ち込んでたはずなのに、先ほどの模擬戦を見て、すっかりそのことを忘れていたことに気づく。先ほど見た模擬戦はそれほどまでに凄かった。まるで踊っているかのようにステップを踏み、術式を展開して音を奏でているのを見て、かなり自分が高揚しているのがわかる。
「何でもないよ! ほら、練習しよ!!」
「ああっ、ちょ、ちょっと!?」
小鳥は悠里の手を引いて、練習場所へと駆け出す。先ほど見た、あの人みたいに魔術を使えるようになりたいと思いつつ、小鳥は悠里と練習にはげんだ。
授業が終わり放課後、小鳥は担任に言われ、備品の整理のために音楽準備室へと来ていた。どうやらD評価をとった彼女に与えられた罰のようだ。彼女以外にもE評価を受け取った生徒は何らかの仕事が与えられている。新学期が始まって間もないので、意外と仕事は多いのだ。
「よいしょっと、これで大体終わりだよね?」
この場には小鳥以外誰もいないが、自分が行った作業を確かめるように与えられた仕事を思い返す。確認作業を終えて、音楽準備室から出ようとすると隣接する音楽室から演奏が聞こえてきた。
小鳥は気になって、準備室から音楽室を覗いてみる。音楽準備室には小窓があり、そこから音楽室を覗けるようになっていた。
音楽室の中には三人の生徒がいた。一人は今日、授業のときに見た逢瀬という男子生徒だ。そして、その他に長いきれいな黒髪に大きな藍色のリボンを身に着けた少女と茶髪の男子生徒が見える。
逢瀬がギターでメロディーを奏で、女子生徒がピアノを演奏しそのメロディーにやさしく音を添える。そして、それに合わせて茶髪の男子生徒がドラムでリズムを刻む。三人の音が合わさり、曲を奏でていく。そして、三人が歌い始めた。
逢瀬の声は男性の割には少し高く、女子生徒の声はきれいで、茶髪の男子生徒の声は低音で響く。三人の声と演奏が合わさり、より曲が響いてくる。見ている小鳥が聞き入ってしまうようなそんな演奏。
曲が終わり、小鳥はもっと見ていたい衝動に駆られるが、三人は一曲が終わっただけで帰ってしまう。それを残念に思いつつも仕方がないので、小鳥は準備室から出ると職員室に備品の整理の終わりを告げて帰宅した。先ほど見た演奏を何度も思い返しながら……