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超空陽天楼  作者: 大野田レルバル
平和終戦
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次世

 蒼が勲章を両手で受け取った瞬間に沸き上がる拍手と歓声。

蒼の事をよく知らなかった人達もその場にはいただろう。

なんといってもベルカ帝国の天帝陛下が勲章を授与しているのだから、きっと凄い人に違いないと自分の中で納得している人もいた。


「へ?

 子供……?」


そんな人程今の光景を見て固まる。

そして考え始める。

子供にも見えるあの人が一体何をした人なのかと。

――しかしそんな人は今や一部に過ぎない。

戦火の中、やっと復旧したばかりのメディアはこぞって超空制圧艦隊の活躍特集を報道していた。

開幕ボロボロにされた自国の産み出した兵器がこの薄汚れた世界を救ったのだ。

それほどまでの特ダネをベルカの記者達が逃すわけがない。

元々超空制圧艦隊は長年ベルカ光化学技術力の象徴として国民に知られてはいた。

しかし具体的な活動内容は到底伝えられず、存在が認知されているだけに留まっていた。

人々の目に触れる機会など、地震等、災害時の発電所としての姿位だ。

所が今回、ヒクセスやシグナエとの戦いに続き、センスウェムとの戦闘映像が全世界中のカメラに納められてしまっていた。

一部のマニアを除き、人の興味を引かない存在の筈だった超空制圧艦隊は、世界戦争を終わらせた英雄として連日メディアに取り上げられる存在に成りあがったという訳だ。

何より、“核”という名前の"人型兵器"が乗っているというこれまたマニアしか知らないような内容まで国民ほぼ全員が知ることとなった。

蒼達は軍上層部が頷きさえすれば、テレビのスタジオに呼ばれインタビューを受ける程の人気を得ていたのだ。


「え、なんかめっちゃ盛り上がってないですか。 

 やっぱ天帝陛下の力は凄いんですねー。

私もああいうカリスマ性が欲しいものです」


当然そんなことを蒼達が知る由もない。

テレビを見る暇すらないぐらい忙しい毎日を今まで過ごしてきていたのだから。

勲章を手に蒼は、メディアのカメラから逃げるように席に戻ってきた。

写真を撮られることに正直慣れていない。


「もしインタビューなんて、されたらうっかり口を滑らせてしまいそうですよ」


「ははっ、蒼さんに限ってそれは無いんじゃないっすか?

 でもまぁ、やっぱ人気あるんすねぇ。

 当たり前っちゃ、当たり前っすかね」


 春秋が周りを見渡しながらそっと蒼に呟いた。

唯一春秋だけは、テレビを少しだけ見ていたのでメディアの狙いが蒼達だと分かっていた。

だからわざと椅子をずらしベストショットの妨害を行う。


「俺の美しさで妥協するところっすよそこは」


山吹色の瞳をそっと細め、春秋は小さくぼやいた。


「春秋、何を言っとるんやおまえは」


ずっと黙っていた朱がとうとう我慢できなくなり、春秋に口を出した。


「ええか?

こういう場なんやから……」


「私語は控えるようにすべきですわ。

 あんまり喋ってるとどっかの誰かさんがカンカンになりますもの。

 それに春秋。

 こういう時は愛想よく、喧嘩を売ってはダメですことよ。

 あの人達は兵器よりも強い物――ペンを持っているのですから」


「う、真白姉ぇ全部いわんくてもええやんか」


真白は話し終わる記者達に手を振りながらニコッと笑って見せた。

朱も、藍もそれに習い愛想を振り撒く。

春秋も椅子の位置をもとに戻し、いやいや記者たちへ顔を向けた。


「はー、了解っすよ。

 納得いかないところもあるっすけど。

 蒼先輩もほら。

 愛想を振りまいた方がいいっすよ」


「へ?

 え、あ、はい。

 じゃあ、えっと……にこり……」


蒼も姉の行動の真似をしながらその場を乗りきるために笑顔を振りまく。

この時に撮られた写真は何百年後にも残るほど有名で、蒼達の姿を捉えた貴重な一枚になる。

兵器なのに少女の格好をした“核”は、後に産み出されていく兵器の完全な無人化へと舵を切らせるきっかけになるのだ。

当然その時蒼達がその未来を知る訳もない。

続いて残った人達が次々と表彰されていく。

式はだらだらと長く続き


「これにて勲章授与式を終わります。

 皆さま、お疲れさまてした。

 えー、続きまして―――」


ようやく終わりを告げるころには夕方になっていた。




     ※




 勲章授与を授与されてからのんびりと一ヶ月が経過した。

蒼達はセウジョウ基地を母港に定め、正式にコグレ基地司令からセウジョウ基地司令になったマックスの指揮下に入っていた。


「全く、忙しい!」


一つの基地が《超極兵器級》の四隻を抱え込むなど戦力の集中が過ぎるのでは、と他基地からの批判も沸き上がった。

他国が攻めてきたときセウジョウからでは対処が遅れるとの意見もあった。

しかし、《超極兵器級》程の兵器を受け入れることができる基地は現時点では限られている。

コグレ、ボサセ、ニッセルツ、セウジョウ、アガムセン、そしてベルカで一番大きな軍港であるアーキスパタ。

しかし、アーキスパタはヒクセスとの戦争で付けられた傷がまだ色濃く残っていた。

消去法でセウジョウに決まったのは至極当たり前の事だ。

先の大戦による貢献度もセウジョウとコグレは桁違いだった。

ヒクセス、シグナエとの間には天帝の努力もあり今後二十年の同盟が結ばれた。

復興中に攻めてこられては敵わないかららしい。

その思いはヒクセスもシグナエも同じようだった。




………最後の戦いからまだ、蒼は空を飛んでいない。



「さぁ!

 今日も忙しくなるぞ!!

 キリキリ働いていけ!

 終わった暁にはコグレチョコを作るぞ!!」


 この言葉が口癖になっているマックスは毎日忙しそうにバタバタとあちらこちらへ走り回っている。

やりたいことは沢山あるのに時間が足りないらしい。

あと一か月もしない内に新しい“核”がやってくる。

 戦艦が一隻、巡洋艦が三隻、駆逐艦が四隻の合計八隻だ。

一隻、《超極兵器級》を別基地に回す代わりにセウジョウが貰い受ける戦力だ。

当初、蒼の《ネメシエル》を当然欲しがっていたがマックスはどうしても首を縦に振らなかったらしい。

その代わりに《ニジェントパエル》が貰われていく。


「すまない」


《ニジェントパエル》が異動になった時、マックスは謝った。

姉妹四人がバラバラになることに対しての「すまない」らしい。


「別に気にしなくてもいいんですよ。

 私達はあくまでも《超極兵器》なんですから。

 上層部の命令に従うのが義務ですし」


「ああ。

 それは分かってはいるんだがな……」


窓際でタバコを燻ぶらせ、マックスはため息をついた。

戦争前と、今では明らかに白髪が増えている。

基地司令ともなると精神的負担も大きいに違いない。

いつの間にかすっかり寒い季節は過ぎ、空気も暖かくなってきた。

ずっといたソムレコフやニヨ達は母国へと帰り、セウジョウの広い軍港は少し寂しい。

前までヒクセスやシーニザーの艦艇が停まっていた所には、今はオレンジ色の小さな目印がぷかぷかと浮かんでいるだけだ。

そんなセウジョウ基地だが、今日はいつもに増して騒がしい。

なぜなら今日は基地開きの日。

セウジョウ基地に一般人を入れ、色々と楽しんでもらう日なのだ。




                  This story continues

ありがとうございます。

書きたいことを全て書き、エピローグです。

次で最終話となります。


お付き合いくださりありがとうございました。


あと一話だけですがどうかお付き合いください。

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