表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超空陽天楼  作者: 大野田レルバル
宙天蒼波
61/81

記憶の破片

 蒼は共に歩んできていた春秋と引き剥がされ、機械兵士に拘束されながら歩かされる。

機械兵士の無機質な表情と、冷たい金属の指が両の手首を抑え込んでいるのが本当に気にくわない。


「いったいですね。

 余り捻らないで下さいよこのポンコツが……」


捻られた腕を元に戻すため引っ張る。

最低限の言語しか理解できない機械兵士に悪態をぶつけてもなにも帰って来やしない。

それを分かっている蒼だったが悪態をぶちまける位しか鈍い痛みを押さえ込めない。


「静かにしてください。

 暴れると抵抗を阻止する為にこの機械兵士は実力行使に出る可能性があります。

 暴れないで大人しくしてください。

 でなければ、命の保証は出来ません」


機械兵士のスピーカーからこれまた機械的な女性のアナウンスが流れる。


「腕が捻れてるんですよポンコツが…………。

 抵抗も何もないでしょうに」


 あちこちが攻撃で燃える基地の間を縫うようにして海岸にまでたどり着く。

基地の一番大きな交差点では、機械兵士がいくつもの死体を投げ棄てるように一ヶ所に集められていた。


「はっ、もう勝ったつもりでいるんですね夏冬は」


 停泊している《ナニウム》から伸びてくる橋を渡り、船内へと案内される。

前の《ナニウム》と同じなのは艦橋の構造ぐらいで、あとは新造艦のような新しい鉄が通路を作り上げている。

その鉄もどこか生物的なものを匂わせ、まるで蒼自身大きな生物の体内にいるような感覚に襲われる。

狭い通路通り、自動ドアを潜り抜けた先に夏冬がいた。

その部屋のど真ん中には椅子が一つぽつんと置いてあるだけで他は何もない。

一目見ただけでその椅子が“レリエルシステム”と夏冬を繫ぐものだと分かる。


「よくこんな所まで来てくれた。

 盛大に歓迎しますよ、蒼さん」


夏冬は前に映像で見たときと比べてさらに人相が悪くなっていた。

体型も心なしか痩せたように見える。

春秋と同じ山吹色だったとは思えないほど目の色は濁り、目の下にはくまがすっかり定着してしまっていた。


「盛大に歓迎も何も……。

 こんな拘束された状態で私の精神状態が大人しいままでいれると思ったら大間違いですよ」


「んーああ。

 それは失礼した。

 おい、放せ」


ようやく鈍い手首の痛みから解放された蒼のイライラ要素はひとつ減った。

これで少しは冷静にお互い話が出来るというものだ。


「これでようやくましに話が出来ますね」


「ああ、蒼さん。

 話があるのはおいらじゃないんだ。

 我らがセンスウェムのボスなんですよ」


「はぁ?」


状況を飲み込めないままとんとんと進んでいく話に蒼は嫌な顔をするがそんな事知ったことではないようだ。


「いかにも通りだ《鋼死蝶》君。

 まぁ、ゆっくり話を君としたくてねぇ。

 それで今回……セウジョウを制圧するついでに《鋼死蝶》君に会おうと思ってねぇ。

 それでこの《ウヅルキ》支部に乗せてもらったって訳さ」


「ん?

 待ってくださいこの艦は《ナニウム》じゃないんですか?」


「蒼さん。

 この艦は《ウヅルキ》であり《ナニウム》でもあるんですよ」


「?」


「二隻を一つにしたって訳だよ。

 理解できるかなぁ?

 まぁさっきも言った通りそこらへんも聞きたいならゆっくり話そうよ」


夏冬の後ろからまるで影が具現化したように一人の人物がぬるりと姿を現す。

その顔にはセンスウェムのマークの入ったマスクをつけており、スーツにもよく似た服を纏っている。

マスクの両目の所には菱形の穴が開いており、そこからこちらを見つめているようだった。


「ゆっくり話も何も……。

 あなたと話すことなんて私にはありませんが」


「やれやれ。

 困った創造物達だねぇ。

 話すことがあるのを決めるのは《鋼死蝶》君ではない。

 この私なんだよねぇ」


菱形の奥にかろうじて見えるボスの瞳を蒼は睨みつけてやる。

そしてずっと思っていたことをぶつけてやろうと口を開いた。


「その高圧的な態度納得がいきませんよ。

 私を誰だと思っているんですか。

 いいですか、あなた方は今現在負けているんですよ?

 それなのに主導権を握ったようにいるのは――」


 蒼の腹部に鋭い痛みが走った。

押し寄せてくる吐き気と、痛みに膝が折れ地面につく。

震える瞳で自分の腹部を見た。

夏冬の拳が蒼の鳩尾にめり込んでいた。


「夏冬――。

 あ……なた――」


吐き気を、痛みを歯をくいしばって堪える。

何より夏冬が殴ってきたことが衝撃だった。


「こらこら、夏冬。

 手荒な真似をしちゃあいけないよぉ」


「分からない口うるさい奴にはこうするのが一番だって、そう蒼さん。

 あなたが教えてくれたことですよ」


「う……」


お腹を押さえて蹲る蒼に夏冬が吐き捨てる。

過去に蒼は確かにそう教えた。


「大丈夫かい、《鋼死蝶》君。

 まぁ、そのまま聞いてくれよぉ、静かになったことだし。

 回りくどいのは嫌いなんで本題から入るよ。

 《鋼死蝶》君、我々の仲間にならないかい?」


「ふ……ふざけて……るんですか……?」


痛みに喘ぎ、お腹を押さえながら立ち上がり蒼は何とか言葉を返す。


「おおう、ふざけてなんていないよぉ。

 大真面目だよこの私はいつでもねぇ。

 そうだろう、夏冬?」


わざとおどけたようにボスはステップのようなものを踏んでみせる。

その態度がどう考えても人を小バカにしているとしか思えない。


「はっ、その通りでございます」


ようやく薄らいできた痛みと吐き気をこらえ、ゆっくり、慎重に言葉を選ぶ。


「あなた方は……。

 結局何が……目的なんですか……?」


「目的?

 そんなものは簡単さぁ。

 お前のところの基地司令はこの星の歴史について話してくれただろう?」


ボスが言っているのは少し前、セウジョウ基地の地下でマックスが蒼達に話してくれた内容のことだろう。

それ以外に思い当たることが蒼には無い。

しかしあの部屋には監視カメラをはじめとした音声を認識するものすらなかったはずだ。


「なんで……知ってるんですか……?」


「ふぅむ、あそこにあった我が軍の偵察艇。

 あれが全て私に教えてくれたよ。

 我々の目的を知ってから我々の仲間になるかどうかは選んでくれたまえ。

 いいかね、 我々の目的、それは文字通り世界征服って奴だよ」


「ふざけてるんですか……?」


本当にふざけているとしか思えなかった。

だがボスの微かに見える目はとても無機質なもので本心を見せない。


「ふざけてなんていないよ。

 ふざけているわけ無いじゃないかぁ。

 私達は今地球にのさばっている“新人類”をぜーんぶぶっ殺す。

 そして“旧人類”の手にこの惑星を戻してあげることなんだからねぇ」


とても楽しくは無い計画を心底楽しそうに笑うボスにがっつり嫌悪感を蒼は抱いてしまう。

が、当然そんなこと知ったこっちゃないセンスウェムのボスはまだ楽しそうに話を続ける。


「そうすればこの世界は再び“旧人類”が支配する素晴らしいユートピアになるんだよ。

 素敵だって思わないか、《鋼死蝶》君。

 全てが人間らしく生きることが出来るそんな世界だ。

 全てが完璧で争いもない。

 “新人類”がいかにバカで無駄な戦争を繰り返しているのか見れば分かるでしょ?

 どう考えても“旧人類”のほうが賢くないよね。

 君なら簡単にわかると思うけど?」


兵器として考えるなら平和な世界など願い下げだ。

しかし人間として考えるなら――。


「いや、そんな考え方私には出来ませんよね……」


「そうだろうぅ?

 格の違いを思い知ったかい?」


 そう言うことでは無いんですよね。

“新人類”が賢くない?

賢くないのはあなたのしゃべり方ですよ。

人と話すというのに仮面すらとろうとしない、人との接触を出来るだけ避けようとしているのか話し方すら軽いそんな奴に負ける訳ないじゃないですか。


「極論過ぎますよ。

 あなた方の目的が今の全世界の人類を滅ぼすことだってことはよく分かりました。

 でもどうするんです?

 実際あなたの大好きなシグナエは潰れ、いまや連合が世界の支配者になっていくことは決定事項ですよ。

 この戦術的不利を覆すことなんて出来ないと思いますけど?」


「さあ、何のことを言っているんだろうか。

 戦術的不利?

 バカな、お前らが我が一万の艦隊に勝てるとでも思っているのかな?

 面白いよね本当に」


 一万、という数は子供が悔し紛れにボソッと呟いただけのようにしか聞こえなかった。

その言葉に蒼は心底馬鹿にしたような目線を向ける。

その視線を理解したのか、ボスは首を横に振り替え両手を上げて見せた。


「まぁ、信じなくとも結構だよ。

 信じなくても嫌にでも信じることになるんだからね。

 以上が我々の目標だ。

 どうだね、《鋼死蝶》君我々と共に来る気はないかね?」


「無いですよ」


即答だった。

当たり前だった。

考える段階ですら無い。


「勧誘が下手くそってレベルじゃないですよ。

 そんなお話をされてはい分かりましたあなた方の仲間になりますとかいう方がおかしいんですよ。

 それに、平和になられちゃ私の居場所がないじゃないですか」


「それはまた酔狂なもんだなぁ。

 やれやれ、困ったなぁ。

 ならば君にはここで我々のおもちゃになってもらおうかなぁ」


今までとは打って変わってボスの声のトーンが低くなった。

まるで別人のように冷たくなった声はぞくりと密かな恐怖を感じさせるには十分だ。

ボスは蒼からゆっくり離れながら夏冬へと命令する。


「夏冬、この私と《鋼死蝶》君を接続しろ。

 記憶を丸ごと覗き込んで情報を洗いざらい引っ張り出す。

 そのあとは煮るなり焼くなり好きにしろぉい。

 貴様にくれてやるぞぉ」


「分かりました。

 おい、機械兵士。

 蒼さんをその椅子に縛り付けろ。

 余り傷つけないようにな。

“レリエルコード”の解析から入るぞ」


「はー、何ともあなたも主人の命令を聞くだけの犬ですか結局は」


「貴女と同じですよ蒼さん」


 隙を見て逃げようとした蒼だったがそういうわけにも行かないようだ。

この部屋から出られる自動ドアがいいタイミングで閉じられ、六体の機械兵士が蒼の腕を掴み無理やり椅子に座らせる。


「離しなさいポンコツめ!

 私が自由になったときは覚えておいてくださいよ!

 絶対にあなた達ぶっ壊してやりますからね!」


「はいはい、静かにして《鋼死蝶》君。

 君の精神状態が乱れたらこの私にまで影響が及ぼされるかもしれないじゃあないかぁ。

 落ち着きたまえよぉ」


 覗き込む方は何とも気軽でいいものだ。

覗き込まれる側としてはたまったものではない。

蒼は《ネメシエル》の“核”であり、艦隊旗艦なのだ。

その頭の中には大量の軍事機密が眠っている。


「これが落ち着いていられますか!

 離しやがれですよ!」


逃げようともがき暴れる蒼を押さえ込むための拘束具が無慈悲に取り付けられていき、乾いた金属音を鳴らす。

“イージス”で吹き飛ばそうにも、たかが“核”の“イージス”では出力が足りない。

もはや犬のように噛り付こうか、とまで思考した蒼の頭を夏冬の腕が抑えた。


「うが……夏冬……!」


「少し落ち着いてください。

 システムへの介入すら危ういじゃないですか」


押さえ込まれ少しも動かせない蒼の頭に変なヘルメットのようなものが取り付けられる。

そのヘルメットようなもの


「ではボス始めます」


 頭の中に様々なものが流れ込んできた。

それはまるで光のように美しく、儚いようなものであったが獣のように強靭な何かを秘めているようにも見える。

フラッシュバックのように多数の記憶が思い出されては流れていく。

その中に蒼は自分の物ではない記憶が存在しているのを見つけた。

カメラのレンズから覗いたような歪んだ視点だったがそれは間違いなく蒼や中継地点である夏冬のものでは無い。

今まで何もない暗黒の中を進んだことは蒼は無いからだ。



「これって……」


 夏冬ではないことは一目瞭然だ。

何かの手違いなのか相手の記憶も蒼は見れるようになってしまっていた。

ボスの記憶に触れようと手を伸ばす。

なにかに弾かれそうになったが無理に押し込むとすんなりと手は通った。

その記憶を更に引っ張り出そうとそっと力を加える。

蛇のようにずるずると引きずり出てきたその記憶は見たことのないマークや見たことのない軍艦、更に見たことのない人間で溢れかえっていた。

艦隊の全ての位置や配属のような物を記した記憶もある。

中心にあった艦の名前、恐らくその艦隊旗艦の名前にはセンスウェムと文字が振ってあった。

どの記憶もカメラのレンズを通したように歪んでいたが、見れないものではない。

日常のようなありきたりな生活が殆どを締めており、戦争などの惨たらしい光景は余り無い。

惨たらしい光景だけを選択して抜き出してみる。

燃え盛りバラバラに砕け散った軍艦から人が投げ出されている。

撒き散らされた内臓や肉、骨が鮮明な記憶として残っている。

その遺体の顔すらもきっちり判別できるほどだ。

すらりとした美しい美人はそのまま消えていく。

軍艦の外は海ではない、真っ暗な空間だ。

消える前に拡大してもっとよく見ようとした所で影像は途切れてしまった。

今まで引きずり出せていたものが霧散する。

そしてまた真っ白な空間が広がると一気に意識が肉体へと返ってきたのだった。


「大丈夫ですか!

 ボス!」


意識の戻った蒼の耳に聞こえてくる声は夏冬の悲鳴にも似た悲惨な声だった。

蒼と殆んど同時にボスも目覚めたらしい。

まだ全然涼しい表情をしている蒼に比べ、ボスは完全に取り乱していた。


「この―――所詮は“新人類”の創造物と思い侮った――!

 まさかこの私に逆にクラッキングを仕掛けてくるとは。

 よくも私をこけにしてくれたな!」


「え、えっと…………?」


思わず謝りそうになってしまったが、謝るぐらいで許してくれそうにない。


「夏冬!

 こいつを殺すんだよぉ!

 危険すぎる!」


その命令に困惑したのは夏冬だ。


「し、しかし!

 これが終わればくれると……」


「こんなのいくらでもあとで生成してやるよぉ!

 いいから早くやれぇ!」


「…………わかりました」


完全に取り乱し、一歩間違えればヒステリックにも近いと思うほど混沌に精神を没頭させていくボス。

私よりもあの人を止めた方がいいんじゃないですかね。


「この私が……この私が…………!!

 こんな“新人類”の猿どもが作った兵器なんかに……!」


「ごめんなさい蒼さん。

 ボスの命令なんで」


夏冬はレーザー銃を取り出すと蒼の頭を狙う。

良く見るとカタカタ、とその銃口は震えていた。

その人間臭さに何故か呆れがでたらめ蒼は夏冬へ言葉をかける。


「夏冬。

 あなたは兵器です。

 何を躊躇うことがあるんですか?

 貴方を作った丹具博士に申し訳ないと思いませんか?」


震える銃口の奥にある夏冬の目を見てゆっくりと諭してやる。

図星だったのか、夏冬の瞳が蒼から逸れる。


「何を言っているのかさっぱりですよ蒼さん。

 おいらが人一人殺すのを躊躇うとでも?」


「人ではありませんよ。

 兵器です。

 貴方やっぱり私の事を人として見ている節が有るんじゃないですか?」


「ふん、よくもまぁ屁理屈を……。

 本当においらが撃たないと思ったら大間違いですよ、蒼さん」


夏冬は震える手を抑えると、ぴったりと銃口を蒼へと合わせてきた。

指がゆっくりと引き金にかかる。


「最後に言うことはないんですか?」


「それはおいらの台詞なんすけどね。

 蒼さん言いたいことは?」


「……そうですね。

 私はこれで死にませんよ、ってことですかね」


そして意味ありげにニヤリと笑ってみせる。

その仕草に不安を夏冬は感じたらしい。

一歩後退りするとボスに指示を仰ぐ。

しかしまだ錯乱しているボスは夏冬の目線や仕草に気がつかない。


「一体どういう意味で――」


 夏冬の蒼への問いかけは場の空気を劈くような警報の音によってねじ伏せられた。

思わず固まった夏冬から銃をもぎ取る。

夏冬が固まるのも無理はない。

“核”が最も聞きたくない音――つまり敵艦直上もしくは敵襲の警報だからだ。


「おい!

 おい、夏冬!

 すまん、油断した!!」


「何をしているんですか紫さん!!!」


「すまないって!」


紫の声がスピーカーごと破壊しそうな大音量で鳴り響く。

続いて船を揺らすような轟音と揺れが警報すら掻き消すような勢いで台頭する。

蒼から銃を取り替えそうとした夏冬の体が簡単に床から吹き飛び、転がる。

それはセンスウェムのボスも同じだった。

倒れた彼の体が金属のような音を立て、マスクが外れて転がり落ちる。


「残念でしたね、夏冬」


蒼が自分の拘束具へと向け引き金を放つ。

鋼鉄の拘束具が蒼の体から外れる。

四肢を固定していた拘束具から解放され、自由になった蒼を見て夏冬が何とか立ち上がりながら機械兵士達へと命令を下す。


「はっ、残念なのはあなただ!

 例え拘束が解けた所で再び機械兵士に捕まえさせるまでのこと!

 行け!!」


「いや、残念なのはあなたで合ってますよ」


だが、《ウヅルキ》の壁ごとぶち抜き、横から入ってきたレーザーがその機械兵士達を蒸発させた。


「なっ――《ネメシエル》はロックしている!

 一体誰が――!」


壁の向こうに浮かんでいるのは一隻の軍艦。

巡洋艦クラスの艦のフォルムは見たことのある姿だ。


「《ニヨ》……だと!?

 バカな、シーニザーの軍艦がなぜここにいる!?」


夏冬の驚く表情は久しぶりに見る。

シーニザーのかつての敵だった軍艦ニヨ

セウジョウの異常に気がつき、持ち前のステルス性能を生かして《ウヅルキ》の懐に飛び込み援護射撃をしてくれたのだ。


「セウジョウから伝える手段はなかったはずだ!

一体どうやって!」


「案外原始的な手も使ってみるものですね、とだけ言っておきますよ」


壁の外、遠くに見える《ネメシエル》のマストには戦闘中の旗がはためいていた。


「バカな!

 そんな《ネメシエル》にコンタクトを取らなかったのはこれをばれないようにするためだったと言うのか!?」


「《ウヅルキ》が私の《ネメシエル》をロックしているみたいですがそう簡単には渡しませんよ。

 自分の母港で戦闘中の旗を掲げるのは異常といっても過言じゃありません。

 また、掲げている旗は“レリエルシステム”を通らないで全艦へと共有されます。

 旗ぐらいわざわざ私を通さなくとも《ネメシエル》だけで出来ますからね。

 いくら“レリエルシステム”を抑えていても意味がありませんよ。

 つまり、旗を掲げるのさえ見つからず、邪魔されなければ……」


夏冬の表情が驚愕から怒りに変わる。


「やりやがったな蒼さん!」


 壁にぽっかりと開いた穴から夏冬の叫びを背に外へと飛び出した。

再び捕まえようと追いかけてくる機械兵士達は《ニヨ》の艦砲射撃によって消し飛ぶ。

駆け足で《ウヅルキ》から降り、《ネメシエル》へと走る。

追っ手や遮る壁を薙ぎ払ってもらいつつ、《ネメシエル》の起動を自動モードに設定する。


「《ネメシエル》、緊急起動。

 《ウヅルキ》が動き出す前に少しでも有利な状況に持ち込みますよ」


(《ニヨ》の攻撃のお陰で《ウヅルキ》のロック装置が外れた私に不可能はない。

 直ちに起動シークェンスに入る。

 三分しないうちに戦闘に入れるぞ)


 追いかけてくる敵を振り切るために《ネメシエル》から“リフト甲板”を呼び出す。

《ウヅルキ》にロックされていて先ほどは呼び出すことすら出来なかったが今回は普通にやってきた。

車よりも早く迅速にたどり着いた“リフト甲板”に乗り込み一気に《ネメシエル》へと距離を詰める。

《ウヅルキ》が起動するまで後五分もないだろう。

急ぎ《ニヨ》へと言いたいことを伝える。


「もう大丈夫、ありがとうですよ。

 早く離脱を。

 《ウヅルキ》相手では貴方に勝ち目はありません。

 むしろ早く援軍を呼んできてください」


 蒼は手を振りながら口に出してそう伝える。

趣旨を理解したのか、《ニヨ》は機関を全開に回すと空高くへと昇って消えていく。

それを見送る事無く急いで蒼は《ネメシエル》の艦橋へと入った。


「《ネメシエル》、機嫌は如何ですか?」


(良くも悪くもまぁ普通だな。

 たかが一隻にここまでやられたのが屈辱と言ったところか)


椅子に座り、両腕を穴に差し込んで“レリエルシステム”に接続する。

《ウヅルキ》のロックによる弊害を同時にチェックしながら動き出した《ウヅルキ》に視線を移した。

距離凡そ三キロ。

この近さでは基地ごと戦闘に巻き込んでしまう。


「《ネメシエル》、機関全開。

 全兵装解放、エンゲージ」


(了解。

 全兵装解放、《ネメシエル》エンゲージ。

 ああ、そうだ。

 蒼副長、《ウヅルキ》からのロックによる弊害がとりあえず一つ判明した。

 私が宙を飛ぶときに使用している…………)


「単刀直入に」


《ウヅルキ》を釣るために艦首をセウジョウから外洋へと向ける。

逃がすものか、と追いかけてくる《ウヅルキ》を背に機関出力を上げていく。


「下部スラスターとその他付属の装置が海水を被ってしまっている。

 分解洗浄しないとおそらく使い物にならない。

 要するにつまり私は今飛べないと言う事だ」


背後についた《ウヅルキ》との距離は十二キロにまで広がっていた。

しかしあの巨艦の砲精度は確実に上がって来ている。

基地との距離は凡そ八キロ。

まだまだ近い。


「別に問題はありません。

 あちらも空を飛ぶようには出来ていなさそうですし。

 なんとかなりますよ」


(飛べさえすれば全砲門が使えたんだがな。

 まぁ、仕方ないことと諦めることにするよ)


「そうしてください」


【逃げるんじゃねぇ!!!!】


「来ましたね、超絶ノイジーマイブラザー。

 そろそろあなたとはケリをつけようと思っていた所ですよ!」


【面白ぇ!

 お互い空が飛べねぇんだ!

 気楽にやろうぜ!!!】


「お断りですよ!」


ちらりと基地との距離を確認する。

まだ二十キロに満たない。

もっと離れなければ回避行動すらまともに取ることが出来ないだろう。


「後部“三百六十センチ”用意。

 目標ウヅルキ甲板兵装群。

 少しでも戦力が削げるうちに削いでおきますよ」」


(了解した)


数ある武器カテゴリーの中から《ネメシエル》の主兵装とも言える“三百六十センチ六連装光波共震砲”を蒼は選択する。

直ちにエネルギーが送り出され後ろを向いた四基の“三百六十センチ六連装光波共震砲”が起動、《ウヅルキ》へと攻撃を始める。


【はっ、そんな豆鉄砲効くかよ!】


「やっぱり“イージス”を持っていますか。

 案の定厄介な奴ですよ」


(蒼副長敵艦のスキャンが完了した。

 データを出しておくから後で確認しておいてくれ)


「今確認しておきます。

 視界端に別ウィンドウで表示して置いてください」


 動かないスラスター群の警報を消し、蒼は攻撃を加えたまま今の《ウヅルキ》のデータを確認した。

見た目は《ネメシエル》のように水上が適しているような姿ではない。

水中を突き進むために特化したような姿だ。

真っ黒に塗られた船体と艦橋だけ膨らんだ構造は潜水艦のように見える。

しかし《ネメシエル》を攻撃する為に武装を展開した姿は普通の戦艦にも見える。

潜水艦にもなる戦艦というなんとも中途半端な姿は無様というよりは機能美を取ったとあって美しい。

全長四キロと少しで《ネメシエル》よりも大きく、その船体に乗った兵装は《ネメシエル》とほぼ同じぐらい強力だ。

幾重にも施されているのであろう装甲、さらにその大きさから伝わるパワーは《ネメシエル》を圧倒するようにも思える。

所々《ウヅルキ》のようにも見える船体の特徴があり、《ウヅルキ》と《ナニウム》二隻がくっついた軍艦として申し分ないような性能を持っているのだろう。


「このセウジョウの近海をあなたの墓にしてあげますよ《ウヅルキ》。

 まだ突き刺さっている古いあなたのようにね」


【はははははは!!

 そう上手くいくといいな《鋼死蝶》!!!

 だけど、勝つのは俺様だ!!!!

 覚悟しておくんだな!!!!】


 攻撃に攻撃を重ね、《ウヅルキ》の“イージス”を削り取っていく。

測定した“イージス”の残量は《ニヨ》からの攻撃、さらに制圧前のセウジョウの効果もあって余り残ってはいないようだ。

しかし相手は《ウヅルキ》、それに夏冬も乗っている。

油断は出来ない。


「《ネメシエル》少しおかしいと思いませんか?

 まるで“イージス”で攻撃を防ぐというよりは“イージス”など必要ないと割り切っているように私には見えます」


(どういうことだ?)


「あまりこういうことは言いたくないんですが……。

 あいつの性格上こんな無駄な追撃戦を仕掛けてくるようには……」


(《ウヅルキ》の“イージス”過負荷率百を確認!

《ウヅルキ》“イージス”消失!)


私の考えすぎでしょうか。

紫と夏冬の二人がこんなにも簡単に守りの礎である“イージス”をはがされに来るな

んて。

何かがおかしいですが……。


「《ウヅルキ》の“イージス”がはげているうちに攻撃を叩き込みますよ。

 全兵装フルファイアー体勢に入ってください」


基地との距離は五十キロを越えた。

これで自由に動けるようになる。


「全力回頭、全兵装砲門を左舷に向けてください。

 エネルギー配分を――」


(敵艦ミサイルを発射。

 数は九八、なおも増大中)


レーダーにいくつもの反応を認める。

後方レーダー全てを埋め尽くすような物量が《ネメシエル》の背後から迫っていた。


「迎撃します。

 迎撃レベル五、全ての兵装の使用を許可。

 自動迎撃でお願いします」


(了解。

 迎撃レベル五、全兵装を持って迎撃する)


 《ネメシエル》の“六十ミリガトリング光波共震三連装機銃”が回転し、弾幕をミサイルの前方にいくつもいくつも張り巡らせる。

その弾幕に突っ込んできたミサイルは弾頭を爆発させる。

そこまでは普通のミサイルと何も変わらない。

だが今回はそうは行かなかった。


「っ、なんですかこれ!」


 弾頭の中から降り注いだのはいくつもの小さな爆弾だった。

おおよそ百五十だったミサイルから打ち出された小さな爆弾は四千以上にもなる。

それら全てを迎撃するのは不可能だ。

爆弾のエネルギーを思いっきり受け止めた“イージス”の過負荷率が一気に跳ね上がる。

それは無傷ともいえる《ネメシエル》の“イージス”を剥ぎ取るのに十分だった。

オーバーヒートした“イージス”が悲鳴を上げる。


【ははははは!!

 無様、無様だな《鋼死蝶》!!】


「それは“イージス”の剥げたあなたも同じことでしょうに!」


フルファイアーで《ウヅルキ》へと攻撃を加える。

《ネメシエル》の攻撃を正面から受け止めた《ウヅルキ》の甲板は一瞬にして火に包まれる。

その火すら消し止めようとしないで、《ウヅルキ》は《ネメシエル》への距離を詰めてくる。

立ち止まろうとしないで、艦首を正面に向け《ネメシエル》一直線に向かってくる《ウヅルキ》。


「まさか、ラムアタックでもするつもりですか!?」


【貴様の得意技だろうが!?

 えぇ、《鋼死蝶》!!】


「《ネメシエル》面舵一杯!

 突っ込んできます!」


(了解した。

 左舷に修復できる限りの“イージス”を突っ込むぞ!)


《ウヅルキ》との距離は凡そ二キロ。

もはや目と鼻の先だ。


【食らいやがれ!】


《ウヅルキ》の主砲が火を噴く。

《ネメシエル》の装甲がいくらかその威力を減らすが全ては流石に厳しい。

いくらか貫通され、内部へのダメージを許してしまう。

衝突の警報とダメージの警報が鳴り響き艦橋内部が阿鼻叫喚に包まれる。


「っく――!」


 次の瞬間に襲い掛かってくるであろう痛みに備えるため蒼は歯をかみ締める。

しかしその瞬間は来ないでむしろ衝突の警報の音が次第に静かになっていく。

自分のレーダーで《ウヅルキ》の位置を再確認する。

《ネメシエル》の左舷ギリギリを通り抜けていく


「っ、遠ざかっていく……?」


次の瞬間鋭い衝撃が《ネメシエル》を横から蹴飛ばした。


「いっ、いったい何をしやがったんですかあいつ!」


【いわゆる氷山の一角ってやつさ!!

 水面下にも気をつけろよ、《鋼死蝶》?】


(魚雷、八本被弾!

 急激に浸水している!

 あのやろう零距離で水中発射管から魚雷をぶち込んできやがった!)


《ネメシエル》の艦橋よりも高く八本の水柱が立ち上る。

水というよりかは水蒸気のようにも見えるぐらいに細かい海水は粘度の高さもあってすぐに収まる。


「ダメージコントロール!

 浸水を食い止めると共に反撃を叩き込んでやりますよ!

 この私に一キロを切る距離まで近づくことがどんなに恐ろしいことか見せつけてやりますよ!」


直ちに反撃に転じた《ネメシエル》の業火は《ウヅルキ》の燃えている甲板を更に破壊する。

いくつもの兵装をぶち抜き、破壊していると言うのに《ウヅルキ》から伸びてくる攻撃は止まない。


(甲板に被弾、左舷中破!

 浸水は止まったが、被弾箇所から火災発生!)


「“自動修復装置”を艦底の穴に向かわせて修理を。

 最優先は艦底の穴です」


(了解した)


《ネメシエル》と同じぐらい《ウヅルキ》も損傷している……はずなのに、だ。

全く攻撃の手も緩まないばかりか、一方的に磨耗させられているような感覚が止まない。

疑問に思って先ほど狙って吹き飛ばした《ウヅルキ》の兵装を眺める。

破壊したはずの兵装は綺麗なままこちらへと攻撃を加えてきている。


「《ネメシエル》、私確かに《ウヅルキ》の兵装を破壊したはずですよね?」


(だと思うが……?)


痛みがまた蒼にを襲う。

《ウヅルキ》からの攻撃で《ネメシエル》の甲板がさらに燃え、破壊された兵装が根元から吹き飛ぶ。

燃え盛りながら、《ネメシエル》の巨体を駆使して回避行動を取る。


「もしかして……まさか……でも戦艦にそんな?」


確実に壊れている場所を蒼は知っている。

思い返す。


「《ネメシエル》!

 あいつの艦橋付近にカメラを向けてください。

 《ニヨ》によって開けられた穴はまだありますか!?」


(了解、カメラを向ける!)


艦橋に《ニヨ》にぶち開けられた穴はいつの間にかふさがっており跡がかすかに見えるレベルにまで修復されていた。


「やっぱり……!

 あの艦すごい速さで自分を修復することが可能みたいです。

 これは面倒なことになりましたよ……。

 そりゃ“イージス”が剥げても平気な顔をしていれるわけです」


(そいつはまた……。

 面倒な……)


【まだまだこれからだぞ!!

 《鋼死蝶》逃げるんじゃねぇ!!!】






               This story continues

お待たせいたしました。

更新です。

《ナニウム》と《ウヅルキ》。

夏冬と紫。

いよいよ宿命の対決です。

次も気合をこめて書かせていただきます!


ここまで読んでいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ