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超空陽天楼  作者: 大野田レルバル
天空斜光
56/81

シグナエの終わり

「なんですかあれ……」


 蒼は目の前に存在している物体に思わず目を見張った。

口も気を緩めたら開けっぱなしになりそうだ。

押し寄せてきた衝撃波が艦隊を襲う。

続いて衝撃波に巻き上げられた土煙が上空三千メートル付近にいる艦隊を覆い尽くした。

ギシギシ、と鉄の軋む音と共に《ネメシエル》の背後に並ぶ駆逐艦や巡洋艦といった軽い艦は船体が大きく揺れ動き、舷側に付いたスタビライザーやサイドスラスターがせわしなく動き回る。

積もった土を“イージス”で払い落としながら蒼は艦隊全体へ状況確認の無線を入れた。

衝撃波の発生した場所から少なくも十五キロ離れているというのに全く減衰していないその力と目の前の《天端兵器級》に正直恐れ入っていた。

ぞわぞわと込み上げてくる何とも言えぬ兵器としての興奮は蒼の気持ちを少しずつ高揚させていく。


「全く、シグナエはこれだから……。

 全艦、砲雷撃戦準備。

 各自バラけてターゲットを分散します。

 固まっていたらすぐにやられちゃいますよ恐らく……」


 蒼はそう言って目の前の巨大構造物を見上げた。

予期されてきたシグナエの最後の切り札である《天端兵器級》は《ネメシエル》達が首都に近づいた瞬間に山を丸ごとひとつ吹き飛ばすようにして現れた。

言葉のあやや例えではなく本当に山をひとつ吹き飛ばしたのだ。

初めは本当に火山が爆発したではないか、と勘違いするほどの揺れと轟音。

山が崩れ、敵艦のエンジンの出力が上がったのを計測したのと同時に衝撃波が生じた。

その衝撃波が先程、《ネメシエル》達を襲ったものだ。

縦に凡そ四キロ、横に六キロ全長二十キロ以上に及ぶ、見た目はまさに要塞。

まるでオカリナのような形をしている艦はとても艦には見えない。


『化け物かよ!?』


『なんなんだあれ!

 あんなものが沈むのかよ!』


『ふざけてんのか……?』


味方が敵に恐れを抱いていく。

シグナエの艦のはずなのにその姿はシグナエの艦にはとても見えなかった。

船体のあちこちに屹立した煙突からは水蒸気が噴き出し、黒煙が所々昇っている。

まるで城のような艦橋とその周りを守るようにビルのように生えている兵装。

その兵装ひとつを取っても戦艦並みの口径砲が全方位をカバーできるようについているのだ。

巡洋艦や駆逐艦クラスの砲など百を越えるほど付いているだろう。

その流れならばごみくずのように見える小さなものは機銃の類いだ。

さらに舷側には艦艇を吐き出すためと思われるハッチが設置されていた。

番号が振ってあり、一番から三十番まで番号が振られている。

さらにハッチの真下には三本のラインが引かれており、そのラインが溝のように窪む。

その溝の中を一両の列車砲が幾つも進んでいた。

何も甲板に並んでいるのは兵装だけではない。

航空機を発艦させるための滑走路とカタパルトまで揃っている。

基地が丸ごと飛んで移動しているといってもいいだろう。

あれほどの大きさの軍艦はもはや軍艦ではなく基地と言っていいだろう。


(敵艦から通信が入ったぞ蒼副長!

 繋ぐぞ!)


 別に繋がなくていいんですけども……。

《ネメシエル》すら小さな艦に見えてくるほどの大きさの要塞は、高度を凡そ五千に固定すると通信を《ネメシエル》へと寄越してきた。

着信のマークを手でスライドさせるのも面倒くさく、《ネメシエル》に命令して着信を取らせる。


【貴様が《鋼死蝶》か!

 案外かわいいじゃないか!】


画面に映ったのは同じ顔をした男と女が二人ずつだった。

合計四人の顔は分割ビデオのように画面を埋め尽くしている。

わざわざ説明を省くためか長男、長女、次男、次女と書かれたテロップがそれぞれの右下についている。

これまた反応に困りますね。


「はぁ。

 それはまた、ありがとうございます」


【おい!

 弟たちよ!

 俺は決めたぞ!

 《鋼死蝶》を嫁にする!】


「え、えぇ……」


敵のいきなりの告白に蒼は戸惑いを隠しきれない。

長男の謎の告白に敵の兄妹は驚いていない。

むしろまたはじまった、といったような表情だ。


【兄貴最近必死すぎて哀れだな!!!】


【結婚はいいんだぞ弟よ】


「あの……」


【《鋼死蝶》が嫁なんて最高じゃないのよ!

 おめでとう兄さん!】


【ありがとう妹よ!】


「はー……」


蒼は頭を抑える。

ここまで話が通じない相手は久しぶりだった。

一にも二にも話が通じないのはどうしようもない。

バカしかいないんじゃないですね。


【そういうわけで《鋼死蝶》!

 今迎えに参上するぞ!】


【兄さんの嫁探しにようやく終止符が!

 邪魔をする《鋼死蝶》の取り巻き共!】


【我ら四兄妹がここで成敗して】


【くれる!!!】


「最後の人にまで言うところ残しておいてあげた方が……」


次男に至ってはたった三文字じゃないですか。

蒼の突っ込みに一番激怒したのはなぜか長女だった。


【やましいわ!!

 四男なんてそれでいいのよ!!】


【嫌だけどね!!!】


「そ、そう……ですか……」


話していて蒼は気がついた。

この四人は蒼が一番苦手なタイプだと言うことに。

ただこういうタイプは話しているだけ時間が稼げる。


「全艦隊へ。

 自艦の位置をきちんと把握してください。

 あいつらが喋っている間に《天端兵器級》のスキャンデータをセウジョウへと流しますよ」


『了解です!』


『了解いたした』


 蒼は自分の艦隊を分散させることだけに集中する。

今回の作戦は全方位からの攻撃による目の前の《天端兵器級》の撃沈が第一目標だ。

味方艦のほとんどはセウジョウからの指令により動かされる。

凡そ百隻にもなるこの味方艦隊を前にしているというのに敵は怯んだ姿を見せない。

それどころか痴話に花すら咲かせている。


「私達に勝てるつもりがあるんでしょうか……」


 敵要塞は大きいとはいえたった一隻。

舷側のハッチから艦が出てくる気配はない。

恐らくあの中にしまいこむほどシグナエには余力が残っていないのだろう。

“パンソロジーレーダー”による策敵を行ったが、それでも中に艦影は見受けられない。


【嫁ってことはつまり妻だな!】


【ってことは子供が作れる?】


【兄貴おめでとう!!

 かわいい女の子ですよ!!】


無線に舌打ちが混じる。

発生源は《ニジェントパエル》。

真白が苛立ちを抱えているのだ。


『うるさいですわね……。

 私め、ああいうのは苦手ですことよ』


私達姉妹も似たり寄ったりなのかもしれないですけどね。

そっと、心の中で毒づいてから返事を返す。


「私もですよ、真白姉様。

 話していて疲れますからね……」


『はー、やれやれですわ。

 “核”は子供なんて作れませんのに。

 セックス出来ても子宮が発達してないのですから当然ですわね。

 まぁ、こんな話を蒼に聞かせたくありませんし。

 さっさと沈めちゃうことにしますわよ』


「え、私は別に話を無視しているので構いませんが……。

 まぁ、敵をさっさと沈めるのには賛成です。

 そうしないと私は嫁入りしなけりゃダメになりそうですし」


 蒼は窓の外に浮かぶ大艦隊を眺めて自分の前髪を摘まむ。

窓の外に見える百隻の味方艦のうち本当に自分の意思で動けるのは《ネメシエル》と《ニジェントパエル》、《アルズス》と残りの《超極兵器級》くらいのものだ。

それ以外は基本的に“核”の判断に委ねられるもののあらかたの行動は総司令部が把握しているらしい。

もっともこれはヒクセス艦のみの特徴でベルカの艦には適用されない。

今、ベルカの艦はシグナエ各地に散らばり残党狩りを本格化させているところだろう。


【もし我々が勝ったら!

 《鋼死蝶》!

 貴様は俺のものになれ!

 いいな!】


 前髪を選り分ける作業の途中に呼び掛けられ、蒼は思わず顔を上げた。

画面の奥には得意そうな男の顔がひとつ、写っている。

蒼はため息が出そうになるのを抑えて反論するために口を開く。


『何言ってるっすか!

 蒼先輩は俺のものっす!!

 誰にも渡さないっすよ!』


【なんだと!?

 この……全くもって面倒な奴だな!!

 急に入ってきて何様だお前!】


「春秋?」


何を一体……と申し出ようとした蒼を手で春秋は静止する。


『蒼先輩はいいっすから!

 ここは、俺に任せてください!

 綺麗に話をまとめますから!』


「私の事なんですけど……」


『まぁ、いいっすから!

 任せてくださいっすよ!

 せめてこうするっす!

 この戦闘でそっちが勝ったら蒼先輩は貴方のものになるっす!

 でももし負けたら蒼先輩は俺のものっすよ!』


【いや、勝ったらお前も俺のものだ! 】


『なんで男の俺がお前のものにならなきゃいけないんすか!

 絶対に嫌っすよ!』


「あのー、その。

 春秋……?」


【そうか、お前が丹具博士の作った実験体……。

 気に入った!

 お前の体にお前は女だってことをたっぷりと叩き込んで――】


「春秋……本当に……あのですねぇ……」


蒼の意思を無視して話はとんとん拍子で進んでいく。

最後に蒼に話が帰ってきた時はもうほとんど話はまとめられてしまっていた。


【よっしゃ、じゃあ勝ったらお前も俺のものだ!

 ただし《鋼死蝶》に至っては共有のものとする!

 これでいいか!】


『いいっすよ!

 よし、綺麗に話はつけたっすよ!

 遠慮することはないっす!

 蒼先輩は思う存分やるっすよ!』


「…………………………」


【まぁいい。

 《鋼死蝶》我が嫁よ!

 さあ愛の告白を――】


「撃て 」


 いつの間にか稼働していた《ネメシエル》の“三百六十センチ六連装光波共震砲”が《天端兵器級》に向かって光を放っていた。

砲身の装甲板が開き、廃熱の陽炎が朦朧として表れる。

目に残るほど強いオレンジ色の光が六本飛翔していく。

だが、強烈なエネルギー壁が“光波共震砲”の光を跳ね返した。


【……まだ話していたんだがなぁ?】


ダメージは与えれなかったもののお喋り者の口を閉ざすことは出来たようだ。

自信に満ち溢れたような表情で《天端兵器級》の長男は蒼を見下してきた。

上からの目線に蒼はにやりと笑みを浮かべてやりながら答える。


「もうお話は飽きたんですよ。

 早くはじめましょうですよ。

 春秋と変な会話している場合じゃないっすよ」


【ん?

 なんだ。

 正妻としてちゃーんと迎え入れの準備はするぞ!

 《鋼死蝶》じゃないほうは当然側室だけどな!】


『それはそれで納得がいかないっすね!』


あくびが出そうなお話はもう十分ですよ。


「なんでですかね?

 というか、春秋……」


いい加減に呆れ顔になった蒼に春秋はようやく気がついた。

焦りながら春秋は会話の締め括りに入る。


『とにかく、さっきの条件通りでいいっすよ!』


【面白い!

 全力で勝ちに行かせてもらうぞ!】


 相手との通信は繋がったまま、蒼はマイクをミュートにする。

ボリュームは最小にしてほとんど聞こえない状況にした。

百隻の艦隊は《天端兵器級》をすでに取り囲むようにして展開を完了していた。

無駄話が想像以上に長かったため十分すぎる時間を得ていた。


「全艦、砲撃はじめてください」


蒼の合図と共に味方艦隊が射撃を開始する。

味方艦隊の何千と言う数のレーザーやミサイル、魚雷が敵艦に群がる。


【ったく面倒くさい奴らだ!!】


 敵艦のが“グクス荷電障壁”が展開され全ての攻撃を受け止める。

あれだけの量の攻撃だ。

今までの《天端兵器級》ならばひとたまりも無かっただろう。

しかし、蒼の目の前にいる《天端兵器級》はシグナエのいわゆる最終兵器。


【バカにしてもらっちゃ困るって訳よ!】


「毎度のことながらあの“グクス荷電障壁”の存在は本当に面倒ですね。

 ぱっぱと攻撃を集中させて、破らなくては」


この攻撃量だ。

いくら《天端兵器級》と言えど限界は来るだろう。

それまでいかに味方の損傷を少なくするか、だ。


「《ネメシエル》、機関再始動。

 速力半分で、敵艦の側面に回り込みます」


(了解した。

 速力マッハ一で航行する )


味方の損害を減らすためには《ネメシエル》が味方よりも前に出て被害を担当する他ない。

距離を詰めるために、艦を前進させる。


【そろそろ頃合いか!

 エネルギーチャージ率どうだ!?】


【狙いは十分さ、兄貴!!

 いつでもいけるぜえぇええ!!】


敵艦の船体が中央から上下に裂けはじめる。


「なんですかあれは……?

 私達《超極兵器級》の真似事?」


(敵艦中央にエネルギー反応は確認されない。

 ただ、重力子の変異確率が変化している。

 何か分からないが何かがあるぞ)


「と、言われましても《ネメシエル》……」


 《天端兵器級》の裂け目に真っ黒な闇のようなラインが形成されはじめた。

まるでそれは光のない世界のような、そんな暗さ。

それらが浮き輪のように《天端兵器級》の周りを漂う。

次々と叩き込まれていく味方のレーザーやミサイルをものともせずにその浮き輪はどんどん大きくなっていっていた。

そんなものを見たことない蒼だったが、警戒心がサイレンを鳴らすのに十分な光景だった。

味方艦全体に聞こえるように全体にチャンネルを開き、焦って話しかける。


「機関全速、上昇開始!

 全艦も続いてください!」


『了解!

 セウジョウ、リモートコントロール解除、機関全速!』


『蒼、一体何が――?』


「真白姉様も早く!

 春秋、ぼーっとしてるんじゃないですよ!」


『了解っす!』


《ネメシエル》を先頭に全部の艦が上空へと昇りはじめる。

しかし、遅かった。


【あっ、兄貴!!

 気付かれた!!】


【構いやしねぇ!

 ぶっぱなせ!!】


 敵《天端兵器級》の浮き輪のような闇が一瞬にして十倍、百倍に広がった。

真っ黒な闇が敵艦の裂け目を中心にして《ネメシエル》と《ニジェントパエル》、《アルズス》とあと数隻以外の残りを飲み込んだ。

謎の闇が展開かれたのと同時に強烈な力により《ネメシエル》の高度が下がる。

また、蒼自身も謎のGを感じた。

マッハ二でインメルマンターンをしたよりも強い力に蒼は吐き気を催す。

真っ黒な闇に引っ張られるように高度が下がっていくが、《ネメシエル》の艦尾が触れるよりも早く闇はかき消えた。


「一体何が……?」


 えづきそうになった体に薄く汗をかき、気持ち悪さに侵食された精神は疲れを感じていた。

とっさには理解できない出来事だった。

闇の消えた下には今までと同じ風景が広がっていた。

違うのは味方艦が丸ごと消えてしまったことと、《天端兵器級》の回りに小さな竜巻のようなものが現れては消え、現れては消えを繰り返しているまるでこの星の終わりのような光景だった。


【やれやれ、オーバーヒートかよ。

 あと一回が限度ってとこだな!

 まぁいい!

 八十七隻同時撃破なんて、まるで一騎当千だのなぁ!】


【私達に来る負担も半端ない】


【まぁ!!

 八十七隻撃沈だしこれでそれなら悪くないよね!!】


 割けていた敵艦の中央にはもう闇は無かった。

ただ何重にも巻かれたドーナツのようなものがこれまた何重にも巻かれたコードに覆われている機械があるだけだった。

機械の表面にはヒビが入り、カタカタと震えている。

まるで生物の臓物のような動きに蒼は思わず嫌な顔をする。


『《ネメシエル》、一体何が……』


(わからん!

 ただ敵艦を中心として巨大な重力場の変動を感知した。

 変動は時空による異次元扉の離れた箇所への強制的な開放を引き起こした……。

 一瞬だけあの敵艦は星ではない所へ繋がる扉を開いたんだ。

 異次元扉の解放が多次元の変動を引き起こす何て考えもしなかったが……)


「つまり……?」


【《鋼死蝶》聞こえてるな?

 今のを見ただろう?

 お前の仲間はほとんどいなくなっちまったなぁ。

 残念か?

 残念だろうな俺なら残念で夜も眠れねぇよ】


「何が言いたいんですか?

 さっさと続きを言ってくださいよ」


 蒼はため息をつくように声を吐き出した。

話していても無駄な気がして仕方ない。

しかし、敵が意味ありげに話しかけてくるのは癪に触った。


【降参したらどうだ?

 俺達のこの“次元断層砲”にかかったらいくらお前と言えど堪えれないぞ?】


「ふーん、大層な名前ですね。

 面白いじゃないですか。

 ならばそれを私にもっと見せてくださいですよ。

 《ネメシエル》、全兵装解放。

 消し炭にしてあげますよ」


【ほう?

 ならば我ら四人の力を見よ!

 フルシンクロでお前を沈め、嫁として連れ帰ることにするだけのこと!】


 相手の“核”四人の声がはじめから重なり、最後は一字一句間違えること無く被る。

“核”の脳が同期され、思考共有によるラグが無くなるため処理スピードは格段に向上する。

“レリエルシステム”では最高二人までしか行われていない。


『無茶っすよ……。

 脳が要領オーバーで死ぬっすよ!』


脳が四つ分の処理に絶えきれずに神経回路が焼ききれる為だ。

それで、“廃棄処分”された“核”を蒼は何度も見てきていた。


【行くぞ!

 《鋼死蝶》!】


「どうぞ。

 来てください、迎え撃ちますゆえ」


 敵が分かっていてシンクロを行うのなら、それだけの覚悟を敵も決めているということ。

それに答えないわけにはいかない。

蒼が啖呵を切ったと同時に敵艦も《ネメシエル》とそれ以外を狙って砲を撃ち込みはじめた。

緑色の光は今までのシグナエのレーザーではない。

シグナエの今までの兵器とはまるで違う特性のレーザーだった――が、《ネメシエル》は難なく涼しい顔でそれを弾く。

それは《ニジェントパエル》も同じ。

悲惨なのは味方艦――特にヒクセスの艦だった。

彼らの持つバリアは見たことないレーザーに成す術貫かれ、その下にある薄い装甲に容赦無く歯をたてられた。

被弾し、動きを乱した船に狙いはどんどん集まっていく。


『い、やめろ!

 まだ沈みたくない!

 嫌だ!

 嫌だぁぁぁぁぁぁ!!』


残った味方巡洋艦がレーザーに喰われ、落ちていく。


「っち、ヒクセスの船は脆いですね……!

 さっさとヒクセスの船は後ろに下がってください。

 敵は貴方達を集中的に狙ってきています!」


『了解した!』


どうしてか分からないが《ネメシエル》達の“イージス”は相手レーザーとの相性がいいらしい。

バシバシ弾くのに対して過負荷率の上昇が少ない。

蒼は更に前に出て距離凡そ十二キロにまで近づく。


【ははぁ!?

 同航戦としゃれこむか!?】


「なんで船の規模が違いすぎるのに同航戦なんてしなきゃいけないんですか。

 嫌ですよ!」


 蒼は艦を縦に向け、そのままじりじりと接近する。

敵艦はエンジンを起動し、ゆっくりと前進を始める。

決して舷側を見せないようにしながらターゲットを引き付けつつ、蒼は《ニジェントパエル》に裏に回るように指示を出した。


『了解、はさみ打ちますわよ!』


「それまでターゲットは私が引き受けます」


『蒼先輩、俺も手伝うっすよ!』


「あなたは真白姉様について行ってください。

 その上で真白姉様の主砲発射の援護を」


『了解っす!』


それまでいかにして気を逸らすかですね。

蒼は《ネメシエル》に話しかけて気合を入れる。


「《ネメシエル》盛大にやりますよ。

 思いっきり舵を切って敵と同航戦を敢行します。

 ぶちかましてやりますよ!」


(了解した。

 盛大に行くとしよう蒼副長)


 機関の出力を全開に上げ、《ネメシエル》のサイドスラスターが開く。

艦首を大きく振って、《ネメシエル》の砲が旋回する。


「全砲門、斉射!

 敵にダメージが与えれなくても構いません!

 ボコボコに殴り倒しますよ!」


(了解、全兵装オンライン。

 撃ち方はじめ)


《ネメシエル》の舷側にずらりと並んだ何から何まで砲が攻撃を始める。

雨のように激しい砲撃が叩き込まれる。


【面白い!

 参るぞ《鋼死蝶》!

 なんだかんだ好きなんだなぁ!】


『凡そ五分耐えれそうかしら。蒼?』


「任せてください。

 私は《陽天楼》、やってのけます!

 《アルズス》と《ニジェントパエル》以外の味方艦は援護してください。

 突っ込みます!」


『了解!』


 味方艦の援護射撃を受けながら艦を旋回させ、敵の《天端兵器級》と平行に

並ぶ。

《ネメシエル》の甲板上兵装が敵を追従して砲身を揺らす。

全面に張り巡らされた敵の“グクス荷電障壁”の許容範囲は分からない。

しかし、蓄える方式ならば必ず限界が来る。

それを少しでも早めるのが今の蒼の中での目標になっていた。


【生意気な……!

 全砲門、撃て!】


お互いがお互いを削りきれない不毛な戦いが続くが、優劣を決める手を打っていたのは蒼だった。

蒼が気を引き、その隙に別の艦が突破口を開く。

今までやってきた手法だったが、それをまた今回も蒼は使っている。

そして相手の気を逸らし続けることに蒼は成功している。


【所詮はそんなものか!!

 そんな力で何が守れるってんだ!?

 《鋼死蝶》答えてみろ!!】


「喧しいですよ。

 力が全てではないんですから」


《ニジェントパエル》と《アルズス》は攻撃を受けること無く《天端兵器級》の真後ろへと回り込むことに成功していた。


『“ナクナニア光波断撃砲”、発射準備。

 目標をカーソルに入れなさいな。

 艦首展開開始』


《ニジェントパエル》の艦首が左右に開く。

その奥から《ネメシエル》と同じ主砲が砲門だけ覗かせる。

左右に開いた艦首から歯のように安定板が立ち上がり、ライフリングが展開される。


『エネルギー装填開始。

 目標を指定。

 機関出力最大にまで加速させますわ。

 “弾道制御溝”起動。

 ターゲットシーカーオンですわ』


 真白が主砲発射体制に入ったのを確認すると蒼はなおさら強く、目立つ攻撃を行う。

“三百六十センチ六連装光波共震砲”から放たれるレーザーは相手に少しずつダメージを蓄積させていっているようだ。

並の戦艦クラスなら一発で轟沈させることができるような威力の“三百六十センチ六連装光波共震砲”を耐えることが出来る方がおかしいのだ。


「撃て!」


だから、蒼はそれを撃つ。

悟らせないように、次へと攻撃を繋げられるように。

かつてジガバ要塞に行った《アイティスニジエル》の立場を今蒼は演じているのだ。

主砲と副砲以外の全てのレーザーが敵へと降り注ぐ。

しかし敵は涼しい顔だ。

《ネメシエル》の攻撃をこれだけ受けているというのに全くもって効いている感じがしない。


『最終安定装置、解除。

 蒼、いつでもOKですわ!』


五分。

約束の五分が経過していた。

《ネメシエル》が気を逸らしているうちに相手の背後では《ニジェントパエル》がその口にエネルギーをくわえ込んでいた。

艦首のアンカーまで降ろし、完全に主砲の発射体制に入っていた《ニジェントパエル》の射軸からあとは《ネメシエル》が逃げるだけ。


「了解です。

 タイミングを合わせます。

 《ネメシエル》、最大船速。

 敵艦の気を逸らし続けながら射軸から撤退しますよ」


【逃げるか!

 逃がすわけないだろ!】


「何言ってるんですか。

 これはほんの戦略的待避ですよ」


射軸から《ネメシエル》の巨体が逃げ、その行き先を塞ごうとするように《天端兵器級》が動く。

しかし、サイズの差によりとっさの動きは遅い。


「真白姉様!」


『発射!』


生じた差を蒼と真白が逃すわけもない。

これを機会、と言わんばかりに発射の号令を出した……のだ。


『っえ……なぜ……ですの?』


「真白姉様?」


【気が付いてないって思ったのか?

 哀れなものだな。

 哀れだよ、哀れ】


『蒼先輩!

 真白先輩がやばいっす!』


 発射体勢に入った《ニジェントパエル》の砲門に緑の光が一瞬突き刺さったように見えた。

内部機関を損傷したことにより生じる爆発が《ニジェントパエル》の“ナクナニア光波断撃砲”を包み込む。


『っ、そんな……!

 あ、ああ……痛い……ですわね……』


 《ニジェントパエル》の爆発は“ナクナニア光波断撃砲”だけでなくその周囲にも広がった。

ライフリングが砕け、鮫の牙のような安定板がぼろりと溢れる。

ダメージコントロールを反射で入れた真白によりダメージは最小限で済むだろうが戦線離脱してもおかしくないダメージを艦に負った。

舷側のバイナルパターンの発光が乱れ、それがダメージの大きさを語っている。


「真白姉様!」


慌てて話しかける蒼。


『あ、蒼……。

 これは……不味いですわ……。

 も、申し訳ない……ことをしたわね…………』


 内部から込み上げるような痛みに喘ぎつつ、真白は力を振り絞って《ニジェントパエル》へと自己修復を申し付けた。

主砲発射のために左右に開いた艦首を閉じ、そこから昇る黒煙を断ち切って《ニジェントパエル》は後退するために機関を逆に回す。


「大丈夫です。

 何とか離脱を。

 私が盾になります!」


全速で《ネメシエル》が《ニジェントパエル》の前に出る。

舷側を向けたまま全力で火力を投射し、《天端兵器級》の攻撃が《ニジェントパエル》へと届かないように“イージス”の範囲を広げる。

レーザーを弾きつつ、下がる《ニジェントパエル》の状況は見るも無惨な様子だった。

艦首はダメージコントロールが入っているはずなのに燃え盛り、昇っていく黒煙の量はとても助からなさそうなほど多い。


「大丈夫ですか?」


『何とか……。

 最重要区画の修復最優先ですわねこれは……。

 エンジンと……兵装システムは何とか無傷で助かりましたわ……。

 でも……してやられてしまいましたわね……。

 私めの処女が……』


嘆く真白に蒼は撤退するように言い渡す。


「分かりました。

 このまま最大速度で離脱を。

 あとは私がやります。

 何隻かの従属艦を後ろに護衛につけます」


『蒼……ごめんなさいね……。

 完全に……してやられましたわね……』


「いいですから!

 とにかく離脱を急いでください。

 ちゃんと火を消すんですよ!」


『本当に……ごめんなさいね……』


あそこまで弱った真白を蒼は初めて見た。

それも当然ですか。

自艦の五分の一を一瞬で吹き飛ばされれば弱気にもなりますよね。

マッハ一を越える速度で《ニジェントパエル》ともう一隻の艦は《天端兵器級》から離れていく。

黒煙を吐き出しつつ遠くへと逃げていく《ニジェントパエル》に食らいつこうとするレーザーは《ネメシエル》が逃がさない。


【っち、邪魔を。

 《鋼死蝶》め!!

 まぁ、まぁいい。

 これで残るはお前達だけだ!

 ゆっくり残りの時間を楽しもうじゃねぇの!】


残った艦はあと《ネメシエル》と《アルズス》。

たったの二隻で敵に挑むのは現状愚の骨頂と言えた。


「困ったことになりましたね……。

 どうしようもないですよこれ……」


『どうするっす?』


 残るのはほとんど無傷の《天端兵器級》が一隻。

こちらは《超極兵器級》と通常艦のみ。

普通なら撤退するために全力転舵するところだろう。

しかし諦めて逃げるのは蒼のプライドが許さなかった。


「どう、と言われましても……」


《ネメシエル》の“三百六十センチ六連装光波共震砲”と“三十センチ三連装光波共震高角速射砲”が次々と弾を叩き込む。

この不毛な戦いに終わりを告げるには変わった行動をとるしかない。


「……春秋黙って聞いてください。

 私は今から艦をぶつけ、“イージス”で敵のを中和します。

 中和出来ないにしろ、穴ぐらいは少しの間開けることが出来るはずです」


『え……何言ってるんすか!?

 ここは一度引いて味方の増援を待つべきっすよ!』


蒼は遠くの《ニジェントパエル》を指差して首を振る。


「何度やっても同じですよ。

 味方の増援を待つ間に敵はもっと守りを固めます。

 だから今ここで決着をつけなければならないんです」


『………………。

 了解っす。

 でも、無理をしないでくださいっすよ。

 蒼先輩が沈んだら元も子もないんすから』


「それは分かっていますよ。

 春秋、こっから先の作戦を送ります。

 すぐに読み込んだあと破棄を」


『了解しました……。

 えっ、蒼先輩これを――?』


「はい。

 実行に移しますよ春秋。

 さっさと用意に入ってください」


『り、了解っす!』


春秋に作戦を諭していた《ネメシエル》に《天端兵器級》からヤジが飛ぶ。


【《鋼死蝶》そろそろ降参したらどうだ?

 このままだと押し負けるのはお前だ!

 大人しく降参して俺の嫁になれ。

 そうすりゃ悪いようにはしないぜぇ?

 何なら今から迎えにいってやろうか?】


蒼はメッセージを聞き終わるとまるで獲物を見据えた狼のように笑った。

見るものをゾッとさせるような笑いを浮かべ、蒼は再び機関を全速に入れる。

《ニジェントパエル》を逃がすために盾となっていた《ネメシエル》は再び艦首を敵へと向けた。


「はっ、そんなことしなくてもこっちから向かってあげます……よ!

 せいぜい楽しみにしておいてください!」


《ジェフティ》のように私も艦首にラムが欲しかったですね。

そうすればきっともっとこいつをひいひい言わせることが出来たのに。

目の前にいる《天端兵器級》を睨み、蒼は“イージス”を艦首に集中させる。


「結局、こうなるんですね。

 まぁ、これしか手がないんですから仕方ないですよね。

 春秋、今ですよ」


『了解っす。

 しっかり俺を守ってくださいっすよぉ!』


《ネメシエル》の艦底に《アルズス》がぺったり張り付く。

重巡洋艦サイズの《アルズス》は《ネメシエル》の装甲に隠れるのには充分に小さい。


(敵艦との距離凡そ四千メートル。

 機関出力最大に上げていくぞ!)


「自分より格上を相手にするにはこれしかないですよね。

 肉を切って骨を断つというかなんというか」


『でも、蒼先輩そういうの好きっすよね?』


「当たり前じゃないですか」


【突っ込んでくるか面白い!

 来い!

 この質量差で押し勝てるものか!!】


 《天端兵器級》もゆっくりと動き出して艦首を《ネメシエル》へと向ける。

全長二十キロを超える艦は既にその余りある砲門を《ネメシエル》を睨みつけている。


【撃ち沈めてやる!】


「少しでも削ります!

 撃ちまくってください!」


緑色をした《天端兵器級》からのレーザーが《ネメシエル》を包み込む。

生じる爆発が蒼の視界を遮り、《ネメシエル》を揺らす。

固定していないものが飛び、床を転げ回る。


「ほんと、効いているんですかねこれ!」


『すごい揺れっすね……テンション上がるっす!』


(敵艦との距離凡そ三千!

 最大速力到達、マッハ二で敵艦に突っ込むぞ!)


「行きますよ!」


降り注ぐレーザーとミサイルの雨を突き抜けながら進む《ネメシエル》はまさに一本の矢のようにも見えた。

舷側のバイナルパターンの脈が早くなり、“ナクナニア光反動繋属炉”が唸る。


「まだまだ!

 副砲撃ち方始め!です!」


“三百六十センチ六連装光波共震砲”だけでなく、副砲にもエネルギーが通達される。

二種類の副砲が起動し、狙いを定める間もなく敵艦へと叩き込まれる。


『ど、どうっすか!?』


「効いてないですね!」


(敵艦との距離凡そ千五百!

 そろそろ準備しろよ春秋!)


『ういっす!』


【っち、面倒くさい!!

 そんなへなちょこ砲でダメージを受けるわけないだろうが!】


事実、《ネメシエル》の副砲すら相手には歯がたっていなかった。

無効化されるだけでなく、むしろエネルギーまで吸い取られているような感覚すら覚える。


「やかましいですよ!

 こうなりゃやけくそです!

 私の艦首を受け止めやがれです!」


(相手との距離、五百……三百……百……!

 いくぞおおお!!!!)


《ネメシエル》の艦首“イージス”と《天端兵器級》のバリアがぶつかり合った。

白い壁のような幕が出来上がり、そこから雲のような靄が吹き上がる。

熱でゆらりとした陽炎が上り、靄の中では雷が起こっていた。


【はっ、負けるかよ!

 こちらの方が出力は上だ!!

 弾き返してくれる!】


「っく、《ネメシエル》どうですか!?」


(全然破れないぞ!

 どうなっている!)


沸き上がる雷に比例して艦首の温度が上がっていく。

それにともない“イージス”の過負荷率もぐんぐん上昇していく。


「ッ……!

 こうなったら“強制消滅光装甲”も起動!

 機関リミッター解除!

 コードトリプルナイン起動!」


(ここが正念場だならな!

 コードトリプルナイン認証!

 ぶちかましてやるぞ!)


 《ネメシエル》の機関が一瞬止まる。

舷側のバイナルパターンも真っ黒に消える。

続いて艦内灯が赤色に変わると蒼の視界にノイズが走り始めた。


【こいつぁ……面白い……おもしれぇな!

 こんなにワクワクする戦闘は初めてだ!

 必ず俺の手で仕留めてやる!】


《ネメシエル》の機関のリミッターが外れた音がした。

機関部の装甲が開き、真っ赤に過熱されたカムシャフトが覗く。


(“イージス”過負荷率更に上昇!

 あと三分したら切れるぞ!)


「大丈夫です!

 絶対にここで奴を仕留めるんです!

 あと三分もあります!」


(この三分が勝負どころだな。


(コードトリプルナイン認証。

 機関最終安全装置解除)


【させるか!

 こちらも押すんだ!

 全速前進!】


進む敵に《ネメシエル》の巨体が押される。

力も出力も桁以外に大きいものを敵は積んでいる。


「コードトリプルナインで……。

 押し勝つしかないですね……!」


迫り来る痛みの後の気絶。

全ては春秋に任せて蒼は《ネメシエル》の認証を聞く。


(ユニット虚数暴走を承認完了。

 主機へエネルギー伝達。

 リングギア、鼓動開始、補助機関から動力を伝達。

 “ナクナニア光波集結繋属炉”回転開始。

 鼓動脈数三万八千にまで急上昇。

 第四十三繋属グリッド収縮開始!

 第八鬼門まで突破、ナクナニア光波充填率百二パーセント!

 コードトリプルナインを認証完了。

 統括AIによるカムシャフトの虚数暴走を開始!

 ドライブブレード、推進固定軸に接触完了!

 主機一番から十番まで緊急フルバーストまで三、二……今!)


ギリギリと、金属の悲鳴を上げつつ補助機関が熱を帯び始める。

補助機関のフライホイールの回転数が上昇する。

《ネメシエル》の後部から伸びる紫の光が圧倒的に増えた。

舷側のバイナルパターンもランダムに鼓動するようになる。

まるで大気圏全ての空気をそこに掻き集めたような威圧感と共に《ネメシエル》へと雪を降らしていた雲が吸い込まれていく。

エアインテイクから入った空気は開いた装甲から排出される。

それはまるで《ネメシエル》が天気を操っているようにも見えるのだった。

しかし、派手な見せかけとは違い事態は変わっていなかった。

《ネメシエル》の艦首は敵のバリアの内部に入り込めない上に、“イージス”の過負荷率だけが上がっていく。

そして敵艦も《ネメシエル》へと進んできており、トリプルナインを使用してもなお押し負けている状況だ。


(“イージス”あと一分!)


『蒼先輩!』


 絶えず叩き込まれる敵の攻撃と艦首に集中的に張り巡らせた“イージス”の限界はもうすぐそこにまで迫っていた。

敵のバリアの一部に更に高圧力をかけ、ショートさせなければならない。


「くっそぉ……固いですねぇ……!

 こうなったら……余りやりたくないですが……やっちまいますか!

 《ネメシエル》、“ナクナニア光波断撃砲”起動!

 ゼロ距離からぶちこんでやります!」


ゼロ距離からの敵のバリアへの主砲の射撃。

いつもならば装填にまで時間がかかっていた。

しかし、今は違う。


(コードトリプルナインの影響で装填時間は必要ない!

 ぶちかましてやろう、蒼副長!)


コードトリプルナインで産み出され続ける無限のエネルギーが主砲の装填時間をほとんど無にした。


(艦首展開開始!

 迅速にいくぞ!)


《ネメシエル》の艦首が上下に開く。

開いていく途中でライフリングが四枚開き、さらに内部に歯のように様々な部品がビルのように並ぶ。

甲板においてある“ナクナニア光波断撃砲”が起動し、艦首まで伸びる溝に赤い光が灯ると片舷に五つ、合計で十ある廃熱口が開き展開する。。

開いた艦首の奥からもう二つ“ナクナニア光波断撃砲”が展開され、外側を向いた状態で停止する。

さらに“エネルギー安定板”が開き、耳のように開いた。

変型のスピードも通常時よりも早い。


(“イージス”残り三十秒!)


【まさか……!

 とうとうそれを出すか!】


 ライフリングが展開され、三基の主砲から放たれるエネルギーを集めることが出来るように回転を始める。

その回転とほぼ同時に《ネメシエル》の“イージス”の過負荷率が五パーセントを切った。


【今だ!

 叩き落とせ!】


急に弱くなった“イージス”を見て勝ちを確信した《天端兵器級》から攻撃が苛烈になる。

《天端兵器級》から放たれた緑色のレーザーが《ネメシエル》の船体に爆発の花を咲かせていく。

装甲が吹き飛び、たちまちあちらこちらから炎を飛び散らせる《ネメシエル》。

しかし、エネルギーを蓄えた主砲だけは無傷だ。


【くそ固いな!!】


(変型完了!

 “イージス”残り五秒!)


「そりゃ私は《超極兵器級》ですから固くてなんぼですよ!

 主砲、撃て!」


主砲の光はすぐに一本の筋となり、艦首から射出された。

はじめは反射させられていたがすかさずのしかかった《ネメシエル》の質量エネルギーまで添付され、耐えきれなくなった《天端兵器級》のバリアにぽっかりと穴が開いた。

それと同時に“ナクナニア光波断撃砲”に直撃弾。

攻撃を受けた“ナクナニア光波断撃砲”はライフリングを散らしながら沈黙する。


(蒼副長、このタイミングなら!)


「春秋!

 今ですよ!

 “三百六十センチ”撃て!」


開いた穴目掛けて《ネメシエル》の“三百六十センチ六連装光波共震砲”が放たれる。

“光波共震砲”からの光は《天端兵器級》の装甲を溶かすと、ぽっかりと大きな穴をひとつその船体に刻み込んだ。

引き続き発射して穴を広げようとした“三百六十センチ六連装光波共震砲”が攻撃の直撃を受けて沈黙する。


「っく……春秋!」


『もう出撃してるっすよ!!』


《ネメシエル》の艦底から《アルズス》が分離した。

修復されて絞まっていくバリアの穴を全長二百メートル弱の船が掻い潜る。


「春秋、あとはお願いしますよ……」


《アルズス》は、敵の装甲を打ち破って巨体の中へと消えた。


【っ、くそ!くそ!

 やりやがったな!!!】


「ざまぁみろですよ……」


主砲に副砲、更にはコードトリプルナインまで使用した為か蒼の視界が次第にぼやけていく。

《ネメシエル》がコントロールをとって代わり、ボロボロの船体を引きずるようにして機関後進をかけた。




      ※




「蒼先輩の力でここまで……。

 《アルズス》!

 全力で砲撃を敢行するっすよ!」


 《天端兵器級》な内部に侵入した《アルズス》を遮るものは何もない。

自衛装置と言っても壁が展開されるぐらいだ。

右舷と左舷に砲を向け、攻撃しながら前へと突き進む。

壁を艦首で破り、数多くの部屋をぶっ壊す。

ミサイル装填装置の基盤を見つけては破壊し、砲の弾薬庫を見つけては吹き飛ばす。

いくら《天端兵器級》と言えど内部から攻撃されてはどうしようもない。

炎が船の中を巡り、装甲の隙間から火山のように吹き上がった。

天井から角材が落ちてくるが重巡洋艦の質量に弾き飛ばされる。

やがて《アルズス》は《天端兵器級》の体内を食い破りながらだだっ広い空間に出た。


「なんすか、ここ……」


あちらこちらにある窪みはドックの役割を本来するものだろう。

不明瞭な視界を確保するために策敵モードに切り替える。


【おいおい、春秋。

 何をしているんだ?】


前へと進もうとする春秋を食い止めるには十分な声が春秋の背後から聞こえた。


「お、お兄ちゃん……っすか?」


振り向いた春秋の目の前に微笑んで立っているのは夏冬そのものだった。

心なしか少し痩せた気がする。


「久しぶりだな、春秋。

 元気に蒼さんとやっていけているみたいじゃないか」


「――何用すか?

 この艦を落とすのをやめろって言いたいんすか?」


「いや?

 やればいいんじゃないか?」


自分の目論見が外れて春秋は少しむっすりとした表情をする。

夏冬はそれに何の反応を示すこともなく春秋の横に来た。


「なぁ、春秋?

 世界を平和にするにはどうすればいいと思う?」


「何言ってるっすか?

 そんなの俺達が考えることじゃないっすよ。

 机の上で駒を弾くおっさんたちが考えることっすよ」


夏冬はため息をつくと、春秋から離れる。


「そうか。

 まぁ、構わんよ、そう思うなら。

 だが……いや、こんなことお前に言ったところで分からないか。

 全く……春秋。

 無知は罪なんだぞ?」


「うるさいっすよ!」


「すぐに感情的になる。

 ああ、そうだ。

 蒼さんはどうだ?」


「どうだって……。

 見て分かるとおり。

 さっきも無茶なことをしてたっすよ」


夏冬は少し面白そうに笑う。


「やっぱり。

 蒼さんはああいう人なんだもんな」


「………………」


こっそり春秋は腰につけた銃を握り締める。

もし何かしてくるそぶりでもあればいつでも撃てるように。


「話がそれたな、元に戻そう。

 世界が平和になる。

 考えたこともなかっただろう?

 世界を平和にするには全てを同じにするしかない。

 既存のものを破壊し、次へと託すしかない」


「………………」


「次の世代は前の世代のことを分かっている。

 だからそういった争いを起こさない様にプログラムされている。

 遺伝子レベルでな。

 なら世界平和を次の世代に託すって言うのはどうだ?

 素晴らしい世界の幕開けになるんじゃないか?」


「それを俺に話して何になるっていうんすか?

 俺がメンバーに加わると?」


春秋は自分の後ろを歩き回る夏冬にいい加減苛立ってきた。


「いや?

 そうは思っていない。

 ただ――」


「うるさいっすよ!」


まだ話を続けようとする夏冬にいい加減我慢が出来なくなった春秋が銃を向ける。

しかしその先にもう夏冬はいなかった。


「なんなんすか……あのバカ兄貴は……!

 “ナクナニア光波断撃砲”、用意!

 さっさともうこんな仕事終わらせるっすよ!」


《アルズス》の舷側が開き、中から太い砲身が現れた。

その砲身と砲身が艦底にスライドするとそこで合体する。

さらにライフリングが艦底から現れると回転を始める。

“安定板”がライフリングの前に五メートル間隔で艦首へと伸びる。

さらに砲身が伸び、エネルギーを機関が提供すると《超極兵器級》ほどではないが太いレーザーが発射された。

レーザーは《天端兵器級》の機関を射抜き、破壊し尽くす。


「バカ兄貴――。

 一体何を言いに来たんすか……!」


次に放たれたレーザーは今度は“核”のいる艦橋をぶち抜いた。

コントロールを無くし、堕ち始める《天端兵器級》に巻き込まれないように春秋は今度は天井を撃ち抜いた。

大空の青が見える天井目掛け艦を縦にして“ナクナニア光波断撃砲”をしまう。

内部から燃え盛り、堕ちる《天端兵器級》の頂点から《アルズス》は脱出。

《ネメシエル》を護衛しつつセウジョウへの帰路についた。




     ※




三日後、シグナエ連邦は連合の無条件降伏を受け入れる。

またひとつ戦争が終わった。






              This story continues

ありがとうございました。

次から最終章が始まります。

最終章はそんなに長くならない予定ですが……。

でも書きたいもの書くので長くなるかも。

許して。


ではでは、ありがとうございました!

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