1話 敵
初投稿です。
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※この話は、とある事情により俺と周囲の友人たちの生活記録をダラダラと書き記したものです。
現実世界と多少異なる点がある事を先に報告しておきます。
筆者:勇斗より
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とある高校の空き教室――――――――
終業のチャイムはとうの昔に鳴り終え、校内に残るのは部活動に励む生徒か教師くらいしかいなくなった時間帯。
教卓の前に立つ制服姿の男子、桜真は、モヤシのように細い腕を大きく動かしながら、黒板に白いチョークをツカツカと走らせると、ある文字を書いてからハッキリと言い放った。
「今日は僕の敵について話し合いをしたいと思う!」
桜真は、ミミズが這ったような汚い字で『敵』とだけ無駄にデカデカと書かれた黒板をバンっと叩く。
その発言を聞いていた俺(勇斗)を除く、雛、葵の二人はあまりの発言にポカーンと口を開けたまま固まっている。おそらく、「何をバカな事を言い出したんだ、こいつは」というような事を考えているのだろう。俺がそう考えているのだから間違いない。
少し待ってみたものの、二人は何も言わない。復活する兆しもない。このままでは話が進まないと感じた俺は仕方なくつっこむ事にした。
「はぁ? 桜真、お前何言ってんだ」
「何言ってんだ? じゃない! 今言っただろ。敵だよ、敵。僕には敵が必要なんだ」
「へー」
「やめろ。そんなバカを見るような眼で僕を見るな」
無理な注文はやめてほしい。今の桜真の発言を聞いた人間の9割は同じ事を考えるはずだ。一部の人間は桜真を助長するかもしれないが。あえて誰とは言わない。ていうか、言いたくない。
「そういえばお前、そんな事より今日は早く帰らなくて良いのか? 家事当番の日なんだろ?」
「いいの。今日はこの話の方が重要なんだから」
「まぁいいけど、叶さんに怒られても知らないぞ」
ちっ。これで話が終わればいいと思ったんだけどな。そんな甘くはないか。
ちなみに叶さんというのは桜真の一つ上で高校3年の姉だ。桜真が家事当番の日は基本的にここに居るのだが、今日は友人との用事で出かけているらしく来てない。
だから桜真はここに来れているのだが、サボっている事がばれたら叶さんに殺されるんじゃないだろうか。まぁ、本人が良いなら別にいいか。
そんな事を考えていると、沈黙状態から抜け出したらしい仲間の明るい声が響く。
「はいはーい。そんな事よりさ、雛が今日見た夢の話をしようよ!」
声のした方を向くと、見た目、小学生にしか見えない少女がつぶらな瞳をキラキラと輝かせ必死にプルプルと手を挙げていた。これで俺と同じ学年なのだというから人生不思議だ。学校にいるだけあって、学校指定の制服を着ているのだが、これがまたぶかぶかで袖から手も出ていないせいで、身体の小ささを際立てている。ボリュームのある茶ががった髪を頭の後ろで止め、リスの尻尾のような状態にしているので小動物を想像させ、保護心をそそらせる可愛らしさだ。
「いや、それはどうだろう」
思わず頭を なでてしまいそうになるのを必死に我慢しながらそれだけ答える。一時のテンションに身を任せたとしてもその話題で盛り上がるのは少しばかり難易度が高い。 数分後にはリアクションに困って果てた俺の死体が転がっていることだろう。というか、復活したばかりでテンション高くないか、この子。
「じゃあ私と勇斗で将来の家族計画についてしっぽりと話し合うといい。そしてその後、二人でしっぽりとその計画を進行・・・」
葵は怪しげにそう言うと、黒く澄んだ瞳で俺を真っすぐに見つめてきた。こいつも同じ学年。感情に乏しい奴で常に無表情だ。おかげで何を考えているのかわからない事が多い。今も何を考えているのか解らないが、何かハァハァと呼吸が荒いのが気にかかる。それを見て、俺はハァと溜息を漏らす。
すらっとした体形、知的な顔立ち、指通しの良さそうなさらさらとした黒髪ショートヘアと俺の好みのツボを的確についているというのにこの発言と性格はない。・・・本当にない・・・。身の危険を感じるし、丁重にシカトさせてもらう事にしよう。
二人は当てにならないようなので俺も適当に思いついた事を言ってみる。
「よし。じゃあ俺の徹底節約講座でも開くか」
「ちっがーう! 違うだろ。まず僕の話だろ!」
どうやら俺は、言葉の選択を間違えたらしい。桜真がキレた・・・。
痺れを切らした様子の桜真は、肩をワナワナと震わせていた。どうやらこれ以上ボケても無駄なようだ。俺も真面目に言い返す。
「今日はマジでそんな下らない話をするつもりなのか?」
見回すと、同じ気持ちでいた雛と葵の二人は、うんうんと頷いている。せっかくバカな事を言って話をそらそうと思っていたのに、これだから桜真は・・・。
雛なんて慣れもしない事をしたせいでかなり苦しまぎれな事を言っていたじゃないか。あの子、子供らしい外見に似合わず本当は凄くまじめな子なのに。残念な事に葵については冗談のつもりではないらしいが・・・。
俺達の思惑を微塵も気づかないまま、桜真は声を張り上げて言う。
「下らないとはなんだ! 男が大きく成長するには強大な敵が必要なんだよ! 漫画しかり、ゲームしかり」
桜真の発言を聞いて俺はがっくりと肩を落とす。はぁ・・・そういう事か。その発想の出所に想像がついて、悲しくて泣けてくる・・・。元々低かったテンションが更に下がったよ。桜真の考えは解っていたが、念の為、外れていてほしいという願望の元に尋ねる。
「つまりなんだ、お前が感銘を受けた漫画だかゲームの主人公のように格好良くなりたいという訳か」
「そういう訳だ!」
「撤収~」
俺は鞄を引っ掴み、教室から出ようと出入り口に向かう。俺に続いて雛と葵も鞄を持ち、躊躇なく帰る準備をする。
「ちょ、まてまて」
桜真が慌てた様子で俺の行く手に立ちはだかった。本気で帰らせてほしい。
「お前、もしかして本当にその話をするつもりか?」
「いいじゃんいいじゃん、こういう話をしてもさ。たまに童心に戻った方がいいんだって。そういう風にしないとバランス取れなくて将来絶対苦労する。僕の経験上それは確実だから今は僕の話を聞こう」
「いつまで経っても子供のままのお前が何を言う。それと桜真と俺は同い歳だと思ってたんだけど、違うのか?」
「いや、同い歳ですけど、僕の方が誕生日先ですよ。1ヶ月。だから僕の方が大人です。だから、言葉の信憑性は相当なもんですよ」
何故いきなりなんちゃって敬語? てか、たったの一カ月でそこまでの差が出来るなら、この世に子供なんていないだろ。
もうこれ以上は何を言っても、うだうだと話が続いてウザそうなので反発するのは諦めてさっさと話を終わらせる方向で行く事にする。何より鬱陶しい。
俺は雛と葵にアイコンタクトをし、二人が覚悟を決めた顔をしたのを確認すると、近くの席に適当に腰を下ろす。続いて雛と葵が俺の両隣の席に腰を下ろすのを確認してから一呼吸おいて桜真に尋ねる。
「で? まず、どうしてそんなアホな事を言い出したのか、話を聞こうか」
「ア、アホ・・・。いや、よく聞いてくれた! 始まりは昨日、押し入れにしまってあった漫画を久しぶりに読み直した事なんだけどさ―――」
出だしが想像通りで更にテンションを下がるのを感じたが、ここで気力をごっそり持っていかれるわけにはいかない。すんでのところで雛を見て、かろうじて気力の減少を抑えつつ話を聞いてみると、その漫画というのはこういう内容らしい。
世界で唯一、主人公だけが使えるアイテム。それを使う事の出来る主人公は世界に蔓延る悪の勢力を潰す為の旅に出る。旅の途中に出会った仲間たちと共に次々 と現れる強敵を倒していき、最後には世界が平和になる。魔法があったり熱い展開があったりとまさしく少年漫画の王道といった内容だった。
一しきり熱く話し終えたところで桜真が生き生きとした顔で俺達に語り掛ける。
「な! 燃える展開だろ! やっぱり男はこうでなきゃいけないと思えて来るだろ?」
「同意を求められても知らねーよ」
「私もよく分からないかな」
「わかろうとする気も起きない」
雛も葵も俺と同様に冷たく言い捨てる。女の子には桜真の気持ちは普通以上にわからないのかもしれない。俺は分かると言えば分かるが、桜真ほど思い入れが湧かない。
桜真は、俺達の反応を不思議そうに見ると呟く。
「あれ~。僕の友達なら何も言わずに賛同してもらえると思ったのに」
「それは無理な話だな」
「私はノーコメントと言う事で・・・」
「桜真なんて死ねばいいのに」
皆それぞれの否定を口にする。葵のは、なんかもう酷いとかそういうレベルじゃなかった。当然その言葉に桜真はつっかかる。
「何でそんな事言われてんの!? 僕ってそこまで嫌われてる!?」
葵は桜真のテンションに表情も変えずに冷静な声色で言う。
「大丈夫。私は勇斗以外の男はみんな死ねばいいと思ってるから。その中でも桜真は筆頭」
「どこが大丈夫!? 大丈夫な理由が一つも見つからないよ! 僕、葵とそこそこな月日付きあってきたけど、未だにそういう評価なの!?」
「ちょっと、私の名前呼ばないで。私という存在の価値が下がる」
「名前呼ばれただけでどこまでの嫌悪感を抱かれてんの、僕!」
「私が思うに桜真は、なんかすごい事に巻き込まれて死ねばいいと思う」
「よく分からないけど、めちゃめちゃ僕の事憎んでるよね!」
「ちっ」
「何で舌うち!? 話するのもめんどくさいの!?」
なんだか、桜真が一方的に葵に罵倒されていた。桜真はすでに涙目だ。
ここまで何も言わずに傍観しておいて今さら遅いかもしれないが、さすがに可哀想に思った俺はセコンド判断でタオルを投げ込むように間に入る。
「まあまあ、その辺にしようか。葵も桜真ももう十分楽しんだだろ?」
「えっ!? 今の会話の中に楽しみ要素が少しでもあったと思ってんの?」
至極驚いたような顔をする桜真に俺は言葉を続ける。
「それはお前の修行が足りないからだな。もっと精進しろ」
「はい・・・、って何で僕が怒られてんの? ていうか何で僕には慰めの言葉を掛けてくれる人がいないの?」
「そういう星の下に生まれてきたんだろうなぁ・・・悲しい事に。頑張れよ」
「僕、どうしようもなく不幸ですね!」
俺は桜真を信じている。今はこんなに駄目な人間でもいつかはきっと偉大な人間になれると。そう。工場長クラスには。
桜真が楽しくなかったらしいので改めて葵にも聞いてみる。
「葵は楽しかったよな」
「うん。さすが私の玩具だと思う」
「すでに友達の括りですらなかった――――!!」
桜真が絶叫していた。うるさい。
葵はその様子を見て、無表情のまま桜真に言葉という名の凶器をぶつける。
「桜真と書いて玩具」
「泣いていいですか!?」
「ごめん。冗談」
「だよね! 良かった、僕本当に・・・」
「本当は桜真と書いてゴミ」
「・・・しくしく」
ついに桜真が本当に泣き始めてしまった。葵は人を傷つけるのがうまいなぁ・・・。全然褒められた才能ではないですが。そして、葵。こっち見て嬉しそうにニヤニヤすんな。パッと見は無表情にしか見えないが、絶対あれ笑ってるな。
「そんなに落ち込まないで。桜真君はちゃんと人間だよ。玩具、ましてやゴミなんかであるわけが無いよ。ね?」
俺が葵に恐怖を感じていると、気遣った雛が桜真に優しく語りかけていた。きっと、延々と弄られ続ける桜真を見ていて不憫に思ったのだろう。本当に優しい子である。天使ってのがいるならきっとこの子のようなのを言うんだろうな。
「ひ、雛ちゃ~~ん!」
あれだけボロクソ言われた後だ。今の桜真には雛が天使どころか女神にも見えているのかもしれない。
すっかり傷心した桜真が雛を抱きしめる。雛も小さい体で桜真を精いっぱい抱きしめ返す。雛、お前ってやつは・・・。俺はその様子を見て暖かい気持ちに浸りながら一旦目を閉じ、心の中で桜真に語りかける。
(桜真、よかったな、救いの手を伸ばされて。でも、桜真。残念な事に真の地獄はその先にあるんだぞ)
俺はゆっくりと目を開く。そこには雛に力強く抱きしめ・・・いや、締めつけられ、背骨が逆方向に曲がっている桜真の変わり果てた姿が映っていた。俺は、南無とだけ呟き目を背ける。
「がががががが」
桜真から発せされる何かが壊れた音。慰める事に集中していて異常事態に気が付いていない様子の雛に俺は声をかける。
「雛~、そろそろ離そうな。桜真の身体が気持ち悪い事になってるから」
「え? キャー!」
背骨をありえない方向にまげた桜真の身体を見た雛が絶叫する。桜真については泡を吹いて失神中。ホント・・・・雛はなぁ・・・。
「それ相変わらずだな」
「うーん。気をつけてはいるんだけどなぁ」
申し訳なさそうにしている雛を見つつ俺は思う。どういうわけか雛は力が異常なほどに強い。小さな体のどこにこんな力があるのかと不思議でしょうがないが、 おそらく熊相手に素手で勝てるくらいの肉体能力を持っているのではないか。思い返せば俺もあったばかりの頃は痛い目にあった・・・。無意識に身体が震え る。
にしても桜真も不憫だ。せっかく救いの手を掴んだのにその手により更に苦しみを受けるなんて。とはいえ、雛には全く悪意はないのだが。
「また気絶してるし、次回もこんな事になれば同じ末路を辿りそうだな」
「そうだね・・・。またこんな事になる前に教えた方がよくないかな、桜真君に」
「それは駄目だ。教えない方が面白い。どうせ近々知る事になるしな」
「雛、勇斗君は本当に桜真君の友達なのか分からなくなる事があるよ・・・」
今までも十数回と同様の場面があった。桜真はその度に気絶し、その度に前後の記憶を失うおかげで未だ桜真の苦しみは継続中。忘れるって本当に幸せな事だよね(笑)
「にしても困ったな」
「どうしたの?」
「いや~、話の途中だったのに桜真が寝てしまったからな」
「別に寝ているわけじゃないんだけど・・・確かにそうだね。どうしよう・・・」
「面倒だからこのまま帰りたい」
困っていた俺達をしり目に葵がそれはそれは末恐ろしく信じられない一言を発していた。そして、それと同時に俺達は感じていた。
「素晴らしい提案だな! よし帰るか!」
俺達は一斉に席を立つ。よし、これで下らない話をせずに・・・。
「よし、蛇足しちゃったけど、そろそろ話を進めようか」
「「「なん・・・だと・・・」」」
いつの間にか気絶していたはずの桜真が目を覚まして、教卓の前に立っていた。こいつ、何度かの経験によりちょっとした超人と化しているのか・・・? 背骨がおかしな方向に曲がっていたはずなのにすっかりと治ってしまっている。俺達は畏怖の目で桜真を見つめた。
「ん? 何。僕の顔に何かついてる?」
「あぁ、多分なんか憑い・・・いや、何でもない」
「憑い? 何、怖いんだけど!?」
「気にすんな。だって桜真だぜ?」
「あぁ、そうだよね。僕だもんね! いやいやいや、それで納得しろってか!」
「とにかく気にするなよ」
「あぁ、うん・・・」
桜真はまだ不満そうにしているが、忘れるように首を振るとそのまま話を始めた。
「で、まず敵だけどさ。誰かいないかな。ちょうどいいの」
話し始めた桜真に今度こそ覚悟を決めつつ、俺達も仕方なく席に戻りながら葵が尋ねる。
「ちょうどいいのって?」
「今の僕でも倒せるレベルの敵」
「お前さっき、燃える展開がどうとか言ってなかったっけ?」
「そうなんだけどさ、レベル上げとか成長とかコツコツ何かをしていくのが面倒じゃん」
例に出していた漫画の内容を全否定か。こいつは何様なんだろう。おそらく森羅万象なめている。雛も葵も背中から何か黒いものが漏れ出してきていた。覚悟を決めた分、感じることも多いのだろう。
「私、もう帰っていい?」
「えぇ! なんで!?」
心底不思議そうな顔をして驚いている桜真にしょうがなく俺が言ってやる。
「お 前なぁ、そう言う漫画だゲームだって言ったら、強敵に戦う前に修行とか特訓するのが当たり前だろ? そうして敵を倒すから格好いいんだろ? そんな事もし ないで格好よくなりたいってふざけてるのか? いや、もう存在すらふざけてるからな、お前は。面倒だわ。全部面倒だわ」
「僕、そんな悪い事言ってる!? そんな悪いかなぁ!」
桜真は全然分かっていないらしい。ホント駄目だ、こいつ。少しは真面目に話をしようと思っていたが、もう適当に喋る事にする。
「もういいわ、お前の強敵、竜王で」
「サラっとガチで強敵を出された!?」
「何? 文句あるの?」
なるべく冷たく見えるように気持ちを込めて冷えた視線を桜真に送る。
「いや、たしかに強敵だけど。というか強敵の括りから大きく上回ってるから。死そのものになってるから」
「じゃあ、神でいいよ。チェンソーで攻撃して、『神はバラバラになった』とかなって、次はお前が新世界の神になればいいよ」
「色々と無理がある!」
「じゃあスライムな。お前にはそれがお似合いだ」
「急に雑魚! そして凄い蔑まれてる!」
「えぇ!? だってお前、村人にも劣る究極雑魚キャラだろ?」
「何その大袈裟な驚き! ていうか、そんな人に竜王や神と戦わせようとしてたの!?」
「桜真が十人でやっとスライムを一匹倒せるくらいの能力な」
「弱っ! 僕弱っ!」
「ちなみに桜真のレベルはすでに最大。もう救いようがない・・・」
「本当に救いようがないね!」
「もう無理だ。桜真が弱すぎて、俺にお前の敵は探せねぇ・・・」
「何で僕が悪いみたいになってるの? 僕が弱い設定にしたのは勇斗だよね?」
ふぅ。本当に桜真は最悪だな。
桜真は、俺が当てにならないのを悟ったのか、次に雛の方を向いて意見を求めた。
「雛ちゃんは? 僕の敵って誰だと思う?」
可愛らしく「うーん」と唸る雛を見て少し和む。可愛いなぁ、雛は。俺が父親なら絶対に嫁にやらないね。
そんな事を考えていると、ついに雛が口を開いた。
「国・・・とか?」
「対象が強大すぎる! 僕は革命家かなにか!?」
「じゃあ、世界とか」
「何でスケールアップしたの!? もはや一個人ではどうしようもないレベルだよ!」
「前に『いつか宇宙を我が物にしてやる、がっはっは』って言ってなかった? だからまず国とか世界だと思ったんだけど」
「言った覚えないよ! そんな中二病患者みたいな事言った事ないよ」
「あれ~。じゃあ、『くっ、右腕に封印された悪魔が疼く!』っていうのは?」
「知らないよ!」
「じゃあもうわからないよ・・・」
「雛ちゃんの中で僕がどんなキャラになっているのかの方がわからないよ・・・」
もしかしたら一番当てにしていたかもしれない雛から真っ当な答えが返ってこない事に落胆した様子の桜真は次に葵を見ると、もはや投げやり気味に呟いた。
「じゃあ、葵は・・・いいや」
葵は投げやり気味なのに聞くのを躊躇われていた。気持ちはわかる。葵は確実に当てにならない。真面目に話をしたいのなら俺だって葵に話を振らない。
しかし、そんな桜真の態度が気に食わなかった葵が低い声で言う。
「私にも聞かないと桜真を死ぬよりも酷い目にあわせる」
「ひぃっ!」
「ここで私が的確な答えを出せば、勇斗の好感度がうなぎのぼり」
「自分の為にですか!」
「私が桜真の為に何かするなんて有りえない」
「本当に僕の事なんてどうでもいいんですね!? もういいよ・・・じゃあ期待はしてないけどアイデア出してよ」
葵は少しだけ腕を組んで考えると言った。
「クリップ」
「ないわっ! 人間相手にクリップとかないわ!」
「クリップと対峙する桜真・・・。何か熱い展開を想像させる」
「僕にはシュールな光景しか想像できないけどねっ!」
「桜真がクリップを曲げようとしながら、『どうだ! 降参かっ! 降参しないとグネグネに曲げてしまうぞ!』という凄く白熱したバトルを展開する」
「僕は意味不明な妄想に憑りつかれた小学生か! それ、ただの痛い人だよね!」
「不満?」
「そりゃあねぇ!」
葵がまた腕を組んで考えるそぶりを見せる。
「じゃあ洗濯バサミ。桜真が洗濯バサミに頬を挟まれて、『すみません。もうしませんから許してください!』と泣いて謝る光景が想像できる。熱い展開」
「熱くないよ! すごく情けない男の姿しか想像できないよ! てか、それなんかの罰を与えられてるだけだよね!」
「不満?」
「言うまでもなくねぇ!」
「じゃあ、ボールペン」
「そろそろ雑貨から離れてくれないかなぁ!」
「じゃあ・・・思いつかない」
「ホント、僕どうしようもないねっ!」
桜真がそう言ったのを聞いて、俺、雛、葵はお互いの顔を見合わせた後、親が子供を見守るような優しい目で桜真に告げる。
「「「ほんと、どうしようもないね~」」」
「あれ? 何か目から汗が出てきたよ・・・」
それだけ呟くと、桜真が教室の隅に座り込み、少しするとシクシクという鳴き声が聞こえてきた。
ここまで畳み掛けるように弄ってきたが、さすがに可哀想に感じた俺達は最後にもう一度考えてみる事にした。何よりこんなアホな話に費やした時間がもったいない。せめて何か答えを出さなければ。
深く深く、今までにないくらい真剣に考える。桜真の強敵・・・。それは誰か。敵といえば、やはり強くなくてはいけない。それこそ死ぬほどの努力をして勝て るくらいの。だからと言って空想のものや関係ないものを言っても仕方ない。だとすれば身近なものから考える必要があるな。
学生として身近といえば・・・やはり学校? 学校と言えば、勉学とか友達とか部活だろ。
でも、勉学と部活は敵としてはおかしいし、桜真の友人も俺の知る限りではそういう関係の奴はいない。厳密にいえば葵がそうかもしれないが、まあ今回は外しておこう。
じゃあ他にもっと身近なものはないか? 学校よりも身近にあるもの。家、家族・・・。ん? 家族?
・・・・・。
はっ! 俺は重大な事を気付いてしまった。ふと、雛と葵を見ると同じ事に思い至ったらしく俺と同じような表情で桜真を見ている。まさか、こんなに近くにいたとはな・・・。
ガラガラっ!
派手な音と共に教室のドアが勢い良く開かれる。その先に立っていたのは、ワナワナと肩を振るわせる一人の女子生徒。
「家に誰もいないからもしかしてと思って来てみれば・・・桜真! こんなところで何してるのよ!」
「げっ! 姉さん!」
桜真の顔からサッと血の気が引いていく。そこにいたのは、不気味に微笑んだ表情をした桜真の姉、叶さんだった。何だ。この笑っているはずなのに放たれているプレッシャーは。
「あんた、今日家事当番よね? 何でこんな時間にここにいるのかなぁ」
「いやぁ・・・あははは。ちょっと有意義な話し合いをしたくて皆と話してたんだ」
桜真は声を震わせつつ、『な、な』と俺達の方を見て、同意を誘ってくるが、俺達は視線をそらす。そんな様子の桜真を叶さんが見て言葉を告げる。
「ちょっと私の目を見て話しなさいよ。見たら殺すわよ」
「見てほしいのか、見ないのでほしいのかわからないんだけど! てか、それは僕を殺したいって宣言してるの!?」
「もう、ウダウダ言ってないで帰るわよ! いつもより遅れた分、馬車馬のように働いてもらうんだからね!」
そう言うと、叶さんはつかつかと桜真に歩み寄り、問答無用というようにむんずと首根っこを掴む。
それから俺達の方に振り向くと、さっきまでのプレッシャーはどこにいったのか満面の笑みで「それじゃ、勇斗、雛、葵、またね」とだけ言うと、そのまま顔が青ざめた桜真を引きずりながら教室を出て廊下の先へ消えていった。廊下の先からは桜真の叫び声だけが木霊していた。
「「「すぐ傍にいたよ、強敵。ていうか、ラスボス」」」
桜真の無事を祈りつつ、無駄な時間を過ごした事を痛感した俺達なのだった。
初投稿作品『私生活レポート』を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
どうだったでしょうか? 楽しく読んでいただけたでしょうか?
テンポよく読んでいける事を重点において書いたのでその通りに読んでいただけていればと思います。
ちなみに、この話はシリーズとして考えております。そして、桜真が主人公みたいになっているかもしれませんが、主人公は勇斗です(笑)
(※作者的に4コマ小説の様なものと考えているので内容がどうなるかわかりません)
今はまだ文章力も無く、至らない点が多いとは思いますが、今後、自分の考えたキャラクターが生き生きと動く様子を伝える事が出来るように頑張ります。
細々と続きを書き上げていくので、次の話も読んでいただければ幸いです。
最後にもう一度、『私生活レポート』を読んでいただきありがとうございました。