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DOORS  作者: 権兵衛
1.プロローグ
6/30

       (6)

 朦朧もうろうとした意識の中、俊太はドアの蝶番ちょうつがいが軋む音を聞いた。穏やかな風が全身を舐めると共に、俊太は目を開ける。

 ベッドから体を起こそうとしたが、相当その体は重かった。

 肉体的疲労、そして精神的疲労が俊太の体をむしばんでいたのである。

 昨日、達也から衝撃の知らせを受けてその情報の真偽を問うメールを送信した俊太だったが、返信のメールは全く来ず、その後何度もメールや電話などで連絡をとったが、何時間待っても達也からの返事を受けることはなかった。おかげで、完全に睡眠不足に陥ってしまったのだ。

 もしこれがドッキリ大作戦なら仕掛け人全員をことごとく殴り飛ばしてやろうと俊太は決心した。

 だが、俊太は達也からの昨日のメールで気になるところがあった。『警察沙汰になりそうだ』という部分である。

 たしかに、人が失踪したなら誘拐事件なんてこともあり得るので、警察沙汰になるのは間違いない。警察沙汰にならなかった時点でドッキリ大作戦は一瞬にして瓦解がかいしてしまうことになるのだ。

 かといって、大学生によるくだらないドッキリ大作戦のために警察が動くとも思えない。いや、確実にあり得ないだろう。

 なによりも、恐らく勇人と達也が行方不明になってしまっているとして、二人も失踪した事件にマスコミが食いつかないわけがないのだ。

 仮に、マスコミまで巻き込むドッキリ大作戦だったなら、恐らく世界一壮大なドッキリ大作戦ということでギネスブックにも載るだろう。

 なるほど、もしかしてそれを狙っているんだな。

 俊太は心の中で呟いた。むしろ、呟きたくて仕方がなかったのである。

 リビングには母がポツリとソファーに座って朝のニュース番組を観ていた。

 そして、俊太の存在に気付いた母が少し辛辣な面持ちで訊いた。

「あなたの大学の学生が行方不明らしいわ。しかも、この二人ってあなたの友達じゃなかった?」

 俊太は慌ててテレビ画面の前に駆け寄り、瞬きもせず液晶画面を見つめた。その瞬間、思わず目と耳を塞ぎたくなった。

「うん、間違いないよ」

 俊太はひどく震えた声で答えた。暫くの間、釘を打つ大工のように心臓があばら骨を高速で叩いていた。




「じゃあ、彼らが誰かに恨まれたりとか、彼らの様子が最近変わったなんてこともなかったんだね?」

 低くて渋い声が場の空気を振動させた。

「はい、心当たりはありません」

 俊太は首を縦に振った。

 学校を早退して帰宅すると、見知らぬ二人の男がリビングの床に座っていたので俊太は目を細めて軽く会釈えしゃくした。

 一人は無精髭を生やし体格の良い体をしていて、見事なバリトンボイスの持ち主であった。もう一人は、眼鏡をかけた細身のいわゆる優等生タイプである。口調もバリトンボイスの人物とは真逆で穏和だった。

 その二人の見た目のギャップに驚きを隠せなかった俊太は、ホントにこの二人が同じ刑事という職業に就いているということを終始、受け入れることができなかった。

「いいかい、彼らはなんらかの事件に巻き込まれた可能性が高い。我々警察も全力を尽くして捜査に励むから、もし何か気付いたことがあればすぐに連絡してくれ。これが私の携帯の番号だ」

 バリトンボイスの刑事は電話番号が記されたメモ帳か何かの切れ端を俊太に手渡した。

「お母さんもよろしくお願いします」

 俊太の隣にいた母にも同じものを渡した。母は少し頭をペコりと下げ、震える手で受け取った。

 刑事たちはおもむろに腰を上げ、

「では、お邪魔しました」

 と言って、家をあとにした。

 そういえば、あの眼鏡をかけた細身の刑事は特になにかを喋ることもなく帰っていったなと俊太はふと気付いた。

 コンパクトサイズのノートパソコンを机にひらき、キーボードも殆ど触らずに、じっと俊太と母を見つめていただけのようで、わざわざ来る必要があったのだろうかと不審に思った。

 しかし、バリトンボイスの刑事は質問を矢継ぎ早に投げかけるだけでメモは一切とっていなかった。

 ということは、細身の刑事はおそらくメモとり役だったのだろう。とはいっても、特段これといってメモすべき重要な情報はなかったようで、彼にとっては無駄足を踏んでしまったことになる。

 俊太はほんの少し申し訳ない気持ちになった。

「大変なことになったわね」

 母は深刻な顔で小さな声を出した。俊太は俯きながら答える。

「うん、信じられない。いったい誰が何のためにこんなことを……」

「さあ、やっぱり身代金目的の誘拐じゃないかしら?」

「男の大学生二人が誘拐されるなんて、そんなことあるのかよ」

「たしかに、ちょっと変よね」

 渋面を浮かべて俊太は溜め息を吐いた。

「ちょっとどころじゃない。かなり変だよ。超常現象か何かが起きたとしか考えられないな」

 すると、母は物思いにふけるような顔つきをして、蜂の羽音のような声を腹の底から出した。

「うーん、超常現象ねえ。その類の話は全然分からないわ」

「だろうね。ていうか、超常現象だとして人が消える超常現象なんて聞いたことないよ。そもそも、超常現象なんてこの世にあるのか?」

「まあ、お母さんは信じないな。そんな非科学的なことは……」

 母はかぶりを振って、即答した。

「もちろん、俺だって信じてないよ。だから、やっぱり誘拐だよ。ヤクザとかあっち系の人にきっと集団で拉致されたんだ」

 俊太は裁判所で自分の無罪を主張するかのような口調で言った。

 そのとき、俊太に突然の激しい頭痛が襲った。俊太はこめかみの部分を両手で押さえ、その場にうずくまった。

 血相を変えて母は叫んだ。

「どうしたの、俊太! ねえ、しっかりして」

「あ、頭が割れそうだ。重いハンマーで殴られてるみたいな痛みが――」

 必死に声を絞り出して言葉を続けようとした俊太だったが、そのまま気を失ってしまった。

「俊太ぁ!」

 隣近所にまで軽々と届きそうな母の金切り声が家中に響きわたった。

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