第3話 住民になろう
アリアス、人間村デビュー!
「で、アタシの家なに。神殿?」
「人間社会にあるまじき魔王価値観だね」
「エーユーは祀られるもんだるぉ~?」
「祀られる時点でそこは住居じゃない。墓だよ」
ひとまず国王たんにお願いしたら居住権ゲットぉー。
なんか毎月、鼻クソを宅急便馬車で王城へ送ることになったけど。
てなわけで、この塩顔勇者に案内してもらってるとこ。
自然はあるけど、田舎過ぎない街だ。道は綺麗で家ばっか建って、商店は多いけどカジノはない。
中途半端に開発して放棄した住宅地って感じで好きだぜ。
「街の住民になる以上、他の民からも受け入れられる努力が必要だ」
「シャルウィー凱旋パレード?」
「だからパレードはなし!」
「パレードなんて二人だって出来るぜ? 堂々とクレーター作って歩きゃよ」
「住む家壊す気カナ? けど確かに、君には堂々としててもらわなきゃ」
「おい、勇者様がきたぞ! そしてアレが例の……」
おお? なんか宿屋前で人集まってんな。町民全員か?
ただ妙にビビってるくせーのは、なんで?
「皆さんこんにちは! お話は陛下から伺っているかと思いますが、改めて!」
勇者はポンポンッと背中を押して、アタシを前に立たせる。
けど町民は歓迎ムードじゃなさそうだわ。視線外さねえし、完全にビビってる獲物の目だ。
「こういう反応にはなっちゃうか……」
「任せろトーシロ」
「トーシロ?」
「お行儀良くして」って耳打ちまでしてきたし、仕方ねーから顔立ててやるか。
「ほら、皆さんの前でご挨拶」
「お控ぇなすってぇ!!」
「表社会の挨拶して。お上品なやつ」
「この土地にご降臨しました、アリアス・ヴェルキリーと申しますぅ~。ひれ伏せ人民」
「自認神やめてね」
はい、魔族ジョーク……したのに空気が固ぇ、だとッ!?
「おかしい、アタシ渾身のチャーミングなご挨拶が!?」
「そのネタがこれまでウケた回数は?」
「ゼロハンドレッド」
「ゼロじゃないか!!」
残念ながらアタシのギャグは時代を置いてきちまったみたいだ。
「なんか、思ったより穏やかそう?」
「勇者様も普通に接されてるし、大丈夫なのかな……」
「てか銀髪美少女、イイ……!」
「様子がおかしいだけで普通に美人では?」
「て、ていうのは戯れでして、面白くて人に友好的な娘なので、良かったら仲良くしてあげてください!」
「おうおう、そうだぞー」
「お前の事言ってんだよ!!」
勇者はツッコむ時だけは遠慮がなくなってきたな。面白。
そんなこんなで町長と勇者がやり取りしてる間に、アタシは宿屋のじっちゃんと握手。泊まる部屋決定ー。
『身内の熱い希望?』ってやつで窓際の良い部屋らしいわ。やったぜ。
あと宿屋の息子が「銀髪美少女たんハスハス」って後ろで鳴いてたな。
鼻息とよだれヤベぇな、人狼か? 見た目オークなのによ。
ほんで待ってたら勇者がすぐ戻ってきた。
「君の住まいはなんとかなりそうだけど、不明点はあるかい?」
「住民票ってどこで移せる?」
「なんで住民票取得できてんの!?」
「なかったら保障とか受け取れねぇだるぉ?」
「魔王軍の福利厚生どうなってるんだよ!」
「魔族は人数多かったから戸籍管理してんだよー」
戸籍登録ん係はいっつも徹夜してたっけな。
「ただスライムとゴブリンは扱い困ってたな〜。勝手に分裂したり合体したり、人間の女さらって子供作っちゃうから」
「サラッとエゲツない事実を暴露しないで生々しい!!」
「だからゴブリン族は強制去勢させてたんだよぅー。親父もリスクヘッジって言ってたよーな」
「ゴブリンそれ人権ある!? それペットの扱いに近いよねぇ!」
「まだドラゴンの方が分別つくんだもん。そっちは襲うの馬車だけだし」
ドラゴンの全体数が少ないのは、種植える畑が馬車だったからなんだと。
そりゃ育つもんも育たねーわ。
「まあ有効かはともかく、こっちの住民票に近いものがあるなら手続きも少しは楽に――」
「ちな本籍地はこん国の王城な」
「なんちゅうとこ本籍にしてんだよ魔王令嬢が!!」
「『いつか征服すんだし書いちゃって平気』だって親父が」
「魔王マインドとまんねぇなオイ!!」
「おいおい、待ちなよ勇者の兄ちゃん。そいつは筋が通らねぇだろ?」
話がまとまりそうだったとこに、街の裏からなんか治安悪い奴らが出てきた。二十人ぐらい、ゴツゴツした体の若い衆が。
「この街に入るなら、まずウチに挨拶してくれねぇとなァ?」
なにこの服のセンス終わってる珍装団。
剣とか棒切れとか武器持ってるし、髪の毛がコカトリスのトサカになってんぞ。
「何なんこのコカトリスもどき共」
「街のゴロツキ。ホントは摘発対象だけど、事を起こさなきゃ僕も動けないから揉め事は回避ね」
「心得たり」
まずは一番前のトサカが三本ある若いのに声かけた。
「……縺ッ繝シ縺??繧カ繝シ?鯉スァ?ッ繧ォ繝シ」
「すまん、何て?」
「気にすんな。魔族のこんにちはって意味だ」
実際は親父に教わった『はーい、マザー××××ー』って意味なんだけど教えるのやめとこ。
「賢いようだから忠告してやるぜ嬢ちゃん。この街じゃ魔族だろうがなんだろーが、デカい顔させるわけにはいかないんだよ」
「安心しろ。お前の顔が一番デカい。丸顔」
「造形の話じゃねぇよ!?」
「あ、トサカのデカさ?」
「トサカってなんのことだゴラ!? 舐めてんじゃ――」
三本トサカはアタシの胸倉掴んで持ち上げ――ようとした。
けど現実はビクともしなかった。
「なんっ、だ、この重さ……!?」
「と、頭領?」
「ど、どうなってやがる! この体にどんな体重が」
当たり前だろ。こっちは鉄のゴーレム潰せる質量してんだぞ。
人間に持ち上げられるわけないだろ。
「でも、レディに体重の話すんのは古今東西禁句だろーよー?」
――三連トサカの腹に拳入れてやった。
軽めのテレフォンパンチ、に加減したんだけど……
「……やりましたね、お嬢さん」
「……やらかしましたわ、おにーさん」
街の外れまでブッ飛ばしちった。
若い衆も巻き添えにして全員、一塊に押し出してもう見えなくなっちまったわ。
原型は保ってたはずだけど、音の壁超える速度出てたし、ダメかも……
「勇者、これアタシ追放?」
「……お疲れ様でした」
完全にやらかした……と思いきや、
「まさか彼女、あの姫じゃないか……!?」
「嘘だろ、てっきり伝説とばかりに」
「でも魔王軍滅ぼしたんなら、本当かも!」
なんか民衆が騒ぎ始めた。さっきと違って皆の目輝いてんだけど。
「地方貴族の独裁地に突如現れ、一族をしばき倒した挙句に無血開城へ導いた戦姫!」
「角在りの姿は仮面か、それとも本物の魔族かと言われてきた」
「ワシもあの時に救われたんじゃ」
「無辜の民を解放した救済の姫、ネフィストミリアの奇跡!」
「あ、ネフィストミリアならアタシだわ」
「ええぇ!? 君なにしでかしたの?」
なんかアタシが悪いみたいな目で見てきやがる。
勇者、あとで折檻。
「散歩してたらそこの貴族ん絡まれたんだよ」
「それでしばき倒しちゃったと」
「別にしばき倒してねーぞ? ただ縛っただけ」
「な、なんだ拘束しただけか。それなら」
「は? 拘束してねぇよ。動けなくしただけだよ」
「それ、しばいたって事じゃーない?」
伝わんないから服から下がってる紐をリボンっぽく結んで見せた。
「全員の足を蝶々結びにして歩けなくしただけだよ」
「足を縛ったの!? なんでわざわざ蝶々結びぃ!?」
「練習だよ。ダンジョンで飼ってたヒュドラ、長すぎたから縛りたくて。ぐちゃぐちゃのまま放置したけど」
「あれ君の仕業だったのね! おかげでダンジョンボス瀕死でしたわ!! そこはマジあざっす!!!!」
「よきに計らえ媚びへつらえ」
『アリアス最高! アリアスまじメシア! アリアス最高! アリアスまじメシア!』
気付いたら胴上げ。ついでに宿泊費と食費も浮くことになったぜ。うぇーい。
「……勇者より人気になっちゃったよ」
勇者の塩顔だけはいつにも増して薄くなってた気がする。




