第10話 誰が勇者を殺しかけたか
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
泊まってた宿屋で女の絶叫。
声の聞こえたロビーに行ったら、なんか人集りがあった。
「酷い、こんなのってあんまりよ!」
「勇者殺し、勇者殺しだァァァァァァァァ!!」
「誰がいったいこんな、惨いことをっ!」
ロビーに倒れた粉々の石像。と、その前で尻もちついてる勇者がいた。
「ゆ、勇者のヤローを狙いやがったのか! 一体だれが!?」
「いや、その、僕死んでないんだけど……」
「こんなの、人間のすることじゃねぇよ!」
「だから生きてるって。崩れる直前に避けたから」
「おっと、こりゃいけねー。辻褄合わせしねーと」
「殺人の方に合わせないで!!」
石像の破片振り上げたとこで止められた。
「きっと経年劣化とかで倒れたんじゃない? 石像って脆そうだし」
「いや、こりゃ勇者暗殺未遂だ。しっかり解明しないとなァ!」
「さっきまで君が殺そうとしてたよね?」
◆
ってなわけで、事件当時の証言をまとめてく事にした。
――アタシ、アリアス・ヴェルキリー。
「起きてロビー行ったら勇者が潰されかけてた。ウケる」
――村娘カティ。
「わ、私が見た時には石像が倒れてる途中で……」
――宿屋のブルストン。
「先ほどまでスタッフルームで本を読んでいました。官能小説です」
――宿泊客のダリオス。
「俺も自分の部屋にいたぜ。旅でクタクタだったもんでさ」
――孤高の暗殺者ベルモンド・シルバー。
「俺様は今夜仕事でなァ……部屋で『狩り』に備えてたワケよ」
候補はこの四人か。
「これは難しい」
「待てや最後ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
「ンだよ勇者。もう犯人分かったのか?」
「一択だわ!! 孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさん以外の択あるわけないだろ!!」
「職業差別して良いのかよぉ勇者様~オォン?」
「ロングコート! 深いハット! 二丁拳銃持って不敵な笑み! 怪しむに決まってるだろ!!」
「おいおい、この中に殺人未遂犯がいるだと!? おっかねぇ、殺すっきゃねぇ!」
「そんな、私の宿屋で事件が……ならば関係者は口封じしなくては」
「こ、怖いよぉ。もう誰も信じられない……全員殺すしかなくなっちゃったわ!!」
「全員縄につけ犯罪者予備軍どもォォォォォォォォォォォォォォォォ! ナチュラルに殺人の択持ってるヤツしかいねェじゃねぇかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「デスマッチ久しぶりだな~。勇者ぁ、お前武器どする?」
「ここ法治国家だぞてめぇらァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
悲しいが全員で殺し合う運命――と思ってた時だ。
「ちょっと待てや、勇者の旦那ァ……」
割って入ったんだよ、この男が……!
「話を聞くに、まだ誰もアリバイは取れちゃいねぇぜ?」
「孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんっ!?」
孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんは全員を椅子に座らせて、胸ポケットからメモ帳を取り出した。
「疑心暗鬼はテメェの判断を鈍らす。まずは落ち着くことだァ」
「さっきのはそれ以前の問題じゃ?」
「そもそも全員別々の場所にいて、カティの嬢ちゃんもたまたま現場に通りかかった程度。全員怪しいが、全員怪しくないともとれる」
「な、なるほど……?」
「ここはそれぞれの証言を残しつつ、状況証拠と物的証拠で固めてくのが合理的だぜェ」
勇者、横でフリーズからの絶叫。
「一番まともな意見出してるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「流石は孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんだな」
「なにその全幅の信頼! あと毎回異名もフルで呼ばなきゃなわけ!?」
孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんは一人づつ証言を掘り下げ始めた。
「まず宿屋の旦那、例の石像は購入してどれぐらいだァ?」
「せ、先月買ったばかりです。市場で、新品を購入しました……」
「となると経年劣化の可能性はなし――そんで旦那が犯人の線は低い」
「「「「なにっ!?」」」」
「当然だろォ? 嘘でも中古とかって言っときゃ、仮に宿屋の旦那が犯人だったとしたら有利な証言になんだろォよ」
「たしかに、犯人の心理から逆算すればその意見も頷ける……」
「ダリオスの旦那もシロだなァ?」
「お、俺もっ!? いや嬉しいけどさ」
「足元だよ。アンタは旅でクタクタって言ってたよなァ」
「ええ、まあ。この街に来るまで結構かかりましたから」
「着替えもせず部屋でくつろいでたアンタだ。もし犯人なら、その泥だらけの靴で足跡がある筈だろォ?」
全員、ダリオスの靴に注目した。
孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんの言う通り、おっさんの靴はドロドロに汚れてやがった。
「てかマジきったねーな。ウ〇コスライム踏んだ後かよ!」
「ごめんなさい、臭いです。訴えたいです」
「後で清掃料は別途料金いただきます」
「ご、ごめんなさい……」
ダリオスは総スカン。
これには孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんも「エチケットは気にしとくもんだぜェ……」とのことだ。
くぅ、痺れるぜ!
「そんでカティの嬢ちゃんは、ついさっき宿に来たばっかだったなァ?」
「は、はい。チェックインしようとしてたら現場に遭遇しまして」
「つまり来たばかりで新品同然の石像に細工する時間はなかった。そうだなァ?」
「ええ。他の人より、根拠は心もとないけど……」
「そいつは俺様もだ。当然俺様もシロだが、傍から見りゃ『隠れて犯行してました』って線を完全には消し切れねェ」
「クッ、孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんの推理をもってしてもここまでか」
「君はベルモンド・シルバーさんの何を知ってるの?」
「だが! 一番怪しいヤツが一人残ってねーかァ!?」
「なっ!」
「ん」
「だっ」
「てェ!?」
「仲良いね君たち」
「昨日から宿屋に泊まってて、こン中で一番勇者に近かった人物がよォ」
そ、そんなヤツがいるのかぁぁぁぁッ――――ん?
「なァ、アリアスの嬢ちゃん?」
「あ、アリアス……まさか君が犯人だったなんて!」
「おうおう、何決めつけてやがんだ勇者。蹴り殺すぞ」
「殺意マックスじゃないか!!」
「待て待て、本気でアタシは殺そうとしてねーよ。ンなことしたら追放モンだしよ~」
実際マジに殺そうとしてねーしな。
殺そうと思ったらそん時には相手の死体残ってねーし。
「じゃあ君、さっきまで何してた?」
「ずっと寝てたぜ。カティの叫び声で目が覚めたんだ」
「……アリアス、君って寝起き相当悪くなかった?」
「そうなんだよ~。叫び声で意識は覚醒したけど、それまでボヤーっとしてたと思うぜ」
「……起きて最初に記憶ある場所は?」
「ええ? このロビーだけどさ」
「「「「……やっぱお前じゃね?」」」」
「何よりアリアスの嬢ちゃん、その右拳は何だァ?」
孤高の暗殺者ベルモンド・シルバーさんが指さした、アタシの右拳。
手の甲と指の背がちょっと赤く腫れてた。完全に殴り傷。
「……そっかぁ! アタシ石像がぶっ壊してたんだわ!」
「なんでそんなことしたの!?」
「悪意はねーよ。ホントだぜ?」
「悪意しか感じたことないよ?!」
「アタシって寝ぼけてる間はシャドーボクシングする癖あっから、それで破壊してんだと思う」
「はた迷惑過ぎるんだよ君の寝起きはいつもォォォォォ!!」
「ダンジョンとかで寝たら『生き物が通り過ぎた風圧で壁崩れる程度』にぶっ壊して罠作る事もあったし、今回も無意識でやってたかもな」
「二度と同じ屋根の下で寝るんじゃない!!!!」
こうして勇者暗殺未遂事件は幕を閉じた――
ちなみにアタシは罰としてダリオスの汚したトコ一緒に掃除するハメんなった。




