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「バンコクにて。」

作者: 加錬 剛

 朝からチャイナタウンへ行って諸々のサンプルを購入し、ランチはふかひれスープに焼き飯、やきそば、ブロッコリーと椎茸のあんかけ炒め。となかなか充実した1日になる気がした。


夕刻、メーカーの担当者に会い、特に用事も無いので早めに追い返した。


 いつものシーフードめし屋にスーパーで買った白ワインを持参し、数々の料理に舌鼓を打ち、今日の疲れを癒すのと同時に白ワインはあっという間に空になり、いつものように酔っ払っていた。

空腹は満たされ、体中にアルコールが充満し、

ゆるゆると歩きながらマッサージ屋へ直行しようとシーロム通りへ移動した。


昼間もいたるところで軍隊と警察が警備をしていたのでたいして驚きもしなかったが、どうも通りの様子が変だ。


夕べもパッポン名物の夜店が一軒もおらず、わずかに開いた数軒のGOGO BARの音楽がかすかに通りに漏れていた程度で、こんなに閑散としたパッポン通りを見るのは、午前2時を回ってもありえない光景だった。

まるで「シャッター通り」そのものだった。


シーロム通りを渡ろうとしたが、サイレンを鳴り響かせた緊急車両が何台も走り回っていて、昨日まであった出店も姿がなく、道端にさえ緊張が蔓延していた。

「様子が違う。」

不穏な雰囲気に何かがアンテナに引っかかり、警鐘は脳内をこだました。

私は通りを引き返し、ホテルへ帰った。

顔なじみのドアマンが「サラディーンで爆発があった。外に出ない方がいい。」と忠告してくれた。


サラディーン駅は先ほどのシーフードめし屋から一駅、ここから歩いて10分の1キロ足らずの距離だ。

部屋へ戻ってTVをつけたがその手のニュースはまだ入っていなかったし、パソコンでインターネットを見てみたがこちらも速報はなかった。


酔いに任せて眠りにつき、今起きてテレビをつけるとサラディーン駅付近で爆発があり、死者3名とでている。

昨日そこからBTSに乗ったばかりだった。そのことについて特に冷や汗も、悪寒も走らなかったが、せっかくいい商売のネタを仕入れ、近々またここへ戻ってこれるなとぬか喜びしていた矢先の出来事に腹が立った。


昨日も赤シャツが陣取るサイアムを歩いたが、これはもう巨大なホームレスの居住区だ。

いつもは車で一杯の渋滞の代名詞のような道路を赤シャツが埋め尽くしていた。

BTSの高架下の日陰には老若男女が昼寝をしていて、集会のオルグは沸点に達し、仮設ステージの上で指導者らしき人物が延々とマイクでがなりたて、どこから持ってきたのか巨大なスピーカーからはそこいらじゅうにアジり声が鳴り響いていた。

営業停止に追い込まれたデパートを尻目に、この集会の人間を目当てに屋台が所狭しとゲリラ的に出店しており、赤シャツ軍団の食料事情を確実に支えているように思えた。



巨額の経済損失を膨張させながら国家が疲弊していく。

かと言って日本で騒いでいるほどの緊迫感は微塵も感じられず、一定の場所以外ではいつも通り庶民は笑いを絶やさず普通の日常生活を懇々と繰り返している。

一体この国はどうなっていくのだろう・・・・。



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