途切れた記憶
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──ピィィィィィィィィィ……
耳の奥を突き刺すような、高周波の音。
何かが崩れるような感覚の中で、俺はゆっくりと目を開けた。
そこは、自分の部屋だった。
見慣れたリビング。ローテーブルの上に放置された洗い物。カーテンの隙間から、薄く朝の光が差し込んでいた。
「……夢?」
喉が異常に渇いていた。
立ち上がってキッチンに向かうと、冷蔵庫の上に置かれたデジタル時計が目に入った。
7:12
昨夜の記憶は、断片的にしか残っていない。
翔悟と303号室に行った。荒れた部屋、壁の文字、和室、そして……公衆電話。
あの電話が鳴った。
翔悟が受話器を取った。
その瞬間、真っ暗になって──
「……翔悟!」
慌てて彼の部屋へと駆け込む。
だが、そこに翔悟の姿はなかった。寝具は乱れておらず、まるでずっと誰も住んでいなかったような整い方をしていた。
スマホを見る。履歴に彼からのメッセージや着信もない。
冷たい汗が背中を流れる。
まるで、翔悟という存在そのものが──
「……嘘、だろ」
そこからの日々は、恐怖と混乱の連続だった。
職場でもミスが続き、上司には叱責され、同僚の視線も冷たくなる。
マンションでは妙な夢を見るようになった。
303号室に向かう夢。
電話の前に立ち尽くす自分。
翔悟が、何かを必死に叫んでいる──が、その声は音にならず、ただ口がパクパクと動いているだけ。
──兄ちゃん、頼む、思い出してくれよ。
そんな幻聴が、日中もふいに聞こえるようになった。