26-終
翌朝、宿屋「月影亭」の食堂は、朝陽が差し込む温かな雰囲気で満たされていた。木のテーブルには、女将さんが「これ食って元気出していきな!」と豪快に運んできた朝食が並んでいる。ボクは魚のスープを期待していたのに、出てきたのは2枚のトーストと、地魚の切り身、チーズと野菜がたっぷり乗ったピザトーストのような料理だった。
「うわ、めっちゃ美味しそう!」エリザが目を輝かせ、早速ピザトーストにかぶりつく。ヨーコは「むむ、魚の切り身は悪くないのじゃ!」と小さな前足で器用に魚をつまみ、ミリアは「栄養バランスも良い。悪くない朝食ですな」と真面目に頷きながらトーストを切り分ける。
みんなの笑顔が眩しい中、ボクは目の前のトーストをじっと見つめた。カリッと焼けた表面、チーズの香ばしい匂い。なのに、なぜか胸の奥でざわめく記憶が蘇ってくる。
ボクが聖女として仕えていた教会でのこと。10歳で神エルディスから「聖女の癒し」を授かり、聖女として崇められた日々。だが、ある日、些細な理由で追放された。あの時の司祭の言葉が、今でも耳に残っている。
「セレフィス、貴様はパンを2つ食べた! 聖女たるもの、清貧であるべきだ! よって、追放する!」
――パンを2つ食べたから、追放。なんて馬鹿らしい理由だろう。今思い返しても、笑ってしまう。聖女としての使命、癒しの力、すべてを奪われたあの瞬間。でも、こうやってエリザやヨーコ、ミリアと笑い合える今があるなら、あの追放も悪くなかったのかもしれない。
「フッ」と小さく笑い、ボクはトーストを手に取ってかじった。チーズの濃厚な味わいと、野菜のシャキッとした食感が口に広がる。うん、美味しい。過去は過去。ボクはルフィスとして、これからも仲間と冒険を――
の瞬間、食堂の扉がバン!と吹き飛び、すさまじい風圧が部屋を襲った。「破ぁーーーー!!!」という掛け声とともに、謎の男が現れた。袈裟をまとい、眼光鋭いその男――寺生まれのTさんだ。
「な、なんだ!?」エリザがトーストを落とし、ヨーコが「こやつ、ただ者ではないのじゃ!」と毛を逆立てる。ミリアは剣を構えようとするが、Tさんの圧倒的な存在感に動きが止まる。
ボクは呆然とTさんを見つめた。すると、突然、世界が歪み、色が消え、音が遠ざかる。宿屋も、仲間も、トーストも、すべてが溶けるように消え去り、真っ白な空間にボクだけが取り残された。いや、ボクの前に、ただ一人、Tさんが立っていた。
Tさんはゆっくりと口を開いた。その声は、まるで世界そのものを震わせるようだった。
「クソなろうの波動を感じ、来てみたらなんだこれは。展開も遅く、段々と設定もあやふやになってきておる。聖女だの現代知識だの、露天風呂だの、トーストで追放だの……これ以上の展開はお天道様が赦しても、この私が許さない。」
ボクは言葉を失った。Tさんの言葉は、まるでこの物語のすべてを見透かしているようだった。聖女の秘密、仲間との絆、コミカルな日常――それらが、Tさんの前ではまるで薄っぺらい紙のように感じられた。
「Tさん……あなたは一体……?」
ボクが震える声で尋ねると、Tさんはフンと鼻を鳴らし、袈裟を翻した。
「フッ、ただの寺生まれのTさ。物語の秩序を守るため、クソな展開をぶち壊しに来ただけよ。さあ、終わりだ。」
そう言い残し、Tさんは白い空間の彼方へと消えていった。ボクはただ立ち尽くし、彼の背中を見送った。なぜか、胸の奥に感謝の気持ちが湧き上がる。
ありがとう、Tさん。ボクたちの物語は、ここで終わるのかもしれない。でも、エリザの笑顔、ヨーコの信頼、ミリアの真剣さ、そしてトーストの味――それらは、ボクの心に永遠に残る。
真っ白な空間は静かに溶け、すべてが光に飲み込まれた。ルフィスたちの冒険は、Tさんの手によって幕を閉じた。だが、その終わりは、どこか清々しく、良い話だったかなー。
完
飽きちゃった。




