07 魔法測定検査 手順・説明
試験官との会話を終えたひまりと剣磨。
二人はそのやり取りによって、最後尾になってしまっていたため、急いで通路を駆け抜け、やがて広々とした空間へと出た。
そこは、体育館ほどの広さを持つ長方形の空間だった。
「おー、思ってたのと違う」
それが、ひまりが室内を一瞥して発した第一声だった。
魔法適性検査。名前からして、最新鋭の機器や魔道具がずらりと並んでいる――そんな光景を、ひまりは想像していた。しかし、現実はそれとは大きく異なっていた。
空間全体は木材を基調とした温もりのある造りで、天井ではシーリングファンがゆっくりと回っている。整然と並べられた机と椅子、壁に施された控えめな装飾。その作りは検査会場というより、全体として、まるで落ち着いたカフェの様であった。
すでに到着していた他の受験者たちも、同じような戸惑いを抱いている様子だった。この場で一体何が行われるのか――彼らの間で、小さなざわめきが広がっている。
そのとき、一人の男の声が響いた。
「うん、みんな揃ったようだね。ようこそ、魔法適性検査場へ」
突然の声に、子供たちは驚いた。
あたりをきょろきょろと見回すが、声の主の姿は見えない。しかも、その声は空間全体に反響しており、どこから発せられているのか特定できなかった。
ひまりも声の出どころを探すが、まったく見当がつかない。
「はは、僕がどこにいるのか分からないみたいだね。それじゃあ、姿を現そう」
その言葉とともに、何もない空間から、薄く透明な人影のようなものが出現した。
それは徐々に輪郭をはっきりさせ、やがて一人の人間の姿へと変わっていく。
「「「おぉーーー!!!」」」
パチパチパチパチッ。
不可思議な現象を目の当たりにした子供たちは、驚きと興奮の声を上げ、拍手を送った。
しかし、その中で、ひまり、剣磨、そして和重の反応は、周囲とは少し異なっていた。
「おー、さっきの試験官さんだ……」
「だね。知ってたことだけど、改めてあの人が僕たちの検査を担当してくれるって分かると、なんだか安心するなぁ」
ひまりと剣磨は、突然目の前に姿を現したことよりも、その試験官が、先ほど自分たちを助けてくれた人物だったという事実に意識を向けていた。
一方、和重はというと——
「……チッ!」
不機嫌そうに、舌打ちをした。
先程、不祥事を注意されたばかりなのだ。
和重にとって、これ以上検査を受けづらい試験官はいないだろう。
場を盛り上げた試験官は、そのまま自己紹介へと移る。
「初めまして。僕は今日、ここにいる皆んなの魔法適性検査を担当する魔法試験官の佐藤裕太だ。よろしく」
ここで初めて、ひまりと剣磨は試験官の
名前を知った。
「佐藤さんっていうんだ。そういえば、
名前聞いてなかったもんね」
「すごく普通な名前……」
「ハハ……そうだね」
ひまりの呟きに、剣磨は苦笑いする。
確かに、学校に行けば一人や二人はいそうな名前だった。
「それじゃあ、これから本日行う検査の手順を説明しようと思う。少し長くなるかもしれないから、用意されている椅子に座ってくれて構わないよ」
佐藤の言葉に促され、子供たちは一斉に椅子へ腰を下ろした。
ひまりと剣磨も、並んで席に着く。
その際、剣磨はすぐ隣にいるひまりに少しだけ緊張していたがそこはご愛嬌である。
佐藤は子供たちが全員着席したのを確認し、軽く頷いた。
「うん、みんな座ったね。それじゃあ、説明を始めようか」
そう言うと――佐藤は右ポケットか、何かの縦長のボタンスイッチを取り出した。
そして、そのスイッチを押す。
すると——
ひまりのポケットから、青白い光と微かな振動が伝わった。
驚いてポケットを確認すると、それは受付で受け取ったカードだった。
同じ現象は、ほかの子供たちのカードにも起きていたらしく、皆が自分のカードを取り出していた。
光と振動が止まると、カードから立体ホログラムが浮かび上がった。
「そこに映し出されているのは、本日行う検査の手順と内容だ。上から順番に目を通してほしい」
佐藤は子供たちに、ホログラムに表示された魔法適性検査の詳細を見るよう促した。
××××××××××××××××××××××××××××××
〜魔法適正検査の手順と内容〜
**拝啓**
桜花の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
さて、本日は魔法省主催の検査にお越しくださり誠にありがとうございます。ご多忙の中、お時間を割いて魔法適性検査に臨んでいただき、心より感謝申し上げます。検査の手順と内容につきまして下記の通りご案内致します。
*1次検査・・・魔法才能検査
本検査は、皆様方が魔導士として有する基礎的な才能を測定するものです。
魔法才能検査は、以下の3項目の検査によって実施致します。
1項目・・・魔力放出量測定検査
2項目・・・魔力流動測定検査
3項目・・・魔力知覚測定検査
1次検査の結果、を基に、皆様方の魔導士としての基礎的才能をA・B・C・Dの4段階評価にて暫定的に採点致します。
この評価においてD評価となった方は、誠に残念ではございますが、この時点にて不合格とさせていただきます。
C評価以上を取得された方は、次の2次検査へと進んでいただきます。
*2次検査・・・人格検査および適正魔法測定検査
本検査は、皆様方が魔導士として相応しい人格を有しているか、ならびに適正魔法を測定する試験となります。
以上、2次検査までを通過された方を魔法適性検査合格者とし、魔導士の資格を授与するものと致します。
皆様方が魔導士として選ばれることを、心よりお祈り申し上げます。
魔導総本院
魔法適性検査対策委員会
××××××××××××××××××××××××××××××
と、この様な事が書かれていた。
「これを見て皆んな今日の試験について大体の流れは分かってもらえたらかな。それじゃあここからは僕がホログラムを交えてもう少し詳しく補足と説明をする」
佐藤は再度ボタンを押す。
すると、先程映し出されていた文が消えて新たな文字が表示される。
××××××××××××××××××××××××××××××
魔導総本院が定めた魔導士を構成する才能
『5大才能』
・魔力値
・魔力放出量
・適正魔法種
・魔力知覚
・魔力流動
××××××××××××××××××××××××××××××
「今、皆んなが見ている映像に表示されている5大才能というのは現代の魔導士を構成する5つの才能の総称だ」
5大才能というワードは何人かを除いて、殆どの子供達は初めて聞く言葉であり、興味深しげに佐藤の話に耳を傾ける。
ちなみに何人かの中に剣磨と和重。
殆どの中にひまりが含まれていた。
「全ての魔法士はこの5つの才能の有無と優劣で使える魔法の種類の大体は決まるといっても過言ではなくーー」
「え!?そういうのは努力や鍛錬とかで変わったりするんじゃないんですか?」
と、話を聴いていた1人の男の子が驚いて
つい、佐藤が話している途中に口を挟んでしまう。驚きで突発的に出てしまった言葉であり、男の子は慌てて口に手を当てる。
しかし、佐藤は全く怒った様子はなく、それどこらかその子供に笑顔を向け、発した疑問に対して賛辞を送った。
「いい質問だね。確かに、魔導士にも努力は必要だ。でも、ここで言う努力……つまり魔法社会で言うところの努力というのは、すべて使用する魔法の“外付け”のためのものなんだ。たとえば――
〝魔法を素早く使用するために呪文の詠唱速度を上げる、あるいは詠唱破棄を習得する〟
〝魔法の精度を高めるためにイメージ力を鍛える〟
〝無駄な魔力消費を抑えるために魔力操作技術を向上させる〟
〝魔法陣や魔法薬、魔道具を製造・開発するために、魔法の勉強や研究を重ねる〟
……といった具合にね」
佐藤はそこで一度言葉を区切り、子供たちの顔を見渡す。
「このように、己の魔法を効率よく使うための努力は存在する。だけど――己が使える魔法の種類そのものを増やすための努力、というものは存在しないんだ」
佐藤の説明に、質問をした男の子だけでなく、ほかの子供たちも驚きを隠せなかった。
魔法の使用に才能が重要であることは知っていたが、使える魔法の種類が努力や鍛錬で変わらないという事実は、彼らにとって初耳だったのである。
「もちろん、魔道具を使えば、魔力を流し込むだけで、その魔道具に付与された魔法を発動させることはできる。でも、それはあくまで魔道具に仕込まれた魔法であって、自分自身が発動させたものじゃない。それに――」
佐藤は軽く肩をすくめる。
「そもそも、魔道具に魔力を流し込むためには、五大才能の一つである魔力流動の才が必要だしね」
魔道具を使うためにも才能が必要なのだと、佐藤は言う。
ちなみに、ひまりが椿からもらった腕時計も魔道具の一種だが、当然ひまり自身が魔力を流し込んでいるわけではない。
あらかじめ、椿が自身の魔力を十分に腕時計へと流し入れてあるのだ。
通常時は、ただの時計としてボタン電池で動作し、魔道具としての機能を使用する際のみ、腕時計の内部にストックされた椿の魔力が消費される――そういう仕組みになっている。
「そんな魔導士にとって極めて重要な5大才能。それを調べる為に行うのが魔法才能検査だ」
佐藤ほボタンを押し、ホログラムの映像を再度切り替える。
××××××××××××××××××××××××××××××
*5大才能は以下の内訳で検査する。
•魔力値 … 産出時に測定済み
•魔力流動測定検査 … 魔力流動の測定
•魔力知覚測定検査 … 魔力知覚の測定
•魔力放出量測定検査 … 魔力放出量の測定
•適正魔法測定検査 … 適正魔法種の測定
××××××××××××××××××××××××××××××
「最初のホログラムで、『四段階評価で才能を測定する』と説明があったのを覚えているかな?」
佐藤はそう問いかけると、続けた。
「あの説明をもう少し詳しく言うと、『魔力値を除いた三つの才能を検査で評価し、それぞれをA〜Dで判定する。その結果を総括して、魔導士としての総合評価を算出する』という意味なんだ。まあ、簡単に言えば――三つの才能のうち、一つでもC以上なら一次試験通過、と覚えておけば問題ないよ」
この説明を聞き、子供たちは思ったよりも合格基準が厳しくないことに、少しホッとした様子を見せる。
「さて、ここまでで何か質問はあるかな?」
「はい」
その問いかけに、一人の女の子が手を挙げた。
「この五大才能についてですが、具体的にどういう才能なのか教えてください。魔力値は何となく分かるんですけど、魔力放出量や魔力流動は、名前だけだとイメージしづらくて……。それと、適正魔法種が一次の合否に含まれずに二次の方にあるにある理由も知りたいです。適正魔法種という名前だけ見るならどうみても才能検査の部類の筈なのに」
彼女の疑問に、ほかの子供たちからも「確かに……」と同意する声がちらほらと上がる。
「いい質問だね。ちょうど今から説明しようと思っていたところだよ」
佐藤はそう言うと、ボタンを押した。
するとホログラムが切り替わり――五大才能の詳細説明が映し出される。
××××××××××××××××××××××××××××××
*魔力値
その者が持つ魔力の最大量を指す。
この才能は、魔法を連続して使用できる回数や、使用可能な魔法の種類などに大きく影響する。
*魔力放出量
一つの魔法を使用する際、自身が保持している魔力の中から捻出できる魔力の最大量を指す。
この才能は、使用可能な魔法の種類や威力に大きく影響する。
*適正魔法種
その者が使用できる魔法系統の種類を指す。
この才能は、使うことができる魔法の種類に大きく影響する。
*魔力知覚
魔力を内包している生物や物体の魔力を感知する能力を指す。
この才能は、魔力を持つ生物・物体の探知に大きく影響する。
*魔力流動
己の魔力を物質に流し通す能力を指す。
この才能は、魔道具の使用や物体の魔力強化などに大きく影響する。
××××××××××××××××××××××××××××××
「これが五大才能の概要だ。一つ目の質問への回答になるね。そして二つ目の質問――一次検査の合否判定に、適正魔法種が含まれていない理由についてだけど、その理由は二つある」
佐藤はそう言って、指を一本立てた。
「一つ目。君たちの適正魔法種を調べる方法は、少々特殊でね。人格検査を担当する検査官が、君たちの人格を確認すると同時に、適正魔法種も見極めるんだ」
その言葉に、会場がざわつく。
「え? 人格検査って、佐藤さんがやるんじゃないんですか?」
皆が抱いた疑問を、一人の少年が代表して口にした。
それに対し、佐藤は苦笑いを浮かべる。
「確かに、そこは勘違いしやすいよね。でも、違うんだ。僕が担当するのは、あくまでも一次検査まで。二次検査には、また別の担当者がいる。『魔法試験官』という肩書きは、魔法適性検査を総括する立場を指すものであって、すべての検査を一人で担当する、という意味じゃないんだ」
魔法試験官という肩書きから、すべての試験を佐藤が担当するのだと思い込んでいた者が多かったのだろう。
この事実は、子供たちに小さくない驚きを与えた。
「話を戻そう。今のが一つ目の理由だ。そして、もう一つ。適応魔法種を、才能検査で見なくてもいい理由」
佐藤は、二本目の指を立てる。
「――確かに、質問してくれた女の子の言う通り、適応魔法種は才能の一つだ。でもね、この才能だけは、一次で見る必要がない」
そう断言し、佐藤は静かに言葉を続けた。
「なぜなら、一次検査で知りたいのは、その人が“魔導士としてやっていける最低ライン”に達しているかどうか、ただそれだけだからだ」
その言葉に、子供たちは一様に難しい顔をした。
意味が掴めていないのが、はっきりと分かる反応だった。
そんな様子を見て、佐藤は逆に問いかける。
「みんな、この説明文を見て、何か気づかないかい?」
佐藤の言う説明文とは、五大才能の詳細を映し出したホログラムのことだろう。
促されるまま、子供たちは映像に視線を集中させる。
だが――。
誰一人として答えに辿り着けず、考え込んだ表情を浮かべるばかりだった。
しかし。
「あ……」
剣磨だけが、何かに気づいたように、ぽつりと声を漏らした。
「ん? そこの君、何か分かったのかな?」
佐藤は、それが剣磨であることに内心で微笑みつつ、尋ねた。
「あ……はい」
「そうか。それじゃあ、もしよければ、君が気づいたことを教えてくれないかい?」
「わ、わかりました」
剣磨は佐藤に促され、皆の視線が自分に集まると、少し緊張しながらも口を開く。
「えっと……僕が気づいたのは、適応魔法種は魔力放出量の才能があって、初めて意味を持つものだ、ということです」
(フッ)
「「「……あっ!」」」
剣磨の言葉を聞き、佐藤は微かに口角を上げる。子供たちは再び自分のカードのホログラムを確認し、「本当だ!」と驚きの声を上げた。
「その通り。彼が今答えてくれたように、いくら適応魔法種の才能に恵まれ、使える魔法系統が多くても、魔法を使用するために必要な魔力を捻出できなければ、それはまったく意味を持たない。たとえ適応魔法種の才能がAでも、魔力放出量の才能がDなら、結局魔法を使うことはできないからね」
これを聞き、先ほど質問をした女の子が情報を整理し、自分の考えを口にする。
「えっと……つまり、魔法才能検査の合否の判定に適正魔法種が含まれていない理由は、適正魔法種の才能は魔力放出量の才能があることを前提としたもの……。そして、もし魔力放出量の才能があるなら、その時点で一次検査の合格は確定する。だから一つ目の理由もあって、二次検査で見ているということでしょうか?」
「うん。その認識で合っているよ。適応魔法種の才能が意味を持つのは、魔力放出量の才能がC以上であってこそだからね……君の質問に対する返答は、これでよかったかな?」
「はい! 理解できました! ありがとうございます!」
質問をした女の子は元気よく返事をし、佐藤も満足げに頷く。
「こちらこそ。いい質問だったよ。おかげで、この部分についてスムーズに説明ができたからね。そして天式くん、君の気づきも素晴らしかった。みんな、素晴らしい質問と回答をしてくれたこの二人に、大きな拍手を」
パチパチパチパチ!!
たくさんの拍手を受け、女の子は恥ずかしそうにし、剣磨は注目されるのが苦手なため、少し居心地が悪そうにしていた。
「ケンマ、すごい!」
すぐ隣にいたひまりも、剣磨に向かって大きな拍手を送る。
「い、いや……そんな大したことじゃないよ」
剣磨は注目されるのは苦手だが、褒められること自体はやはり嬉しく、謙遜しながらも笑みを浮かべた。
「……チッ!!」
だが、それが面白くないのが和重だ。
試験官が佐藤だと分かったとき以上に、大きく舌打ちをし、ただ一人だけ拍手をせずに苛立ちを露わにするのだった。
「さて、他に質問はあるかな?」
拍手が鳴り止むと、佐藤は改めて質問があるかを尋ねた。
「「……………………」」
そして、今度は誰の手も上がらないのを確認すると、
「よし、OKだね。」
佐藤はボタンを押した。
だが、今回は映像が新しいものに切り替わることはなく、皆のカードから映し出されていたホログラムがすっと消えた。
「一旦ホログラムは消すよ。でも、またすぐに使うからカードはそのまま手に持っていて大丈夫。」
そう言うと、佐藤は次の話を始めた。
「突然だけどみんな、このホールに来たとき、ここでどうやって検査をするのか気になったんじゃないかい?」
その問いかけに、ひまりを含む多くの子供たちが頷いた。
無理もない。
この空間は、魔法適性検査のための施設というよりも、どこか洒落た喫茶店のような佇まいだったからだ。
そんな子供たちの疑問を映した表情を見て、佐藤はニヤリと笑った。
「うん、予想通りの反応をありがとう。確かに、こんな空間でどうやって検査をするんだろうって思うよね。でもね、結論から言うと、この場所では検査を行わないんだ。」
その言葉に、子供たちは頭の上に大きな疑問符を浮かべたような顔をした。
検査を受けるためにこの場所に来たはずなのに、ここでは検査を行わないと言われたのだから、当然の反応だろう。
そんな子供達の疑問に応えるように佐藤は続ける。
「あくまでも、皆が今いるここはただの集合スペースだ。検査を行う場所は、別に用意してある。」
「その場所は、どこにあるんですか?」
一人の男の子が尋ねた。
「君たちが今手に持っている、そのカードだ。」
佐藤は、皆が受付でもらったカードを指差す。
「実はそのカードには、『転移魔法』が組み込まれているんだ。」
それを聞き、子ども達がざわつく。
そう
なんと、ひまりを始め皆が渡されたこのカードは魔道具だったのだ。
皆んなは驚いた表情でカードを見る。
「そのカードは、持っている人を指定された場所に転移させることができるんだ。そして……もう気づいた子もいるかもしれないけど、その『指定された場所』というのが、これから検査を行う場所だ。」
その説明を聞き、子供達も疑問が解け、なるほどと頷いた。
「転移先は3つあって、適応魔法測定検査を除く検査を1つの転移先つき、1つ行う。つまり、皆んなはここに戻ってくるのも含めて4回転移する事になるね。適応魔法種測定検査は最後、この場所でするよ」
そこまでを聞いて、ひまりは目を輝かせる。
「おー!まさかこのカードが瞬間移動体験アイテムだったとは。びっくりです。」
魔法が日常に浸透している現代魔法社会とはいえ、人々が転移魔法を経験できる機会はほとんどない。理由はいくつかあるが、その一つとして、そもそも転移を可能とする魔道具や、『転移魔法』を扱える魔法士の数が極めて少ないことが挙げられる。
転移を可能とする魔道具自体は、確かに存在する。
しかし、その製造には莫大なコストと時間、そして高度な魔導工学技術が必要となるのだ。
そのため製造数は限られ、それに比例して価格も驚くほど高額となる。結果として、一般人はおろか、団体や企業でさえ、そうした転移系の魔道具を所有している例は稀なのである。
また、前述の通り『転移魔法』を使える魔法士も非常に限られているため、転移を経験したことのある者がほとんど存在しないのも、当然と言えるだろう。
ひまりにとっても、転移するのはこれが初めてだった。
今まで体験したことのない現象を前にし、彼女は興奮を隠せずにいる。
そして、それは剣磨も同じだった。
「すごいや……! 転移魔法を組み込んだ魔道具なんて、少量しか生産できてないはずなのに……。この検査施設だけでも、一日に検査を受けに来ている人が約三百人。さらに、同じ検査施設が全国に十か所あるってことは――合計で三千枚のカード型転移魔道具が用意されているってこと? 一体どうやって、そんな数を用意したんだろう……さすが、運営元が魔導総本院だと規模が違うなぁ」
剣磨は、転移系魔道具の希少価値を理解しているだけに、ひまり以上に驚きと興奮を抑えきれずにいた。
他の受験者たちも同じように、自分が手にしているカードを、まるで宝物でも見るかのような目で見つめていた。
無理もない話だ。
組み込まれている魔法の利便性と、その希少性を考えれば――最新ゲームなどより、よほど嬉しいものだろう。
「……みんなが嬉しそうなところ悪いんだけど、そのカードは検査が終わったら回収するからね。持って帰ることはできないんだ」
佐藤はそんな子供達に、少し困ったように笑いながら、そう告げた。
その言葉に、子供達は案の定、「えー!?」とか「うそ……」なんて声が上がる。
目を輝かせていた子どもたちの顔が、一気にショックで曇っていく様子は、なかなかにわかりやすい。
「ガーン……」
そんな声が聞こえてきたのは、ひまりだった。ひまりもどうやら本気で持って帰れると思っていたらしい。
そして、剣磨はというと、
(いや、まぁ……そりゃそうだよね、)
と、思ったのだがその言葉は内心で留めたのであった。
佐藤は説明を続ける。
「それじゃあ最後に、魔法才能検査で行う検査の順番を知らせておくよ」
そう言うと、佐藤は手元のボタンを押した。すると、皆のカードに再びホログラムが映し出される。
××××××××××××××××××××××××××××××
*魔法才能検査の検査順番
1番目 魔力知覚測定検査
2番目 魔力流動測定検査
3番目 魔力放出量測定検査
××××××××××××××××××××××××××××××
「今、みんなのカードに書かれている順番で行うよ。……さて、これで僕からの説明は以上になるんだけど、ここまで聞いて、何か質問はあるかな?」
佐藤はそう問いかける。
そして、誰も挙手しないのを確認すると、軽く頷いた。
「よし! それじゃあ、これで魔法適性検査についての説明は終えるよ」
ここで佐藤は腕時計に目を落とす。
「えっと、今は10時45分だね。検査は11時から行うから、それまではここで寛いでいてくれ」
佐藤はそう、検査までの15分をここで待機する様、皆に言って、説明を終えるのであった。
最後までお読みくださりありがとうございました!




