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星転の皇女  作者: 河蛙
6/10

06 魔法試験官

 和重が剣磨に向かって拳を振り下ろした、その瞬間。


 「こらこら。大事な試験前に、何をしているんだい」


 その声と同時に、一人の男が剣磨と和重の間へ割って入った。そして、和重の拳を止める。

 しかも、その止め方が普通ではない。


 男は、両手をポケットに入れたまま、和重の拳を止めていたのだ。

 正確に言えば――男と和重の間に出現した、薄い透明色の小さな正六角形の壁が、拳を受け止めていた。


 魔法である。


 「なっ!? 誰だ、お前!」


 突如現れた男に驚き、和重は後ろへ下がって距離を取る。


 一方、剣磨は殴られると思っていた反動か、安堵した途端に腰が抜け、そのまま尻を地面についた。

 そこへ、ひまりが素早く駆け寄り、心配そうに剣磨の顔を覗き込む。


 「ケンマ、大丈夫?」


 「う、うん……なんともないよ。この人のお陰で」


 剣磨はそう言って、自分を助けてくれた人物を見上げた。


 目の前に立っている男は、

 眼鏡をかけた、どこにでもいそうな、ごくごく普通の壮年の男性だった。


 「君、大丈夫?」


 男は剣磨とひまりの方へ振り返ると、腰を下ろし、剣磨の手を掴んで助け起こす。


 「あ、ありがとうございます」


 「うん、どういたしまして」


 剣磨が感謝の言葉を口にすると、男は優しげな笑みを浮かべ、それを受け取った。


 「おい! 無視してんじゃねぇ! 誰だって聞いてるだろうが!」


 和重は、自分を無視する形になった男に苛立ちを露わにし、再度その正体を問いただす。


 そんな和重に、男は静かに答えた。


 「別に怪しい者じゃないよ。僕は今回の検査を担当する、()()()()()の一人さ」


 「魔法試験官だと!?」


 その言葉を聞いた瞬間、和重は驚きの声を上げる。

 それは和重だけではなかった。剣磨も、そして一連の様子を見ていた子供たちも、揃って驚愕の表情を浮かべていた。


 「魔法試験官?」


 しかし、ひまりはその言葉に聞き覚えがなかった様で、首を傾げる。


 「ケンマ、魔法試験官って何?」


 ひまりは剣磨に聞く。


 「え?ひまりさん、魔法試験官を知らないの?」


 剣磨はビックリした目でひまりを見る。


 「うん。なにそれ?」


 「魔法試験官っていうのは、その名前の

通り、魔法適性検査の試験官で僕達の検査の合否を判定する人達の事だよ」


 「おー、なるなるー」


 ひまりは腕を組み頷いた。


 剣磨を助け、魔法試験官を名乗った男は、和重に向けて話し出す。


 「全く、ダメじゃないか。検査前に揉め事なんて」


 「………すいません」


 先程の態度はどこへやら。

 和重は急にしおらしくなり、素直に頭を下げる。


 しかし、それは当然であろう。

 魔法試験官は魔法適正検査において、絶対的権限を持っている。

 つまり、彼が不合格と言ったらその言葉通りに不合格になってしまうのだ。


 流石の和重もここで試験官に歯向かう程、馬鹿ではなかった。

 


 「君、拳を魔力で強化していただろう?」


 「!」


 頭を下げている和重の肩が、わずかに震える。

 そう――和重は、魔力を使っていたのだ。


 「その歳で、体の一部分とはいえ身体強化を施せるとは……さすが、あの夜式家の跡継ぎだね。この時点で、魔法適性検査の合格を与えてもいいくらいだ。……もっとも、()()()()()()()を審査するのであれば、だが」


 「…………」


 「魔法とは、人々の生活を豊かにするものであると同時に、使い方次第では、簡単に人を傷つけてしまう恐ろしいものでもある」


 試験官は、魔法について語り始める。

 そして、その言葉は和重だけでなく、その場にいた子供たち全員へと向けられていた。


 「故に、魔法を扱う者には才能だけでなく、その人格も求められる。まだ物事の善悪が十分につかない子供に、魔法を教えないのはそのためだ」


 その言葉を聞き、和重は密かに汗を滲ませる。

 試験官は、その様子を見透かしたかのように、さらに言葉を続けた。


 「本来、魔法とは魔法適性検査を通過したのち、時間をかけて心の成長とともに覚えていくものだ。しかし、君が先程使った魔力強化は、完全に“十四歳の中学生が使っていい魔法”の線を越えている」


 「…………」


 和重は、何も言わない。

 いや、正確には――何も言えなかった。


 「まだ精神的に未熟な君が、あのような魔法を覚えてしまえば、必ずどこかで事故に繋がる。現に、もし僕が止めていなければ、この子は無事では済まなかっただろう」


 それを聞いた剣磨は、背筋にゾクッとしたものを感じた。


 「才能と人格、その両方を併せ持ってこそ魔法士だ。そして、それを審査するのが魔法適性検査。そういう意味では、君の先程の行動は、魔法士として相応しいものではなかった。それは分かるかい?」


 「……はい」


 和重は、怒りや屈辱といった、あらゆる負の感情が入り混じった表情を浮かべながらも、反発することなく試験官の言葉を受け入れた。


 「――まあ、しかし。今はまだ魔法適性検査の開始前で、幸いにも怪我人は出ていない。僕の言葉を聞き、心を入れ替えて検査に臨むのであれば、先程の蛮行に対する処罰は、厳重注意と君のご家族への報告のみに留めようと考えている。身体強化を覚えている件についても、魔法界の暗黙の了解として“適性検査通過前の子供に教えてはならない”とされているだけで、法律で縛られているわけではないからね」


 「……ありがとうございます」


 「でも、分かっていると思うけど、次同じような事があった場合は容赦なく不合格にする。いいね?」


 「はい………。分かりました……」


 試験官は釘を刺し、和重も不服気ではあったが、了承の意を示した。


 こうして、試験前に起きたちょっとしたトラブルは解決したのだった。


 「それじゃあ君達は先に検査場へ向かってくれ。僕は少し二人と話をするから」


 そう言って、試験官はひまりと剣磨を見た。


 その言葉を聞いて、止まって様子を伺っていた子供達が動き出す。

 和重は試験官、ひまり、剣磨がいる場を一睨みすると、何も言わずに立ち去った。



 そして、辺りが静かになった所で試験官が突然、謝罪をした。


 「先ずは、君たち二人に謝らせて欲しい。申し訳ない」


 「え!?僕を助けてくれたのに、何故あなたが謝るんですか」


 剣磨は突然謝罪をする試験官に慌てる。


 「当事者である君達に何の意見や確認もせず彼の裁定を決めてしまった。君達からするとあの罰は軽すぎると思ったのではないかい」


 (……まぁ、確かに厳重注意だけで済ますのは少し甘いんじゃないかなとは思ったけど)


 剣磨は心の中でそう思う。

 彼の言った通り本当に和重が魔力を使っていたのだとすると、もし剣磨に当たっていれば良くて骨折、当たりどころによっては臓器損傷、最悪命に関わっていたかもしれない。


 魔法とはそれ程に身体の能力を高めることが出来るのだ。

 もし仮に、大人がこの身体強化を施した拳で魔力を持たない一般市民に手をあげようものなら、間違いなく傷害罪を飛ばし殺人未遂罪になり、警察のお縄になるだろう。


 それを踏まえるといくら未成年の中学生とはいえ、和重の処罰は確かに軽すぎると言わざるを得なかった。


 「本来は有無を言わさず、不合格にするべきなんだろう。しかし、彼は夜式家の人間だ」


 「……成程ですね。」


 それを聞いて、剣磨は納得の表情を見せた。

 何故、試験官が和重を不合格にしなかったのか、それがもう分かったみたいである。


 「どういうこと?」


 しかし、ひまりは意味が分からず、剣磨にどう言う事なのか尋ねる。

 それに剣磨は応える。


 「夜式家は魔法適性検査を運営、実施をしている魔導総本院と深い繋がりがあるんだ。だから、まだ適性検査をしていない今の段階で不合格にすると夜式家から魔導総本院に圧力を掛けて来る可能性がある。だからしっかりと()()()()()()()不合格にするーーそういう事ですよね。」


 剣磨は試験官に自分の考えが合っているか確認をする。


 「フッ、君はなかなかに賢いみたいだね。その通りだよ」


 試験官は剣磨の考えを肯定する。


 しかし、それを聞いてひまりは更に頭に?マークを増やす。


 「受けさせて不合格にする?つまり試験でわざと不合格にするって事?………それはなんか可哀想」


 そう言うひまりに剣磨が首を横に振る。


 「それは違うよ。わざと不合格にするんじゃなくて、和重自身が自分から不合格になるんだ」


 「と、いいますと?」


 「この試験官さんがさっき言ってたでしょ。才能と人格が両方伴ってこその魔法士。そしてそれを審査するのが魔法適性検査だって。つまり今回の試験では何らかの方法でその人の人格を見る筈なんだ。ひまりさんは今の和重が人格の部分で検査に合格すると思う?」


 ひまりはそれを聞き、先程の去る間際の和重の目を思い出す。

 あれはひまりから見ても、反省の色は微塵も感じなかった。


 「ううん。無理だと思う」


 ひまりは首を横に振る。


 「そう。つまり、コッチがわざと検査に不合格にしようとしなくても、和重は不合格になる。そして、実際に試験をした上で不合格になっているわけだから夜式家も抗議する事は出来ない。仮にしてきても正当性はこっちにあるって寸法だよ」


 「おおー!」


 最後まで聞き終えたひまりは目を輝かせて剣磨を見る。


 「ケンマすごい。そんな事、考えつくなんて」


 「い、いや考えていたのはあくまで試験官さんで、僕はただ、それを説明しただけだよ」


 剣磨は謙遜するが、最後まで黙って聞いていた試験官がそれを否定する。


 「いや。あんな僅かな材料からここまで僕の考えを理解するなんて、大人でもそうそう出来ることではない。それをまだ中学生である君が推察したんだ。素直に凄いと思うよ」


 「そ、そうですか」


 ひまりだけでなく試験官からも褒められ、剣磨も満更ではなさそうである。


 「うん。ケンマ頭いい。そして腹黒い」


 「いや〜それほどでも………待って、今腹黒いって言った?」


 剣磨は本日2度目のジト目でひまりを見た。


 「まぁ、とくもかくにもそういう事だ。納得してくれたかな?」


 「ん、納得しました」


 「僕も。そういう事なのでしたら、なんの反対意見もありません」


 ひまりと剣磨は試験官か和重に下した裁定に納得した。

 それに試験官は安堵の表情を見せる。


 「2人とも理解を示してくれてありがとう。話したかった事はそれだけだ。それじゃあ僕は失礼する。贔屓は出来ないが君達が合格する事を祈ってるよ」


 「あ、待ってください」


 剣磨は背を向けて行こうとする試験官を呼び止める。


 「ん、何かな?」


 「いえ……。唯、もう一度改めてお礼を言わせてください。さっきは僕を助けて下さり有り難うございました!あなたがいなかったら今頃僕はどうなっていたか分かりませんでした」

 

 そう言って剣磨は深く頭を下げた。


 「気にする事はないよ。トラブルを止めるのも試験官の仕事の一つだからね………あ、でもせっかく呼び止めてくれたんだ。僕からも君に一つだけいいかな」


 「?はい。何でしょうか?」


 「……彼女を守ろうとした君の勇気、カッコ良かったよ」


 「!!」


 試験官は剣磨にそう言うと、今度こそ去っていった。

最後までお読みくださりありがとうございました!

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