05 友達
ひまりと椿が検査会場に入ると、中には案内のスタッフがおり、子供とその保護者の誘導をしていた。
「検査をお受けになるお子様は向かって右側の通路に、引率の方はそのまま真っ直ぐ、階段をお上がり下さーい!」
どうやらここで分かれるらしい。
14歳とだけあって、保護者と離れて泣き出すものはいなかったが、不安の表情を見せる子供は多々いる。
当然と言えば当然であろう。
何故なら、この検査の結果次第で自分のこれから先の人生が変わる。そんなとても大事な検査の時に、そばに居て安心出来る家族がいないのだから。
しかし、ひまりに限って言えば、全く問題なかった。
「では、一旦ここでお別れですね」
「ん、」
「それでは魔法適性検査、頑張って下さい」
「うぃ、頑張ってきます」
ひまりは椿と分かれるとあっても全くのいつも通りであり、そこに不安や緊張は見られなかった。
こういう大事な場であっても、ひまりは緊張しない。
いや、それどころがひまりは自分自身に起こるあらゆる物事に対して恐怖を感じないのである。
いわば一種の感情の欠落である。
恐怖心が無いからそれに繋がる不安を感じない。そして、不安を感じないから、そこから発生する緊張がない。
故にひまりは他の同年代の子供達が大なり小なり魔法適正検査に恐怖、不安、緊張を抱えている中、何も気負う事なく自然体でいる事が出来るのだ。
ちなみに自分自身というのは、他者に関する物事には感情が動くという意味である。
昔、家で飼っていたサワガニが死んだ時は落ち込んでいたし、衰弱していた犬(後の白玉)を発見した時は、ちゃんと回復するか心配していた。
この事をあかねと椿は勿論知っている。
故に椿は分かれるとあってもひまりの精神面での心配はしていなかった。
こうしてひまりは椿と別れ、他の子供達と一緒に右側の通路へと進み、椿もひまりの後ろ姿を見届けた後、階段を上っていったのだった。
ひまりは通路を進んでいく。
周りには同じく適正検査を受ける子供達がいた。
するとその中に、体が震えている男の子を発見した。
ひまりはどうしたのか気になり、その男の子に声をかける。
「ねぇ、君」
ひまりに声をかけられた男の子はひまりの方を向き、目を見開く。
「え、えっと君は?」
「私、下野 ひまり……。はじめまして」
「は、初めまして。僕は天式 剣磨」
「ケンマかー。よろしくです」
「よ、よろしく。え、えっと……」
剣磨はいきなり話しかけてきたひまりに何を言ったらいいのか分からない様であった。
「ぶるぶるしてたらかどうしたのかなと思って」
「!…………僕、震えてた?」
「ん、ウサギさんみたいに」
「ウサギ………」
どうやら剣磨自身、自分が震えていた事に気付いていなかったらしく、驚いた表情を見せる。
しかし、次には顔を真っ赤にした。
震えているのを同い年の異性に見られたのが恥ずかしかったのだ。
「ハハ……恥ずかしい所を見られちゃったね」
「なにか、不安でもあるの?」
「……君には関係ない事だよ」
剣磨はひまりから目をそらし、そう言って突き放す。
ただでさえ震えている事を指摘されてしまったのにその震えている理由まで教えるなど、恥の上塗りだと剣磨は思ったのだ。
しかし、ひまりも簡単には食い下がらない。
「お母さんが言ってた。悩みは人に話すと楽になる事があるって。確かにケンマとは今会ったばかりだけど話くらいは聞いてあげられる」
「下野さん………」
剣磨はひまりの言葉を受けて少し考える。
そして、
「うん、そうだね。それじゃあごめんけど、少しだけ話、聞いてもらってもいいかな?」
「ん、ばっちこいです」
剣磨は話す気になった様である。
「まぁ、悩みといってもそんな大層なものじゃなくて、ここにいる皆んなが感じている物だと思うんだけど、」
「うん」
剣磨は一度前置きを入れて話を始める。
「僕、この魔法適正検査で不適正になるのが怖いんだ」
「ふむふむ」
「僕の家、天式家っていって、代々優秀な魔導士を輩出している家系で、僕はそこの跡継ぎなんだけど、」
「ほうほう」
「もし、僕がこの魔法適性検査に落ちたら、家の名前に泥を塗る事になる。そして何より……」
剣磨はここで言葉を区切りる。
悩みを言葉にする。
それは己がそのことに対して、不安を感じていると改めて、再認識する行為。
剣磨は続きを言葉にするのが怖かった。
しかし、剣磨は勇気を出し、己が一番不安に感じていることを口にする。
「親に失望されてしまうかもしれない。それがすごく怖いんだ」
剣磨の恥やプライドを捨てた本心の言葉。
それを聞いてひまりはーー
「なるなる」
そう言った。
「………あの、ちゃんと聞いている?何?なるなるって」
剣磨はジト目でひまりを見る。
「なるなるは成程のふむふむバージョンです。」
「いや、初めて聞いたよ」
「それよりも今はケンマの事。勿論真剣に聞いてる。そしてケンマの話を聞いて、思った事がある」
「何を?」
「………正直にいっちゃってもいい?」
「………うん」
ひまりの深妙な雰囲気に、剣磨は少し緊張する。
「私がこう思いました」
(ゴクリ………)
「これはイチ中学生が、何かアドバイスできるような問題じゃないと!」
ひまりは腕を組み、ドン!という効果音が付きそうなほど堂々とした態勢で、そう言い切った。
「…………………………」
「正直、なかなかに重たい話で、何て言ったらいいのか皆目見当もつきません」
剣磨は、壮絶な肩透かしを喰らった気分だった。
しかし、ひまりは「話を聞いてあげる」と言っただけで、「アドバイスをする」とは言っていない。
怒るのは筋違いだなと思い、剣磨は気持ちを落ち着ける。
(ん?)
だが、気持ちを落ち着けたその時、剣磨は話す前と比べて、自分の気分が幾分か楽になっていることに気付いた。
(不安の原因が解消したわけじゃないのに、どうして?)
そこで、剣磨はひまりの言葉を思い出す。
(なるほど。確かに下野さんの言う通りだ。悩みを誰かに相談する――たったそれだけのことなのに、気分が少し楽になった)
剣磨は、何ヶ月も前から魔法適性検査を行うこの日が来るのを恐れていた。
そして、その不安をずっと誰にも相談できずにいた。
だが、ひまりにその不安を打ち明けたことで、ひとりで抱え込んでいた苦痛が、少しだけ解放されたのだ。
(これは、ちゃんとお礼を言わないとね)
剣磨は、ひまりに話を聞いてもらったお礼を言おうと口を開く。
「下野さん――」
「でも!」
しかし、それよりも先に、ひまりが言葉を続けた。
「私、何もアドバイスはできないけど、やれることはまだあります」
「ん? やれること?」
「……ケンマ、友達になろ」
「え!?」
あまりにも唐突な申し出に、剣磨は驚きの声を上げる。
だが、ひまりは構うことなく言葉を続けた。
「ケンマの不安、今の私じゃどうにもできない。でも、不安や悩みを、いつでも聞いてあげられる友達にはなれる」
「…………」
「今の私じゃ、まだ何もアドバイスできないけど、友達になって、たくさんお話して、もっとケンマのことを知ったら……今度は、ちゃんとアドバイスもしてあげられる……たぶん」
「…………」
「だからケンマ、友達になろ」
そんなひまりの突然の友達への申し入れ。
これに剣磨は――
「…………うん。こちらこそ、お願いします」
少し恥ずかしそうに、ひまりからの友達への誘いを承諾した。
「ん、よろしく。それじゃあ……はい」
ひまりは剣磨に右手を差し出した。
「この手は?」
「友達になった証に握手」
「え!?」
剣磨は驚きの声を出す。
「?、何を驚いているの?」
ひまりは首を傾げる。
「い、いや、だって僕、女の子と手を握った事なんてーー」
剣磨は顔を赤くし、しどろもどろに答える。誰が見ても分かるくらいあたふたしており、初々しい反応であるのだが、残念ながらひまりにはどうしてあたふたしているのが理解できなかった。
「ケンマ、変なの…………それじゃあ」
「え!?」
ひまりは左手で剣磨の右手を掴むと、そのまま自分の右手に持っていき、そして半ば無理やり握手をした。
「あ、」
「これで友達」
ひまりは握手したまま手を上下にブンブンと振る。
こうして、ひまりと剣磨は友達になった。
「あの、もう手を離してもらっても……」
元々赤くなっていた剣磨の顔はさらなは真っ赤になっており、頭から湯気が出そうになっていた。
「?ケンマがそう言うなら」
ひまりは剣磨が顔をトマトの様に真っ赤にさせている事を不思議に思いながらも、手を離す。
剣磨はホッとした様な、それでいて少し残念そうな顔をした。
ひまりは握手をした後、すぐ次の行動に移る。
「ケンマ、携帯持ってる?」
ひまりはカバンからを取り出してケンマに聞く。
「携帯?持っているけど、」
ケンマはポケットから携帯を取り出す。
現在ーー魔皇歴2050年では中学生にもなると、携帯を持っているのは当たり前なのである。
「じゃあ連絡先、交換しよ」
「え、連絡先?」
「ん、連絡先が分からないとお話できない。ホントは直接会ってお話ししたり、遊んだり出来たらいいんだけど、残念ながら私の家、山奥にあるから」
「あ、そうなんだ」
剣磨はこれからも普通に会えると思っていたので、少しショックを受ける。
剣磨はこの近くに住んでおり、勝手にひまりもこの辺りに住んでいると思っていたのだ。
(よくよく考えたら魔法適性検査場は全国にたった10箇所しかないんだから、そりゃあ遠くから来ている人の方が多いよね。)
「………山奥って事は下野さんのお家は田舎?」
「ん、しっかり田舎です。良く言えば緑に囲まれてて、沢山の小鳥のさえずりが聞こえて、夜は満天の星空が見える自然豊かな場所。悪く言うと自然と田んぼ以外何もなくて、何処に行くにも時間が掛かる。そんな場所です。皆さんも是非きてください」
「何でご当地PR?というよりそれ、悪い所言ったらダメでしょ」
「む、ついうっかりホントの事を」
「………何で僕がこんなツッコミを」
剣磨は思わずため息を出す。
しかし、それはひまりの言動にツッコミを入れられる位に心に余裕が出来たという事でもある。
「いや、今はその事は置いといて、そういう事なら連絡先、交換しよう」
ひまりと剣磨はお互いの連絡先を交換する。
「やった。ケンマの連絡先ゲットだぜ……。嬉しい」
ひまりの住んでいる村は人口が少ない上に少子化で子供が殆どいない為、数人の友達と知り合い、そして家族の連絡先位しかひまりは持っていなかった。
その為、連絡先リストに新しい友達が登録された事がひまりには嬉しかったのだ。
しかしーー
「いや、嬉しいって、そんな無表情で言われても」
残念ながら、先程初めて出会い友達になったばかりの剣磨にはひまりの喜怒哀楽の喜の感情を読みとる事が出来なかった。
こればかりは年月を重ねないと分からない事なので仕方がない。
「むぅ。ホントに喜んでるのに」
ひまりは頬を膨らます。
「でもまぁ、これで今度から下野さんと連絡が取れるね」
「…………」
「下野さん?」
ひまりは剣磨をじっとみる。
剣磨は心なしかひまりが少し不機嫌になっている様な気がした。
そして、それは当たっていた。
「ケンマ。私ひまりって呼んでほしい」
「え?」
「下野さんはなんか他人行儀でイヤ」
ひまりは剣磨に苗字で呼ばれていた事に少し機嫌を悪くしていたのだ。
「わ、分かった。じゃ、じゃあ……ひまりさんで」
剣磨は少し気恥ずかしそうに言う。
しかしひまりはまだ納得しない。
「さん付けなくていいよ」
「いや、いきなり呼び捨てで言うのは……」
剣磨にはまだひまりを下の名前を呼び捨てで呼ぶ勇気は無かった。
「……………」
「ほ、ほら、まだお互いの事何も知らないし、もっと関係性深めてからでも遅くはないかなって思って」
剣磨は慌てた様にそう言葉を継ぎ足す。
「むぅ、仕方ない」
ひまりは渋々ではあるが納得をし、それに剣磨はホッと胸を撫で下ろした。
ーーと、そんなそんな二人が話をしていた時。
「おうおう、剣磨!何女の子とイチャイチャしてんだ!?」
大声でそう言いながらこちらに近づいてくる者が現れた。
「ッ………和重」
剣磨はその声をかけてきた男を見ると嫌そうに顔を顰めて、そう呟いた。
剣磨に和重と呼ばれた男はひまりや剣磨と同い年の中学生であった。
茶髪で吊りあがった目をしており、両手をズボンのポケットにいれ高圧的な雰囲気を辺りに出していた。
「この人誰? 剣磨の友達?」
ひまりが剣磨に尋ねる。
しかし、その質問に答えたのは剣磨ではなく、和重だった。
「俺の名前は夜式 和重。名門 夜式家の跡取りだ。剣磨とは中学1年からの知り合いだが、友達かと聞かれたら、違うな」
そう言って、和重と名乗った彼は、友達であることを否定した。
「友達じゃないの?」
「ああ。コイツは生意気にも家柄こそ俺と同格だが、それ以外はすべて俺より格下だ。運動、勉学、社交性、度胸、何もかもがな。そんな奴とどうして俺が友達にならなきゃならないんだ?」
和重はそう言うと、見下した目で剣磨を見る。
「ッ!黙れ」
剣磨は強めの口調で反発するが、目は和重から晒し、下を向いていた。
そんな剣磨を和重は嘲笑う。
「ハハ!黙らせてみろよ……出来るもんなら」
和重は一歩前にでて、剣磨の前に立つ。
「!」
剣磨はそれだけで一歩後ずさった。
和重はそんな剣磨を鼻で笑う。
「フン。まぁ、今日用があるのはお前じゃない……。用があるのは君だよ」
和重は剣磨からひまりに向き直る。
和重は高校生と言われても違和感がないほど、体格がよく、身長も高い。必然的にひまりを見下ろす形になった。もし相手が普通の女子だったら、怖くて震えていただろう。
「えっと、君、名前は?」
「下野 ひまりです」
「ひまりちゃんか。君、運がいいぜ」
和重は突然、そう意味の分からないことを言い出した。
「運?」
ひまりは首を傾げ、頭の中に「?」を浮かべる。そんな彼女に、和重はニヤリと笑いながら言った。
「ああ、運だ。なんたって、この俺にお目にかかれたんだからな!」
「……………」
辺りに静寂が流れる。
周囲にいた子供たちは「何言ってんだコイツ」という目で和重を見つめる。しかし、本人はまったく気にする様子もなく、そのまま言葉を続けた。
「さっきも言ったが、俺は夜式家の跡継ぎ。つまり、この国の魔法界隈に大きな影響力を持つ由緒ある名家の次期当主だ。そして当然、そんな俺に寄ってくる奴らは星の数ほどいる。学生だけじゃないぜ。教員や企業の重役、果ては大物政治家までな」
「ふむふむ」
自慢げに語る和重に、ひまりは軽く相槌を打つ。
「だが、そんな中で俺と実際に関係を持てるのは、ごく一握りの人間だけだ。そいつらは俺の家と同じくらいの名家の子息だったり、大企業の御曹司だったりする。いわば、俺が”つるむに値する”と判断した奴らだ。そして、そんな連中を集めて、一つのグループを作っている。ほら、クラスにもあるだろ? 仲のいい奴らだけで集まるグループが。それの上流階級版みたいなもんだよ」
「ほうほう」
「でだ。俺はそのグループにひまりちゃんも入れてやるって言ってるんだよ。これはすごいことなんだぞ? 大した家柄でもない奴が、俺のグループに入るなんてさ」
和重は、ナチュラルにひまりを見下した。それを悪いことだとすら思っていない様子だった。
ひまりはただ相槌を打つ。
「なるなる」
「もちろん、この誘い、断るわけないよな?」
そんな言葉に、ひまりは……
「ごめんなさい、お断りします」
そう言って、ちょこんと頭を下げた。
「……………」
二度目の静寂が流れた。
和重は、まさか断られるとは思っていなかったのか、ニタァとした笑顔を貼り付けたまま固まる。
「プッ。」
会話を聞いていた一人の男の子が、思わず吹き出した。
和重がその男の子を鋭く睨むと、彼は慌てて駆け足で逃げていく。
和重は視線をひまりに戻し、
「はは、悪い……。ちょっと何て言ったのか分からなかった。もう一度言ってくれ」
断られたことを認めたくないのか、もう一度ひまりに問い直す。
「お断りしますと言いました。もういい?」
しかし、ひまりの答えは変わらない。
彼女は、話は終わったと言わんばかりに和重から離れようとした。
「まあ、待てよ」
だが、聞き間違いではないと分かっても、和重はまだ食い下がる。
和重はどうしてもひまりを自分のグループに入れたい様である。
実は、和重、
ひまりを一目見た瞬間から完全に心を奪われていたのだ。
しかし、それも無理はない。
実際、ひまりは誰が見ても分かるほどの美少女なのだ。
先ほどのひまりと剣磨の会話の時も、周囲の男の子たちはもちろん、女の子たちまでもが思わず立ち止まり、その儚げなくも可憐な姿に目を奪われていた。そのせいで、通路の流れが一瞬滞っていた程だ。
そんなひまりであるからこそ和重は絶対に自分のものにしたいと思っていたのだ。
「どうやら、ひまりちゃんは俺のグループに入るって事がどういう事か分かってないみたいだな。いいか?俺のグループにいるのはさっき言った通り、上流階級の奴らばかりだ。だから、そのグループに入っておけばいろいろと特がある」
「特?」
「そう!例えば、上流階級の人間だけしか招待されない社交パディーに参加出来たり、遊園地、映画館、スポーツセンターといったレジャー施設や高級ホテル、レストランに無料でいける」
「おーー」
和重の説明を聞いて、ひまりは驚きの声を出す。
そんなひまりを見て和重は手応えを感じる。
「な、凄いだろ?他にも一般人じゃ出来ない事が俺たちのグループに入ったらたくさん出来る。だからもう一度チャンスをやる。これを聞いても俺のグループに入らないっていうのか?こんなチャンス今後絶対になーー」
「お断りします」
今度は和重が喋り終える前にひまりは断った。
「……何で断るんだ。拒否する理由なんで何処にもないだろ?」
和重は貼り付けていた笑みを消し、顔を歪め、高圧的な態度でひまりに聞く。
それにひまりは全く怯む事なく返した。
「理由は二つ。一つは君がケンマをバカにしたから」
「!」
ひまりと和重のやりとりを横で黙って聞いていた剣磨はそれを聞き驚く。
そして驚いている剣磨に反し、和重は顔を歪める。
「………こんなビビりをバカにされたくらいでこの俺と関係を持てるチャンスを捨てるのか?」
「うん。だってケンマは私の友達だから」
「理解できねぇな。どう考えてもこんな一緒にいてもなんの特にもならない奴より俺と一緒にいた方が遥かに有益だろ?」
「そこ」
「あ?」
ひまりは和重にビシッと効果音が付きそうな感じで指をさした。
「お母さんが言ってた。友達っていうのは損得勘定を抜きにして一緒にいてくれる人の事を差すんだって」
「……何だと?」
「君のお話を聞く限りじゃ、そのグループっていうのは、お友達として、集まってはいない感じがする。だからそのグループに入っても私、いくら楽しい場所に沢山行くことが出来ても、楽しむことが出来ない気がする。それが二つ目の理由」
和重はそれを聞き、唖然とした。
何故なら、友達の考え方が自分と全く違っていたからだ。
和重にとって、友達とは自分にとって、いかに有益かどうかで決まっていた。
しかし、ひまりは友達というものについて、自分とは真逆と言ってもいい考えを持っていた。
途方もなくかけ離れた友達という定義の考え方の差。
そして、その差がそのまま友達になる事が不可能だと告げていた。
「だがそうすると、コイツがひまりちゃんの言う、友達に相応しい確証なんて何処にもないだろうが。だって、お前らもついさっき会ったばかりで互いの事何も知らねぇんだろ?」
和重は話の主軸を剣磨に変える。
理由はただの嫉妬。自分がひまりに友達になれないと言われたのに、自分より全てにおいて遥かに格下である剣磨がひまりと交友を結んでいる事が許せなかったのである。
「確かにケンマの事はまだ何も知らかい……。でも、これは勘だけどーー」
「……………」
「ケンマはきっと良い人だよ」
「ひまりさん………」
剣磨は感動した様にひまりな名前を呟く。
だが、その返答が面白くないのは和重である。
「チッ。回りくどい説得は止めだ。この俺が来いといってんだ!しのごの言わず俺の所へ来い!」
和重はひまりの腕を掴もうとする。
しかし、その手がひまりに届くよりも先に剣磨が和重の腕を掴んで阻止する。
「……剣磨。なんだ?その手は?」
「そ、それはこっちのセリフだ。ひまりさんに手を出すな」
「ハッ!ザコの分際で粋がってんじゃねぇよ!それともなんだ?いつもの様にぶん殴られたいのか?」
ビクッ!
剣磨は体を震わす。
(怖い……)
心の中でそう呟く。
心臓はバクバクと音を立てており、逃げたい衝動に駆られる。
当然であろう。
昔から和重にいじめられ、植え付けられた恐怖は簡単に払拭出来る物ではない。
(でも!)
それでも、剣磨は掴んだ和重の腕を離さない。
そして、その瞳は先程とは違い、和重をしっかりと見返していた。
(こんな臆病な僕と友達になってくれたひまりさんを助ける勇気もなくて、ひまりさんの友達を名乗って言い訳がない!)
そう心の中で叫び、剣磨は恐怖をなんとか抑えて込んだ。
そんな脅しても手を離さない剣磨に和重も苛立ちが限界に達した。
「ふん。あくまでも離さないか。いいぜ。だったら望み通りぶん殴ってやるよ!」
和重は掴まれていない方の腕を振りかぶり、剣磨目掛けて振り下ろす。
「ケンマ!」
ひまりが叫ぶ。
剣磨も殴られる覚悟をし、目を瞑った。
しかし、和重の拳が剣磨に当たることはなかった。
何故ならーー
最後までお読みくださりありがとうございました!




