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星転の皇女  作者: 河蛙
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02 魔法の世界

 説明が遅れたがこの世界は魔法が存在する。

 もっと言うと、魔法と近代化学という相反する二つが奇跡的に合わさった世界なのである。


 400年程前までは魔法と化学は相反するものとして、何度も対立をし繰り返してきたが、近代では、『魔法と化学を統合する事により、更なる人類の発展を』というのが主流の考え方となってきている。

 特にひまりがいるこの()()()()では、その考え方が国家方針の一つとなっている為、他の国と比べても、魔法が身近なものとして存在しているのだ。


 しかしその魔法、誰しもが使えるかと問われるとそうではない。むしろ、使えない人の方が大多数である。

 魔法を使うには魔力がいる。

 しかし、誰しもが魔力を持っている訳ではない。その為、産まれた子は皆、魔力の有無、そして魔力があった場合の魔力量を調べる『魔力有無検査』と『魔力量測定検査』を産まれたその日に受けるのである。

 そう。()()()の人生のターニングポイント、それは産まれたその日に訪れるのである。


 当然ひまりも生まれたその日に検査を受け、そして、()()()()()の認定を受けた。

 そして今日。

 14歳の誕生日を迎えたひまりは魔力保持者のみが受ける検査、魔法適正検査を受けるのである。


  魔法適正検査とは魔力を持つ者の中から魔法を使う適正がある者を見つけ出す試験である。


 魔力が無ければ魔法は使えない。

 しかし、魔力を持っていれば魔法を使えるかと言うと、また話が違ってくる。


 魔法は使用する者の才能に大きく左右される。

 当然、努力と鍛錬は必要であるがそれ以上に魔法とは才能の世界なのである。

 魔力を持っていても才能がゼロであれば魔法は全くと言っていいほど使えない。

 その才能の有無を調べるのが今回ひまりが受ける魔法適正検査なのである。

 

 「勿論知ってましたよ。」


 「なぬ、知ってたのに、知らないふりしてたとは……。さすが椿ネェ、私はまんまと椿ネェの手のひらで踊らされてたと。」


 「踊らせたつもりは無いのですが、すいません。少し、揶揄ってみようかと思いまして。」


 「ムーー。」

 

 ひまりは頬を膨らます。


 「それよりも、今日は私がひまりさんの保護者として魔法適正検査に同伴します。検査を受ける施設まで少し時間が掛かりますので、8時半にはコチラを出る予定です。ですので、それまでに身支度を済ませて下さいね。」


 「ん、アイアイサー。」


 ひまりはシャキンと敬礼をする。

 椿は敬礼のポーズをとるひまりを微笑ましく感じながらも、頭の中では今日行われる、魔法適正検査の事について考える。


 (遂にこの日が来てしまいましたか……。いずれ訪れることは分かっていましたが、いざその時を迎えると、やはりいつものように平静ではいられませんね。)


 椿は表面上、いつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべていたが、その内心では、僅かに緊張の色を滲ませていた。


 現代魔法社会において、魔力保持者の認定を受けた子供を持つ親が皆等しく緊張をする日――それが、魔法適性検査の日であると言われている。

 理由は魔法適性検査の結果でその者の人生は良くも悪くも大きく変わるからである。


 もし、この検査で適性ナシと判断されれば魔道士(魔法適性検査に合格し魔法が使えると判断された者)になる事は出来ず、魔法そのものに直接関わる機会は殆どなくなり、魔力を持たない者と同じ人生路を歩む事となる。


 逆に「適性アリ」と判断された場合――

中学卒業後、()()()()()()()()への進学が義務付けられ、以降は魔道士としての道を歩むことになるのが一般的だ。


 この世界では魔法が当たり前に存在しているが、魔道士の数は決して多くない。

 その希少性ゆえに魔道士の価値は極めて高く、各国の政府機関や軍事組織、民間企業、魔道士ギルド、宗教団体、さらには裏社会に至るまで、あらゆる組織・団体が彼らを求めているのだ。


 故に、魔道士であるというだけでそれ自体が一種の資格となり、非魔道士と比べて求職面・給与面・社会福祉面など、あらゆる面において高いアドバンテージを得ることができる。

 また、「魔道士特権」と呼ばれる、魔道士のみが行使できる特別な権利も存在する


 何処かのリサーチサイトによると嘘か誠か、魔道士の平均年収は軽く1千万を超えるとか。


 とにもかくにも、そんな誰もが羨むような存在、それが魔法士なのである。


 ゆえに、自らの子供が魔道士になれる可能性があるならば、その親が魔法適性検査の結果に固唾を呑むのは当然のことだろう。


 自分の子供に幸せな人生を歩んで欲しいと思うのであればその最たる近道が魔道士になる事だからである。

 また、自分の子供が魔道士になる事で間接的にその恩恵を得られるという考えも少なからずは存在するのだろう。


 だが――


 椿が抱える緊張は、そのような一般的な親たちのものとは、根本的に異なっていた。


(……ひまりさんは、他の者たちとは違い、少し()()ですからね。ひまりさんには申し訳ないのですが……できれば、不適正になってほしいものです。)


 椿は、ひまりに出来る事なら魔道士になって欲しくないと思っているのである。


 そう。

 椿が抱えている緊張は〝魔道士になってほしい〟という期待からではなく、〝魔道士にならないでほしい〟という願いから生じていたのだ。


 普通、魔力保持者の認定を受けた子供を持つ親(厳密には椿は親ではないが)が魔法士になって欲しくないと思うなどまずない。


 なのに椿がなって欲しくないと思うのには前述で述べてる様にひまりが他の子供達とは違って特別である事に起因する。


 その特別であるがゆえに、椿はひまりに申し訳なく思いつつも、魔法適性検査の結果が「不適正」であることを願っていた。

 そして――その思いは、椿だけのものではなく、あかねもであった。


 あかねは玄関ではいつも通りに振る舞っていたが、心中は穏やかではなかったのだ。

 本当なら今日、あかねも椿と一緒にひまりの魔法適正検査に同伴する予定だった。

 しかし、前日になって、緊急の仕事が入ってしまった。


 最初、あかねはその仕事を無視して、ひまりの方を優先しようとしていた。

 しかし、あかねは一大企業の幹部とも呼べるポストに着いている。

 彼女が関与する仕事の一つ一つには、億単位の金銭が動くのだ。


 そんな立場の人間が、緊急案件を無視するなど許されるはずがなかった。


 椿と秘書の必死の説得の末、なんとか折れさせたものの、あかねの機嫌が悪いのは明らかだった。

 今日一日、彼女は不機嫌なオーラを隠すことなく社内に撒き散らすことだろう。


 (……まったく、あかね様には困ったものです。)


 椿は昨夜の長時間に渡る説得を思い出し、嘆息する。夜通しに渡る説得だった為、正直寝不足であった。


 (まぁ、あかね様の事は置いといて、今はひまりさんですね。)


 椿は思考を切り替える。


 (ひまりさんには魔道士になってほしくない――それは、あくまで私の個人的な願望。

いくら願ったところで、適性検査の結果が変わるわけではありませんからね。)


 むしろ――


 (そこに気を取られて、()()に支障をきたすことがないようにしなければ。)


椿には、この家に仕えて以来、任され続けてきた二つの職務があった。


 一つはこの家全般の家事。

 そしてもう一つがひまりの護衛である。


 (魔法適性検査には何かと()()()がありますからね。ひまりさんに万が一にでも害が及ぶような事がない様、警戒をしないといけませんね。)


 と、

 椿は家政婦の枠を超え、ボディーガードの様な思考をし、ひまりの魔法適性検査への同行に望むのであった。


 そして、魔法適性検査を受ける当人であるひまりは、多少緊張しているのかというと……


 (椿ネェからのプレゼント。わくわく。)


 魔法適性検査の事より、プレゼントの方に興味が持っていかれていたのであった。


最後までお読み下さりありがとうございました!

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