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星転の少女  作者: 川蛙
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星宮 ひまり

 ここは川と山々に囲まれた小さな集落。

 人口は300人程度。

 見渡す限り田んぼが広がっており、まばらまばらに家屋が建っているのだがその家屋も殆どが古き日本を彷彿とさせる作りをした古民家である。

 そして、その古民家の中に一家。

 一際デカい、屋敷といっても差し支えない異彩を放つ家が建っていた。


 ここはその家の2階。

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリ!!


 「んう、ん〜」


 現在時刻は朝の7時。

 セットした目覚ましの音と共にその少女は起きた。

 少女は眠たげな目を擦りながら目覚まし時計を

止め、布団から出る。

 そして、猫がまるまって寝ているイラストのパジャマから犬が駆け回っているイラストの私服に着替え、まだ覚醒しない脳のまま、眠たげな表情で一階へと降りていく。

 

 「あ、おはよう、ひまりちゃん!」


 「おはようございます、ひまりさん」

 

 一階へ降りると、玄関から二人の女性の声が聞こえた。

 一人は、少女ーー星宮 ひまりの母親、

 星宮 あかね(38歳)である。

 あかねは38歳とは思いないほど若く、そして、端麗な容姿をしていた。スタイリッシュな黒のスーツに身を包み、ウエストをかけて絶妙にフィットしたジャケットが彼女の洗礼されたシルエットを際立たせている。長い紅色の髪をゴムで一括りにし、鮮やかな口紅が凛とした表情を一層際立たせていた。

 玄関で靴を履いており、丁度仕事に出ていく所だった見たいである。


 そしてもう一人は、この家でただ一人の家政婦。

中田 椿(30歳)

 あかねほどではないが伸びている髪を一括りに束ねており、少し吊り目が特徴的な黒髪の美人である。明治時代の使用人をイメージさせる様な、和の服装をしており、背筋が真っ直ぐと伸びた立ち姿が出来る使用人の印象を与えている。

 15年前にあかねが何処からか連れてきて、それ以来住み込みで働いている。

 ひまりにとっては物心がつく前から一緒にいる為、歳の離れた姉の様な存在として、慕っていた。

 

 「おはよう・・・お母さん…椿ネェ…。」


 ひまりは眠たげな表情で二人に挨拶を返す。


 「もう!私の事はママって呼んでって言ってるのに!私の事をママ、ママと呼んで抱きついていたひまりちゃんは一体何処に・・・・ってそんな事言ってる場合じゃなかった。ごめんね!今日はお母さん、朝から大事な会議あるの。朝ご飯は椿が作ってくれてるからそれを食べてね」

 

 「分かった・・・・」


 あかりは日本屈指のベンチャー企業で働いている。さらにその中でも重要なポストに就いており、ひまりが起きるよりも早く家を出て行ていき、そして、ひまりが寝た後に帰宅するという事は珍しく無い。


 「それじゃ、行ってきまーすのギュー!」


 「ん、」


 あかりはそう言うがいなやひまりに抱きついた。

 あかりが会社に行く前に抱きついてくるのはいつもの事なのでひまりも戸惑う事なく抱きつき返す。

 ひまりは現在中学2年生であるが、ハグをするのは昔からの習慣みたいなものであり、また精神年齢が同年齢と比べて若干幼い事もあってこういった事に思春期特有の恥ずかしさを覚えたりはしないのである。


 そしてそのまま5秒ほど経って、


 「うん!ひまちゃんチャージ完了!これで今日も頑張れるわ!」


 「それはよかった。それじゃあ行ってらっしゃい」


 「いってらっしゃいませ、あかね様」


 「うん、行ってきまーす!」


 あかねはひまりと椿に見送られると、元気に仕事へ出て行った。


 ひまりは母を見送った後、そのまま洗面所へ行き、そして寝起きの顔を水で洗う。


 「ん、すっきりさっぱり」


 顔を洗ったひまりの顔が洗面所の鏡に映し出される。

 鏡に映ったひまりの容貌はと言うと、まだ中学生らしく若干幼さが残った綺麗というよりかは可愛い顔立ちをしていた。

 しかし、その整った顔立ちは将来、誰もが振り向く美女になるだろうと思わせる容姿であった。

 顔を洗った後なのに瞼が少しだけ下がり、眠たそうに見える瞳が特徴的である。


 ひまりは顔をタオルで拭いた後、寝癖を櫛で直して行く。


 ひまりの髪は銀色の長髪で、首下辺りまで髪が伸びており、それでいて寝癖は至る所にある為、毎日櫛で治すのが大変なのである。


 15分程かけて寝癖を直した後、ひまりは朝ご飯を食べる為、椿のいるダイニングへ行く。


 「椿ネェー、ご飯〜」


 「はい。もう朝食のご用意は出来てますよ」


 椿はテーブルの上に鮭の塩焼き、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、豆腐とワカメの味噌汁、白ご飯、味付けのりといった和のメニューを用意した状態でひまりを待っていた。


 「やったー。シャケだー」


 ひまりは魚の中では鮭が一番好きなのである。椅子に座るとすぐ箸を持って鮭を食べようとする。

 そんなひまりに椿が待ったをかける。


 「ひまりさん、食べる前に『いただきます』をちゃんと言わないとダメですよ」


 「む、私としたことが忘れてた」


 「仕方がないですね。はい、それでは手を合わせて、」

 

 「「いただきます」」


 ひまりは椿と一緒にいただきますを言うと今度こそ、鮭を食べ始める。


 「うまうま。これは舌を巻く美味しさです」


 ひまりは独特な言葉で食べた感想を言う。


 「それは良かったです。早朝魚市場に行ってみた所、運がいいことに脂の乗ったキングサーモンが上がっていましたので。値段は少々お高めでしたが、ひまりさんが美味しそうに食べているお顔を見れたのでそれだけで買った甲斐がありました」


 「おー、ただのシャケじゃなくてキングなのか。道理で脂ののりが違うと思いました」


 ひまりはどんどんと鮭を頬張り、食べ進めていく。


 するとそこに……


 「クゥーン」


 「おー、白玉もいたのか。おはよー」


 鮭を夢中で食べていたひまりの足元に一匹の犬が来た。

 雪の様に真っ白な毛で覆われた子犬だ。

 

 この子犬は数年前にひまりが森で見つけて、拾ってきた犬だ。

 当時、ひまりが連れて帰ってきた時はひどく衰弱していたが、今では完治し、元気に走り回れる様になっている。


 ちなみに白玉という名前はひまりがつけたものである。ひまり曰く丸まって寝ている姿が白玉みたいだったからとの事。


 白玉はひまりの足に頬をさすりつけて何かもの欲しそうな目でひまりを見上げる。


 「白玉もこのシャケが欲しいのか?」


 「ワン!」


 白玉はそうだというように声を上げる。


 「しょうがないな。椿ネェ、白玉にシャケあげても大丈夫ー?」


 「白玉さんにはすでにご飯をあげたんですけどもね。たくさんあげすぎるのは良くないので少しだけですよ」


 「ワン!」


 白玉は椿の言葉を聞いて嬉しそうに尻尾を振る。


 「よーし、よし。そんなに嬉しいか。ほら、シャケだぞー。しかもただのシャケじゃなくてキングだからなー。味わって食べるんだぞー」


 椿はひまりが白玉に鮭を上げる様子を微笑ましそうに見る。

 椿にとって、ひまりは自身が仕える主の一人であると同時に、忙しいあかねに代わり世話をし、ひまりが生まれて間もない頃からずっと見守り続けてきた年の離れた妹の様な存在でもあった。


 「椿ネェ」


 「はい、何でしょうか?」


 ひまりは白玉に鮭をあげ終わると、椿の方に向き直り声をかける。


 「実は今日、私にとって、すごく大事な日です。それが何か椿ネェ、分かる?」


 ひまりはちょっと得意げに、それでいて嬉しそうに椿に質問する。

 ひまりの喜怒哀楽の感情は人並みに以上にあるが、それを感情表現として、顔に出す事は滅多に無い。

 そのひまりが今、誰が見ても分かるくらいにぐらいに嬉しそうな顔をするというのは余程の事である。


 「勿論存じておりますよ。ひまりさん、14歳のお誕生日おめでとうございます。お誕生日のプレゼントはしっかりとご用意していますので、後ほど拝見して下さい」


 そう、3月31日、

 今日はひまりの14回目の誕生日なのだ。


 しかし、椿はひまりが言う特別な日が誕生日の事を指してはいないという事を分かっていた。

 少しひまりを揶揄おうと思い、敢えて知らないフリをしたのだ。


 「プレゼント!!…いや、そうじゃなかった。確かに今日はひまりの誕生日です。プレゼントもありがとうございます。しかし……!今日はそれ以上にもっと大事な事があります。それはなんでしょう?」


 「誕生日ではなく、別に何か特別な事があると。難しいですね。一体何でしょうか?」


 椿は考えるフリをするが答えは既に分かっている。

 というよりも、ひまりが質問をするまでもなく、それが来る事をずっと前から、それこそひまりがまだ0歳だった時から待っていた。

 14歳。それはただ一つ年が上がるだけの話ではない。

 14歳とはこれから先いくつもあるであろう、人生の転換点、その2()()()の起点だからである。


 性別、家柄、は関係ない。

 ()()()()()()()はこの14歳という一つのターニングポイントでこれからの人生が大きく変わる。

 何故なら………


 「ふふん、椿ネェ分からない?正解は

今日、私の魔法適正検査がある日なのでした」


 そう。特定の子供達は皆、14歳というタイミングで、魔法適正検査を受けるのである。


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