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遠野  作者: 雨世界
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 雨はみんなのところに走って行った。

 そして、先生と教室のみんなと一緒に、卒業の記念に集合写真を明るい笑顔で撮った。

 その中には、もちろん水瀬守くんもいた。

「じゃあね、雨」

 気をきかせて、愛はそう言って瞳と一緒に先に中学校をあとにした。

「じゃあ、またあとでね、雨」

 瞳が言う。

 それから瞳は、雨に顔を近づけて小声で「キスしちゃいなよ」と雨に言った。

 雨はこのあと、愛と瞳と一緒に駄菓子屋さんで合流して、それからそれぞれの家族と一緒に近所のお店(お好み屋さん)で、卒業祝いの食事会をすることになっていた。

 水瀬くんの引越しは、卒業式から三日後の予定だった。

「雨」

 背後から、そんな声が聞こえてきた。

 雨がその声を聞いて振り返ると、そこには水瀬守くんが立っていた。

「守くん」

 と、雨は言った。

 雨は水瀬くんの顔を見ながら、大丈夫。ちゃんと練習してきたんだから、と思った。

 水瀬くんは雨のすぐ目の前までやってきた。

 雨はじっと水瀬くんの顔を見る。

 世界は無音。

 二人の周囲に人影はない。

 水瀬くんはいつも通り、真面目な表情をしている。でも、出会ったときほど、その表情は硬くなく、少しだけ柔らかくなったと雨は思う。

 その理由の一つに自分の存在があれば嬉しいと雨は思った。


 それから、愛と瞳が待っている駄菓子屋さんまでの道のりを一人でぼんやりとしながら歩いている間、もうやってくることのない東中学校の庭に咲くたくさんの桜や、大きな川の土手沿いに咲いている満開の桜の木々を見て、……あの日お母さんと見た桜は、本当に、本当に、……世界で一番綺麗だったな。

 と、心の中で雨は思った。(今見ている桜もとっても綺麗だけど)

「雨ー!」

「雨ー、こっち、こっちだよー!」

 駄菓子屋さんの近くまで来ると、そんな愛と瞳の声が聞こえてきた。

「はーい」

 雨は大きく手を振って、愛と瞳の待っているところまで笑顔で、土色の道の上を思わず走り出して、新しい春の中を、小さな子供みたいに駆けていった。


 私は、あなたのことが大好きです。


 遠野 終わり

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