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童話「ミハエルの冒険」

作者: 水橋 詩宇(うたう)

美の伝道師の使命は、神への愛や人々への愛、真理への愛を表現すること。

そこで、短いですが童話として学問の在り方について表現してみました。

 若き王は即位してすぐに家臣を集め、こう言った。「広く世界を見聞し、民を幸福に導くすべを学んでくるのだ。」その家臣の中には、天文博士のミハエルもいた。ミハエルの仕事は、星の動きから天候の変化を読み取り、暦を作り、国家の行く末を占うことだった。王の命を受けて、彼は棒術に優れたグレイドと共に王国を旅立った。グレイドは国内でも指折りの強者で、護衛としての使命を王から直々に授かったのだった。彼らの旅は未知の世界への旅立ちだった。

 実に数か月もの間、二人は砂漠を歩き、海を渡り、ときに仲間割れを起こしつつも旅を続けた。食料がいよいよ尽きかけたとき、夜のしじまに賑やかな音楽が聞こえ、水平線の向こう側が明るくなってきた。二人が砂漠の中を光目指して歩いていくと、そこには驚くべき世界が広がっていた。祖国の城門にそびえ立つオベリスクを雲に届くまで高くしたような建物が無数に立ち並び、赤や白、黄色など様々な色に光り輝いていた。男は髪を肩まで伸ばし、女は髪を頭の上で高く結んで、ユリのように花開かせていた。そして、そこには人間ではない異形の存在もいた。それは遠目には人間のようだが、頭は犬や猫などの動物で、住民たちよりも一回り小さいものや、彼らの倍ほどもある大男までいた。ミハエルは住民に尋ねた。「ここはどこですか。それに、あの不思議な生き物たちは何なのですか。」すると、赤い服を着た男が答えた。「ここは科学の国、サイトリアです。ここでは智慧の神ポンティヌスを信じていて、世界中から優れた科学者を集めています。あなたが見た生き物たちは、クローン技術によって生み出した奴隷たちです。動物の遺伝子に人間の遺伝子を掛け合わせ、人間を超えた能力を与えて働かせています。」ミハエルは聞きました。「彼らも同じ生き物のはず。奴隷というのはかわいそうではないですか。」すると男が答えました。「何を言うのですか。神は人間を万物の霊長として創ったのです。我々は科学技術によって神近き存在になりました。その神の子である我々が、創造した生命を使ってユートピアを創ろうとしているのです。あなただって家畜を食べたりしているでしょう。でも、我々は彼らを食べるのではなく、神の国を創るしもべとして使役しているのです。どちらが人道的だと思いますか。そうだ、ここでは体をサイボーグにすることで、永遠の命と神近き能力を授けています。どうですか、あなたも手術を受けていきませんか。」するとグレイドは「なんだって、永遠の命だけでなく、もっと強くなれるのか。」と言って、男の後についていった。ただ一人残されたミハエルは、次の行く先を星座盤で占おうとしたが、都市の明かりで星々が見えず、何もすることができなかった。

 そこへ一人の少女がやってきて、ミハエルをサイトリアから連れ出し、森の中に連れていった。ミハエルは少女の素朴さに、故郷に残してきた娘の面影を感じていた。森を抜けると小さな村があった。「おや、カレル。珍しいお客さんだねえ。」農作業中の男が手を休め、泥だらけの笑顔を二人に向けた。「わしはカレルの父、バードといいますだ。あなたは・・・」「ミハエルと申します。ある王国で天文博士として仕えておりました。今は旅の途中です。」「それはそれは、長旅で疲れたことでしょう。おーい、エレナ、お客様だ。この方をもてなしてあげなさい。」そしてミハエルはバードの家に案内された。エレナによると、夫のバードはこの村の村長で、サイトリアの思想に共感しない者たちとともに、ここで暮らしているのだという。ミハエルがお茶を飲んでくつろいでいると、農作業を終えたバードとカレルが帰ってきた。「ここには何もありませんがねえ。でも、今は春だ。小鳥の歌声を聞きながら汗を流すのは心地いいものですよ。わしらは人としての本来の心を大切にして生きておる。それはこの春の日差しのように、あのせせらぎの水のように、朗らかで清らかな生き方じゃ。」こうしてミハエルはバードや村人とともに農作業をする生活を始めた。夜は一本の燭台の明かりの中で、王へ報告するための見聞録を書いた。疲れて外に出ると、王国とは違う星空が広がった。北半球の祖国から、はるか南半球まで旅してきたのだ。「そうだ、星座盤を書き換えないといけないな。」すると夜空に一筋の光が弧を描いた。

 やがて春が過ぎ、夏が過ぎ、木の葉も赤く黄色く染まるようになったある日、ミハエルはバードに問いかけた。「バードさん、ここには平穏な暮らしはありますが、何かが欠けているように思うのです。」「何をおっしゃいますか。もともと人間に欠けたるものはない。三日月がまた満ちていくように、魂の本質は満月のまま、はるかなる空を巡っていく。季節もまた同じ。ほら、あの栗の木がたわわに実るのも、すべてあるがまま、神の御心のままに生きておるからじゃ。」「けれどももうすぐ冬になります。北半球の祖国には夏がやってきます。早く娘に会いたい。それに、私には使命があります。そろそろ祖国に戻らねばなりません。」村人たちはミハエルとの別れを惜しんだ。カレルはミハエルの娘に会いたいと駄々をこねていたが、別れ際に、木の実とかんらん石でできたネックレスをプレゼントしてくれた。それはこの世のものとは思えぬほど光り輝いていた。

 こうしてミハエルは、砂漠を超え、海を渡り、再び王国へと帰ってきた。ミハエルは真っ先に家族のもとを訪れ、娘のレイシェルに、これまでの冒険譚を話して聞かせた。レイシェルは、カレルの作ったネックレスを友達に自慢していた。ミハエルは正装に着替えると、馬車に乗って王宮へ向かった。今日は王に報告をする日なのだ。

 王は言った。「ミハエルよ、そなたは実に一年もの間旅をして、見識を深めたことであろう。わが国民のために、その知恵を授けてはくれまいか。」ミハエルは答えた。「恐れながらご報告いたします。私は科学の国サイトリアを訪れました。そこには多くの優秀な人材が集まり、多くの人々が生活し、素晴らしい都市を築いていました。そこに貧困はなく、何一つ不自由はありませんでした。わが国ではいまだ苦しい生活を強いられている人々がいます。彼らを救うためには、わが国も科学技術に力を入れるべきかと存じます。」「ふむ、わかった、そうしよう。」「しかし、サイトリアの人々には愛がありませんでした。彼らは科学技術によって生命を作り出し、奴隷として使っていました。彼らは科学の力で神に成り代わろうとしていました。陛下、文明だけが発達しても、魂なくば不毛なのです。」「そうか。わが国は慈悲の神エローヒムを信じておる。この信仰を守り続ける限り、サイトリアの二の舞にはならないだろう。おい、オルアドス。」「ここに。」「わが国の各都市に、エローヒム神殿を建造せよ。そして、星が巡り、季節が巡るごとに、わが国民を参拝させるのだ。」「承知いたしました。」


 「へえ、そんなことがあったんですね。」光に満ちた教室で、生徒たちの目が輝いている。教師のマリアは生徒たちを慈しんでいる。「そう、これが3000年前の始まりの物語。テストに出ますから、ちゃんと勉強してくださいね。」「はーい。」「先生、サエトリアはそのあとどうなったんですか?」「違うよ、サイトリアだよー。」生徒の顔が赤くなる。「やーい。」やんちゃ坊主のマイケルがはやし立てる。「こら。サイトリアはね、そのあと大きな地震があって、海に沈んでしまったの。これがいわゆる、ノアの大洪水。


人々が「幸福」に暮らせる社会を創るために、人は学問する。

幸福のためには文明を進歩させるために努力することも大切だけど

あの世にいた時の魂の在り方も忘れてはいけない。

この世は魂修行のための学校。

だから、人々がよりよい魂修行ができるように努力すること。


それがきっと、本当の学問。

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