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潤わしの瞳  作者: 椎野守
第一章
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中一秋

 その出来事以来、胸の苦しみは消えること無く続いていた。


 何となく気まずい雰囲気が(ただよ)い、彼女も授業中にちょっかいを出してくることは無くなり、会話も必要最低限という状況が続いた。


 二学期になり、席替えもあって彼女とは離れた席になり、物理的な距離も遠くなってしまった。


 その一方、僕の心の中の彼女の存在は、次第に大きなものとなり、やるせない気持ちを抱えたまま学校生活を送ることとなった。



 秋の運動会が近づき、体育の授業では定番の組体操最下段をいつものように務めながら、同じグラウンドでダンスの練習をする彼女の姿を、自然と追っている自分がいる。


 クラス対抗リレーの練習となり、クラス委員の提案で、足の速い人、遅い人を交互にリレーでつなげば効率が良いのでは?という仮説を立証することになった。


 バトンの受け渡しエリアを最大限に利用して、足の遅い人はエリア先端ギリギリでバトンを受け取り、次の足の速い人にバトンエリア開始すぐの位置でバトンを渡すという作戦である。


 神様は暇つぶしが好きなようで、時に意地悪をするものである。


 どうしてこういう組み合わせになるのか、未だに不明なのだが、足の遅い僕から足の速い「背中トントンの彼女」へと、バトンを渡す組み合わせとなった。


 まずは、前後の走者とバトンの受け渡しのみの練習が行われた。


 リレーの走者順に並び、その場でバトンの受け渡しを行っていく。利き手やクセ等を確認しながら、渡す練習を繰り返す。


 僕と彼女の間には、具体的なディスカッションもなく、無言のまま事務的にバトンの受け渡し作業だけが続いた。


 実際にグラウンドを走りながら、本番同様のリレー形式での練習も行われた。

 足の遅い僕の為に、走行距離が最も短くなるように、バトンエリアで待つ彼女にバトンを渡す。


 彼女は、ギリギリまでスタートを遅らせて、僕が走る距離を極限まで短くするよう、意識してくれていることが伝わってくる。


 クラス委員が思い付いた妙案(みょうあん)は、思惑通り効果的であったし、クラスのみんなも、勿論彼女も、その思惑を最大限生かすために、協力して行動している。


 クラスとして、良い結果を残すために、全員が一丸となって取り組んでいる。


 能力的に劣る者を、有能な者がカバーする。とても素晴らしいチームプレーだ。助け合いの精神。感動的である。


 正直、色々なものが、僕の中で限界だった。


 優しさが、なにより彼女の僕に対する気遣いが、僕の心を押しつぶしていく。


 不甲斐ない自分を呪った。ただただ、情けない。そんな思いでいっぱいだった。


 クラス対抗の運動会は、7クラス中4位くらいだっただろうか、しごく平凡な成績だった気がする。正直よく覚えていない。


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