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潤わしの瞳  作者: 椎野守
第一章
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中一初夏

 授業中、またいつもの様に肩をトントンとたたかれた。


 先日は、背中に指で平仮名を書かれたばかりである。その時は、全神経を背中に集中させて、その指文字の意味するところを読み解くことにした。


 彼女の指先が書き(しる)すその平仮名は、僕の下の名前を書いているということに途中で気が付いたので、書き終わった段階で後ろは振り向かず、前を向いたまま頭をコクリと下げて、返事をするような仕草をしてみせた。


 不思議と彼女の指先の感触は、書き終えた後もずっと背中に残り続けているような気がして、耳元で僕の名前をささやかれたような、そんな感覚に近いものがあった。


 肩をたたかれた瞬間、「また来たな」という思いがあった。そのため、特別リアクションをせず、様子を伺うことにする。すると、今度は反対側の肩をトントンとたたいてきたので、「そう来るんだ」と思いながら、これも見送ることにした。


 左肩、右肩、また左肩と交互に肩をたたいてくる彼女。いつまで続くのかな?と思いつつも、五回目くらいにトントンとたたいてきたタイミングを見計らって、さすがにリアクションしようと思って振り向くことにした。


 変にもったいぶったせいもあり、不意にいつもよりリアクションが大きくなってしまった。おかげで、お約束として普段ならほっぺに突き刺さるはずの彼女の指先が、不覚(ふかく)にもいつもより顔の中央付近、僕のくちびるのあたりに接触してしまった。


 僕はビクッとなって、すぐさま正面に向き直り、平静を装う。


 彼女の手も、いつになく素早い動作で引っ込められるのを感じた。


 平静を装ってはいるものの、内心ドキドキが止まらなかった。


 そもそも、授業中に出されるちょっかいを受け入れてしまっていることに対して、少なからず罪悪感のようなものを抱いてはいた。

 けれど、この時は違った意味でも悪いことをしているような気持ちになり、しばらく動けずにいた。


 程なくして彼女が、僕の肩ではなく背中をトントンとたたいてきた。

 僕は直前の出来事に思考が停止してしまい、身動きが取れなくなっていた。


 それでも、そのトントンがいつもの感触と全然違って、なんとなく「ごめんね」と言っているような、そう伝えているように感じていた。


 でも一方で、「普通のトントンだよ。いつものやつだよ。別になんとも思ってないよ」という感じにも受け取れた。


 そう思うと、急に胸が苦しくなるのを感じていた。


 それが、最後のトントンとなった。


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