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潤わしの瞳  作者: 椎野守
第一章
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中一春

 僕の生まれ育った町は、小さな田舎町である。しかし、古くから温泉が()いていたこともあり、観光業を中心とした産業も、多少は発展していた。人口もそれなりに多く、小学校は町内に数か所存在している。


 つい先月まで、僕も家から一番近い小学校へ通っており、無事卒業を迎えることができた。

 一方、中学校は町内に1つしか存在していない。そのため、各小学校を卒業した生徒たちは、その1つしかない中学校へと集結(しゅうけつ)する形となる。


 小学生時代を知らない新しい同級生たちとの出会いが、中学校生活と同時にスタートすることになるのだ。


 部活動や趣味が同じという理由で、気の合う者同士が意気投合し、新たな友人関係を築き上げていったりするものである。


 しかし、やはりこういった状況で、一番初めに仲良くなるきっかけというのは、席が隣同士であるとか、出席番号が1つ違いであるとか、そういった物理的に近距離での学校生活を送っていくことによる親近感といったものが、もっとも一般的のように思われる。


 僕の後ろの席に座る女生徒も、そういった一般的な理由をきっかけに、僕に親近感を覚えてくれたのであろう。


 僕もまた(しか)りである。


 席替えという、半ば強制的に指定された座席へ毎日着席しなければならないという状況は、彼女からしてみれば、登校から下校までの間、僕の後頭部や背中を、嫌がおうにも毎日見せられるということである。


 授業中に(ひま)を持て余せば、後ろの席に座る彼女からしてみても、ちょうどいいオモチャみたいなものであって、(ひま)つぶしには恰好(かっこう)餌食(えじき)といったところだったのであろう。


 でなければ、彼女の僕に対する行動を、論理立てて上手く説明することが出来なくなってしまう。


 実際、僕も学校の授業というものが、どれほど(ひま)であるかは、身を持って経験済みである。


 例えば、国語の教科書を席順に指名されて読み進めていくといった状況は、ただ単純にクラスメートが発する、呪文やお(きょう)のようなものを聞くというスタンスで、読み終えるのを待つだけである。


 それこそ暇の真っ只中であり、彼女の暇つぶしスイッチオンの絶好のタイミングなのである。

 そういった状況に()いて、僕は僕なりに、最適解を導き出している。


 簡単に言うとサービス精神、道化(どうけ)(てっ)することで、無用な(あらそ)いや(いさか)いを起こさず、平和な学校生活を遂行(すいこう)することが出来るというものだ。


 状況を受け入れてしまえば良いのだ。


 本心から、心の底からそういった状況を(こころよ)く思っているかと言われると、それは流石(さすが)に嘘をついていることになるのだが、それにはそれ相応の理由というものが、やはり存在するのだ。


 当時の僕は、正直に言って自分に自信が無かった。


 勉強はそれなりにできる方ではあったが、突出した得意教科があるわけでもなく、成績的にも中の上くらい。


 問題は運動面、スポーツに関してはからっきしダメで、走るのは短距離も長距離も苦手。野球、サッカー、バスケなどはもってのほか。

 

 鉄棒とか跳び箱に至っては、ただの地獄である。


 理由は明白で……、まあ、世間一般でいうところの、「デブ」というヤツである。


 幸運にも、それを理由にイジメられるという経験は無かったが、好意を持たれることも少なく、モテるなどという状況からは、かなり遠い位置に存在していた。


 だから、どちらかというと可愛いと思えるような……いや、正直に言うと、とても可愛いと思えるような後ろの席の女生徒から、授業中にちょっかいを出されるというシチュエーションは、降ってわいた幸運という思いで、受け止めることにしていた。


 気まぐれな神様が、暇つぶしをしてくれたのかもしれない。


 彼女はとても明るく、女子の中でも目立つ側の存在だ。男女分け(へだて)てなく友人関係を築いており、僕にとっては太陽のような存在だった。


 これまで、学校に行くのが楽しいなんて一度も思ったことは無かったのに、この頃の僕は、学校へ行くのが心の底から楽しいと思っていた。


 自分では本当に気付いていなかったのだが、前の座席の女子から、

「授業中に普通に鼻歌うたうよね。イメージと違う。なんか……キモイ」

 と、言われたこともある。


 本当に無意識で歌っていたのかもしれない。


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