中学一年生 夏休み
引っ越す前の幼馴染みが、夏休みを利用して遊びに来てくれることになった。ちょうど一年前の夏休み以来の再会になる。
「潤瞳、元気にしてた?」
「メグー、ひさしぶり。遠かったでしょ」
メグは幼稚園の頃からの親友だった。色々なことがあった小学校時代、どんなときもメグは私の味方だった。
「手紙で地図を送ってくれてたから、迷わずにたどり着けたよ」
「よかった。ねえ、上がって。二階が私の部屋なんだ」
「じゃあ、これ、お土産。お母さんから」
メグは、持っていた紙袋を私に差し出す。
「あ、茜ちゃんとこの水羊羹!おかあさんこれ大好きだよ、ありがとう」
「んーと、おばさんは?」
「おかあさん?平日はパート行ってるから、昼間は私だけなんだ。夕方には帰ってくるよ」
「そっか、じゃあ、おじゃましまーす」
一年ぶりの再会だったけれど、メグとは、昨日も一緒に遊んでいたみたいに、以前と変わらず話をすることができた。
少し小麦色に焼けた健康的な体も、スポーティーなショートカットのヘアースタイルも、以前と変わらず、とても似合っていた。
お互い、この一年の間にどんなことがあったのか、披露しあった。
余ほど私のことが心配だったのか、転校当初の私の様子を話しているときは、固唾をのんで聞き入っていた。私の話が小学校から中学校へと移り変わるにつれて、メグの表情が次第に柔らかく、安堵に満ちた表情へと変わっていくのがわかった。
そういった表情で話を聞いてくれることが嬉しくて、中学校に入ってからの話は、思わず身振り手振りも加えながらの熱弁になっていた。
「そっか。安心した。なんか、心配して損したー」
「う、うん、なんかね、優しい人が多いっていうか、のんびりしてるっていうか、そういうのがほんと、凄く助かる」
知らず知らずのうちに熱弁になっていたのが恥ずかしくて、私は両手で顔を仰ぐようにパタパタとしながら、落着きを取り戻そうとしていた。
メグはそんな私の顔を、じっと見つめている。
「ふーん、そっかそっかぁ。それは良かった良かった」
「ほんとにね」
「……それで、好きになっちゃったんだ?」
メグは、今度は横目で私の顔を覗き込むような感じで、そう尋ねてきた。
「んー、うん、好き。なんか可愛いし、温泉とかもあるし、この町」
「あー、はー、そうだね。いい町だよね、ハハー」
メグはズルっと肩を落とした。
「なに?メグ、どうしたの?」
「ん、えーと、そっちじゃなくてそのー、前のそのー、ね、好きなんでしょ」
「ん?好き?何が?」
「だから、前の席の男の子!」
「は?、な、なに言ってんの?意味わかんない!」
「や、意味はわかるでしょ」
めちゃくちゃ冷静なメグの返事がかえってきた。
「ちょーっちょっちょっちょ、ないない、ないから」
「そう?それにしては、熱心に話してたからさ。何かあるのかなーって」
メグは疑り深い目を私に向けながら、半信半疑といった様子である。
同級生の男の子に対して、好きとかそういったことは、まだよくわからなかった。前の席の男子生徒にしても、それほど親しいという感じでもない。不思議な関係といえば不思議だけど。
その日、メグは私の家に泊まっていくことになっていた。メグも一緒に晩御飯を食べて、一緒にお風呂にも入った。私の部屋に布団を並べて、寝る時間が迫っている。部屋の電気を消して、それぞれ布団に横になった。