小学六年生 夏
夏休み最終日の夜、私は登校初日の服装をどれにするか、おかあさんと相談しながら決めあぐねていた。
以前通っていた小学校は、男女とも指定の制服があったので、学校に着ていく服装で悩むという経験が無かった。
おかあさんは、前の学校の制服を着ていけばいいと言っていたが、それは嫌だった。他の生徒は皆私服なのに、私だけ制服というのは悪目立ちしそうな気がしていたし、そもそもその制服が好きでは無かった。
色々迷ったあげく、薄いグレーのワンピースを着て行くことにした。大人しめの印象で、それなりに気に入っているものである。
「明日、大丈夫かな?」
「大丈夫よ、自分らしく素直にしていれば、みんな仲良くしてくれる」
おかあさんの言葉を信じていないわけでは無かったけれど、やはり少し不安だった。
でも、おかあさんの言葉はうれしかった。
翌日から私は、新しい小学校に、転校生として通学を開始した。
担任の先生と一緒に教室へ入り、黒板の前に立って自己紹介をする。テレビで何度も見たことがあるようなシーンの、登場人物になっているようで緊張した。
転校生というのはとても目立つ存在だ。何をするにも注目を集めてしまう。表情、仕草、言葉遣いでどんな性格なのか、品定めをされている気分だ。
私は、努めて明るく快活に振る舞うようにしていた。生まれ持った外見的な要素から、私のことを誤解されるのだけは嫌だった。新しい生活がスタートしたのだから、何も悪い印象を与える必要はない。良い印象の方が、いいに決まっている。自分に言い聞かせて、少し背伸びをした。
土地柄なのか、新しいクラスメート達は温厚でのんびりとした性格の人が多く、私を快く迎え入れてくれた。私の心配は、杞憂に終わった。
ここなら、この町でなら、楽しい学校生活を送れるかもしれない。そう思うと、心が軽くなった。
小学校を卒業する頃には、クラスメートはもちろん、他のクラスにも友達と呼べる人ができていた。
父の転勤をきっかけに、私の学校生活は大きく変わった。
とても、良い方向に。