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プロローグ
小学六年生の夏、父親の転勤をきっかけに、私はこの町に引っ越してきた。
以前暮らしていた町と比べると、色々なものが小さく見えて、とても可愛い町というのが第一印象だった。
町の所々から湯気が上がっていて、今まで嗅いだことのない不思議な臭いが、町全体を覆っている。一般的にはいい臭いとは言えないのかもしれないけれど、私はそれほど嫌いではなく、どちらかというと好きと言っていい臭いだった。
温泉が湧くこの町は、観光業が中心となっているようで、街並みも情緒溢れた古めかしい印象で、何となく心が落ち着く感じがした。
私は、夏休み明けの二学期から、この町の小学校に転入することになっている。とても不安だったけれど、この町の雰囲気はとても暖かみがあって、私の心を後押ししてくれているようだ。
「新しい友達、直ぐにできるかな……」
引っ越しの荷物を積んだ、父の運転する車の後部座席から、流れる景色を眺めつつ、そっと小さく呟いた。