演説会
演説会当日、会場となる体育館は昼休みを利用して、その準備が行われていた。
僕たち一般の生徒は、折り畳み椅子をそれぞれ自分の座る位置に置き、それに着席していった。
壇上では、向かって左手に現生徒会役員、右手に次期候補者用のテーブルが用意され、中央には演説用の台とマイクが設置されている。
彼女も壇上の設営に参加しており、テーブルや椅子の位置を確認しながら調整を行っている様子が見えた。胸にはバッジのようなものを付け、候補者であることを印象付けている。
テーブルの位置が決まると、候補者たちは一度壇上から降り、それぞれポスター用紙を持って再び壇上に上っていくのが見えた。
それぞれの候補者が自分の着席するテーブル前面に、そのポスター用紙を貼り付けていく。彼女も同様にポスター用紙を持って、貼り付ける様子が伺えた。
鼓動が次第に高鳴っていく。
果たして、彼女はどのポスター用紙を貼り付けるのであろうか。僕の作ったポスター用紙を、使ってくれるのであろうか。
テーブルの前にかがむようにポスター用紙を張り終えると、彼女は自分の候補者名が書かれた座席へと、テーブルを回り込むように移動して着席した。
彼女の名を記したその文字は、やや控えめで、他の候補者の文字と比べると、大人しい印象だった。
他の候補者の文字は、カラフルに彩られていたり、書店やスーパーのポップ広告を思わせるものであったり、そのどれもが候補者を強くアピールする出来となっている。
文字を使った候補者の援護射撃として、とても有効な役割を果たしていた。
それに引き換え、彼女の前に掲げられた文字は、一見するとこの場では埋没してしまいそうな出来栄えである。
ただ、これまで彼女がこの生徒会に向けて活動してきた姿勢や、僕の勝手な想像からくる印象を、そのつつましやかな明朝体は、とても正確に表しているように思われた。
候補者のことを、遠慮がちではありつつも、長い時間、近くて遠い場所から見続けてきたという想いが、そこに詰め込まれているようだった。
僕は、体が熱くなるのを感じていた。
使ってくれた。
彼女が僕のポスター用紙を選んでくれた。
決して印象的でも、芸術的でもない、平凡な仕上がりの四文字が、彼女の前に掲げられている。
嬉しいとか、恥ずかしいとか、安心したとか、そういった感情がごちゃまぜになって、言葉では上手く表現できない、不思議な感覚に包まれていた。
使ってくれた。本当にそれが嬉しかった。
僕は彼女に、ようやく恩返しができたような、そんな気持ちを抱いていた。
第一章 了
貴重なお時間を割いて、お読みくださった方々。本当にありがとうございます。心より御礼申し上げます。これにて、第一章、終了となります。
いつの間にやら彼女のことを、本気で好きになってしまっていた。
そんな彼女から依頼されたポスターに、全力で取り組んだ彼。
彼の想いは、彼女に届くのでしょうか。
彼女にとって彼は、どのような存在なのでしょうか。
次回より、第二章。引き続きお楽しみ頂けたら幸いです。
ブックマークを付けて頂きました。本当に嬉しい気持ちになりました。
「ブックマーク1件」の表示を見た瞬間、この小説の主人公と同じ気持ちになりました。
嬉し恥ずかし……うひょー。