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潤わしの瞳  作者: 椎野守
第一章
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演説会

 演説会当日、会場となる体育館は昼休みを利用して、その準備が行われていた。


 僕たち一般の生徒は、折り畳み椅子をそれぞれ自分の(すわ)る位置に置き、それに着席していった。


 壇上(だんじょう)では、向かって左手に現生徒会役員、右手に次期候補者用のテーブルが用意され、中央には演説用の台とマイクが設置されている。


 彼女も壇上(だんじょう)の設営に参加しており、テーブルや椅子の位置を確認しながら調整を行っている様子が見えた。胸にはバッジのようなものを付け、候補者であることを印象()けている。


 テーブルの位置が決まると、候補者たちは一度壇上(だんじょう)から降り、それぞれポスター用紙を持って再び壇上(だんじょう)に上っていくのが見えた。


 それぞれの候補者が自分の着席するテーブル前面に、そのポスター用紙を貼り付けていく。彼女も同様にポスター用紙を持って、貼り付ける様子が(うかが)えた。


 鼓動(こどう)が次第に高鳴っていく。


 ()たして、彼女はどのポスター用紙を貼り付けるのであろうか。僕の作ったポスター用紙を、使ってくれるのであろうか。


 テーブルの前にかがむようにポスター用紙を張り終えると、彼女は自分の候補者名が書かれた座席へと、テーブルを回り込むように移動して着席した。


 彼女の名を記したその文字は、やや(ひか)えめで、他の候補者の文字と比べると、大人(おとな)しい印象だった。


 他の候補者の文字は、カラフルに(いろど)られていたり、書店やスーパーのポップ広告を思わせるものであったり、そのどれもが候補者を強くアピールする出来となっている。

 文字を使った候補者の援護(えんご)射撃(しゃげき)として、とても有効な役割を()たしていた。


 それに引き換え、彼女の前に(かか)げられた文字は、一見するとこの場では埋没(まいぼつ)してしまいそうな出来栄えである。


 ただ、これまで彼女がこの生徒会に向けて活動してきた姿勢や、僕の勝手な想像からくる印象を、そのつつましやかな明朝体は、とても正確に表しているように思われた。


 候補者のことを、遠慮(えんりょ)がちではありつつも、長い時間、近くて遠い場所から見続けてきたという想いが、そこに詰め込まれているようだった。


 僕は、体が熱くなるのを感じていた。


 使ってくれた。


 彼女が僕のポスター用紙を選んでくれた。

 決して印象的(いんしょうてき)でも、芸術的(げいじゅつてき)でもない、平凡な仕上がりの四文字が、彼女の前に(かか)げられている。


 嬉しいとか、恥ずかしいとか、安心したとか、そういった感情がごちゃまぜになって、言葉では上手く表現できない、不思議な感覚に包まれていた。


 使ってくれた。本当にそれが嬉しかった。


 僕は彼女に、ようやく恩返しができたような、そんな気持ちを(いだ)いていた。



 第一章 了


 貴重なお時間を割いて、お読みくださった方々。本当にありがとうございます。心より御礼申し上げます。これにて、第一章、終了となります。



 いつの間にやら彼女のことを、本気で好きになってしまっていた。

 そんな彼女から依頼されたポスターに、全力で取り組んだ彼。


 彼の想いは、彼女に届くのでしょうか。

 彼女にとって彼は、どのような存在なのでしょうか。


 次回より、第二章。引き続きお楽しみ頂けたら幸いです。



 ブックマークを付けて頂きました。本当に嬉しい気持ちになりました。

「ブックマーク1件」の表示を見た瞬間、この小説の主人公と同じ気持ちになりました。

 嬉し恥ずかし……うひょー。

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