16・5-⑤ 私の天使と浮浪児 (マァサ side)
書いても書いても どの人の人生も遅々として進まない。
そして気が付けば長文に… (スライディング土下座再びー!)
本日もお邪魔いたしますすすー(´・ω・`;)
馬車に跳ねられ助けられた初日
ベッドで休ませていただいている私の元に
エルディン様の監視の目を掻い潜り
こっそりと遊びに来られたエルヴァラ様がいらっしゃる。
私は8歳よ、と嬉しそうに ご自分の事をお話しして下さり
私の話も 嬉しそうに聞いて下さる。
これほどの幸せな時間を過ごせるなんて 夢の様で…
「夢だと思おう」 途中からそう決めた。
家に帰れば 身売りの如く
憎くて許せない男達の道具になるのだ。
私より世間知らずな気がするお父様は
そう思っていない様だけど。
私を娶り 爵位を奪われれば
私たち家族が どの様に扱われても
歯向かえる立場では無くなる。
私達には 助けてくれる人も居ないし。
私たち家族を 否定し侮辱する男が
夫になり 当主になってしまう。
考えると悔しくて 涙が込み上げる。
だけど 今の夢の様な時間に浸りたくて
現実の苦しみに 蓋をする。
お友達と過ごすのは こんな感じなのかしら。
皆んなは こんなに素敵な時間を過ごしていたのかしら。
家族以外に 好意的に接してもらう交流が初めてなため
今の幸福感がどれくらいなのか 比べる術がない。
わかる事は、私の頬が赤く上気している事。
嬉しくて 楽しくて 幸せで。
…
…エルヴァラ様は 私達家族の話を知っているのかしら。
考えた瞬間 心がぐんっと重くなる。
…何も伝えず
お邸を出るまで 夢の様な時間を過ごしていよう。
そう考えた。
なのに エルヴァラ様とのお話が楽しくて仕方なくて。
今までの様に
何かを警戒したり心配することも無く
目の前にいらっしゃる愛らしい方とのお喋りを
心から楽しんでしまい…
聞かれるままに スルスルと
心のままに思いのままに
お父様が騙され負債を抱えた事 お母様の身体が弱い事
騙された商会の息子に婚約を迫られている事
逃げ出して轢かれてしまった事 他にも色々と。
そして 絶対に知られたく無かった双子の弟の話を
尋ねられるままに 話してしまった。
弟達の話を 嫌悪感なく尋ねられた事で
私も大好きな弟達の話を
誰かに話したかったのだと気が付いた。
話した後に青ざめてしまった私を
身体の不調かと 気遣って下さった。
知られた事で、嫌われてしまう 拒絶されてしまう、と
身体が小さくカタカタと震えてしまうが
年上としての矜持もあり なんとか言葉にした。
御伽話の存在、周りから受ける粗雑な扱い。
惨めな話ではあるが 弟達の辛さを知って欲しかった。
エルヴァラ様は 信じられない!と周りの態度に憤り
双子の話は御伽話だから
困ったことが起きても 弟達のせいじゃないわ
気にしちゃダメ、そんなの偶然よ! と励まして下さる。
心が救われた。 人の温かみを知った。
私達は存在して良いと 許された気がした。
私は泣いてしまい エルヴァラ様は慌てて
ずっと 手を繋いで下さっていた。
あの時から 心からの安心と信頼を預け
そして エルヴァラ様に甘えていた様に思う。
お父様が弟達の家出に狼狽え 公爵家に押しかけた時も
毅然とした姿で はるか年上の大人達に指示を与え
動かしていた様子は凛々しくも 勇ましかった。
お父様と私が固まり動けない中
エルヴァラ様が常に先を行き
弟達の元まで繋げて下さった。
私にとって エルヴァラ様は天使であり 女神様だった。
なのに今 目の前で…
天を仰ぎ 辛そうに泣かれているエルヴァラ様を見て
私の理想と期待を 勝手に
8歳の少女に押し付けていた事に気が付いた。
恥ずかしくて 泣きそうになった。
だけど それ以上に伝えなければならない事があった。
お父様に 泣いている弟達を任せ
涙を流し続けるエルヴァラ様と向かい合い
その手を取り
「エルヴァラ様 本当にありがとうございました。
エルヴァラ様のおかげで 弟達が無事に見つかりました。
エルヴァラ様が 私達を支えて下さり
弟達の元まで繋いで下さったこと
本当に感謝しております。
おかげで私達は 家族5人で生きていく事が出来ます。
本当にありがとうございました。」
ギュッとエルヴァラ様を 抱きしめた。
家族以外にこの様に触れ合った事がないので
とても緊張したけれど
エルヴァラ様に
感謝の気持ちが届いたら良いな、と思った。
少しして 噦りをあげながら
エルヴァラ様は 抱きしめ返して下さった。
落ち着いて来たエルヴァラ様は 恥ずかしいのか頬を染め
俯きながら私の手を引き
泣き止まない浮浪児達の元へと進んでいかれた。
「この子達も抱きしめてあげましょう!」
涙の跡を残したまま ニカッと笑うエルヴァラ様は
よしよし、良い子ね、と 服が汚れるのも構わず
子供達を抱きしめ ハンカチで涙を拭いていった。
次々と 子供達の頭を優しく撫で
抱きしめては涙を拭いていくエルヴァラ様。
その様子を 呆然と見ている少年に
「今日は 本当にありがとう。
貴方は ペルー伯爵のご子息の命と
そのご家族の心を救ったわ。」と
浮浪児であろう彼に
貴族の礼である 美しいカーテシーをなさった。
それを目にしたお父様や 護衛の騎士達は驚きすぎて
言葉を失い 固まってしまった。
王族に次いで敬われる立場の公爵令嬢が
スラム街の 身分の無い少年に対しての 正式な礼。
その意味も価値も知らない子供達は
ただ、エルヴァラ様の美しい所作に心を奪われていた。
泣いていた子供達も、少年も
美しい公爵令嬢に見惚れる中 ニカッと笑い
「今日のヒーローは 貴方ね!」
と背伸びをし
少年の頭まで よしよしと撫でてしまわれた。
真っ赤になって慌てた少年はもちろんのこと
それを見て囃し立てる子供達。
そして 羨ましがった弟達がエルヴァラ様に迫り
何度も頭を撫でてもらうという 多少のカオス感の中
その後は それぞれの場所に落ち着いた。
「あの… お嬢様… 」
少年が緊張しながら
頬を染めてエルヴァラ様に尋ねてくる。
「あの… 褒美は、どれくらい…もらえますか。」
照れながらも 真剣な目で尋ねる。
「…貴方は どれくらい欲しいの?」
真面目な顔で向き合うエルヴァラ様に
逆に聞かれてしまった少年は 言葉に詰まる。
エルヴァラ様は何も言わないが この褒賞は
我が家から出すべき褒賞だ。
だがここで間に入れば 公爵家の顔を潰す為
今はエルヴァラ様に 全てお任せする。
後に 公爵様とお父様で話し合ってもらう事だ。
我が家にも関係してくる為 じっと少年の言葉を待つ。
「オ、オレ達は 生きていける環境が欲しい。
孤児院も満員で受け入れて貰えなかった。
いつ人攫いに連れて行かれるかわからない。
安心して眠れる場所が欲しい。」
確かにこの場所は 安心できる場所では無かった。
ほとんど空の下と変わらない。
朽ちた木や 瓦礫を集めて
なんとか洞穴の様な形を保っている。
だがそれも いつ崩れるかわからない。
改めて周りを見回したエルヴァラ様が 青ざめている。
ここに住んでいるとは思っていなかった様だ。
「まさか ここで寝泊まりしていらっしゃるの!?」
純粋な思いのまま言葉にしてしまい
彼等は羞恥で赤くなる。
「なんて事なの! ルイッ!!
皆んなを邸に連れていくわよっ!」
「お、お嬢様っ! それはいくら何でも…。」
ルイと呼ばれた護衛騎士が本気で慌てる。
「お嬢様、まずはペルー家のご子息様の無事を公爵家に伝え
彼等を家に届けねばなりません…。
リンデル様や公爵様への詳しいご報告もありますし
ひとまず今日のところは…。
もし心配でしたら 宿に泊めるという選択肢もありますし…
公爵様の指示を頂いてから
対応するのがよろしいかと思われます。」
狼狽えながらも
必死に エルヴァラ様の説得を試みている。
「たくさんのお子様方を連れて帰られれば
エルディン様も驚かれると思いますし…。」
ルイが チラリとエルヴァラ様の様子を窺う。
エルディン様のお名前を聞いた途端
ぴくっと身体が揺れ 背筋がスッと伸びたエルヴァラ様。
ルイと呼ばれる護衛騎士。
エルディン様の名前を わかってて使ってるのね。
ふーん、そうなの、へぇ…。
思わず冷ややかな視線を向けてしまう。
「そ、そうね!
お兄様に迷惑や心配をかけてはいけないものね!
皆んなの事は リンデルやお父様に話して
それから動いても良いものね!」
引きつり笑いをするエルヴァラ様に
不安そうな瞳が幾つも向けられる。
その瞳に 力強くニッコリと笑い
「皆んな 大丈夫よ! ルイはね、頼りになるの。
屋根があって安心して眠れる場所に
皆んなを ちゃーんと連れて行ってくれるわ。
褒賞の約束だって守るわ!
でも… 私は子供だから…
大人にお話ししてからになるの、 ごめんなさいね…
でも! 約束は守るから 待っててね!」
笑顔を向けるエルヴァラ様に
「エルヴァラ様!
オレは リュイ! また エルヴァラ様に会えるよなっ!」
少年が 熱のこもった真剣な目で
真っ直ぐに エルヴァラ様を見つめてくる。
「もちろんよ、リュイ!」
嬉しそうに答える エルヴァラ様。
周りが二人を見ている中
弟達と繋いでいた手が ギュッと強く握られる。
それに驚いて ヨルドと ナイドを見ると
二人は 悔しそうな視線と 辛そうな視線で
リュイと エルヴァラ様を見ていた。
長文を読んでくださり
ありがとうございましたーー!
いつもご迷惑をおかけ致しますすすーー!