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陛下のお気に入り  作者: 親交の日
第2章 軍隊生活の始まり
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部隊実習(哲学)

 



 ――――――




 士官学校に入校して半年。生徒としても、教官としてもそれなりにやっていけてるかなと思っている。


 私自身は平穏無事であるが、ルーブル帝国はそうではなかった。


 マルク帝国をはじめとする同盟国との戦争にルーブル帝国は敗北した。和平交渉で少しでもいい条件を、とガルーシン大公が抗戦していたが、ルーブル帝国軍はマルク帝国軍に連戦連敗の大惨敗。帝国西部の要衝であるキーイ、グレプの両都市を失陥した。


 戦局の好転は望むべくもなく、なおも抗戦を続けようとするガルーシン大公らを強権的にスルツキー大公らが排除。政治の主導権を握った。これで和平交渉が進められると思いきや、事態は思わぬ方向へと進む。




「キーイ公国の復活!? 前ガルーシン大公ヴィクトルは脱獄後、キーイにてルーブル帝国からの独立を宣言し、キーイ公国の建国を宣言した。マルク帝国以下の『同盟国』は同国と講和条約を締結。軍事援助を受ける見返りとして、キーイ公国は百万トンの穀物を提供するという」




 との新聞記事が載った。ルーブル帝国はもちろんこれを認めるはずがなく、鎮圧のために軍を派遣した。ところが、ガルーシン大公以下の諸侯軍とマルク帝国軍の反撃に遭い鎮圧部隊は壊滅。帝都へ向けて進撃が再開されたため、ルーブル帝国は「同盟国」の主張を丸呑みする形での講和を受け入れざるを得なくなった。


 かくしてルーブル帝国と「同盟国」との間で講和が成立する。内容としては、ルーブル帝国は各国が求めた領土を割譲、あるいは放棄し、多額の賠償金を支払うというものだ。「同盟国」の要求はキーイ公国との和平も入っており、内心はともかく受け入れるしかない。かくして多大な犠牲を払って平和を回復した。


「大変な損失であるが、国がなくなるよりはマシ」とカチェリーナさんやレイラさんからの手紙には書いてあった。私もそう思う。あのまま戦争を続けていても勝てる見込みはない。実際に戦っていた身としてよくわかる。が、そうでない人々にとっては弱腰に見えたらしい。様々な誹謗中傷……で済めばいいのだが、そう簡単にはいかない。


 スルツキー大公は弱腰だ、と国内から批判を浴びたのだ。講和するにしても豊かな西部をごっそり取られ、巨額の賠償金までついている。これを受けたスルツキー大公を、人々は「弱腰」「売国奴」などと言って批判した。譲らず失敗したのがガルーシン大公で、尻拭いをしただけなのに随分な言い草だ。背後にはガルーシン大公派の扇動もあったのだろうが、とにかくスルツキー大公の体制は動揺。離反者もかなりの数に上る。


 体制から離脱した者たちはガルーシン大公など各地方の有力者を頼って集結。様々な思惑を抱いてはいたが、とりあえず反スルツキー大公という点で一致。協力して打倒しようと画策する。親玉が脱獄していることもあって平和な話し合いとはならず、武力に訴えた。


 かくしてルーブル帝国における内戦が始まったのである。帝国の南部には反乱軍の根拠地があり、そこから帝都やモスコーに攻め上らんとしていた。


 そんなある日のこと。内戦は勃発したものの、士官学校は通常の課業だ。生徒の一部が反乱軍に加わるため脱走するという事件があったが、内戦絡みの騒乱はその程度である。


 内戦とは縁遠い環境にいるが、無関心というわけではない。私たちが目にする新聞には大抵、一面に何かしら内戦に関する記事が載っているし、ラジオからも戦局が伝えられる。もちろんそこには当局の脚色が入っているが、それでもそういった情報を基に雑談をすることもあった。


 関心を持っているのは生徒だけではない。教官も同じで、教官室で過ごしていてもそこかしこで内戦についての話をしている。役得なのは、生徒のそれよりもより深い話が聞けることだろうか。鎮圧に向かった部隊、あるいは軍中央に知己がおり、そこから入ってくる情報を基に話している。新聞やラジオがソースである生徒の話とは比べものにならない。


 授業後、いつものように報告を済ませると自分の机に座り、教官たちの内戦談義を聞きながら割り当てられた事務作業を行う。


「イワン。少しいいか?」


 そんなとき、校長から話しかけられた。


「はい。何でしょうか?」


 ここではなんだから、と校長室に連れ込まれる。ソファーに座るよう促されるので、お言葉に甘えてふかふかソファーに腰掛けた。


「今までご苦労だった。教官として尽力してくれたと聞いている」


「ありがとうございます」


 何を教えればいいのかわからず試行錯誤してきたのだが、こう評価されるとやはり嬉しい。


「是非ともこのまま続けてほしい……と言いたいのだがね」


 おや、これは怪しい雰囲気。


「な、何か至らぬ点がありましたか?」


 まったくの素人教官だから多少、大目に見てもらえているとは思うが、それでもダメな点があったのだろうか。


「そういうわけではない。……事情が変わったのだよ」


 これは先日、中央で決定されたことだ、と前置きされて校長は「事情」を話してくれる。


「……つまり、部隊実習をこなすために学校を離れなければならないから、教官の任を解くということですか?」


「ああ」


 校長の話はあれこれと長かったが、要約するとたったこれだけだった。なぜ偉い人は無駄に話が長いのだろうか。


 しかし、私が気になったのはそこではない。校長の話にはより重要なことが隠されているからだ。


「あの……私、入校して一年も経っていないのですが?」


 教官を外されるということは私も部隊実習をこなすことになるのだろう。だが、私は入校して一年も経っていない。通常は士官学校を三年で卒業する。部隊実習は三年次に半年ほど行われ、私が実戦経験を積んでいることや入校の特殊な経緯なんかを考慮しても早すぎるのだ。


「はははっ。実戦経験済みの君に学校で教えることなど限られているよ。というより、エレオノーラ嬢と同じクラスという時点で気づいてほしいものだがね」


「あ……」


 急な再会に驚くあまりすっかり頭から抜け落ちていたが、彼女の方が私よりも早く入学している。普通、同じクラスになるわけがないのだ。


 校長によると、スルツキー大公らの推薦状もあって士官学校の課程はある程度クリアしたという扱いになっており、修学期間は通常の生徒に比べて圧倒的に短い。今回、部隊実習に出されるのもそのせいだという。


「そういうわけだ。教官として今までよくやってくれた。感謝している。これからの活躍を祈っているよ」


「ありがとうございます」


 ――と、話を終えた。


 しかし、このときの私は気づいていなかった。今は内戦の時代。そんなときに部隊実習に出されるということはどういうことなのかを。







 一週間後。


 ペレヤスラヴリの駅に二百名弱の士官学校の生徒が集められていた。これから駅にやってくる軍用列車に乗るためだ。


 しばらく待機していると、やがて長大な車両を牽引した列車が入線してくる。大量の物資を積んでいるのか、私たちが乗る客車はわずかで他は有蓋車だった。


「どこへ行くんだろう?」


「わからないわよ」


 列車に乗り込むと、警笛を鳴らした後にゆっくりと動き出す。二人がけの座椅子が並ぶ車内の隣には、もはやお馴染みとなったエレオノーラさんがいる。


 行き先は知らされておらず、部隊実習とだけ伝えられている私たち。行き先について疑問を抱くのは普通だと思うが、彼女の回答は素っ気ない。気にしていないようだ。


 だが、私は何となく嫌な予感がし……それは的中する。


「おい。この列車、南に向かってないか?」


 ある生徒がそんな声を上げる。通過した大きな駅。その駅名が南方の著名な都市だったのだ。路線図を頭に思い浮かべるが、そこを通らなければならないわけではない。むしろ、南部の都市に行くためには通らなければならない駅だ。南に向かっていることは確実である。


 ……南部って、反乱軍の根拠地があったはず。まさかな。


 しかし、そのまさかだった。下ろされた場所は南部の大都市であるヴォルゴ。私たちの部隊実習の先は反乱軍の鎮圧にあたっている南方軍だったのだ。








 大変申し訳ないのですが、投稿ペースが作者多忙につき維持できません(一ヶ月分のストックも使い果たしてしまいました……)。キリもいいためここで当面の間、休載させていただきます。活動報告の方で今後についてご説明したいと思いますので、よろしければそちらもご覧ください。


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