伊織の話なんだけど
遅くなりました!すみません!
今回は澪視点です!
午前中の授業の終わりを告げるチャイムがなる。
挨拶を終え、先生が教室から出ていくのを見てから私はほっとため息をつく。
昼休みになると教室が一気に騒がしくなる。購買にお昼ご飯を買いに行く人たちもいれば、机をくっつけて食事を始める者、中には昼休みになった途端に寝始めるものまでいる。
賑やかな話し声を聞きながら持ってきた弁当箱を取り出す。冷凍食品と簡単に作れるものを合わせた物だが、実際にかかった時間よりも手の込んだ物のように見える。
小さい頃から料理には興味があり、お母さんの手伝いをしていたので、人並みがそれ以上に料理はできる方だと思う。ただ、自分のお弁当となると手を抜きがちだ。
そんなことを思いながらお弁当を広げていると、ひとりの女の子が近くにやってくる。
「お、今日も可愛いお弁当だね!」
「ありがとう。でも、ほとんど冷凍食品よ」
三葉 千歳。明るい声に人懐っこそうな顔。中学生の頃からずっと運動部で、高校生になってからも運動部に所属しており健康的に焼けた肌、邪魔だからという理由で短くしている髪は、活発そうな彼女のイメージによく似合っていると思う。
「なら、センスがいいんだね。とても美味しそう!」
彼女の言葉に思わず笑みが溢れる。こう言ったところが彼女のいいところだと思う。
千歳はコンビニの袋からおにぎりと豆乳を取り出す。
中学一年生の頃から豆乳を飲み始め、今でも飲み続けている。全体的にスレンダーな彼女は自分の体型を気にしているみたいで、どうしたら胸が大きくなるのかと相談されたことがあるくらいだ。私は特に何もしていないので答えに困ってしまったのをよく覚えている。それに、あの時の千歳の鬼気迫る勢いは少し怖かったし……
「今日はお弁当じゃないの?」
「あはは、ちょっと寝坊しちゃって……」
恥ずかしそうに頬をかきながら言う。
運動部に所属しているのだからきっと、練習の疲れが溜まっているのかもしれない。
「それはそうと、何かあったの?」
豆乳をストローで吸いながら聞いてくる。
「え?」
突然の問いに思わず聞き返してしまう。
「朝から何か考え込んでいるみたいだったからさ」
たしかに気になることはあったが、表に出るほどだとは思わなかった。
「そんなにわかりやすかったかしら?」
「うーん、そこまでじゃないよ。なんとなく?」
「そう」
もしかしたら長い付き合いの彼女だから気づいたことなのかもしれない。
隠すようなことでもないので千歳に相談という名の愚痴をこぼす。
「今朝のことなんだけど、伊織の様子が変だったのよ」
「伊織君が?」
「そう。なんか挙動がおかしかったし、私に何かやましいことというか隠し事をしている感じだったのよ」
「まぁ、一つや二つ隠し事くらいあるんじゃない? それに男の子だから私たち女子に言いづらい事かもしれないし」
「私もそう思うけど、伊織が何か隠す時って大抵悪いことをした時か碌でもないことなのよ」
昔、親たちに行ってはいけないと言われてた場所で怪我したことがあった。その怪我を怒られるからと言って必死に隠そうとしていたこともあったし、同級生と殴り合いになるほどの喧嘩たことも隠そうとしていた。
軽く思い出しただけでも伊織が何か隠すときは良くないことばかりだ。
昔からそんな伊織を見てきたのだから、伊織が怪我をしていたり良くないことを巻き込まれているのかもしれないと心配してしまうのは仕方がないことだと思う。
「なら、直接聞いてみちゃえばいいのに」
「きっと私が聞いても答えないわ。だから、水瀬君にお願いしたわ」
「たっ君に?」
「ごめんなさい。あなたの彼氏なのに勝手に…」
「別にそれくらいの事、気にしないでよ」
私と伊織、千歳、水瀬君は中学生の頃ずっと同じクラスで仲のいいメンバーといった感じだ。千歳と水瀬君は中学生の頃から付き合い始めており、私と伊織も二人からそれぞれ相談を受けていた身だ。
高校生になってから私と千歳、伊織と水瀬君とクラスが別れてしまった。まぁ、それで仲が悪くなるわけではないが、交流は少し減ってしまったと思う。
「それなら、たっ君が何か聞き出してくれると思うよ。男同士だし、あの二人仲がいいからね」
千歳に話しながら今朝のことを思い出していると、何故だかだんだんと伊織に対して怒りが湧いてくる。
「まぁ、隠し事はいいとして……あんな風に避けなくてもいいじゃない」
千歳は何か面白い物でも見るように目を輝かせながら続きを促す。
「うんうん、そうだよね。それで?」
「朝、伊織の姿を見つけて久しぶりに一緒に登校できると思って嬉しくて、でも浮かれているのがバレないようにしながら声をかけたのに……」
昨日の膝枕の件で距離が縮まったと思ったし、おまけに朝も一緒に登校できると思ったのに!
「全然喋らないし、私から目を逸らすし、挙げ句の果てには逃げるように行っちゃうし…………ちょっとだけ傷ついた」
「あー、たしかにそれは悲しいよね」
なんな風に逃げなくてもいいじゃない!そんなに私と一緒にいるのが嫌なの?
「もしかして……」
一番最悪な事が頭をよぎる
「伊織に好きな人ができたとか……」
「へ? いやいや、そんな事――」
「だって私と一緒にいるのをみられたくないのって、その女に勘違いされたくないって事でしょ?」
「考えすぎだって! そんな事ないと思うから大丈夫だよ。とりあえずたっ君の報告を待とうよ! ね?」
「そうね……」
必死に慰めてくれようとしてくれているが、頭の中には最悪な光景が頭の中をぐるぐると回っている。伊織が他の女と……
そんなことを考えていると、クラスの雰囲気が変わり違和感を感じて顔を上げる。
すると入り口付近に上級生がいる。整った顔立ちにすらりと背が高い。運動部なのか、体も鍛えられているように見える。
「ちょっといいかな?」
「は、はい!」
声をかけられた女子生徒は顔を赤くしている。
「このクラスに如月澪さんっているかな?」
「えっと……」
先輩から話しかけられていた女子生徒が戸惑いながら私の方に視線を向ける。
すると先輩が教室に入ってくると、私の元までやってくる。
「急に来てしまって申し訳ない。実は貴女に話したい事があるんだ。もしよかったら、放課後中庭にある大きな木下まで来てほしい」
「えっ?」
「要件はそれだけなんだ。それじゃあ」
そう言って先輩は教室から出て行く。私は伊織のことで頭がいっぱいだったのに、急にそんなことを言われても反応出来ず、ただ先輩の後ろ姿を目で追うことしかできなかった。
クラスの女子たちが黄色い歓声を挙げ集まってくる。
いまだに状況を飲み込めていない私は、何が何だかよくわからず困惑してしまう。女子たちが私の周りを囲むように集まり質問攻めをしてくる。結局それは、昼休みを終えるチャイムが鳴るまで続いた。
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