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なんでも言うこと聞きます券 (澪視点)

 私は伊織の家から自分の家に戻ってくると、そのまま自分の部屋へと直行した。お母さんは買い物に出かけているみたいで、家には私一人だけだ。


 ベットに倒れ込むように横になる。


 昨日、呼び出された時に『なんでも言うこと聞きます券』を見せられた時は動揺してしまった。まさか伊織がまだあの券を持っているなんて思わなかった。

 使い切ったと思っていたし、残っていても伊織のことだから捨ててしまっているだろうと…


 服にシワがついてしまうことなんてお構いなしにベットの上で寝返りをうち仰向けになる。


 学校から帰ってくるとすぐに伊織から『なんでも言うこと聞きます券』を使うからきて欲しいという内容のメッセージが届いた時は心臓がドキッとした。


 思春期の男子があの券を使ってお願いすることなんてあれしかないと思っていた私は急いで準備を始めた。断じて期待していたとかそういうわけではない。


 いつも以上に入念に体を洗い、下着ももしかしたらそう言った機会があるかも知れないと、ちょっと背伸びして買っておいた大人な下着を身につけた。

 洋服だって普段あんまり履かないスカートに、お気に入りの服を合わせたのだ。

 それなのに……


「もうっ!」


 いざ伊織のところに行ってみるとお願いされたのは膝枕をして欲しいというものだった。

 肩透かしもいいところだ。


 心臓が破裂しそうなほどドキドキしていたし、私の覚悟を返してもらいたいくらいだ。

 伊織ならばいいと思っていたからこそ、余計にもやもやするし納得がいかない。


 もちろん、いつもなら膝枕なんて恥ずかしいと思うに決まっいるが、もっとすごいことをお願いされると思っていた私にとって大したことではなかったように思えた。

 どちらかと言うとお願いした張本人である伊織の方が緊張していた気がする。


 起き上がりベットの上に腰掛ける。さっきまで伊織の頭が乗っかっていた自分の太ももに手を置く。

 1時間以上も膝枕をしていたからか、まだ伊織の頭を乗せた時の感触が残っているような気がする。


「はぁ……」


 何とも言えぬ気持ちでため息が出る。


 伊織の緊張する姿はちょっと面白かったし、私の膝の上で寝てしまった時の寝顔は可愛いと思った。

 思わず頭を撫でてしまったし、寝ている間におでこや鼻、ほっぺなどをつっついてみたりした。

 最近離れがちだった距離が縮まったように感じて嬉しかった。それでも……


「どうしたら昔のように喋れるようになるのよ……」


 これが私の最近の悩みだ。

 年齢が高くなるにつれて喋る機会が減ってしまうのは仕方ないと思っている。

 別に全く喋らないわけで早いし、同じ学校に通いなんならお隣さんなのだから会わないなんてことはない。


 それなのにここ最近伊織と喋る時にどうしても緊張するようになってしまい、そのことを誤魔化そうとすればするほど、そっけない態度をとってしまっている。

 そんなつもりないし、直したいと思っているが自分ではどうすることもできないのだ。


 この前こっそりと、伊織がクレーンゲームで取ってくれたぬいぐるみ相手に反省会をしてみたことすらある。

 流石に恥ずかしすぎる過去なので心の中にしまっておくつもりだ。


 ベッドから起き上がると勉強机に近づき椅子に座る。

 ポケットに手を入れると伊織から回収した『なんでも言うこと聞きます券』を机の上に置く。


 ひらがなばかりだし、字も綺麗じゃない。まさに子供が書いたという感じに、懐かしさを感じて自然に笑みが溢れる。


 この券のおかげで伊織と話せる機会が増えると思うと、我ながらいいものを作ったと幼い私を褒めてあげたい。


「あと9枚……」


 伊織はきっと残りの『なんでも言うこと聞きます券』を使うはずだ。

 どんなお願いごとをされるか分からないが、この券を使った時のお願いは()()というのが私たち二人の約束事。


 せめて、残りの券を全て使い終わる前に伊織と昔のように普通に喋られるようになりたい。願わくばもう少しだけ距離が縮まったら嬉しい。


 私はもう一度『なんでも言うこと聞きます券』に視線を落とし、それから自分の机の引き出しを開ける。


 引き出しの奥。そこから2枚の紙切れを取り出す。

 そこには『なんでも言うこと聞きます券』と書かれており、その近くにはひらがなで『しのざき いおり』と書かれている。


 これは伊織から昔もらったおものでで私の宝物。使いきらず今でも大事に持っているものだ。


 私はこの券をしかるべきタイミングで使うために残しているのだ。2枚しか残っていないのだから、使い所はしっかりと見極めないといけない。


 今のところ大丈夫だが、もし伊織がどこかの女と付き合いだしたらこの券を使って別れさせるつもりだ。最終手段はこれで婚姻届にサインさせようかと思っている。

 ただ、できればプロポーズは伊織の方から言ってもらいたいと願う気持ちもある。もしかしたらこれが複雑な乙女心というものなのだろうか?


「はぁ……伊織……」


 無意識の呟きが、部屋の中で虚しく響く。

 伊織との思い出の品である『なんでも言うこと聞きます券』をそっと撫でた。

あまり伸びていないですね。続けるべきか、やめるべきか…


面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!


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[良い点] めっちゃ好きです! めっちゃ好みの話です。次回更新も楽しみにしてます! [一言] 書くの辞めないで下さい。よろしくお願いします<(_ _)>
[良い点] 求めていた設定にどんぴしゃ [気になる点] 書くのやめないで下さい(。・人・`。) [一言] 毎日更新チェックして読み返してます
[良い点] 求めていた設定にどんぴしゃ [気になる点] 書くのやめないで下さい(。・人・`。) [一言] 毎日更新チェックして読み返してます
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