親友と『なんで言うこと聞きます券』の使い道のヒント
澪に『なんでも言うこと聞きます券』を見せてから一日後。結局あの後も使い道を思いつくことが出来なかったので、手元には10枚の『なんでも言うこと聞きます券』が残っている。
澪に関しては、ケーキを食べて機嫌を直してもらえたみたいなのでよかった。
身支度を終えた俺はいつも通り学校へと向かう。
家が近いって理由で小学生くらいまでは澪と一緒に登校していたが、年齢が上がるにつれて次第と一緒に行く機会がなくっていった。
高校生になった今では、もう一緒に登校する機会なんてないだろう。
澪は早めに学校に行くのに対して俺はいつもギリギリなので会う可能性もほとんどない。
あるとすれば俺が早起きするか、澪が寝坊するかのどちらかだと思うが、どちらも可能性が低そうだ。
昨日のことをぼーっと考えながら歩いていると、後ろから声をかけられる。
「よぉ!」
振り返るとそこには金髪青年。顔立ちは整っておりイケメンだ。制服を着崩し、耳にはいくつかピアスが付いている。
全体的にチャラチャラしており、いかにも女遊びをしてそうな印象を受ける見た目をしているが、彼女一筋の一途な男だ。
彼の名前は水瀬 拓也。中学生の頃からと付き合いで、今一番仲がいい友達だと思っている。
「相変わらず遅いな。遅刻するぞ?」
「お前にだけは言われたくない」
軽口を叩きながら学校へと向かう。
「そうだ聞いてくれよ!」
「なんだよ」
朝から明らかにテンションが高く、興奮したような口調で話しかけてくる。
「実は、昨日4回目のデートに行ったんだよ」
拓也の彼女の名前は三葉 千歳。中学の頃からずっと陸上部に所属している。とても足が早く、何かの大会で優勝し表彰されたことがあるほどの実力者だ。
二人は中学生の頃から付き合い始め、関係は良好でこうでたまに惚気話を聞かされている。
「そうなんだ。てか、付き合って一年以上経つのにまだ4回目なのか?」
「う、うるせぇーな。誘うタイミングがわからねぇんだよ」
遊んでそうな見た目だが、三葉が初めての彼女らしい。
まぁ、俺はこのイケメンと違って、これまで一度も女の子とデートしたことないんですけどね……
「わかったわかった。それでなんかいいことあったのか?」
そう言うと、拓也は照れ臭そうにしながらいう。
「そうなんだよ。実はな……」
「実は?」
「その……初めて手を繋げたんだ」
「おぉ! よかったじゃん!」
嬉しそうな姿を見てこちらまで嬉しくなる。
ずっと手を繋ぎたいと言っていた。デート経験のない俺に相談するくらいだったのだからよほどだろう。
相談相手を間違っていると何度も言ったが、「こんなこと相談できるのはお前しかいないんだ」なんて言われたら悪い気はしないし応援したくなる。
中学生の頃から拓也の純情っぷりを見てきたこちらとしては、大きな一歩であることがよくわかる。
「その……この話には続きがあってな」
「続き?」
なかなか手を繋げないと困っていた男がさらに先へと進んだのだろうか?
「手を繋げたことが嬉しくて舞い上がった俺は、人混みに酔って気持ち悪くなってしまったんだ」
「……おい」
なんでイケメンなのにちょっぴり残念な感じなんだよ!
「それで途中でひきかえすことになったんだ。そのあと……千歳の家で休むことになったんだ」
それってまさか!?
どこか達観したような表情の拓也。言葉を待っているとゆっくりと口を開く
「そこで生まれて初めて膝枕をしてもらったんだ」
「膝枕?」
「あぁ、気持ち悪さなんて一気に吹き飛ぶような衝撃だった」
感動したような口調に思わず笑ってしまう。
「嘘だと思ってるだろ? ほんとにすごかったんだって! あの時死んでもいいって思うくらいだったんだからな!」
これまで一度も彼女なんていたことない俺はもちろん膝枕をしてもらった経験なんてない。
実際に体験した人が言うのだからすごかったのだろう。
「どう凄かったんだ?」
「なんというか、柔らかいし、いい匂いもするし……ドキドキしすぎて頭が真っ白になかったけどとにかく幸せな時間だった」
興奮しているのかかなりの早口だ。
「極め付けはな、恥ずかしそうにしながら心配してこっち覗き込む千歳が可愛すぎるなんのって。一生大切にしようってその瞬間誓ったね」
「そこまでだっのか」
「あぁ、伊織も経験すればわかるさ」
「相手がいればな」
経験してみたいのは山々だが、あいにく彼女なんてものは存在していないので膝枕をしてくれそうな人は居ない。
こちとら彼女持ちの拓也と違って、灰色の高校生活への道を歩んでいるんだ!
しかし、俺は一つのことを思いつく。
待てよ、今こそ『なんでも言うこと聞きます券』の使い所なんじゃないのか?
人生で最初で最後の膝枕を経験できるばかりか、あの澪の恥ずかしがる姿が見えるかもしれないのだ!
「いきなり変な笑い方してどうしたっだ?」
不思議そうな表情の拓也。
無意識に顔に出てしまっていたらしい。
「いや、なんでもない。拓也の話からいいことを思いついたんだ」
「いいことを思いついた時の顔じゃなさそうだけどな……よくないことしようとしてるのか?」
「いやいや、よくないことなんてしないさ。ともかくお礼を言わせてくれ。ありがとう」
「??」
よくわからず首を傾げる拓也を横目に学校の門をくぐる。
まさか拓也の惚気話から『なんでも言うこと聞きます券』の使い道を思いつくなんて思ってもみなかった。
まだ学校に来たばかりだが、放課後が待ち遠しかった。
お読みいただきありがとうございます!
好評なら続けていこうと思いますが、あまり伸びなかったらこっそり消そうと思います。
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