なんでも言うこと聞きます券
新作です!
一年振りの投稿でリハビリをかねて書きました。
楽しんでもらえると嬉しいです!
日曜日の昼。
俺、篠崎 伊織は自分の部屋に幼馴染みである如月 澪を呼び出していた。
澪は学校で有名になるほどの美少女だ。肩までのびる黒髪は手入れされているのかとても綺麗だ。平均的な身長だが長い手足に大きく膨らんだ胸、モデル顔負けのスタイルだ。
凛とした顔立ちは少し冷たい印象を与えるが、それも含めて澪の魅力と言えるだろう。
「いきなり呼び出すなんて一体何の用? 私も暇じゃ無いんだけど」
冷めた視線にそっけない態度。昔はこんな感じじゃなかったと思うんだけれど……
最近どんどん冷たくなっているような気がする。
「ふっ」
「……なによ」
わざとらしく笑う俺に不信げな視線を向ける。
俺は込み上げてくる笑いを堪えながら自信満々に言う。
「いつまでもそんなそっけない態度でいいのかな?」
「どう言う意味よ」
俺のただならぬ雰囲気を感じたのか一歩後ろに下がり自身の肩を抱く。
そして俺はたたみかけるようにズボンのポケットから一枚の紙切れを澪に向かって差し出す。
「これを見ろ!」
「……なに?……ゴミ?」
「ゴミじゃないわ! よく見ろ!」
「……っ」
俺の持つ紙切れを凝視した澪は、それがなんだかわかると大きく目を見開いた。
「それはっ……」
「そう、これは小さい頃に澪からもらった『なんでも言うこと聞きます券』だ!」
「なんでそんなもの持ってるよ!」
澪の焦った表情を見て勝利を確信した。
「掃除をしていたらたまたま見つけたんだよ」
キッと睨みつけるようにこちらを見ていた澪。そこで何かに気づいたのか、少し冷静さを取り戻した口調で腕を組みながら言う。
「それを私が書いたって言う証拠がないじゃない! あんたが自分で書いたに決まってるわ!」
「確かにその可能性はあるかもしれない」
「でしょ! なら……」
「だがな」
そう言って俺は紙の一部分を指さす。そこには『きさらぎみお』と可愛らしい字で書かれている。
「昔から澪はしっかりものだったからな。ちゃんと自分の名前が書いてあるぞ」
「くっ……」
美少女が怒ると怖いってのは本当らしい。幼馴染みの俺じゃなければ逃げ出しそうなほど怖い視線を向けてくる。
正直言って俺も逃げ出したいくらいだ。
すると澪は腕を組みいつものツンケンした態度で言う。
「ふん! そんな昔のものなんて無効よ、無効!」
往生際の悪い幼馴染みに向かってとどめの一撃を喰らわせる。
紙を裏返すとそこにはひらがなで『むきげん』と書かれている。
「これでもう言い逃れはできない!」
完璧な勝利宣言の前に澪は俯いてしまった。
俺はこれまでいろんなことで澪に負けてきたが、今日は数少ない勝利の瞬間だった。
思わず高笑いをしてしまいそうになる。
昔から澪は頭がよく、難しい言葉をいっぱい知っていた。まさか、そのことで自分の首を絞めることになるなんて夢にも思わなかっただろう。
しばらく俯いていた澪がいきなり顔を上げ言う。
「わかったわよ! その券を使って私になんでも命令すればいいじゃない!」
やけになったのか大きな声で叫ぶ。
「どんせ変な命令するんでしょ! さっさとしなさいよ!」
「変な命令って?」
「……っ、うるさい! さっさとその券を使ってそれで終わりよ」
顔を真っ赤にしている澪。だが、彼女は一つ勘違いかしていることがある。
「いったいいつからこの券が一枚だけだと錯覚していた?」
「え?……」
キョトンとした顔をした澪。
俺はさらにポケットから券を取り出す。
「な、なんでそんなに持っているのよ!」
俺が取り出した『なんでも言うこと聞きます券』を含めると全部で10枚だ!
ぷるぷると肩を震わせ涙目でこちらを睨む澪。
ちょっとだけ罪悪感を感じないこともないが、この『なんでも言うこと聞きます券』をくれたのは澪本人なのだからしょうがない。
「わかったわよ。それで私にする命令は何?」
「……えーと」
この券を見つけてすぐに澪に見せびらかそうと呼び出したから、何をお願いするのか全く考えていなかった。
何をいえばいいのかわからず視線を彷徨わせていると、澪が今度は呆れたように言う。
「まさか、何も考えていなかったの?」
「……」
俺の表情を見て大きなため息をつく。
「はぁ……全く……思いつきですぐに行動するからそんなことになるのよ」
何も言い返すことが出来ない俺。
「もう少し考えてから行動しなさいよね」
「はい……」
「後先考えずに行動したせいで、昔おばさんにたくさん怒られたじゃない」
「はい……」
「昔から全く成長してないんだから」
「すみません……」
さっきまでの優勢はどこに行ってしまったのか、なぜか俺が責められる構図になってしまっている。
「用が済んだなら私帰るから」
「ちょっ……」
帰ろうとする澪を咄嗟に引き止める。
「まだ何かあるの?」
「いや……母さんが買ってきたケーキあるから食べていかないか?」
少し考えて、帰ろうとドアにかけていた手を下ろす。
「……食べる」
「すぐに持ってくるからそこに座って待っていてくれ」
こくりと頷いた澪が座るのを確認して俺は冷蔵庫にケーキを取りに行く。
このケーキは、『なんでも言うこと聞きます券』を見せたことで澪を怒らしてしまった時のご機嫌取りのために買ってあったものだ。
どう言う訳か、結果的に俺が責められることになってしまったが、せっかく買ったのだから食べてもらった方がいいだろう。
足早に冷蔵庫に向かいながら『なんでも言うこと聞きます券』の使い道を考えるのだった。
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