【か】わいくて【ラ】ブリーな【あ】いらしい娘の【げ】んざいの問題点
※この話はほぼノンフィクションです。
夜の商店街。
緊急事態宣言下で各飲食店が店を閉め始めるなか、まだその看板の灯を落とさない店がある。
最近できたテイクアウト専門の唐揚げ店だ。
仕事と娘の習い事のお迎えで忙しかったその日、私と娘はその唐揚げ店に立ち寄った。
カウンターから身を乗り出すように奥を覗き、今まさに揚げたての唐揚げに目を輝かせていたが、店員さんが声をかけてくれても元来の恥ずかしがり屋な性格が災いし、何も喋れない娘。
「一個おまけしといたよ」
お会計時、店員さんの予想外の言葉に慌てて、マスクをつけていても伝わるレベルで笑顔を作った。
「あ、ありがとうございます! ほら、娘ちゃんもお礼を言って」
「…………す。」
本当に恥ずかしがり屋だ。口の中でモゴモゴと何かをつぶやいている。
仕事柄もあっていつも大声でハッキリと発音する私と、血の繋がった親子とは思えないほど対照的な態度。
それでも私にとっては世界一可愛い娘には違いないが。
「ありがとうございました~またお願いしま~す」
店員さんが私達の背中に声をかけてくれる。
商店街の中を歩いて帰ろうとする私の手に、娘がするりとその手を滑り込ませてきた。もう結構大きいのに、まだ手を繋いでくれるのがちょっと嬉しい。
娘の顔を見下ろして、微笑みを交わす。
「オマケしてもらっちゃったね」
「…………から」
「え?」
聞き返すと、娘は顎をついと上げて自信満々に言う。
「……だから! 私が可愛いからオマケしてくれたのよ!!」
なんですかその物凄いドヤ顔。流行りの悪役令嬢もかくやという表情ですね。今からその髪の毛縦ロールにしてやりましょうか。心なしか鼻息もフンスフンスしてませんか? もう色々テンプレすぎて資料としてスマホで動画に収めておきたいレベルですけど貴女は怒るでしょうから止めておきましょう。それにしても店員さんにはあの態度だった癖に私には大声でハッキリそんな主張なさってまあ内弁慶の酷いこと酷いこと……
「……そうだね! 娘ちゃんが可愛いからだね!」
「今の……の間、何? 疑ってない?」
おーほほほそんなわけないでしょう? 貴女が世界で一番可愛くて! ラブリーで! 愛らしい! に決まっているじゃないですかあ。まあ親の贔屓目無しだと中の中の中ですけどね。クラスの集合写真でいつも見事なくらいに没個性で埋もれてしまう、美しくも醜くもない、中の中の中ですよ! でもでも、私にとっては世界一いや大気圏突破して宇宙一可愛い娘ですけどね。それにしても「……」の間を読むようになるなんてまぁ生意気な……
「……そんな事ないよ!!娘ちゃんが可愛いから!」
「えー、絶対に嘘っぽい。じゃあさ、お母さんが可愛くてオマケして貰ったとしたら、何処が可愛いと自分で思ってんの?」
どういう思考回路ですか。唐揚げ一個オマケしてもらうのに「可愛い」が必須条件とかないでしょう? 私も昔はそりゃあそれなりにモテましたけど、今の外見は自他共に認める下の下レベルですよ。わかってますよ。あーでも、これ何か「自分の可愛い」ポイントを言わないと許してくれない目ですね。ジト目って奴ですね。でも自分で自分の可愛い所を探して言うって拷問じゃないですか? ああ、貴女はそういうタイプじゃないから平気で自分の可愛いところを言えますもんね。本当に私と血が繋がってるか時々不思議なんですけど、幸いにして夫にソックリな顔だから取り替え子の心配が無くて何よりです。……あぁやっぱりこれ言わないと駄目ですか? えーとそうですね……
「…………えーと、声?」
「確かによそ行きの声は可愛いけど! でも私が! 可愛いから! オマケして貰えたの!」
「だからさっきからそういってるじゃん」
ぶーたれて黙り込む娘。
……めんどくさい子だなぁ。一体誰に似たのかしら。