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カミサマを殺した九月一日

作者: 迎 カズ紀

 じとりと汗ばんだ手を握りかえされる。思えば人と触れ合うことは久しぶりで、ましてや女子と手を繋ぐなんてことは遠い遠い昔のことだった。

 学校へ行くには正反対の新快速に乗る。きっと戻ろうとした頃には始業式が始まってしまうだろう。それでもいい。もとより皆勤賞など取れるはずもないのだから。

「……はなしてください」

「離さないのはそっちだろ」

「それ、は……」

 珍しく言い淀んだ彼女を見る。相も変わらず抜け落ちた表情だ。意地が悪い僕は鼻で笑うように追い討ちをかけた。

「カミサマも、見るも耐えがたい姿になって人々を困らせることは望んでないでしょ」

「けれども――いいえ、いいえ」

 何か言おうとして諦めた彼女は、僕の隣に立ち窓から早く過ぎ去っていく景色を眺めた。手は繋がれたままだった。

「どこへ行こうとするのですか」

「ぼんやりとは決めているけれど、まだ言えない。悪いところじゃないから」

 うだるような暑さの中、僕たちは数駅先で乗り換えて田舎道を通る列車に乗り換えた。ホームにある自動販売機でのやり取り以外で彼女が口を開くことはなかった。彼女はお金を持っていなくて、僕が買ったお茶を受け取ると小さな声で礼を言ったんだ。その姿があまりにも幼くて、うっすらと感じていた疑念が本当ではないかと思ってしまった。

 彼女の名前は加崎美矢。××では有名なカミサマだった。


 ここで一度彼女自身と僕との関係について説明しておこう。

 僕が××にある高校に転校してきたのは高校二年の春だった。前の高校で居場所がなくなり、母方の祖父母が住んでいる××に逃げてきたのだ。××に来るまでまともに話したことはなかったが、静かに受け入れてくれた。

 しかし周囲、特に学校のほうはそうではないだろう。××はどちらかというと狭いコミュニティで、今更ゆかりのある者とはいえ余所者と関わりたくないはずだ。僕のほうも人間不信気味で、どうして転校してきたのかと問われると飾らずそのまま言った。殺されかけたので正当防衛で殴り返したら、スクールカーストで負けて信じてもらえなかったと。そうすれば嘘でも本当でも、やばい奴だと思って関わろうとしないだろうから僕は自ら拒絶されにいった。

 ――ところが、それを聞いた同級生たちは「可哀そうに」の後、口を揃えてこう続けた。

「大丈夫。美矢様にお話すれば救われます」

 正気か? 僕はそう言いかけた。けれどもすぐに言ってはいけないと悟る。目が異様だったのだ。ヤバイ集まりの信者ってこんな目をしているんだ。無言で頷くことしかできない僕に気づかず、同級生たちは親切心で「美矢様」のことを語ってくれた。

 要約すると、同じ学年の加崎美矢という少女は生き神様で、彼女に相談すると良いほうへ向かう有難いお告げをいただけるらしい。

 僕の境遇を勝手に哀れんだ同級生たちはあれよあれよという間に加崎美矢とのアポイントメントをとってしまった。全然乗り気ではなかったが、そこまで神格化されている少女を一度拝んでやろうという気持ちのほうが勝った。野次馬精神はそこまで持っていないはずなのにな。


 放課後、通された空き教室に行くと加崎美矢はそこにいた。しかし一人ではなく、誰かもう一人教室にはいた。前の相談が長引いていたのか、遅れてきたからか、どちらにせよ僕と会う時刻になってもお告げの時間は終わっていなかったのだ。

 僕は換気のためか完全な密室でカミサマと信者を二人きりにしないためか、ともかく少しだけ開けられていた廊下の窓から二人の様子を窺った。どうやらほとんど終わっていたようだ。

 ありがとうございます美矢様、と声がして数秒後、いきなり戸が開いた。相談者は僕に気づかなかったのか一瞥もくれず、スキップをするかのような足取りの軽さで帰っていった。その様子はやはりどこか変で、ほんの少し背筋が粟立ったよ。

 流石に前の人が出てすぐに入るのも良くないだろう。カミサマだってひと呼吸おきたいはずだ。

 ――そろそろいいだろうか。僕はもう一度窓から中を窺った。古典に出てくる垣間見ってこんな気持ちだったのだろうか。それとも絶対に開けてはならないと言われて覗いてしまった鶴の恩返しの老人に近いのだろうか。ともかく僕は見てはいけないプライベートな部分に侵食してしまったのだ。

 先ほどまで浮かべていた聖女のような笑みは消え失せ、抜け落ちたような無表情で加崎美矢は座っていた。目には光が宿っておらず、ただただ指と指を絡ませて手遊びをしていた。

 相談が続いて疲れてしまったのだろうか。あまり聞きたくない願いでも言われたのだろうか。それとも――。

「……誰?」

 ヒュッと喉が鳴った。僕が見ていることに彼女は気づいたのだ。それから、微笑みを浮かべ中に入ってくるよう促す。けれども僕には、その微笑みが虚ろなものにしか見えない。

「初めまして。それで、私にお願いしたいことって――」

「僕は君に何も願わない」

 気がついた時には僕はそう拒絶の言葉を言っていた。彼女は僅かに目を見開いて、僕の顔をじっと見た。

「僕はカミサマなんて信じない」

 もう一度はっきりと言った。これが僕と彼女の出会いだ。


 それで列車を乗り換えた後の話だな。夏休みも開けているし通勤ラッシュの時間も過ぎてしまったから乗車客はほとんどいなかった。老夫婦が一組、リストラされたことを家族に言えないまま出勤しているふりをしていそうな中年男性、まだ夏休みであろう大学生が三人くらい。僕たちはそんな人たちから離れた場所に座り、流れゆく景色を見ていた。

 ますます田舎に差し掛かっていくとそんな人たちも下車していく。とうとう僕と彼女以外いなくなって、ようやく彼女は口を開いた。それは僕に向けたものというよりは自然と零れ出たもののようで、ぼんやりとした目で外を見ていた。そして、列車が長いトンネルに入った時だった。

「銀河鉄道みたい」

 そう彼女は言ったんだ。

 銀河鉄道と聞いて思い浮かぶものは何だ? ――ああ、そっちもあったか。懐かしいな。でも今はメーテルじゃなくて、カムパネルラのほうな。宮沢賢治の書いた『銀河鉄道の夜』だ。

 とにかく僕は、彼女が暗いトンネルとその中に設置されているオレンジ色の照明を夜空に見立ててそう言ったのだと思った。だからそう尋ねた。しかし、彼女は首を横に振った。

「この状況がまるで夢のようで――良いものか悪いものかと問われたらその、アレですけど――不思議な心地になったのです」

「たしかに、訳がわからないまま乗車しているのはジョバンニみたいだね」

 今思うと僕らしくないことを言った。せっかく口を開いてくれたのだから会話を続けたくて、適当な口が滑ったのだろう。

 結果的に会話は続いたが、彼女は少し目を伏せた。そしてまだ残った独り言のトーンで、ポツポツと話し始めた。

「小学六年生の時、学習発表会の劇で『銀河鉄道の夜』をしたのです。内容は劇用に改変されていて、あまり悲しい結末を強調せず銀河鉄道での楽しかった出来事に尺が多く取られていました。私は劇でカムパネルラをしました。ああ、でも……」

 彼女は一度口をつぐみ、振り返って列車の外を見た。もうトンネルは抜けていて、田舎のひらけた風景が広がっていた。幼い子供がするように、座席で膝立ちになり両手を窓枠に置いて彼女は外を見た。

 僕も身体をそらせて外を見る。夏を表す入道雲が遠くに見えるのに、近くの空からは何故か秋によく見られる雲のなりかけも見えた。夏と秋の狭間が窓のキャンバスからは見えて、そういえば『銀河鉄道の夜』もそうだったなと今になって思い出した。

 彼女は外を見ながらも、今度は確かに、僕に問いかけるように言葉を零した。

「ほんとうの神さまって、何なのでしょうね。ほんとうのさいわいよりも分からない」


 よく議論されている「ほんとうのさいわい」は僕自身もわからないから置いておこう。「ほんとうの神さま」は、ジョバンニが銀河鉄道で出会った少女とその家庭教師の青年との会話で出てきたものだ。青年はきっとイエスのことを言っていたのだろう。しかしジョバンニは「ぼくほんとうはよく知りません、けれどもそんなんでなしにほんとうのたった一人の神さまです。」と答えている。

 当時の僕は『銀河鉄道の夜』を一度サラッと読んでいただけだったし、今の僕も数度読み返しただけだ。

 だからジョバンニのほんとうの神さまも、宮沢賢治のほんとうの神さまも分からない。僕自身の神さまも当然わからない。ただ、少し皮肉まじりに、そして本心から当時の僕は答えた。

「……案外君みたいなただの人間のことかもしれないね」

 彼女は僕の答えを聞くと何も言わず座り直した。けれども、わずかに動いた唇から言わなかった言葉を察することができた。

 ――私はカミサマじゃないわ。確かにそう唇は動いたんだ。


 ヌルって知っているか? ネットではノロのほうがヒットするみたいだけど、nullと同じ響きだからヌルって呼ぶほうが僕は好きなんだ。まあ、人から聞いた話でそんなに詳しくないし他所の文化を否定したいわけじゃないけれど。

 とにかくまあ、ヌルっていうのは巫女のことなんだけど、神主の補佐をする人というよりは神降ろしをする女性だと思ってくれたらいい。伝統的な信仰をふまえた、神託を聴く巫女。そしてそれを周囲に伝える高位な存在だ。

 加崎美矢という少女は××の人々にとってのヌルだったんだと思うよ。相談をされ、カミサマとして助言を行う美少女。

 でもそれって、本当に神様の言葉なのかな? 僕にとっては、相談者にとって都合のいい妥当なお告げを言っているように思える。本当のことだとしても、悪いことは言い難いし反発されかねないしね。

 加崎美矢が告げた言葉たちはどれも耳障りの良いものだった。信者たちの話を聞くと分かる。でも、全てが都合良くハッピーエンドになるのだろうか。しかし彼女がただ微笑んでくれる聖女ではなく、願いを叶えてくれるカミサマと信仰されるだけの実績があったのだ。

 裏で何か行われているのかもしれないし、本当に彼女が福女なのかもしれない。それは僕には分からない。周囲から「本物」と思われる存在だったという事実だけが最後に残ればいいのだ。そして本当に彼女に願っただけで、優しい言葉を返されただけで、どんな望みでも叶ってしまっていたのだ。


 目的の駅に着いた頃には正午のサイレンが鳴っていた。暑さは一層増していて、早く夏が終わればいいのにと口の中で呟いた。まだまだ歩くから、とだけ僕は言いスポーツ飲料二つと日傘を一つ売店で購入した。日傘とペットボトルを渡すと、ますます彼女は顔を曇らせた。流石にそろそろ目的地を言ったほうがいいだろうか。加崎、と声をかけようとすると彼女のほうが先に口を開いた。

「あなたの望みは何ですか? この先で、何か叶えてもらいたいことがあるのですか?」

 僕は眉を釣り上げた。

「加崎、僕は確かに君を連れ回しているがそれは無理やりやっていることだ。君に何か聞いてもらいたいわけじゃない」

「そうだとしても、お願いがあることにしたら、まだ――」

 彼女の声はだんだん尻すぼみになってしまったが、きっと僕を案じたのだろう。僕がしていることは身代金を要求する誘拐犯のようだったから。

「言っただろう、僕は君に何も願わない、カミサマなんて信じないって」

 彼女の肩がびくりと震える。そういえば最初に出会った時も、何かに怯えるような反応をしたっけ。

 加崎美矢は自分ではカミサマじゃないと思っているが、同時にカミサマでなくてはいけないと思っている。

 それが家族からの洗脳なのか、逆らうことへの恐怖心を植え付けられたからかは分からない。ただ、加崎家と関わってはならないという母方の祖父母の話から、彼女の家系が本当にヤバいということからの推察だ。それでも、彼女が自分のための金銭を持っていないこと、時折幼い子供のように見えてしまうこと、カミサマをしていない時は表情が抜け落ちていること、自分の意思を持っていないような発言をすること――。きっと物心がつく前からカミサマになってしまったのだろう。そう僕は思うんだ。

 思えば彼女の周りには信者以外の誰もいなかった。余所者の僕だけが信者じゃなかった。

 それならば僕が今していることはトリックスターのようなものなのだろうか。「美矢様」によって成り立った世界の秩序を壊す愚者だ。自分で言うのもなんだけど、今になってしっくりきたよ。


 ――脱線しすぎていたね。ともかく僕は彼女のカミサマである在り方を否定したあと、こう続けたんだ。

「――僕は時々学校をサボることがあるんだ。今の高校に来てからは初めてだけど。それで、サボった日にはよく知らない土地の川へ行くんだ」

 この人は何を言っているのだろう、という視線を感じながら僕は彼女から顔を逸らしながら言った。僕もまだ高校二年生だったんだ。急に自分がしたことを恥ずかしく思って照れ隠しするのもおかしくないだろう?

「ここまで連れてきておいて言うのが遅いけれど――よかったら一緒に行かないか? 同級生のよしみとして」

 彼女は当然戸惑った。当たり前だろう。よくも知らない場所へ連れてこられて、突然自分の意思を問われたのだ。我ながら卑怯だと思う。だって一歩間違えたら依存させることすらできる、そんな脅迫じみた響きさえある問いかけだ。

 一応彼女にも選択肢はあった。今まで使ってこなかった携帯電話を使えばいいのだ。学校をサボった彼女を心配して連絡が鳴りやまなくても、GPSを辿って早い段階でこの逃避行もとい誘拐劇が終わっていてもおかしくなかったのにそうならなかったのは、彼女が無意識のうちに携帯の電源を落としていたからだ。

 さあ、どうする、と彼女の顔を見る。

 すると彼女は静かに鞄から携帯を取り出して電源を入れたあと――ちなみに彼女が家族から持たされていたのはキッズ携帯だ――また鞄にしまった。

 てっきり電話なりメールなりをするかと思っていた僕は驚いた。彼女は僅かだが目を細めて僕を見た。

「迎えがくるまでなら、付き合います」



 そのあとのことは実はあまり覚えていない。昼食を取るのも忘れて田舎道を歩き水路を見ただけだった。結局大きな川まで辿り着けなかった。

 高速道路の高架下の道に通っていた水路を見て、僕たちは疲れたと言いあった。

 歩いている最中、ほとんど僕が話していた。前の学校であったことへの愚痴や、夏休みに小学校時代の友人とキャンプに行ったことや、読書感想文で読んだ本がつまらなかったこと。だいたいそんな感じの、くだらないことだったと思う。

 彼女は相槌も打たず、黙って日傘でよく顔を見せないまま横を歩いていた。

 それでも、高架下の水路を見て彼女が呟いた言葉を僕は忘れていない。

「私は私を好きになりたい。今の私は好きじゃない」

 そう彼女が言ったすぐあと、僕たちのサボりは終わりを告げた。





「はい、これでおしまい。お前にはこんな青春ないだろうから、明日ちゃんと始業式に行けよ」

「ええ、そんなあっけないの?」


 俺はがっかりした。数年前に隣に引っ越してきた男が最近注目の作家「鳴瀬雪人」と知ったのは最近だ。たまに勉強を見てもらう名目で仕事の邪魔――もとい遊んでもらっている。もともと見た目と違って人当たりの良い鳴瀬さんは親父たちからの信頼もすぐに得ており、共働きで家をあけがちな両親二人に代わって面倒をみてもらうことは小学生の頃からよくあった。一人で留守番ができるような歳になっても、なんとなく鳴瀬さんのところに来ている。

 それで今日は、明日からの二学期がなんとなく憂鬱で行きたくないなーと鳴瀬さんに愚痴りに来てたはずなんだが、いつの間にか思い出話を始めて灰色の青春を決めつけられた。まあ、その通りなんだけど。それに、さすが作家だから聞いていて面白かった。


「ねえ、その加崎さんとはどうなったの? 付き合ったりした?」

 好奇心から続きをねだる。しかし鳴瀬さんはバッサリと否定した。

「次の日から僕は信者たちから危険人物扱いを受けて、加崎と会うことすら叶わなかったよ。まあ、転校前と違って居場所がなくなっても学校に通い続けたけど」

「おー、かっけー……じゃなくて、つまんないの」

 てっきりこれからドラマみたいな展開があったと思ってたのに。現実なんてそんなものだよ、と鳴瀬さんは苦笑する。

「ほら、そろそろ帰りな。それとも宿題が終わってないから学校に行きたくないのか?」

 時計を見るともう夕方の五時半だった。話を聞くのに夢中で、五時のサイレンが鳴ったことにも気づいていなかったのか。

「宿題はとっくに終わってるよ。はいはい、俺は鳴瀬さんとは違うんで平凡に学校に行ってきますよっと」

「ああ、そうしろ。人生平凡が一番だ」

 笑ってひらひらと手を振る鳴瀬さんを見てなんだか気が抜けた。俺も笑って手を振って、玄関を出る。

「――っと、ごめんなさい!」

 びっくりした。扉を開けた先に女性が立っていた。玄関が横にスライドさせる形状じゃなければぶつけていたかもしれない。

「私こそごめんなさいね。ええっと、確かお隣の……」

「あ、そうです、志知先生」

 夕陽で最初はよく見えなかったが、たしかに志知先生だ。鳴瀬さんの仕事仲間で、時々一緒に本を出している志知先生。去年たまたま打ち合わせ中に家に来てしまって、紹介された時は驚いたな。だってこんな美人と二人で会ってるんだ、彼女かと思ったよ。

 ――なるほど、だから俺を早く帰したがってたんだな。仕事の邪魔をしちゃ悪いもんな。それにしても、こんな時間から?

「こんな夕方から打ち合わせですか?」

「いいえ、食事の約束をしていたんです」

「食事?」

 思わず聞き返してしまった。もしかして本当に、鳴瀬さんの彼女だったりするのか?

 好奇心の目を隠し切れていなかったのだろう、志知先生は少し顔を赤らめたあと、こっそり俺に教えるよう言った。

「実は鳴瀬さんと私は同級生で、お仕事以外の時も会う時間を取ることはあるんです。だからその、恋人とかではまだなくて――」

 まだ、か。俺が思わずふふっと笑うとまた志知先生は顔を赤くした。

「楽しんできてください」

「ふふ、ありがとう」

 志知先生は微笑むと俺と入れ替わりに鳴瀬さんの家に上がった。

 まったく、明日鳴瀬さんを問い詰めよう。

「――あれ、そういえば」

 時々志知先生とお会いすることはあるけれど、本名は聞いたことないな。作家のプライベートを無理やり知りたいわけではないが、鳴瀬さんは聞いたら本名をそのまま使っていると教えてくれた。彼女が鳴瀬さんと本当に付き合うようになったら聞いてみようか。いや、でも――。

 ほんの少しだけ聞くのが怖くて、俺は鳴瀬さんの家を振り返らずに自分の家に帰った。

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