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そうして気が付いた時、アデュラリアは透明な小瓶の中にいました。見上げてみると、しっかりと蓋がしてあり、到底出られそうにありません。どうやら完全に閉じ込められている模様です。
周囲を見回すと、同じように小瓶に閉じ込められた星の仲間たちが、泣いたり、喚いたりしています。小瓶を叩いて割って出ようとしている星もいれば、諦めたように小瓶の中で蹲っている星もいます。
周囲は小瓶に閉じ込められた星々の輝きで満ちていました。その輝きでぼんやりと浮かび上がる周りの様子に、アデュラリアは遅れて気付きました。
「わたし、捕まってしまったのね」
意外なほどあっさりと、アデュラリアはその事実を認めることができました。
逃げようとしなかったのだから捕まってしまったのも当然でしょう。捕まってからどれほど経っているか解りませんが、あの時一緒にいたパイラルガイサイトや、会場の中心にいたシルビンは無事なのか、それが気にかかるくらいで、後は不思議なほど落ち着いていられます。
それは人間たちがアデュラリアたちが閉じ込められている小瓶の近くに集まってきた時まで続きました。
宇宙空間とは違ってハリボテを脱いでいる人間たちは、アデュラリアたちが閉じ込められている小瓶を持ち上げてじっと見比べたり、振ってみたりして、笑い合い、喜び合っています。
中には涙を流して喜んでいる人間もいて、泣きたいのはこっちだと星たちは口ぐちに泣き叫びます。涙の種類が違うわよ、とアデュラリアは冷静に小さく呟きながら、人間たちを見回しました。
集まっている人間たちはたくさんいましたが、その特徴は千差万別でした。
男性と女性。黒髪から金髪。こげ茶色のような暗い色から青や緑といった鮮やかな色の瞳。黄色い肌に白い肌や黒い肌。アデュラリアよりも幼い見た目の年齢の人間もいれば、鳳凰座にいる星と同じくらい年老いた人間もいました。
そんな中の一人に、アデュラリアの銀の瞳が、吸い寄せられるように向かいました。
その人間は、たくさんの人間たちの間に混じって、そこにいました。
茶金の髪に青い瞳の、それ以外に取り立てて特徴がある訳ではない青年です。
けれどその人間は、他の人間たちと一緒になって確かに笑い合っているというのに、アデュラリアたちが閉じ込められた小瓶に向ける視線にはどこか哀しみが含まれていました。
だからでしょうか。アデュラリアは、あの人だわ、と思いました。
あの金色のラインの入ったハリボテを着ていなくても、この青年こそがあの人間だとすぐに解りました。
アデュラリアは思わず立ち上がり、自分と外界を隔てる透明な壁を、拳で叩きました。
「気付いて!」
わたしはここよ、と、アデュラリアは叫びます。
けれどその声は他の星たちの嘆きの声に掻き消されてしまいました。そもそも星の声は人間には届かないのですから叫んでも無駄なことです。それでもアデュラリアは叫ばずにはいられませんでした。
そんなアデュラリアの想いが届いたのかもしれません。青年の青い瞳が、ふいに、アデュラリアが閉じ込められている小瓶の方へと向けられました。そしてその瞳が、ほんの一瞬、驚いた様に見開かれます。
アデュラリアにはそれが、まるで目が合ったかのように思えました。けれど結局青年は、すぐにその視線を逸らし、他の人間とまた話し始めました。
そして、他の人間たちと一緒になって、アデュラリアたちが閉じ込められている小瓶を、大きく頑丈そうな棚の中へとしまい始めたのです。
「気付いて、わたしはここなの!」
諦めきれずに叫びますが、結局青年は気付く様子もなく、棚の扉を閉めました。ピピッという高い音と共にガチャリと鍵がかかります。星たちは、自分たちがこの上更に閉じ込められたことに気付くと、より一層人間を罵り、泣き、喚いて、互いに自らの不幸を嘆き合いました。
そんな中、アデュラリアは、ずるずると小瓶の底に座り込みました。壁を叩きすぎて痛い拳は、もう真っ赤になっています。
解っていました。人間には、アデュラリアたちの姿は、あくまでもただの輝きにしか見えないのです。それどころか、星々に誰一人として同じ者がいないことを、人間は知らないのです。
アデュラリアにとってあの青年がただ一人の人間でも、青年にとってはアデュラリアはたくさんいる星の中の一つに過ぎないのです。
「変ね。捕まったことより、気付いてもらえないことのほうが哀しいなんて」
じわりとアデュラリアの瞳に涙が浮かびます。
仕方がないこと、だなんて思いたくありません。やっと逢えたのに、こんなのではちっとも嬉しくありません。余計に哀しくなるばかりです。
何とか無事だったショールが肩から滑り落ちるのも、気にはなりませんでした。心ごと身体が砕けてしまいそうです。そのままアデュラリアは横たわりました。
夢の中でなら気付いてもらえるかしら。そう思いながら、目を閉じました。
それから、どれほどの時間が経ったころでしょうか。
ゆらゆらと何やら揺れる地面に、いつしか眠りに就いていたアデュラリアは目を覚ましました。
ぼやける目をこすって身体を起こし、きょろきょろと周囲を見回します。
人間に捕まったことは現実であり、自分は相変わらずの小瓶の中です。けれども眠る前とはなんだか様子が違います。眠る前は仲間たちと一緒にいたはずであるのに、周りには誰の輝きもありません。代わりに人間の手が、アデュラリアの小瓶を持っているようです。
ことり、と何かの上に置かれて、そこで初めて自分を運んでいた人間の顔を見たアデュラリアは、ぎょっと目を見開きました。
驚かずにはいられません。
何せあの茶金の髪の青年の顔が、すぐ目の前にあったのですからそれも当然でしょう。
青年の青い瞳が、透明な壁越しにじっとこちらを見つめています。
アデュラリアは頬が熱くなるのを感じました。これこそ本当に夢でも見ているのかもしれません。思わず自分の熱い頬を思い切り抓ってみました。とびっきりの痛みが、アデュラリアに、これが現実であることを教えてくれます。
これは一体どういうことなのでしょう。アデュラリアは小瓶の底に座り込んだまま、呆然と青年を見上げます。
青年はそっと小瓶に指を滑らせます。その触れ方は、透明な壁越しではありましたが、まるで初めて出逢った時のように気遣いにあふれたもののようにアデュラリアには思えました。
「きみ、捕まってしまったんだね。きみには捕まってほしくなかったのに」
「気付いてくれていたの?」
青年の声は哀しみに濡れていましたが、アデュラリアの声は逆に喜びに弾みました。
人間に捕まった星の末路のことなど頭から抜け落ちていきます。今この場で青年に願いを叶えさせられて、自分が死んでしまうかもしれないというのにです。
ただ青年が自分を認識している、その事実がアデュラリアには嬉しくてなりません。
小瓶の中でアデュラリアは力いっぱい輝きました。
その鮮烈な銀の輝きは、小瓶越しでも何ら変わりのない、宇宙の誰もが認める美しさです。
青年は眩しげに目を細めてその輝きをしばらく見つめていましたが、やがて、アデュラリアの閉じ込められている小瓶を、視線の高さまで持ち上げ「ああやっぱり」と感嘆の息を吐きました。
「なんて綺麗なんだろう」
その言葉は、アデュラリアをより一層輝かせます。こんな狭い小瓶の中でなかったら、すぐにでも踊り出していたに違いありません。
青年の声は、エトワールオーケストラの奏でる調べよりも深く強く、アデュラリアの心に染み入ります。
青年はアデュラリアをそのまましばらくの間見つめた後、またアデュラリアの小瓶を持ち上げました。そして、あの大きな棚の前までアデュラリアを運びました。
「あ……」
どうやら鍵を開けているらしい青年の様子に、自分が再びしまわれてしまうことに気付けない程、アデュラリアは鈍くはありません。
ようやく再会できたというのに、これでもう終わりなのでしょうか。アデュラリアの中で、一瞬前までのダンスを踊っている時のような気持ちが一気にしぼんでいきます。
棚の扉がゆっくりと開き、アデュラリアの目にも、棚の中の様子が見えます。そこでは、星たちが閉じ込められた小瓶が数えきれないくらいにたくさん、整然と並べられていました。
閉じ込められている仲間たちがこちらを見つめ、アデュラリアの名前を叫んだり、青年を罵ったりしています。
良かったわ、無事だったのね!
アデュラリアを放せ人間!
ここから俺たちを出せ!
皆が皆口ぐち好き勝手なことを叫び輝くのですから、暗いはずの棚の中は眩しいくらいに明るくなっています。
青年が呑気に「元気がいいね」と呟くのを聞いて、アデュラリアは言葉の壁って大きいのね、と場違いにも感心してしまいました。
そうして、青年はアデュラリアの小瓶を、棚の中でも手前の方に並べます。アデュラリアが青年の顔を必死に見上げると、彼はまるでそれに気付いたかのように微笑みました。
「またね」
その言葉と共に、がちゃりと棚が閉められます。途端に、アデュラリアは、周囲の星たちから口ぐちに言葉が飛んできます。
心配した、急にアデュラリアだけ連れて行かれたから驚いた、何もされなかったか、外はどうなっているのか、人間たちはどうしているのか、果ては、自分達はこれからどうなるのかなど。
そのアデュラリアは仲間たちの質問に、ほとんどなにも答えることはできませんでした。
何もされなかったことは確かですが、外の様子や他の人間たちの様子など知る余裕などありませんでしたし、今後どうなるのかなんて見当も尽きません。アデュラリアだけ連れて行かれたのは、彼とアデュラリアには元々他交流があったからに違いありませんが、それを言える訳がありませんでした。
結局、口を閉ざすしかないアデュラリアに怒りをぶつけようとする星もいましたが、他の星に仲裁に入られ、なんとか事なきを得ました。
けれどその仲裁に入った星もまた、なんでもいいからまた何か気が付いたら言ってくれ、とアデュラリアに頼むのです。
誰もが不安なのでした。
いつ自分が、人間にこの棚から取り出され、願いを叶えさせられて死ぬのかが。
けれどそんな中で一人、アデュラリアだけは違っていました。
不安のせいで誰もの輝きも鈍る中、彼女だけは必死に鮮烈に輝こうとする自分の身体を抑えていました。またね、という青年の台詞がアデュラリアの中で何度も繰り返されます。
また、ということは、次があるということでしょうか。高鳴る鼓動が、そのまま輝きに反映されてしまいそうです。
こんなのじゃ、星失格だわ。
そう思いましたが、それでも青年の言った『また』を、期待せずにはいられないのでした。
そしてその期待は、裏切られることは有りませんでした。
『またね』と言ったその日以来、茶金の髪の青年は、毎日のようにアデュラリアが閉じ込められている小瓶を棚から取り出しにくるのです。
当初はアデュラリアの小瓶が持ち出されるたびに声を上げていた他の星たちも、結局アデュラリアがいつも無事に帰ってくるのだと言うことを理解すると、何も言わなくなり、輝きを潜めるようになりました。下手に騒いで自分に白羽の矢が立つのを恐れたのです。青年に会えるのが嬉しくて仕方がないアデュラリアにとっては、好都合なことでした。
青年がすることはいつも決まっていました。いくらアデュラリアとて、最初は何をされるのかとびくびくしていたものですが、青年がすることは、大したことではありません。
小瓶に閉じ込められたアデュラリアを何かの装置の上においたり、光を当てたりするくらいで、アデュラリアを害するようなことは何一つありません。
だからそんな時間は、アデュラリアにとっては重要ではないのです。
一通りの作業が終わった後、青年がしばらくの間話しかけてくれるその時間が、アデュラリアには何よりの楽しみであり、喜びでした。
青年の話は様々な話題に富みました。
例えば、なんてことのないその日の食事。
「今日の夕食は料理長お得意のシチューでね、ついおかわりをしてしまったよ」
例えば、他の人間から聞いた笑い話。
「それで、彼はこう言ってやったらしいのさ。『さようなら、侯爵夫人』ってね」
そんな風にただ単に話しかけるばかりではなく、彼はご機嫌に鼻歌を歌っている時もあれば、真剣な表情を浮かべ無言のままでいる時もありました。
そんな時アデュラリアは、彼の作業を邪魔しない程度に輝いては、彼の姿を眺めるのです。それだけで彼女の顔には自然と笑みが浮かび、つい大きく輝いてしまっては青年を驚かせるのでした。
そして、今日も、一通りの作業を終えた青年は、アデュラリアに話しかけます。
いつになく疲れている様子の青年に、アデュラリアははらはらとしながら銀の光を明滅させます。
そんなアデュラリアの輝きに、青年は柔らかく微笑みました。
「心配してくれているのかな。……なんて、そんな訳ないか」
「心配しているに決まっているじゃない!」
言葉が通じないのがもどかしくてなりません。何度も身体を明滅させて何とか訴えかけようとするアデュラリアを眩しげに見つめて、彼は深く溜息を吐き、顔を手で覆いました。
やがて青年は、首からかけていた何かを取り出します。青年がいつも首からかけているその鎖の先は、常に彼の服の下に収まっていました。
当然、アデュラリアにはそれが一体何なのか解りません。青年が肌身離さずつけている様子のそれが、アデュラリアは前々から気にかかっていました。
何かしら、と青年を見上げるアデュラリアの前に、しゃらり、とそれは示されました。
「きみみたいな色だろう? ロケットペンダントって言うんだよ。僕は昔からこういう仕事に就くのが夢でね、『ロケット』なんてちょうどいいだろうって幼馴染がくれたんだ」
青年の手にあったのは、彼が持つには少々かわいらしすぎるぷっくりとしたペンダントです。
綺麗な銀色が、アデュラリアの輝きを反射してぴかぴかと光ります。
新しい物ではないのでしょうが、つやつやと大切に磨かれてきたことが窺い知れます。
つきりとアデュラリアの胸が痛みます。そのペンダントを青年に渡した相手は女性なのでしょうか。幼馴染と青年は言っていましたが、もしかしてもっと特別な関係にある相手なのではないでしょうか。
考えれば考えるほど落ち込んでいくアデュラリアを余所に、青年は、パカリとそのペンダントを開いて、しばらく中身を見つめていた後、再び首からそれをかけ直しました。
椅子に深く腰を落ち着けて、青年は呟くようにアデュラリアに話しかけます。
「そういえば、きみにはまだ話してなかったね」
それは、今まで一度も出てこなかった、青年自身についての話でありました。この宇宙船は星狩りの観光船であり、彼は今回はインストラクターとして乗船しているのだと青年は言います。
『星狩りの観光船』! なんて言い方でしょう。
あまりに酷い言い振りにアデュラリアは流石に腹が立ちました。自分たち星々は、大切な舞踏会をぶち壊されたばかりか、生命の危機に瀕しているのです。自分たちは命がけなのに、人間たちにとってはお遊びに過ぎないというのです。
インストラクターと言えば、そんな人間たちの親玉とも言える存在でしょう。
そんなのあんまりだわ、と、怒りと哀しみがアデュラリアのごちゃまぜになります。
けれど青年の顔を見上げると、そんな感情はすぐに立ち消えていきました。彼は、こちらのほうが苦しくなるくらい、哀しみに満ちた表情を浮かべていたからです。
「僕は本当は研究職なんだ。これまで研究を続けてきたのは、きみたちを捕まえるためじゃなくて、その逆のためのはずだったんだけどね」
進まない研究の研究費を稼ぐために、今回この企画を立ち上げさせられ、インストラクターとしての仕事を押し付けられたのだと青年は続けます。
それらの言葉には、深いやるせなさが含まれているようでした。
青年は、天井に設置された光に透かすように、アデュラリアが閉じ込められている小瓶を持ち上げました。いつもは青年を見上げるばかりだというのに、いきなり見下ろす状況になったアデュラリアはどぎまぎと落ち着かない心境です。
青年はアデュラリアを見上げながら、何かを懐かしむかのように小さく笑いました。
「ねえ、きみは知ってるかい? 僕たち人間はね、死んだらきみたちみたいな星になるんだよ」
何を馬鹿なことを言っているのかしら、と、アデュラリアは思わず首を傾げました。
星と人間は、根本から異なるもので、それ以上でも以下でもありません。どこをどうしたら人間が星になれるというのでしょう。
そんなでたらめをこの青年は信じているようなのですから、アデュラリアは驚きを隠せませんでした。
きっとどんな星が聞いても、どんな人間が聞いても、青年の台詞を否定するに違いありません。そんなことがあるはずがないと言うに決まっています。星は星で、人間は人間だと、誰もが知っている事実だからです。
アデュラリアの当惑になど当然気付きもせず、青年は呟くように続けました。
「きみたちは皆、誰かにとっての大切な誰かだったはずなのに。それなのに、そんなきみたちに願い事を叶えさせて死なせてしまうなんて、僕はとても哀しいことだと思うんだ」
そう言って青年は、まるで祈る様にアデュラリアの閉じ込められた小瓶を両手で包み込みました。
指の隙間からわずかに外の光が差し込みますが、それだけでは青年がどんな顔をしているのか解りません。で
すがアデュラリアにはその時何故か、青年が泣いているように思えてなりませんでした。
泣かないで、と、寄り添ってあげたくて仕方がありませんでした。
「……ああ、もう時間だ」
そして青年がその手を解いた時、彼はもういつもの穏やかな表情に戻っていました。アデュラリアは青年に小瓶ごと運ばれて、棚にしまわれました。
大丈夫だったかと、いつものように問いかけてくる周りの星たちに頷いて、アデュラリアは膝を抱えて蹲りました。
人間は死んだら星になる、という青年の言葉が頭から離れないのです。
そんな馬鹿なことがあるはずがないと確信していながらも、どうしてこんなにもその言葉が気になるのか、アデュラリア自身解っていました。
そう、そんなことはありえないからこそ、気になるのです。
青年のその言葉に、ようやくアデュラリアは思い出したのです。いいえ、本当は忘れてなんていませんでした。ただ見たくなかったのです。
自分が星で、彼が人間であることを。
自分と彼の間には、天の川よりももっと深い溝があることを。
「怖いわ」
呟きは他の星たちの耳には届きませんでした。ただアデュラリア自身の耳に入り、その胸にナイフを突き立てます。
アデュラリアはいつしか怖くなっていました。死ぬのが怖いのです。死にたくありません。生きて、あの青年ともっと一緒にいたいのです。それが叶わぬ望みと解っていながらも、そう思わずにはいられません。
青年がどう思い何を言おうと、いずれ人間たちはアデュラリアたちに願いを叶えさせるでしょう。そしてアデュラリアたちは、その身体を自身の輝きに呑まれて命を落とすのでしょう。
星にだって、人間と同じように願いがあるのにです。星と人間とはそういう関係なのです。根本から異なる、決して相容れない種族なのです。どれだけアデュラリアが青年と一緒にいたいと思っても、それは一方通行でしかありません。
つうっとアデュラリアの頬を銀の雫が伝います。
アデュラリアは、あの青年と出逢ってから、泣いてばかりいる自分に気付きました。いっそ出逢わなければよかったとすら思えます。辛くて哀しくて仕方がありませんでした。