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中途半端な者同士の自己紹介

「・・・~。・・・て~。起きて~!」



声と振動を感じる。その原因を探るべく、閉じていた目を開く。


そこで最初に目に入ってきた景色は、ようやく見慣れ始めた教室の天井。


少し眩しいな。そうか、電気がついているのか。どうやら停電は復旧したようだ。


次に、目の前にいる一人の見慣れない女の子の顔が視界に入る。


「よかった~。起きてくれた~。」


その言葉と主に、女の子は覗き込む姿勢をやめて、顔を上げた。それに合わせて、自分も体を上げる。


そうして女の子の全貌を見る。どうやら自分と同年代くらいの子だ。髪は黒く、肩より少し長いくらいの長さ。目は、垂れ目気味で、すごく整っている顔立ち。おそらく相当かわいい部類に入るだろう。


ただし、これは僕の主観で、学校にいる女の子達の顔もほとんど覚えてないから比較対象がかなり少ない。


服装は、僕の所属する学校の制服と全く同じ、セーラー服。イマドキの女子高生と同じ様にスカートは短め、胸元のタイをリボン状にしている。(これをしている女子高生は生徒指導の先生によく怒られているが、反省している人はほぼいない。)そして、足には黒の靴下とローファー。


ちなみに男子の制服は学ラン。まだ夏服期間なので、着ているのはズボンとワイシャツのみ。ブレザーでなかったのが高校生活における残念な点の一つであった。


そうやって彼女の特徴を眺めているうちに初めて気づく。その女の子は、()()()()()()()()正座していることに。


それを脳が理解した瞬間、身体が反射的に後ずさる。ほぼゼロ距離だったその女の子と、数メートルの空間が広がる。彼女はさっきまでいた幽霊である。と、脳内が瞬時に結論を出す。


「む~、なんで逃げるの~?」


その様子を見た女の子幽霊が、問いかけてくる。


「い、いえ、そういわけではないですけど・・・幽霊に対処する方法なんて、僕知りませんから・・・。」


鞄を正面に持ち上げて、ガードの状態をとる。最も、そんなものが無意味だということは知ってはいるけど、あくまで気休めに。


「私は幽霊じゃないもん!それに、君のことを襲うなんてありえないよっ!」


僕の言い分が不服だったのか、プンプンッ!と擬音が出そうな頬の膨らませ方をしてそっぽを向く。


「じゃ、じゃあ、あなたは一体・・・?」


「よくぞ来てくれました! 私の名前はヒカリ!よろしくね、えーっと・・・」


「あっ、ぼ、僕は羽場翼といいます。鳥の羽に場所の場、翼はそのまま翼って書いて羽場翼です。」


「羽場翼・・・。そっか、あなたが・・・。ううん、よろしくねっ、翼!」


「い、いきなり名前を呼び捨てですか・・・?」


「ダメだったかな?」


「い、いえ、あまり呼ばれ慣れていないだけですから、ヒカリさんのご自由にどうぞ。」


「そっか。それじゃあ遠慮なく翼って呼ぶね。改めてよろしくね、翼!」


そう言って手を伸ばしてくるヒカリさん。ここまでの会話で、少なくとも今のところは危険性がないということが分かった。最も、この幽霊が嘘をついていなければの話ではあるが、会話していて嘘をついているようにも感じなかった。


ひとまずは、仲良くしても問題はないだろう。


「こちらこそよろしくお願いします、ヒカリさん。」


伸ばされた手を取る。なんのことはない、ごくごく普通の握手。自分より少し小さくて、柔らかい女の子の手だった。


(・・・ん?)


そこでようやく違和感に気づく。

なぜ自分は彼女の手を()()()()()()()と。

そういえばさっきも、気絶する前、どうして彼女は僕に抱き着けたのか? 

同時に言っていた、「やっと見つけた」とはどういうことなんだ? 

というか、幽霊がなんで僕の学校の制服を着ているんだ? 

まず第一、なんで僕はこの幽霊の姿が見えているんだ? 

この幽霊は、いったい何なんだ?


一斉に頭の中に浮かんできた疑問達。それらを解消する手段。直接聞いてしまえばいい。この様子ならきっと彼女も答えてくれるだろう。そう思い、口を開く。その瞬間、


「なんだ、電気がついてると思ったら羽場か。」


と、教室の入り口から声がする。突然の声に驚きつつも、そちらのほうを向く。すると、クラス担任の伊那薫(いなかおる)先生が入り口で立っていた。


「雨は止んだし、それにもう19:00近いんだから、帰れ~。」


「は、はい。今帰ります。」


そう言って立ち上がる。少し窓の外を見ると、確かに雨は止んでいた。


そのまま鞄を持って教室を出ると、それを確認した伊那先生が教室の電気を消す。昇降口に向かって歩き出すと、それに先生もついてくる。


「あの、なんで先生もついてくるんですか?」


「そりゃ仕事だからだよ。お前みたいに遅くまで残ってる子を帰宅に促すべく、昇降口までついていく。なんともメンドーな仕事さ。」


そう言って手を広げて、やれやれと呟く。仕事なら仕方ないのだろう。


「ところで羽場、お前なんで尻もちついてたんだ?」


「え、えーっと、少しつまずいてしまいまして・・・」


「じゃあ手を伸ばしてたのは?」


「そ、それは・・・」


まさか、幽霊と握手していただなんて言えない。そもそも先生には彼女が見えているわけないのだから、真実を言ったところで信じてもらえるわけがない。笑い飛ばされるのがオチだ。だから、上手い言い訳に困る。


「・・・まっ、何でもいいか。まさか目の前に幽霊がいたとかってわけじゃないだろう?」


「は、はい。そうですね・・・」


先生大当たりです。実は見えてました?


「本当の幽霊に会わないうちに早く帰ることだ。それじゃあまた明日。」


「は、はい、さようなら。伊那先生。」


昇降口で別れを告げる。靴を履き替えて外に出る。地面は濡れているが、空を見上げれば雨雲はどこかへ去ってしまい、その代わりに月と星空が僕たちを迎える。そのまま自転車置き場まで歩き出す。


「ビックリした~。さっきの先生、私のこと見えてないよね・・・? もしかして見えていたとか!? いやいや、それはありえない・・・。」


隣には自問自答してる女の子幽霊、ヒカリがいた。先生と歩いているときも、ずっと横に浮いて僕についてきていた。


「・・・やっぱりついてくるんですね。」


「えっ、ダメ?」


「い、いえ、構いませんが・・・。ヒカリさんはついてこれるんですか?」


「え、うん。ついていけるよ?」


彼女は質問の意図がよくわかっていない様子だった。


自転車置き場に置いてある自身の自転車。普通のママチャリの籠に鞄を入れて漕ぎ出す。校門をそのまま抜けるが、彼女はやはりついてきたまま。


これで少なくとも、彼女は地縛霊ではないことがわかる。


地縛霊とは、とある土地から離れられなくなった幽霊のことである。一般的には悪霊であることが多い。彼女が自分の漕ぐ自転車についてこれることから、学校に縛られた地縛霊ではないことが確定できる。


そもそも、彼女の言う通り確かに幽霊ではないのかもしれない。触ることができる幽霊だなんて話は聞いたことがない。とはいえ、浮いていたり、先生には姿が見えていなかったりと、幽霊的特徴は確かにある。なんとも中途半端な存在である。


(まぁ、それは僕が言えたことではないか。)


特徴のない、中途半端な存在なのは自分も同じ。


(帰って夕食食べてから色々と聞けばいいかな。)


そのまま、いつも通りの通学路を漕いでいく。いつもと違うのは、一緒に帰っている幽霊の存在だけであった。

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