二匹の獣
フランツの部屋に入ると、獣と目が合った。
狼だ。
暖炉の前に積まれたクッション。それに背を預けるフランツの後頭部。
そのそばで、立ち上がり、黙って僕を見つめ返してくる狼。
「珍しい。ヴェヒターがうならない」
フランツが、こちらをジッと見つめている狼の頭をなでてやると、狼は気持ちよさそうに目を細めた。
「番人?」
「この子の名前。そんなところに立っていないで、こっちに来たら? 部屋も冷えちゃう」
言われて気が付き、扉を閉めて、フランツのいる暖炉の前へ。
ヴェヒターはフランツが言う通り、威嚇するわけでもなく、黙って僕の動きを見ている。
狼をこんなに間近で見るのは初めてだ。
あまり山に入ったことがないというのもあるが、狼は警戒心が強いし、人が住んでいる場所の近くに縄張りを持つこともあまりない。
たまに、遠吠えを聞くだけ。
それ以外は本で絵を見るだけだ。
「君が、飼ってるの?」
「そう。小さい時に拾ったんだ。怪我をしててね。治ったから森に戻してもよかったけど、すでにパックから離れてたし、狩りに連れて行っても、森に帰らないでボクのところに戻ってきちゃうからさ」
「パック?」
「群れのことだよ。――ヴェヒター、美人だからって興奮してないで座りなよ」
背を軽く叩かれたヴェヒターは行儀よくその場に座った。
まるで犬のように従順だ。
「すごいね。躾けたの?」
「そんな覚えはないんだけどね。なんかボクの言葉は理解できてるみたい。君も座りなよ」
言われて、フランツの後ろに腰を下ろした。
隣にはヴェヒターがいて、ちょっと怖かったけど、鼻をヒクヒクと動かすだけで、何もしてこない。
立ち上がったら僕とあまり身長、変わらないんじゃないかな?
冬毛に覆われた尻尾が左右に揺れる。
フランツはただ横になっているだけかと思ったが、彼の向こう。暖炉と彼の間にはたくさんの書類が置かれていた。無作為に。
「さて、ボクから質問しようか。それとも君から僕に質問する?」
散らばった紙の中には、数刻前に見た機械人形のスケッチも含まれていた。
「……あの、君はあの機械人形と……戦っていたの?」
「そんなふうに見えた?」
「遊んでいるようには見えなかった」
その言葉にフランツは鼻で笑う。
「ボクにとってはあんなのは遊びだよ」
ゲルトが言う通り、メルクリウスの使用は、彼にとってそれほど苦ではないようだ。
「なんでも遊びに変えちゃうんだ。結果を出せれば、遊びでやっていようが、誰も文句は言わないからね」
「そりゃあ、当主に対して文句が言えるのは――」
「賢人会議は言ってくるよ。そっちの国の錬成院はどうかは知らないけれど、この国で偉いのは賢人会議さ。ボクらは始祖と血縁関係にないからね。ただ、かろうじて血を繋いでいる王室は違う。王室、賢人会議、その下にボクたち当主四人がいるんだけど、ていのいい使いっパシリだよ」
「じゃあ、今日のも、誰かの命令で動いてたってこと?」
フランツはクッションの一つを抱きしめて、こちらへ寝返りをうつ。
「君は、機械人形をどう思ってる?」