青の憂鬱
フランツは暖炉の前に置かれたたくさんのクッションの山に身を埋めていた。
暖炉の火で冷えた足先を温めている。
その太ももに、狼が顎を乗せている。
冬毛に覆われていて、暖炉の火は熱すぎるくらいだろうが、主にくっついていられれば熱さなんてなんのことはないのだろう。
フランツはその鼻頭を指先でかきながら、黙って天井を見ている。
見慣れた天井だ。
十年以上住んだ部屋。
何か考える時、何も考えたくない時、こうして床に腰を下ろし、天井を見上げた。
空を見上げることはほとんどない。
自分と同じ瞳を持った人を思い出してしまうから。
青空は、好きだけど、嫌いだ。
良いことも、悪いことも、なんでも思いだしてしまって、目に映るすべてを壊したくなってしまうから。
何もしていないと、悪いことに考えが下っていく。
――人は低きに流れる。
誰の言葉だっけ?
どこで聞いたんだっけ?
どういう意味だっけ?
ああ、人は楽なほうへ楽なほうへって。怠惰になっていくって。
そりゃ当たり前だよ。
誰も望んで、つらい目には合いたくないよ。
ボクは?
ボクは馬鹿だから、つらい方を選ぶんだよ。
馬鹿だからね。
つらいと感じる時、最高に気持ちいいんだ。
生きてるって気がする。
部屋の外に人の気配を感じて、思考を一時停止する。
ためらっているのか、すぐに部屋の扉をノックしてこない。
別に、気を使う必要なんてないのに。
軽くため息をついたら、それが引き金だったかのように、控えめに、ゆっくりと扉がノックされた。
「どうぞー。鍵は開いてるよ」
控えめに扉が開いて、彼が部屋に入ってくる。
毛足の長い絨毯は足音を吸収するけれど、ステップの感じで誰かはわかる。
この屋敷の人間じゃない。
今日、初めてであった彼。
「……少し、話をしていいかな?」
軽く振り返ると、ザフィーアが立っていた。
「うん、いいよ」
ああ、そっか。
君はサファイアだったね。
青い宝石。
ことごとく、青に縁があるなあ、ボクって。