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14/30

天才の子

 どんなに言い争っていても、会議は時間通りに終わる。

 話の途中でもぶった切って終わる。

 この会議、なんか意味があったのかなあ?

 出入り口の混雑は続いているので、会議中に一度も口を付けなかった水を飲む。


 ――すっごい、不味い。

 あー、汚染が深刻って舌に染みるわー。


「ところで、ザフィーア君、宿はどこに取っているんだね?」


 同じく机に残っていたクリストスが声をかけてくる。

 会議に出席するということで、実のところクリストスから館に招待を受けていたのだが、それを断っていた。なんだか気を使わせてしまいそうで。


「それが、色々わけあって、トリスメギストス卿の館に」


 その言葉に、クリストスは目を(しばたた)かせる。

 そして、背後を少し気にし、僕のほうに身体を近づける。


「それは、フランツ君の屋敷かね?」

「え、ええ。フランツ――」

「シー」


 クリストスは指を一本立てて、自分の唇の前に置く。


「あの、彼のことって、あんまり話しちゃいけないんですか?」


 言われた通り、少し音量を下げて聞く。


「あからさまに嫌う者もおるがの。悪い子ではないじゃろ?」


 悪い……、うん、出会った時も僕をかばってくれたし。いろいろぶっ飛んでるところはあると思うけど。


「あの、彼が会議に出ないことと、何か関係があるんですか?」


 僕の質問に対し、クリストスは長くなったあごひげを撫でながら答える。

「全く関係なくはないが、彼のことを良く思わない人間が多すぎてのう」

「なぜ?」

「天才じゃからじゃよ」


 それだけ?


「アウグスト君は知ってるじゃろ?」

「ええ」


 先ほどの会議にも参加していた。

 現時点で唯一紫の位を与えられた、クレモネス・ホーエンハイムの現当主、アウグスト・ホーエンハイム・トアポラールシュテルン。

 たまに先生がその名前を口にするし、彼の論文を読んだこともあるので知っている。


「アウグスト君はフランツ君の父親なんじゃよ」

「はぁ!?」


 思わず大きな声が出てしまい、慌てて口元を押さえる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。アウグスト氏は黒髪でしたよ」


 漆黒の髪。少し長めの前髪に切れ長の目。

 対するフランツは白い髪に大きな瞳。


「フランツ君のあの髪は突然変異だと思っておる。茶色い部分は母親と同じ色じゃ」

「クリストス先生、もしかしてあの子のゴタゴタにも関係してるとかってないですよね?」

「ワシは医者じゃからの。自然と、人間関係は広くなるもんじゃよ」


 本当にそれだけなのかなあ?


「でも、アウグスト氏はホーエンハイムで、どうしてその子供がトリスメギストスの当主なんです?」


 なんか陰謀的な、そんな雰囲気は出てるけど。

 ――先代トリスメギストス当主の殺害。

 関わらない方がいいって勘が言ってるけど。これまで接したかぎり、そんなようなことをするような子には思えない。

 クリストスは苦笑いを浮かべる。


「いろいろあるんじゃよ。この国は」


 国家レベルの秘密なんですか。


   *


 会議が終わり、来た時と同じくトリスメギストスの馬車に乗った。

 その時、幾人かの視線を感じた。


 ホーエンハイム卿の子供なのに、現トリスメギストス卿。

 錬金術師の出生率は下がる一方で、本人の知らぬところで何かやり取りがあったのかもしれない。

 だって、フランツはああ見えて、史上最年少で達人(アデプト)になった子だし。

 捨て子の僕らも人の事言えないけど、真っ先に浮かんだのは、親と離れ離れで寂しくないのかなって。

 話してたかぎり、寂しそうな印象は受けなかった。

 ただ、なんか、妙に成熟してるっていうか。

 子供っぽいところもあるけれど、それがどこかわざとっぽかったり。マジだったり。

 人って、よくわからないなあ。


「……僕が立ち入っていいような話じゃないんだろうけど」


 会議の疲れか、馬車のクッションと、程よい揺れのおかげか、いつの間にか眠りに落ちていた。


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