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賢人会議

 賢人会議の義堂の中央に置かれた円卓。

 そこに添えられた椅子に各々、錬金術師であり、達人(アデプト)の証である黒い上着を纏った者たちが座っている。


 ざっと名簿に目を通すと参加者は十二人。

 各門派から三人参加している計算になるが、そこにトリスメギストスの名を背負った者はいない。

 てっきりフランツも会議に参加すると思っていたのだが、彼は参加しないのだと。

 それどころか、当主になって一度も賢人会議に出席したことはないと。


 「あんなものは時間の無駄で、結局なにも決まらないか、元々答えが決まってるにきまっている」と言っていたけれど、そんなものなのだろうか?


 確かに、錬成院でこれほどの大人数を集めてやる会議は基本的に「確認」であって「話しあい」ではない。

 十人、いや、五人を超えると収拾がつかなくなるのだ。

 五人でも怪しいところだ。

 みんなそこそこ歳を重ねていて、女性の姿はなかった。

 女性っぽい姿の自分はいるけれど。


「今まで機械人形の製造にどれほどの予算をつぎ込んできたと思っている? いくら金を積んだところで全く成果を上げられていないじゃないか」

「新材料開発が間に合っていない、というのも考えられますな」

「人形、もしくは機械による工場のオートメーション化というのは魅力的だが、動力源はどう確保する? ガスの圧力だけで(まかな)えるのかね?」

「それよりも問題は自動化によって生じる雇用問題だ。これ以上浮浪者があふれかえるようじゃ、首都の美観が損なわれる」

「そういったものは経済部のほうで考えることじゃないか」


 正直なところ、開いた口が塞がらない。

 それぞれの主張はすでに書類で提出されているので、あとはそれに対する質疑応答かと思っていたが、申し訳ないが、子供の喧嘩のほうがまだマシと言えるかもしれない。


「多少、気圧されているようだね。それとも、呆れているのかな?」


 隣に座った、現フラメル当主、クリストス・フラメル・ルストゴルドが声をかけてくる。

 その顔はいつも通り、穏やかな笑みを浮かべている。

 すっかり白くなった髪、頭のてっぺんはほとんど髪の毛がない。

 昔会った時はもう少し髪の毛があったような気がしたけれど。

 クリストスは、僕とルビン、それとスマラクトの手術場所の提供はもちろん、手術を手伝ってくれた人。もう一人の命の恩人だ。

 それでいて、達人試験時の師以外の推薦人も請け負ってくれた人だ。


「い、いえ、大国の会議と言ったらもう少し穏便なのかと」

〈大国だからこそ荒れ狂ってるんだろ〉


 暇で仕方のないスマラクトがさっきからあれこれと愚痴をぶつけてくる。


「察するに、リーフレアの錬成院の会議はこれよりも穏便だというこだね」

「ええ、まあ」


 錬成院での会議は基本的に報告だけだ。

 錬金術師ではない議員たちに、技術の説明を行ったり、助言したり、それだけなので、こんなにも激しい主張というのは、ルビンや先生と意見の食い違いでやり合うくらいで。

 あのノリでいればいいんだろうけど、冷静になった時、「あれはさすがにないな」と思うのだ。

 その「さすがにないな」という状況が目の前で繰り広げられている。


「みんな、自己主張が強すぎてな」


 クリストスは自分は蚊帳の外、といった体でのんびり語る。

 実際、彼は席についてから弁論は行っていない。


「我が強い、ということでしょうか?」

「それもあるが、四つも門派があり、それらを出し抜いて一番になろうと思うと、自然とこのような有様になってしまうんじゃよ」

「はぁ……」


 一番になることと、国を豊かにすることって、イコールでつながってるのかな?


〈いろいろ、面倒くさいことが絡んでるんじゃね?〉

(たとえば?)


 心の内で問いかける。


〈そりゃやっぱり金だろうよ。四つの門派に同じ研究費を払うってだけでも大変だろ。選別して、成績優秀なところに、それだけ金を払ってるってところじゃね?〉


 優秀なところには人材もお金も集まるって、何かの本に書いてたっけ?

 錬金術関係じゃない。たぶん経済とか、そこらへんの本だと思う。


「はるばる、隣国から来てくれたんじゃ、少しは意見を述べてみたらどうかね?」

「え?」


 クリストスのその言葉で、たくさんの視線が一点集中する。

 もちろん、僕に対してだ。


「え、えーっと、文書でも提出しましたが、炭鉱などリスクの高い作業現場に機械人形を用いるというのは良いと思います。ですが、そのリスク、事故などによって機械人形が全損した場合の金額的なダメージは大きいので、もう少し製造コストの面を解決できない限りは従来通り、ゴーレムを運用するしかないかと思います。

 ただ、それに関してもただ機械人形を開発するのではなく、同時に新材料の発見だとか、人形に限らない、他のものに応用できるように研究を進めていけば、研究コストの削減につながるかと……」


 さっきまで誰かが話していても関係なく口を挟んでいたりしていたのに、突然静かになられると困る。

 困るっていうか、すごく不安になるんだけど。


「第一に優先すべきは国民のことではないかと……よそ者が言うのも何なんですが」


 ホント、僕はただのよそ者なんだけどなあ。


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