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憐れな人間

飲む。

コップいっぱいの水で流し込んだ。飲んだ。


人間とは時に自分でも意識しない行動をとってしまう。衝動的に、感情的に、肉の身体で出来ている生き物として、本能や理性にも逆らう行動を肉の反射として行ってしまう。


何も起こらない。人生は劇的に変わらない。


呼吸が浅くなっている。

部屋のライトがいやに眩しい。


今になって後悔するが、このまま惰性で慣性に行こうとする自分がいる。


外の車の音が気になる。

吐く息から紙に似た香りを感じる。


冷静な自分は分かっていた。分からず屋な自分は絶望した。最期の時ですら人生はロマンチックにはならないし、時間の流れに従うしか術がない。


頭がざわついてきた。まるで雪女の手で脳全体を混ぜられているようだ。

身体が暑いのか、痒いのか、痺れているのか、ただただ皮膚が脳へと刺激を送り続ける器官になったかのようだ。


どれくらい時間が経ったのか、デジタル式の時計を見ても、数字を意味のあるパターンとして脳が認識しない。

分からない。分からない。

起きているのか、寝ているのか。

身体が震えているのか、笑っているのか。

一瞬の無重力の後、額に鈍痛が染みる。何もかも分からない体でやっと椅子から倒れ落ちたことを直感する。

どうでも良いことばかり思い出す。

中学校の期末試験の問題、小学校で好きだった給食、大学で知り合った名前を思い出せない人、高校で読んだ本の一節、幼稚園の庭で見つけた四葉のクローバー。

どんどんどんどん駆け巡る記憶に対して、使い物にならない頭はいま体に起こっている事の処理でいっぱいいっぱい。床とにらめっこしている"今"しか認識していない。


やっぱりロマンチックには終われない。分かっていた。

そう言えば、走馬灯は体が現状に対処するための記憶を再生していると聞いたことがある。


ここから先の記憶はない。


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