1、始まりの原因
私はリムセル、16歳。大通りの宿屋のオーナーの1人娘でした。
両親の宿を残したい…自分の居場所を残したい…そんな思いで、両親の宿を継ぐと決めていながらも、いつも冒険者たちからの聞く旅の話に胸ときめかせ冒険者になりたいと、そんな夢を持っていました。
実は、諦めきれずに両親の目を盗んで言や魔術なんかの練習をこっそりとしていました。
私は結果的には、冒険者になることが出来ました。
それは、とある事件をきっかけに…
♣
あの日のある外から聞こえる謎の悲鳴で目が覚めた。なんだろうとむくりと起きてカーテンを開けて目を疑った。
少し向こうに煙、その元を辿ると大きな炎が家々を飲み込んでいる。
火事…
私がそう判断するのには、少し時間がかかった。
窓を開けると異様な匂いが嫌でも鼻に入ってくる。
部屋にふく風は熱く、私はとてつもない恐怖感で足がすくんでその場にペタリと座り込んで足が動かなかった。
抱え込んでいたぬいぐるみをギュッとして、身をまるめた。
すると、廊下からドタドタと足音が聞こえ、そしてドアがバンっと開いた。
「リムセル!大丈夫?」
大丈夫じゃない_
「お、お母さん、これどうなってるの?」
「わからないわ、とにかく今は、外に出て!」
動きたいが足が動かない。
なんで?ど、どうしよう。
「お母さん、足が動かない」
すると、お母さんが、横抱きにしてくれた。
「走るから、捕まっててね」
私はうん、と頷き片手でぬいぐるみを抱えて、反対側の手で服をギュッと掴んだ。
お母さんは、大急ぎで、階段を急いで降りて酒場を突き抜けて、外に出るとそっと私を土の上に下ろして、こう言った。
その手には、鍵を握っている。
「いい?お母さんとお父さんは、まだ、お客さんが残っているか確認してくるから、先に逃げててね」
「待って、お母さん、行かないで!」
「すぐに行くから大丈夫よ」
そう言うとお母さんは、酒場を抜けて階段を登って行ってしまった…
恐かった。火の異様な匂いが鼻に入り、煙が空を覆い街の人が悲鳴を上げるいつもとは真逆のこの街を見るのは。
そしてまた、足が震えれ出し動かない。
私は強い力でぬいぐるみをギュッとして顔を沈め、お母さんとお父さんが来るまで待つことにした。
待つことしか今の私にはできなかった。
そして、だんだん辺りが暑くなってくる。
ふと顔をあげて辺りを見回すと、家の近くまで炎が来ていた。
私は慌てて手を前に突き出して水魔術を唱えた。
「み、水、ウォー、ター」
魔術は発動し直径1m程の水の球が炎にかかった。かかったはずなのだが…
「なんで…消えない」
そう、炎は全くというほど消えなかった。
そして、ついに炎が家を飲み込み始めた。
私は、すごく怖かった。
居場所が、私が冒険者の話を聞いてわくわくすることが出来なくなる、消えていく。消えていってしまう。
居場所が消えてしまったら、今の私の生きがい、冒険者の話を聞くことが出来なくなってしまう。
嫌、嫌だ、そんなの嫌だ。
これが悪夢のならお願い、覚めて。
ぽとぽとと、我慢していた涙が出てきた。
「「リムセルー!」」
家の中からお母さんと、お父さんの声が聞こえた。
2人だけなのでお客さんは、残っていなかったようだ。
「お、お母さん、お父さん」
さっきまで動かなかったはずの足が急に動きだし、ぬいぐるみを抱えて走って両親の元に行ったのだが…
しかし、声は聞こえるけれども両親はまだ家の中なのだ。
そして今、炎が家を飲み込んでいる最中。
これがどんなに危険な状態かその時の私は理解出来ずに本能のまま走った。
そして、私が家に入った瞬間何につまづいて転けてしまった。
それが運の尽きだった。
転けた瞬間、家の入口が…崩れた。
その材木が私の左足に落ちた。
「あああぁー、い、痛い、痛い痛い!」
「「リムセルー!」」
お父さんが、すぐに材木をのけてくれたのだか、
痛い、凄く痛い。熱い、凄く熱い。
下を見てみるとそこは、赤い水が溜まっていた。
血だ…
怖い、怖い、怖い。
確かに怪我をした足はとても熱いのに何故か体がとても寒い。
もう熱いのか寒いのかも分からなくなってきた。
「リムセルお前なんで、先に逃げなかったんだ!」
だって…
「お母さん、お父さん、居なくて、私、怖かった。
家に火がついた時は、居場所が私の楽しみが永遠に無くなってしまいそうで…凄く怖かった」
そう言うと、お母さんは、ため息をついてこう言った。
「リムセル…わかったわ。確かにもうここは居場所が無いかもしれない。だから、リムセルは生きて自分で自分の居場所を作るのよ。私はリムセルに死んで欲しくない、これは私のエゴ。だけど許してね。」
許す何を?
「あなたも、それでいい?」
「あぁ、俺もリムセルが生きていてくれるならそれでいい。俺もリムセルに生きてほしい」
「わかったわ、ならこれね」
そう言ってお母さんは、いつも身につけていた綺麗な石のネックレスを取り出し、そして自分の指をがぶっと噛んだ。
もちろんだというように血がドバっと出てきた。
それをあのネックレスの石につけた。
「はい、あなたも」
そう言ってお母さんは、ネックレスをお父さんに渡して同じようにネックレスの石に血をつけた。
気のせいか血がついた石は鈍く光っていた。
その石をお母さんは、私の手の上に置いた。
「じゃあリムセル、あなたは、私たちの分まで頑張って生きてね」
そう言ってお母さんとお父さんは、私の手の上に手を重ねた。
そして、温かな何か…魔力だ。こんな状態だというのにどこか、安心出来る。
「じゃあね、リムセル。バイバイ」
そう言って私は両親のどこか安心させるそんな笑顔を見たところで意識は途切れた。