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一人とひとり(c)

ハルカは黙ったまま、自分を指差した鈴音を見ている。

鈴音は言った。


「あの火災で、マンションの住人を助けようとして右うでを失った男の子がいた……、名前は、"白河ハルカ"。

その子はそのあと行方不明になって、死んだことになっているわ。

そんな彼が、ぐうぜんこの船に乗り合わせるなんて、どう考えてもおかしいじゃない」


ハルカは目を閉じると、長く息をはいた。


「たしかにその時の"白河ハルカ"とは、まさにオレのことです」

「でも、彼は犯人ではありませんわ」


くもりのない声でそう言ったのは、礼美だった。


「高松さんが海に落ちた時、彼も探偵さんも、わたしと同じフロアにいましたもの。ふたりにあの犯行は不可能のはずです」

「塩原夫人の言うとおりです」


深神が言った。


「ハルカは犯人ではない。それにこの場にはもうひとり、あの火事に関係している人間がいる。

丹波鈴音さん、あなたが必死にかばおうとしているのは……」


深神は都子と目を合わせた。

都子はひるむ事なく、じっと深神の顔を見ている。


深神は口を開いた。


「黒野都子さん。……もしや本名は"黒"宮紅葉さんでは? マンション火災で死亡した黒宮夫妻の、娘の名だ」

「都子が人殺しなんてするわけないじゃないの!」

「いいの、鈴音ちゃん。……深神さん」


都子はまっすぐに顔をあげた。


「深神先生。まさか、ただの思いつきだけで私を犯人だとおっしゃっているわけではないですね?」

「ええ、もちろんです。正直、このみっつの事件は、船に乗っているほとんどの人間には犯行が可能でした。

そのなかで、海に落ちる人間を目撃した人間以外なら、ね」

「なら……おわかりだとは思いますが、私は啓祐さんが海に落ちるのを見たんですよ?」


深神はほほえんで、片手を広げた。


「はたしてほんとうにそうでしょうか? そもそも、あなただけにアリバイがあるということが、逆に不自然すぎるんです。

そして、なぜ高松氏が殺されなければなかったのか?

それは高松氏がわれわれに招待状を手配した者……つまり"犯人"をつき止めようとしていたからだ。

しかしそもそも、手がかりとなる予告状をわざわざ送ってきたのは、犯人自身だ」


深神は二、三歩、バーのなかを歩いた。

かつ、かつ、……と、くつ底の鳴る音が高い天井にひびいた。


「犯人は三人の殺害に成功したあとに罪をつぐなうつもりで、警察ではなくわれわれに探偵役を望んだ。

しかし、予定よりもはやく犯人と気づかれるおそれが出てきてしまった。

目的を達成するよりも前に拘束されることをおそれた犯人は、この緊急事態にやむを得ず高松氏を殺し、発覚を遅らせようとした」


都子はただ目を閉じて、深神の話を聞いている。


「そして佐藤氏の件だが、佐藤氏は海へなど落ちていない。黒野氏は自分が目撃者になるために、うそのアリバイを作ったのだ」

「深神さん。……それなら佐藤さんは、まだ生きているんですか?」


ハルカがたずねると、深神がうなずいた。


「ああ。おそらく、佐藤氏と黒野氏は共犯だろう。彼は自分自身が復讐の対象だと知っていてもなお、

彼女のアリバイ作りと、その後の犯行に協力した。……理由は、本人に聞いてみないとわからないが」


都子は、少しだけ笑って言った。


「でも……、いままでのお話は、やっぱり憶測の域から出ていません。わたしが犯人だという証拠が、ひとつもないんですもの」

「そう。その証拠なんだが……今朝、赤月代表の息子、赤月誠君に聞いたことがある。

誠君は、乗客に関連のある色の花を、客室にかざるように指示をしたそうだ。

スタッフは指示どおり、客室の申請者に合わせた花を、それぞれかざったらしい」

「それがなんだっていうんですか?」


都子がたずねて、深神が笑った。


「昨日、村崎氏の部屋にかざられていたのはあやめの花だった。

そして黒野さん、あなたの部屋にも、おそらくあやめの花が飾られていたのではないかな?」

「それは、当然です。だって私は、"あやめ"の支配人の補佐だから……」

「そうだ。もちろん、そこにはなにも不可解な点はない」


そして深神はハルカの横に立つと、ハルカの肩に手を置いた。


「そしてわれわれの部屋に飾られていたのも、同じあやめだ」


バーのなかが、しんと静まり返った。

そんななか、深神はいままでと変わらない口調で言った。


「……われわれの部屋を手配した者が、招待状といっしょに犯行予告を送ってきた人物と、同一人物でまちがいない。

そしてわれわれの部屋にあやめが飾られているということは、あの客室の申請者はあやめの関係者だったということ。

村崎氏が死んだいま、ほかにあやめと関わりのある人物は……」


深神は都子を指さした。


「黒野さん。あなたしかいません」

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