(グランデール社・異世界帰還者保護事業部創設者)ルシエル・グランデールの祝福
(後編)神の箱庭・神力の継承者と自重を知らない神々。〜神の導きが繋ぎ結びし縁〜
短編第五弾(四弾の続き)です。
待っていた人にはおまたせしましたー。
そうでない人は是非この機会に読んでほしいです。
これで完結です。短編全部読むと成る程ねーってなると思います。
短編五作品で約10万文字位なので、そこそこ暇潰しになりますよ。
おすすめは、帰還勇者の孫〉スライムは見た〉スプリットポイント〉神の箱庭前編〉後編〉デルタワールド(チマチマ更新予定)です。
前編や関連する短編へは、一番下のリンク、もしくは活動報告から飛べますのでよろしくお願いします。
異世界シンドール・・・
『ま、こんなものかしらね?トロイ?』
『かなり時間が掛かったけど、ようやく私達の世界の完成ね。クリエと私で頑張ったものね。』
シンドール上空から満足そうに世界を見下ろすクリエとトロイの二人の神々ではあったが、私は突っ込まずにはいられなかった。
「誰が頑張ったってぇ?何がようやく完成ね、だとぉ?今迄散々破壊活動していたのは二人だろう?一体この世界は何回消滅したと思ってるんだ?その度に私とミリアで修復してきたんだぞ。分かってるかい?」
【縁の言う通りですわ。以前の世界ではクリエもトロイもここまで世界を破壊しませんでしたわ。やり過ぎですわ。宜しくて?】
私とミリアが二人の神々に突っ込んだが、クリエとトロイは何処吹く風といった感じでしれーっとしていたのだった。
(全く堪えて無いな。まぁ、今回は被害が大きすぎてクリエとトロイの身体の一部で世界を修復したから、暫く二人は何も出来ない筈だから良い薬になっただろう。)
【縁、だから心配なのですわ。力を取り戻したら今度は何を仕出かすかわからないですわよ?今も何か企んでいるみたいですわ。】
(そうだね。邪魔はしたんだけどねぇ。そんな状態でもトロイは魔王を産み出す仕掛けを仕込んでるし、クリエは魔王誕生に合わせて勇者召喚が発動するようにしてるみたいだけど、まぁこの程度なら今回は世界は滅びないだろうけどね。でも、自重を知らないあの二人の性格だと・・・力を取り戻したら遠慮無しで全力出しそうだね。)
【何か策は有りますの?】
(私の所に魔王や勇者に匹敵する存在が居ればパワーバランスが取り易いと思わないかい?今回魔王にされかけ、私達が助けたあの元妖精のアリーとかね。後は色々準備する為の拠点を世界樹の森辺りに造ろうかと。)
【確かに私と縁で創造した妖精の居る世界樹の森エリアは私と縁の力が宿ってますわね。私と縁の拠点には相応しいですわね。アリーも潜在能力は魔王と妖精王のハイブリッドでしたわね。縁のガーディアンに今迄の戦いで集めさせた力も有りましたわね。後は魔王か勇者のどちらかと共闘すれば・・・成る程、素晴らしい考えですわね。】
(もっと早く色々と準備をしたいんだけどね。あの二人の神々がハシャギ過ぎるから犠牲も多いし、時間も対抗する力もまだまだ足りないんだよ。したい事が盛り沢山なんだけどね。だから協力頼むよ。ミリア。)
【も、もちろんですわ。縁のパートナーとしても末永くお願いしますわ。】
まるで嫁入りの挨拶だが、私にとってミリアの存在は大きいのだ。
何だかんだ言いながらも二人で過ごした時間は、人間の一生という尺度を遥かに超えて幾星霜レベルであり、クリエとトロイとの腐れ縁もまた同様であるのだ。
まぁ、日本ではほとんど時間は経っていないようだが・・・
私がシンドールへ呼ばれてから、クリエとトロイの暇つぶしや、シンドールの民自身の過ちの為に、色々な文明が誕生しては消えていったのだった・・・
その中には、私の常識の遥か斜め上を行くような文明も沢山存在し、私は消えていく文明の中で、その技術をガーディアンに集めさせて、神の箱庭と化したシンドールを解放し、消滅させない為の準備を進めているのだ。
その甲斐もあり、やっと安定しそうな世界が完成したのだ。
私が気に入っていた異世界シリウスに似せ、エルフやドワーフ、獣人族やドラゴン等が存在する剣と魔法の西洋風ファンタジー世界となっている。
私とミリアが創造した世界樹の森が魔法の素となっている魔素を生み出し循環させ、妖精界で力を調節し、生命に活力や魔力を与え、世界各地に存在するトロイの一部で創造した迷宮が、同様に闇の力を循環させ、闇の力を調節して迷宮の外に存在する魔族や魔物の数や力を安定させているのだ。
更にクリエの一部で創造したミレニアム王国の導きの塔が光の力を産み出して、魔族以外のシンドールの各種族に力を与え循環させ、光と闇の力のバランスを取っているのだ。
ちなみにミレニアム王国は、私がシリウスのサウザーン王国と同水準レベルの生活が出来るような技術を提供したので、私は賢者エニシとして名が通っている。
だが、安定しているだけで、魔物が徘徊する弱肉強食の残酷な厳しい世界である事に変わりは無いのだ。
そして、クリエとトロイの気紛れで世界のバランスが簡単に崩れ不安定になってしまう危険な世界なのだ。
それが異世界シンドールの現状であった・・・
「久しぶりだね、アリー。もうその姿には馴れたかい?」
「あら?エニシの爺さんね。お陰様で大分落ち着いてきたわよ。次期妖精王になる筈だったのに、魔王にされかけた挙げ句に今はスライムなんてね。私の人生って何なのかしらね?あっ、スライムだから人生とは呼べないわね。」
私と会話していたのがこの世界樹の森に住む元妖精のアリーだ。
今はスライムの姿をしているが、本来は次期妖精王たる存在であり、今もその力を宿しているのだ。
妖精の時に、トロイが強力な魔王を産み出そうとしてアリーを強引に魔王に転生させようとしていたが、私が苦しむアリーを見つけて魔王化を阻止する為に再び妖精族に転生させた筈だったのだが、何故かスライムとして魔王の力も宿したまま転生してしまったのだ。
まぁ、スライムなので力を全力では使用出来ないが、妖精王と魔王の潜在能力を持つとんでもない存在なのである。
「アリー、どうだい?世界樹の力は吸収出来たかい?妖精の転移能力と魔王の無限空間能力、スライムの吸収・分析能力を持つアリーなら出来る気がするんだよね。妖精の時から世界樹とずっと一緒のようだったしね。」
「ええ、回復魔法なら無尽蔵に唱えられる様になったわね。エニシの助言が無ければ私はただのスライムのままだったわ。無限収納に転移魔法、それに回復魔法まで使えるようになるなんて・・・お礼を言わせて。有り難う。エニシは私の恩人よ。」
「アリーは私の大切な仲間だろ?礼など要らないさ。これからもその力で妖精の時みたいに世界樹の森を守って欲しい。宜しく頼むよ。」
「私の方こそ宜しくね。エ・ニ・シ。」
アリーとは仲良くやっていけそうだ。
【・・・好敵手の予感ですわ。・・・】
ミリアの声が聞こえた気がした・・・
「さて、ここら辺で良いかな?」
【世界樹も近いし、迷宮も有って力のバランスが取れている良い所ですわね。】
ミリアも賛成のようである。
「良し、ここを拠点にしよう。」
私は世界樹の森の近くに拠点を造ろうと、ガーディアン達を召喚し、拠点の防衛をまかせながら小さな村を建設して、ガーディアン達が過去で集めた様々な技術で作り出した魔導人形にそれらの技術を記憶させ、伝えていく準備を整え、シンドール解放の第一歩を踏み出したのだった・・・
【縁。魔王が誕生したようですわ。勇者も同時にミレニアム王国の導きの塔に現れたようですわ。】
(遂に始まったか。未だ力を使えないクリエとトロイは大喜びだろうね。自分達の仕掛けが成功したから、もう様子を見ているだろうね。では、私達も動くとしよう。)
今回の魔王は召喚ではなく、トロイの創った巨大な魔石に闇の力を集めながら凝縮して産み出したものであり、勇者召喚はクリエの創った魔法陣に魔王の魔石から魔力を供給して発動しているという方法で、力が使えない二人が必死になって編み出した手段であった。
しかし、そこまでして世界を混乱させたいのか?
暇つぶしに巻き込まれる者達にとっては迷惑な話ではあるが、この世界がクリエとトロイの箱庭と化している事実を知る者は私達以外には存在しないのも事実であった。
クリエとトロイをこのまま放置すれば、折角安定したこの世界もいずれ滅びてしまうだろう。
あの二人はそれほど危険な存在なのだ。
(ミリア。魔王の動きはどんな感じだい?)
【強さよりズル賢さが目立ちますわね。魔物達が襲うのは大きな街ではなく、やや孤立した街や小さな村を中心に進軍していますわね。見えない所で被害が出ているので各国も油断していますわ。】
(やるな・・・気が付いた時には被害は甚大になっているという訳か・・・ならば、迷宮創造。迷宮にてガーディアン召喚。魔物達を誘い込み、迎え撃て。)
先ずは時間を稼ぐか・・・後は勇者達次第だな。
【やりますわね、縁。これで魔物達の進軍がかなり遅くなりますわ。あっ、勇者達が行動を開始したようですわね。】
(さて、今回の勇者達はどうかな?心・技・体の全て見せてもらおうか・・・)
今回の勇者達は青年二人と少女二人の四人組であった。
毎回そうなのだが、何故か勇者召喚で召喚される勇者達は、黒目・黒髪で私の故郷の日本から召喚されるのだが、個性が強い者が多く、世界に仇なす場合も多いのだ。
だから私は毎回勇者達を見極め、協力するか否かを決めているのだ。
(ミリア。今回の勇者達は期待できそうだね。接触してみよう。)
【賛成ですわ。皆、清い心の持ち主のようですし、実力も問題無しですわね。協力することをお薦めしますわ。】
(そうだね。早速行ってみよう。)
私は勇者達の元へと向かう事にしたのだった・・・
勇者達は、優男のハル、マッチョな男のナツ、健康そうな少女のアキ、無口で小柄な少女のフユの四人の十八歳の学生であった。
彼等は日本から召喚されていただけでなく、私の働いていたグランデール社が運営している孤児院でボランティアをしていたらしいが、話の内容から推測すると、私の時代よりも先の未来のようだった。
一緒に行動してみて判ったのだが、彼等は心構え・実力共に私の期待を上回っていただけでなく、彼等にとって異世界であるはずのこの世界の行く末までをも心配していた者達であったのだ。
魔物達と戦いながらも、魔物達に襲われ親を失った子供達を心配して、保護出来ないかと色んな国や貴族達に掛け合っていたのだ。
「それでどこも取り合ってくれず、困っていたという訳だね。それなら何とかなるよ。」
「えっ?本当ですか。」
私の話にリーダーのハルが驚いた表情を見せた。
「実は、世界樹の森の近くに小さな村を建設してね。これから住人を増やしていこうとしていたところだからね。見に行ってみるかい?」
「「「「ぜひ。」」」」
四人が口を揃えて叫んだ。
余程困っていたんだろう、全員が期待の籠った眼差しで私を見つめていたのだった。
「では、早速行ってみようか。」
私は指をパチンと鳴らしながら転移魔法を唱え、拠点に転移したのだった・・・
「どうだい?気に入って貰えたかな?」
私はハル達に問いかけた。
私も驚いたのだが、魔導人形達やガーディアン達が張り切って開拓を進めた結果、見た目は小さな街になっていたのだった。
住宅や学校、商業用施設等の準備まで始まっており、後は住人が居れば、という状態となっていたのだった。
「ここなら安心して子供達を任せられます。良い所ですね。是非子供達をお願いします。流石賢者エニシ様ですね。誰も知らないこの場所に街を造っていたとは驚きました。」
ハルが感想を述べた。
「誰も知らない街か・・・いっそのこと、ロストタウンと命名するか・・・」
【名無しの街より良いのではなくて?】
ミリアも賛成のようなので、拠点はロストタウンと命名することにしたのだった。
「では、早速受け入れを開始する事にしよう。」
私とハル達はロストタウンを後にし、子供達を保護するべく行動を開始したのだった・・・
「ではエニシ様。子供達の事を宜しくお願いします。俺達は一度ミレニアム王国へ戻り、準備を整えたら魔王討伐に向かいます。」
子供達をロストタウンで保護し終えたハル達は、いよいよ魔王討伐に向かう事にしたらしい。
「そうか。頑張るんだぞ。また子供達を保護したら連絡して欲しい。あと子供を失った親達ならここで協力して欲しい事があるから教えて欲しい。それと、魔王討伐に行くなら、王国に戻った後に世界樹の所に行って貰えないかい?そしてそこに居る者と一緒に魔王討伐へ行って欲しいんだよね。頼めるかい?」
私はハル達に、アリーと行動を共にする事を提案したのだった。
「エニシ様の頼みなら喜んで引き受けますよ。子供達と子供を失った親達の件と世界樹の件ですね。任せて下さい。では、俺達は王国へ戻ります。色々と御世話になり、有り難う御座いました。」
「「「有り難う御座いました。」」」
ハルと仲間達が声を揃えて御礼を言い、ロストタウンを後にした。
本当に真っ直ぐな気持ちの良いハル達であったが、私がハル達にアリーを紹介したのには理由が有ったのだ。
勇者としての実力は問題無しだが、問題は純粋過ぎるが故、人を疑う事を知らないのだ。
魔物でも人質を盾にしたりする狡猾なタイプも存在するので、ハル達には天敵となるだろうが、一番怖いのは人間なのだ。
嘘をつき、相手を陥れる事に一番長けているのは人間であり、ハル達がそんな者達を相手にした場合は、実力に関係なく敗者はハル達だろう。
そうならない為にも真意を見抜く力が必要であり、だからこそのアリーなのだ。
彼女なら転移魔法・無限収納・回復魔法が使えるし、相手の策略を見抜く事も出来るに違いない。
【縁。早速アリーの所に行きますわよ。宜しくて。】
(流石ミリアだね。頼むよ。)
何も言わずともミリアには伝わっている・・・コレが絆なのかもしれない。
私はそんな事を考えながら、アリーの所へ転移したのだった・・・。
「それで、その勇者さん達と一緒に魔王討伐へ行ってこいと?」
「まぁ、実際に会ってみてアリーが気に入ったらで構わないさ。でも、魔石の件も有るからねぇ、行って欲しいかな?」
「結局行けって事じゃないの。エニシったらズルいわね。」
「流石アリーだね。良きパートナーだよ。」
「パ、パートナーって全く・・・私が人間だったら責任取って貰うところよ。」
「アリーの来世が人間だったら考えておこう。」
「や、約束だからね。エ・ニ・シ。」
【やはり好敵手の予感ですわ。】
ミリアがよく分からないが、この時のアリーとの会話が後でとんでもない事になってしまうのだが・・・今の私には知る由も無かったのだ。
「魔王討伐が成功して魔石が上手く出来たら連絡するわ。ロストタウンで良いわね。」
「そうだね。じゃあまたねアリー。勇者達の方も宜しく頼むよ。」
私はアリーに挨拶をして、ロストタウンへと戻ったのだった・・・
【縁。魔王の魔石で何をするつもりですの?】
(ん?あぁ、トロイが今回魔石を利用して魔王を誕生させただろ?だから、その魔石を利用して味方を誕生させられないかな?って。)
【魔王クラスの魔石に聖なる力を宿らせる・・・縁は神力の継承者だけでなく頭も切れますのね。流石私の縁ですわ。】
(まぁ、結果は未だ先だから、今は出来る事をしておこうか。)
【何をしますの?】
(もっと魔導人形を増やして、ロストタウンの拡大と充実かな。北に鉱山があるから北部は工房と学校で鍛冶や錬金とか学べるようにしたいし、東は海だから漁港も欲しいね。南は農耕地帯にしたいし、西は迷宮が在るから冒険者ギルドや商業区にしたいね。)
【王国でも建国するつもりですの?】
(違うよ。ロストタウンの住人がこの世界で生きていく為に色々と学べる環境と、迷宮を利用して冒険者を育てて街の防衛力を上げ、自分達で自立して管理するような街にしたいんだよ。簡単に言うと、王や貴族が居ない独立した自治区だね。)
【素晴らしい考えですわ。では早速始めますわ。宜しくて。】
(ああ、頼むよ。)
私とミリアはハル達とアリーが魔王討伐に向かっている間、ロストタウンを発展させるべく、力を注いだのだった。
そして、気が付くと私は【大賢者エニシ】と呼ばれるようになっていたのだった・・・
【縁、ハル達とアリーが魔王を倒したようですわ。】
ロストタウンの開発が一段落したので、北の鉱山を超えた先に魔導人形達と小さな集落を建造し、新拠点として一休みしていた私にミリアが語り掛けた。
(おっ、遂に魔王を倒したか。流石はハル達とアリーだな。なら、ミレニアム王国に報告しておこうか。)
私は転移魔法でミレニアム王国へ転移して、国王にハル達が魔王を倒した事を伝えたのだった。
国王は安心した表情を見せ、各国に魔王討伐の報告する手配を始めながら、ミレニアム王国にて祝宴の開催を宣言したのだった。
だが・・・
(ミリア。国王と宰相の話が聞こえたか?もしかすると、ハル達が危ないぞ。)
【アリーにだけでも話しておいた方が良いと思いますわ。】
魔王を倒す程の実力のハル達だ。
魔王亡き後の世界各国にとっては脅威の存在なのだった。
場合によってはハル達を亡き者にする可能性も考えられるのだ。
(そうだね。先ずはロストタウンの新拠点に戻ろう。)
私は転移魔法で新拠点に転移したのだった・・・
「うっ・・・ぐっ・・・?」
【えっ?縁?】
私は胸に強烈な痛みを感じ・・・倒れた・・・
「あっ、あれは私か?」
ベッドに横たわり、医師に蘇生措置を受けている自分の姿が見えていた。
どうやら日本に居る私の体が命の危機らしい。
(いよいよお迎えが来たようだ・・・)
【まだですわよ。縁。】
(ミリアか・・・今迄世話にっ、うぉっ。)
突然、私の目の前が金色に光輝いた。
あまりの眩しさに思わず目を瞑ってしまった私だったが、目を開けるとそこはシンドールの拠点であった・・・
「あれは夢だったのか?それとも・・・」
思わず独り言を言ってしまった私だったが、ミリアが答えをくれた。
【現実ですわ。】
(そうか、では私はもうすぐこの世から旅立つという訳だね。)
【いいえ。縁の居る日本では未だ殆んど時間が経ってませんわよ。但し、あの状態ですと、こちらであまり無理は出来ませんわね。これからは神界で過ごすことをお薦めしますわ。宜しくて。】
(神界にはクリエとトロイが居るんだろう?気が進まないな。)
【神界といっても個別の空間位有りますわよ。問題ありませんわ。】
(そうなのか。ならばハル達とアリーと会った後に神界へ移動してはどうだろうか?ハル達の件も伝えておきたいしね。)
【そうですわね。では、もう少しだけ待ちますわ。】
(有り難う。ミリア。)
【縁。アリー達が来たようですわ。】
アリー達の姿を確認した私は、皆に近付き話し掛けた。
「無事に魔王を倒したようだね。おめでとう。」
久しぶりの再会だが、皆変わらず元気そうだったのが嬉しいと素直に感じる私であった・・・
ハル達から魔王を倒すまでの話や、ロストタウンの感想等も話しながら、久しぶりに楽しい一時を過ごすことが出来て、やはり平和な世界が一番だと再認識すると同時に、平和な世界を混乱させるクリエとトロイの自重を知らない二人の神々を一刻も早く何とかしなければと痛感したのだった。
その後、ハル達はアリーに転移してもらい、息抜きも兼ねて大きくなったロストタウンの見学に行ったのだった・・・
「エニシ、戻ったわよ。」
「早かったね。アリー。御苦労様。」
アリーだけ直ぐに戻って来た。
やはりスライムの姿では、街で自由には出来ないのだろう。
「これが例の魔石よ。」
アリーは私が頼んだ魔王の魔石で作成して貰った真っ白に光る魔石を差し出した。
「これは凄いじゃないか。想像以上だよ。アリー、有り難う。」
素晴らしい出来の白い魔石を眺め、私は自分の無限収納にしまった。
今後が楽しみである。
「さて、私はここまでかな。アリー、君に頼みが有る。」
「何かしら?」
私は今後ハル達に降りかかる危機の可能性と、私自身についての話をアリーに話したのだった・・・
「エニシって何者かと思ってたけど、納得したわ。だから私もあの時助かったのね。ハル達の事は何とかしてみるわ。でも、エニシにはもう会えないわね・・・今まで有り難う。」
「後は頼んだよ。もしかしたら来世でまた会えるかもね。何故かアリーとはまた会える気がするよ。だから、またね。」
「その時は私も同じ人間として、生まれ変わって会いたいわね。」
【その時はライバルとして認めてあげますわ。】
相変わらす変な事を言っているミリアだが、アリーとは本当にまた会えそうな予感がしたのだ。
「そうだね。じゃ行くよ。」
【行きますわよ。宜しくて。】
私は光に包まれながら神界へと転移したのだった・・・
(本当だ。クリエとトロイが居ない。)
神界に転移した私だったが、以前と違いクリエとトロイの姿は見えなかったのだ。
(ミリア。あの二人も神界に居るのかい?)
【ええ、居ますわよ。縁を探してますわよ。】
(魔王倒しちゃったからねぇ。取り敢えず顔は出しておくか。)
気は進まなかったが、魔王が倒された腹いせに暴れられても困るので、私は二人の神々の元へと向かうことにしたのだった・・・
『エーニーシー?あのスライムって前に私が魔王にしようとした妖精でしょ?味方にしたの?』
「そうだね。」
『私の魔王の魔石もエニシが持ってない?』
「そうだね。」
『覚えてなさい。そして、力が戻ったら今度こそ覚悟なさい。私達のホ・ン・キ、見せてあげるからね。』
トロイがご立腹である。
『まぁまぁ、エニシも無理が出来ない状態みたいだから、次は私達の勝ちが決まってるのよ。落ち着きなさいな。トロイ。』
クリエがニヤニヤしていた。
どうやら私の命の危機を知っているようだ。
「私は勝ち負けなど考えてないのだが。世界が平和なら文句は無いさ。」
『『平和なんて退屈よ。』』
クリエとトロイが口を揃えて文句を言ってきた。
折角安定した世界が出来たのに、クリエとトロイには関係無いようだ。
シンドールという名の神の箱庭では、クリエとトロイの力は絶大であり、ミリアと私で力を合わせても力は互角なのだ。
だが、クリエとトロイは世界を混乱させる為だけに力を使うので、世界の安定に力を使う私達では、クリエとトロイを完全に抑え込む事が出来ないのだった。
『エニシ。貴方は確かに繁栄神としての才能は私達を凌駕してるわ。認めてあげるわ。でもね、その体では次は何も出来ないわね。次回は諦めなさい。』
クリエは冷静だった。
『クリエ。次は派手にいきましょうね。』
トロイが悪戯な微笑みを浮かべた。
『全滅しない事を祈りましょう。』
クリエも悪戯な微笑みを浮かべたのだった・・・
だが、クリエとトロイの力が戻るのは相当先の筈である。
この状態で何が出来るかは見当が付かないが、足掻いてみるつもりでは有るのだ。
【縁。私も協力しますわ。宜しくて。】
(有り難う。ミリア。)
ミリアが居るだけでも心強い。
私は諦めずに頑張ろうと心に誓ったのだった・・・
(ハル達は何とか無事だったようだね。アリーが頑張ったんだね。)
【そのようですわね。】
ミレニアム王国での祝宴の最中、ハル達は命を狙われたようだったが、アリーが影で色々と行動を取り、何とか切り抜けたようだ。
ハル達は自分の命が狙われた事にショックを受けたようだが、大き過ぎる力を持つ事の意味と、それを脅威と感じる者達が居る事を知る良い機会となったようだ。
(ハル達には幸せになって貰いたいものだな。)
【そうですわね。】
神界からハル達とアリーの様子を眺めながら、私は彼等の幸せを心から願うのであった・・・
(ミリア。そういえば、随分とクリエとトロイを見かけないな。)
【そうですわね。きっと力を取り戻そうと大人しくしているのではなくて?】
(なら良いんだけどね。何か静か過ぎて怖い位だよ。)
ハル達が魔王を倒してからかなりの年月が経ったが、世界は平穏であった。
やはり、クリエとトロイが何も仕掛けて来ないのが大きい。
とはいえ、街の外は魔物が徘徊する危険な世界であり、街の外で命を落とす者や、魔物に襲われる村は後を絶たないが・・・
(こんな時は体でも動かして気持ちを切り替えたいものだが・・・何時お迎えが来てもおかしくないこの老体にはキツ過ぎるし、困ったものだよ。)
【神界なら自分の姿は自在に変えられますわよ。知らなくて?】
(そうなのか?でもそうはいってもピンとこないよ。)
【フフフ・・・これならどうかしら?】
ミリアが私に語りかけると同時に、私の目の前に巨大な鏡が現れたのだった。
鏡には私の姿は映っておらず、長い金髪で碧色の大きな瞳の美しい少女が映っていたのだった。
「綺麗な娘だがこの娘は一体・・・って、私ではないか。」
私は驚きの余り、思わず叫んでしまった。
私が発した声はミリアそっくりだし、鏡に映る少女は私の思った通りに動いていたのだ。
しかも私が自分の体をチェックしてみると、張りの有る艶やかな白く美しい手や、胸には見馴れない双丘が存在しており、私がこの少女なのだという事を思い知らされたのであった。
【驚いたかしら?今の縁の姿は昔の私の姿ですわ。宜しくて。】
(美しい少女だとは思ったが、まさかミリアだったとは。クリエとトロイには似ていなかったんだな。)
【美しいだなんて・・・嬉しいですわ。クリエとトロイも元は私と同じ姿でしたが、前の世界が滅びてしまった後、クリエが力を取り戻す時に自分の好きな姿に変えて再生し、その時にトロイも同じ姿で再生したのですわ。】
(そうだったのか・・・でも、驚いたよ。神界ではこんな事が出来るのだね。でも、女性の姿では流石に恥ずかしいかな?私は男だしね。)
【私の姿を一度縁に見て欲しかったのですわ。でも、色々と触られると恥ずかしいですわね。】
(す、済まない。あちこち触ってしまって・・・)
【いずれ責任・・・取ってもらいますわ。宜しくて。】
(ははは・・・覚悟しておくよ。)
【では、今度は縁の若い頃の姿を少しだけアレンジしますわよ。気に入らなかったら場合は自分でお願いしますわ。】
そう言ってミリアが私の姿を変化させたのだった。
【素敵ですわよ。どうかしら?】
(これが私か・・・恥ずかしいけど悪くないね。金髪に銀眼か。気に入ったよ。ミリア、有り難う。)
鏡に映る私は、髪と瞳の色こそ違うが、面影は昔の私に似ていたのであまり違和感が無く、若返った気分であった。
これなら思いきり体を動かせそうな気がした私であった。
「早速始めるとするか。」
先ずは軽く準備体操をと思い、体を動かしてみると・・・
「おお、体が軽いぞ。素晴らしい。」
私は嬉しくなってしまい、年甲斐もなく大ハシャギでアチコチ飛び回ってしまったのであった。
身体能力も本来の私よりも遥かに高く、若さと相まってチートクラスとなっており、大満足であった。
(いやぁ、楽しかった・・・有り難うミリア。)
【気に入って頂いて嬉しいですわ。暫くはそのままで良いと思いますわ。】
(そうだね。まだまだ体を動かしたいしね。このままで居る事にするよ。)
私は世界の様子を眺めながら、日々鍛練を繰り返すのであった。
勿論、クリエとトロイに対抗する為に、アリーから貰った純白の魔石にも力を注いだり、その他にも弱った私でも力が出せるように私の持っている虹色の宝玉に力を蓄えたり、少し劣るが、宝玉のコピーを創り出す等、出来る事をやっていたのであった。
そんなある時・・・
「やっと入れたねー。ミヅキ。」
「ん・・・着いた・・・ソラ。」
神界に珍客がやって来たのだった・・・
「ん?君達は・・・ああ、ハル達の子供か。私はハル達の古い友人の縁という者です。」
私は一応自己紹介をしておいた。
私はハル達を見守ってきたので彼女達を知っているが、向こうは私の事を知らないかもしれないのだ。
長い黒髪でモデルのような美人タイプのソラという少女と、ショートカットの黒髪で人形のような整った可愛い顔立ちのミヅキという少女だが直接会うのは初めてだった。
魔王を倒した勇者のハル達は、その後ロストタウン北の私が作った新拠点で、アリーと一緒に暮らしており、そして、ハルとアキ、ナツとフユが結婚して子を授かった。
ハルとアキの子供がソラであり、ナツとフユの子供がミヅキであるのだ。
ソラとミヅキは十四歳で、少女ではあるが、勇者の力を受け継いでおり、実力はシンドールでトップクラスであるという、実は凄い二人なのである。
「エニシって、私とミヅキの両親とアリーの言ってたお爺さんの筈よね。貴方みたいなイケメンではないわ。」
「ん・・・エニシ・・・老人の筈・・・」
ソラとミヅキが反論してきた。
私の今の姿は若者だったのを忘れていたので、急いで本来の老人縁に戻って見せた。
「これでどうかな?」
私は二人に話し掛けると、
「あー、分かったから、イケメンに戻って。そっちの方が話し易いから。」
「ん・・・じじい・・・嫌い。」
ああ、コイツら反抗期だ、二人共美少女なのに台無しだ。
ハル達も大変だろう。
私はそんな事を考えながら、姿を若い縁に戻したのだった。
「これでいいだろ。ところで、二人共何をしに神界へ来たんだい?」
私はソラとミヅキに質問したのだった。
「神様倒して私達が神様になってみようって思ったんだー。だって私達が世界で一番強いんだもん。」
「ん・・・私達・・・強い・・・」
これは重症かもしれないな・・・病名は・・・厨ニ病だな。
ならば、世の中の広さを教えてやらねば。
「じゃあさ、僕が相手になるよ。二人同時で構わないからね。ルールは僕は攻撃しないから、君達のどちらかが私に一撃でも当てる事が出来たら二人の勝ちだ。流石に女の子に攻撃は出来ないからね。それでいいかい?」
「それじゃ勝負にならないよ。じゃあ、エニシは私達を動けなくしたら勝ちにしてあげるよ。例えば、私達の服を脱がしちゃうとか?私達に攻撃当てるより難しいけどね。あははは。」
ソラが挑発してきた。
これって犯罪にならないか?目隠しすれば大丈夫かな?
「ん・・・脱がされる・・・先に終わるから平気・・・エニシ・・・無理よ。」
ミヅキも自信満々のようだ。
仕方ないな、目隠ししておこう。
私は目隠しをして、二人に話し掛けた。
「そうだね。さあ、始めようか。何時でもとうぞ。」
「なっ、目隠し。いいわ、ボコボコにしてやるわ。」
「ん・・・泣いても・・・止めないよ・・・」
私の目隠し姿に激怒するソラとミヅキ。
彼女達には自分達の勝利しか見えていないのだろうが、現実は厳しいという事を知って貰うとしよう。
さあ、戦いの始まりだ・・・
ソラは両手に刃の付いた漆黒の扇を持ち、舞を踊るかのような華麗な動きで相手を翻弄し、素早い動きで攻撃を叩き込んでいくタイプのようだ。
魔法は光系と回復系と能力アップがメインのようで、トリッキーな動きのソラとの相性も良く、接近戦でも後方支援でも活躍できそうな感じであった。
ミヅキの方は、漆黒の大鎌を両手で持っており、瞬発力を活かして間合いを一気に詰め、大鎌を軽々と振り回しながら大きな一撃を叩き込むパワーも持っていた。
魔法は闇系と攻撃魔法全般を得意としており、前衛アタッカーでも後方アタッカーとしても戦えそうであった。
二人の連携も息ピッタリであり、攻撃の嵐が私に降り注いでくるのであった。
流石ハル達勇者の子供達というところだろう。
近付いて良し、離れて良しで魔法も回復も申し分無し、それに加えて連携も素晴らしくシンドール最強も頷ける。
恐らく今のシンドールには、二人に勝てる者は居ないであろう。
神界を含めなければだが・・・
「えっ?また外れた?」
「・・・うそ・・・また?」
ソラとミヅキの放った攻撃が目隠しをした私の顔面と脚を捉えた筈であったが、二人の攻撃は空を切っていただけであった。
私はただ回避しただけだったのだが、二人には見えなかったようだった。
「一撃当てれば勝ちだよ。頑張れー。」
私は二人に微笑み掛け、実力の差を思い知らせる。
「くっ、何で当たらないのよー。」
「ん・・・」
戦いが長引くにつれて徐々に二人の動きが悪くなり、二人の表情に余裕が感じられなくなってきた。
今迄こんなに苦戦した事は無かったはずである。
「まだ準備体操中かな?そろそろ本気で来てくれないかな?」
二人の動きが止まり、肩で息をしながら私を睨み付ける。
二人の動きを止めたから私の勝利である。
本気なのは知っていたが、敢えて言わせて貰ったのだ。
実力の違いを知り、生き残る為にも負けを認める事は必要なのだ。
「ま、まだ脱がされていないわよ。負けてないんだけど?」
「ん・・・負けてない・・・」
動けなくしたら勝ちだった筈だよ?何時の間に脱衣勝負になったんだ?
「最後に確認するよ。まだやるのかい?」
本当の戦いならここで負けを認めなければ終わりなのだ。
「当然でしょ。」
「ん・・・やる・・・」
二人が答えた直後、望み通り私は実行した。
「「えっ?きゃあぁぁぁぁー。」」
一紙纏わぬ姿になってしまったソラとミヅキはその場にしゃがみこんだのだった。
「勝負ありだね。さぁ服を着たらどうだい。」
私は目隠しをしたまま彼女達に服を手渡した。
「「負けました。ご免なさい。」」
ソラとミヅキが謝りながら立ち上がり服を受け取る。
現実を知り目が覚めたのだろう。
本来は素直な良い娘達なのだ。
何故ならば、あのハル達の子供達だからだ。
「ふふふ、美少女の裸なのに目隠しなんて残念ね。エニシ。」
「ん・・・見たかった?・・・残念・・・」
ソラとミヅキも落ち着きを取り戻し、冗談混じりで私をからかい始めるような和やかな空気が流れ始めたその時だった。
私の目隠しが外れ、地面にポトリと落ちた。
「「えっ?」」
二人が驚きの声を上げる・・・
「あっ・・・」
私の目の前にはまだ服を着ていないソラとミヅキが真っ赤な顔で目に涙を浮かべながら私を見ていた。
「「いやぁあぁぁぁー。」」
二人の叫び声が響き渡ったのだった・・・
「ソラちゃん、ミヅキちゃん。本当に済まなかった。」
厨ニ病で反抗期だったとはいえ夢見る乙女な年頃でもあり、デリケートな時期なのだ。
だから落ち着いた二人に私は急いで謝罪をしたのだった。
「「見たの?」」
「ゴメン。」
「「全部?」」
「ゴメン。」
「「それで?」」
「また見たい位凄く綺麗だった。」
「「・・・そう・・・なら責任取って。約束よ。」」
「はい?」
(どうしてこうなった?)
【モテモテですのね。好敵手が増えましたわ。】
ミリアの声が聞こえた。
すっかり大人しくなったソラとミヅキではあったが、私は悩みの種が増えたのであった・・・
「・・・っという訳だね。」
私は二人にクリエとトロイの事や、自分の余命の事、これからに備えてやっている事を説明したのだった。
「流石私のエニシねー。来世も付いていくわよー。逃がさないからねー。」
「ん・・・私も・・・」
「私が一番のパートナーですわよ。宜しくて。」
ソラとミヅキとミリアの三人が来世での戦いに備えて仲良く話し合っていた。
というのも、ソラとミヅキが私と同じで神力の継承者という事が判明したのが発端であった。
そもそも神界は神の領域であり、普通は侵入不可能なのだ。
そこでミリアにソラとミヅキを調べて貰ったら、私のように神力を継承していることが判ったのだ。
流石勇者の子供達だ。
ソラはアマテラス、ミヅキはツクヨミの力を継承していたのだ。
そこで、ソラとミヅキには私が出来ないシンドールでの活動を頼む事にしたのだった。
そしてミリアは何と、私とソラとミヅキと宝玉の力を借りて遂に念願の実体を手に入れる事が出来たのであった。
その一件以降、ミリアとソラとミヅキが仲良くなったのだった。
「何か来世の話をしているけどさぁ、同じ時代に転生なんて出来ないんじゃないか?」
私には皆が当たり前のように来世で一緒になる話をしているのが信じられず、思わず理由を聞いてみたのだった。
「私はシンドールの神ミリアですわ。創造神と同じ能力を持っているのは縁も存じているのではなくて?」
「でも、私もソラもミヅキもこの世界の者ではないから無理だろう?」
「この世界との繋がりが強ければ可能ですわよ。宜しくて。」
「そうか、私は世界樹の森とか創造してるから問題無しか。ミヅキは魔王の純白の魔石とシンクロして小さな純白の魔石を体内に取り込んだって言ってたな。後はソラか・・・」
「縁の造った宝玉で、ある程度は繋がりが持てますわ。でも転生は日本ですわね。後はソラ次第かしら。アリーは問題無いですわよ。」
ミリアが答えてくれたが、何故かアリーまでメンバーに入っていたのだった。
「アリーもか?確かに仲間としては心強いが、勝手に転生させるのは流石に不味いだろ。」
「縁が約束してましたわ。来世が人間なら責任取ると。覚えてまして?」
「あぁ、そういえば言ってた気がするが・・・」
「約束は守るものですわ。縁は来世で私とアリー、ソラとミヅキを受け入れる義務がありますわ。宜しくて。」
私の来世は大変そうな気がした・・・
それからはソラとミヅキには世界中を周りながら魔物に襲われた村や街の住人をロストタウンで保護してもらったり、被害を大きくするような魔物を討伐してもらっている。
大人になっても二人の美貌は天上知らずであり、シンドールでは【黒き聖女】として大人気であった。
勿論二人は神界にも顔を出しており、その度に私の世話をしてくれるのであった。
どんな世話かは秘密だ。
アリーはロストタウン北の新拠点でハル達の一生を看取ってくれた。
ソラとミヅキもアリーとは仲良く、ロストタウン北の新拠点には顔を出し、時折アリーと行動を共にしていた。
両親亡き後は新拠点をハル、ナツ、アキ、フユにちなんで、シーズン村と名付けて後世に残すことにしたのだった。
ハル達の魂はミリアと私とソラとミヅキの力で転移直前のハル達に戻す事に成功した。
記憶はそのまま残っているので暫くは苦労するかもしれないが、せめて普通に暮らして欲しいと願うのであった。
そして遂にソラとミヅキにも別れの時がやって来たのだった。
日本に帰ったハルとアキ、ナツとフユが子供を授かったからだ。
「エニシ。また来世でも可愛がってねー。約束だよー。」
そう言ってソラは虹色の宝玉に吸い込まれていったのだった。
「ん・・・また・・・」
ミヅキは純白の魔王の魔石に溶け込んでいったのだった。
「縁。ミヅキはやはりこちらで転生するようですわ。」
「えっ?じゃあ日本で誕生するミヅキはどうなるんだ?ミリア。」
「双子の女の子の予定だったのですが・・・」
「そうか、そのうちの一人がミヅキの転生で、この純白の魔王の魔石に宿っているんだね。」
どうやらミヅキはシンドールに転生する準備が整ったようだ。
アリーも力を使い果たし、この世を去る時が来たようだった。
体が光の粒子となって消えていった。
「久し振りだね。アリー。」
「エニシ?」
私の作り出した真っ白な空間でアリーの魂に話し掛けた。
勿論、アリー知っている老人のエニシでだ。
「ハル達の事を伝えたくてね。」
「ハル達?私も彼等も、もうこの世に居ないんじゃ?」
「ハル達の魂を元の世界に戻せたんだよ。ほら。」
私は真っ白な空間に、まるで出逢った頃の様なハル達を写し出したのだった。
「召喚された時代に魂を戻せたんだよ。こっちの記憶も残ったままなんだけどね。」
ハル達は子供達と楽しそうにしていた。
あれがグランデール社の施設なのだろう。
「アリーもよく頑張ってくれたみたいだね。」
「お陰様で思い残す事は無いわ。」
「いい生涯を送れたようだね。そうだ、アリー。真っ白な魔石の事なんだけど、アリーと一緒に転生するみたいなんだ。だから、アリーに面倒を見て欲しいんだ。」
「えっ?エニシ?どういう事?」
「詳しい事は転生してからね。また会えるから。じゃあ、またね。」
消え行くアリーに向かって私は叫んだ。
「来世のアリーは人間だからねー。」
アリーの転生の準備も完了したのだった。
「結局一番先に迎えが来ると思っていた私が最後だったとはね。」
「そうですわね。でもソラは不確定ですが、アリーとミヅキと私とは来世で会えますわ。」
「ソラか・・・日本では同じ宇宙という名前か。もう一人のミヅキも同じで美月というんだね。二人には私の神の祝福が届いているみたいだし、日本で平和に暮らせる筈だから安心かな。ソラに会えないのは残念だけどね。」
日本で美月とパフェを食べている高校生の宇宙が見えた。
「まあ、ソラに関しては運命を信じて待つとして、転生した皆は誰が面倒を見てくれるのだい?」
「判りませんわ。どうしたら良いのかしら?困りましたわ。」
衝撃の事実発覚であった。
「えーと、転生先は、ミリアはミレニアム王国の王女だから、侍女に魔導人形を付けるとして、アリーとミヅキはシーズン村だから、村の魔導人形達に面倒を見て貰うか。私は世界樹の所か。どうするかな。」
「世界樹の精霊のリフレが居ますわ。私が頼んでおきますわ。」
「リフレだって?彼女に頼んだら精霊界に監禁されないか?」
「リフレに肉体を与えてこちらで縁を育てて貰えば問題無しですわ。彼女は縁が大好きですし、世界樹と精霊の力を持ってますから安心ですわ。」
「だといいけどね。何か嫌な予感がするな。」
私には多少の不安は有るものの、私達は各々来世に向けての準備をしていくのだった・・・
『『待たせたわね。エニシ。』』
久し振りのクリエとトロイであった。
「二人とも久し振りですわ。」
『あら?ミリアなの?驚いたわね。』
クリエがミリアを見つめていた。
『早速始めましょうよ。待ち切れないわ。』
トロイが痺れを切らしていた。
かなりの間、力が使えなかったのだ、ストレス全開なのであろう。
『今回は遠慮しないわよ。歴代魔王召喚。魔物大氾濫。邪神竜召喚。』
トロイが叫ぶ。
邪神竜なんて世界を破壊する時の切り札だ。
このままでは、今回は本気で世界が不味いだろう。
『じゃあ私も遠慮無く。連続勇者召喚。天使能力開放。神竜召喚。』
クリエが天使能力開放を使用した。
これはシンドールに住む人型の生物に影響があるのだ。
今のシンドールは天使族をベースにして生態系が作られており、力を開放する方法があれば、能力を上げる事が可能なのだが限界を超えてしまうと暴走する魔物になってしまうのだ。
実は強制的に力を開放させた文明があったのだが、これで世界が滅んでいるのだ。
「神竜と邪神竜なんて世界をリセットする時の切り札だろ。流石にやり過ぎだ。」
『また創り直せば良いじゃない?今回は全開でってトロイと決めたのよ。』
『諦めなさい。エニシは何も出来ないのだからね。ね、クリエ。』
トロイとクリエがニコニコ顔で満足そうだ。
二人とも破壊神と化していて世界の事など眼中に無いようだ。
やはり今回は命を掛けなければならないようだ。
「ミリア、やるぞ。」
私はミリアに声を掛け、クリエとトロイ用の秘策を決行する事にしたのだ。
「いきますわよ。「「封神結界。」」クリエ、トロイ頭を冷やしなさい。」
私が得意とする結界と宝玉に力を封じ込める能力を応用した封神結界である。
神界のアチコチに空の魔石と複製品の宝玉を仕込み、私が張った結界内にクリエとトロイを閉じ込め、私とミリアの力で大量の空の魔石と宝玉に神の力を封じ込めるのだ。
但し、神の力は大き過ぎて今回のように二人が強大な力を使った後でないと封印出来ないのだ。
『『な、何よこれ。体がうご・・か・・・な・・・』』
「やりましたわ。縁。成功ですわよ。」
私達はクリエとトロイの封印に成功した。
これで暫くは出ることは出来ないだろう。
後は発動された効果の効力を弱めなければ世界が滅んでしまうだろう。
「ミリア。発動時間を遅らせるのは頼んだよ。私は発動効果を出来るだけ吸収して暴発させるよ。」
「縁。一旦お別れですのね。来世でもよろしくお願いしますわね。」
「こちらこそ頼むよ。能力吸収。」
私の体に限界を超えて恐ろしい程の力が流れ込んで来たのだった。
「うおっ、体が千切れそうだ。だが、まだだ。限界突破。」
私の命が限界を迎えたのを感じた。
日本の私の命が尽きたのだろう。
もう時間が無いようだ。
「くっ、ここまでだな。じゃあねミリア。エナジーバースト発動。」
私はありったけの力を開放して暴発させたのだった・・・
【神の祝福発動。創造神より理の力を縁と未来の仲間達へ。縁には神力の潜在能力開放と【???】の加護を・・・】
ミリアが前に言ってた命の危機に発動するという、私の名付け親であるルシエルさんの神の祝福が発動したようだ。
私の意識が徐々に薄れていく・・・
最後の【???】の加護がよく聞こえなかったけど問題無しだろう。
ルシエルさん。有り難う・・・
(ん?ここは?真っ暗で何も見えないけど暖かくて気持ちいい所だな・・・もう少しこのままで・・・)
「あらあらぁ、エニシ様ったら気持ち良さそうに眠っているわぁ。チューしちゃおうかしら。」
私の頬に柔らかな感触の何かが当たった。
感覚を研ぎ澄ますと私の体全体が柔らかな何かで包み込まれているようだ。
「エニシ様ぁ、ご飯ですよー。リフレちゃんのおっぱいよー。」
(リフレ?おっぱい?あぁ、無事に転生出来たのか。しかし、目も見えないし、体も上手く動かせないな。あっ何か口に入ってきた・・・なんだか眠くなってきた・・・)
「あらあらぁ、おっぱい飲みながら寝ちゃいましたー?リフレはエニシ様とずっと一緒で幸せですわぁ。」
リフレは私が作り出した世界樹に宿った精霊で、世界樹を訪れる度私の周りにずっとくっついて離れなかったペットのような奴だったが、今度は僕が世話されるとは・・・
リフレには頭が上がらなくなりそうだ。
兎に角、無事に転生したことは確定だ。
新たな人生のスタートラインだ。
【エニシ。約束覚えてまして?今度は恋人ですわよ。宜しくて。】
ミリアの声が聞こえた。
シンクロしていた頃の名残で念話は転生後も可能なようだ。
しかし、女の子って約束はずっと忘れないと聞いた事はあるけど本当だったのか。
となると、他の皆も・・・
前途多難な人生じゃない事を祈る僕だった・・・
転生後の生活は大変だった。
僕が受け継いだ力を使える十歳になるまで、リフレが僕を溺愛し、片時も手離さなかったのだった。
リフレは世界樹の力と精霊の力の全てを持っており、金髪金眼のナイスバディの見た目二十歳未満のハイエルフの肉体をミリアから貰った美しい女性なので、僕も満更ではないのだけど、毎晩一緒に風呂に入ったり、抱き枕にされていたりと大変であったのだ。
でも、ちょっと変わっているだけで、悪い女性では無い事は確かなのだ。
十歳になり力を取り戻した僕は、世界樹を護る為の精霊をリフレと一緒に誕生させると、リフレが【私達の子供を立派な精霊にするのぉ。】と言って精霊の教育に夢中になり、やっとリフレから解放されたのだった。
そんな訳でミリア達に会えたのは、僕が十歳になってからだった。
ミリアはミレニアム王国の第一王女に転生したが、上に三人の兄が居るので王位継承権は低めだが、王族なのであまり外には出られないようだ。
権力争いを避ける為、力の方は未だ宝玉に封じ込めたままにしているらしい。
前世と変わらず金髪と蒼眼の可憐なタイプであった。
アリーとミヅキはシーズン村出身の冒険者としてロスト国で活動を始めているようだ。
ロスト国はロストタウンが大きくなり、国として認められて建国されたみたいだ。
実は、国のトップの大半は僕が前世で創り出した魔導人形だったりするのは内緒だ。
アリーは念願の人間として転生し、エメラルドグリーンの美しい髪を持つ将来は美人タイプの女の子だった。
ミヅキは前世と違い、魔石の影響か?髪が黒から銀色に瞳が紅色に変わったが、それ以外は昔と変わらず可愛いタイプみたいだ。
ソラはこちらには居ないがきっと元気だろう・・・
僕の方はというと、神界に居た時と同じ金髪銀眼の若い頃の神導縁の面影を持っているが、以前と違い、女の子の心をくすぐってくるらしい。
シーズン村の代表であり、エニシという名前から、【大賢者エニシ】の生まれ変わりではないかと言われている。
実際そうなんだけどね。
今はシーズン村代表として、ロスト国と提携して国には属さない代わりに、実力は折り紙付きのシーズン村出身のメンバーが国内の開発や防衛、教育に協力していく事にしたのだった。
ミリアの居るミレニアム王国では、シーズン村自治区として、国に属さず、ロストタウンだった頃のような魔物に襲われた村や街の住人を保護したり、自立出来るような自治区を造る許可を貰い、魔物の棲む森を開発中であるのだ。
その功績が認められたのか?ミリアの差し金か?ミレニアム王国第一王女であるミリアの婚約者になってしまったのだ。
王国からは自治区を発展させて二十歳迄に王女を迎えに来いと約束させられてしまったのだった・・・
更に、アリーやミヅキまでもが約束を覚えており、「「責任取ってくれるのよね。」」と言ってくる始末だった。
リフレは言うまでもないであろう。
とはいえ、最終目的は、クリエとトロイの神の箱庭からの開放である。
近々、二人が発動させたあの力が世界に刃を向けるだろう。
先ずはそれを迎え撃たなくてはならないのだ。
世界を解放し、理想の世界ができて、その時に皆の気持ちが変わらなければ協力してくれた皆に信頼の証として、皆を受け入れようと思っているが今は内緒だ。
そして、ミレニアム王国のシーズン村自治区の開発が軌道に乗ってきた頃には僕も十八歳となっていた・・・
【エニシ。クリエとトロイの力が遂に発動しましたわ。あと、ソラが他の勇者と一緒に召喚されましたわよ。】
(ソラもこっちに来たんだね。さあ、いよいよだ。先ずは迷宮創造で魔物大氾濫に備えようか。僕は神竜と邪神竜を何とかしてくるよ。相当力を奪った筈だから、今なら何とかできると思う。ミリアとミヅキはソラを頼むよ。リフレには世界樹の力で【天使能力開放】を出来る限り抑えて欲しい。アリーは迷宮で捉え切れなかった魔物達の討伐を頼むよ。)
私は皆に指示をした。
皆には連絡用に私が製作した指輪を渡してあるのだ。
全員左手の薬指にはめてしまっているのだが、僕には突っ込む気力も無かったのだった・・・
「キュイ?」
「キュルキュルー。」
僕の目の前には可愛らしい白い子供の竜と黒い子供の竜が僕の方を見ていた。
神竜と邪神竜のようだが、私が奪った力が大き過ぎたのか?
僕の肩に乗せる事ができそうな大きさであった。
僕が魔力を込めた手で撫でてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。
何だろう?神竜も邪神竜も敵意を感じなく、逆になついてしまっていた。
もしかしたら、僕が力を吸収した時に繋がりができてしまっていたのかもしれない。
「僕と一緒に来るかい?」
「「キュイー。」」
翼をパタパタさせながら喜ぶ神竜と邪神竜・・・
本当なら世界を滅ぼす為のクリエとトロイの切り札であったが、僕の仲間になってしまうという結果となったのだった・・・
神竜と邪神竜は世界樹が気に入ったようで、僕は世界樹を寝床にする事にしたのだった。
枝に乗せたらすぐに神竜と邪神竜は満足げに眠り始めたのだった。
「あらあらぁ、可愛らしい竜ですのねー。」
リフレが僕の後ろから抱きつきながら話し掛けてきた。
僕は小さい頃から抱きつかれているから平気だけと、普通の男性がリフレみたいなナイスバディのハイエルフに抱きつかれたら悶絶してしまうかもしれない。
「ここが気に入ったらしいからね。宜しく頼むよ。」
「エニシ様ぁ、リフレを気に入ってくれてもいいのよぉ。」
リフレが更に密着してきた。
不味い、リフレのペースだ、何とかしないと抱き枕にされてしまいそうだ。
「て、天使能力開放は抑えられそうかい?」
何とか話題を変えて抱き枕の回避を試みた。
「完全じゃ無いけどねぇ。九割は抑えられるかしらぁ?」
流石リフレだ。実力は本物だ。
「サンキュー。このまま頼むよ。」
僕はリフレの頬に軽くキスをして世界樹を後にしたのだった。
「エニシ様ぁー。もう一度ぉー。」
リフレの声が聞こえた気がするが・・・聞こえなかった事にしたのだった・・・
「アリー魔物達の様子はどうだい?」
「大氾濫って程じゃないわよ。魔物が大量に現れた所は殲滅してるけど?大したことはないわね。あっ、また現れたわよ。」
まだ迷宮が上手く機能しているみたいだ。
魔王も点在しているから、これから徐々に魔物達が増えていくのは仕方無いだろう。
「アリー。少し僕も手伝うよ。迷惑かい?」
「べ、別に私一人でも平気なんだから。で、でもエニシが手伝いたいで言うんだったら、い、一緒でも構わないわよ。」
「うん。手伝いたい。」
「し、仕方ないわね。さっさと行くわよ。」
真っ赤な顔を僕から逸らしながら、スキップ混じりで魔物へと向かう分かりやすいアリーであった・・・
前世で僕が暴発させた力が大きかったのと、皆の活躍で、すぐに世界が滅ぶような事態は回避出来たのだった。
だが、何体もの魔王とこれから数を増やしていく魔物達がシンドールの住人達に牙を剥くだろう。
ミリアの報告では今回の勇者はソラを除いて十二人らしいが、皆心が歪んでいて、厄をもたらしそうとの事らしいのだ。
これでクリエとトロイが封印を破ったりしたら・・・
いくら強い仲間が居たとしても、僕達は万能では無い。
世界規模での出来事は簡単には止められないのだ。
まだまだやる事は山積みなのだ・・・
(ミリア。ソラの方はどうかな?)
【魔力が凄いですわね。なのに魔法の才能は無いようですわ。戦闘能力も低いですわね。】
やはりこちらの宝玉にソラの半身が眠っているから能力の殆どは眠っているソラが持っているようだが、召喚されたソラはウィークポイントだった魔力の低さを補える存在であった。
【それでもシンドールの厳しく残酷な現状とそこで生き抜く子供達を見て、何とか頑張ろうとしていましたわ。今はミヅキの所で魔力探知を練習している筈ですわよ。私もミヅキもソラを応援したいですわ。宜しくて。】
ミリアが応援していた。
ミヅキにも聞いておこう。
(ミヅキ。ソラの様子はどうだい?)
(ん・・・魔物沢山・・・応援・・・)
ミヅキからの応援要請だ。
ミレニアム王国のシーズン自治区の開拓中の森の奥からだった。
(オークとゴブリンか、結構な数だね。今行くよ。)
僕はミヅキの元へ転移しようとしたが、近くにオークやゴブリンよりも上位のオーガが大量に発生しているポイントがあったので、先にそちらに転移したのだった。
(うわぁ、こんなにオーガが居たらシーズン自治区に大きな被害が出てしまうな。)
オーガが三十体は居る。
皆僕を見つけて向かって来ていた。
僕は神界で練習していた刀を取り出して、居合いの構えで対峙する。
オーガ達が数体間合いの中へと侵入した刹那、僕は刀を一気に振り抜く・・・
ズズズーンと音が響き渡り、オーガ達が数体倒れ、他のオーガ達の時が止まる・・・
僕は刀を返し、驚いて動けなくなったオーガ達に斬撃を放つ・・・
時間にして一秒も進んでいないだろう。
気が付くとオーガを全て斬っていたのだった・・・
(あれっ?終わっちゃった?)
刀を鞘に納めると、キィーンと金属音が響いた・・・
止まっていたオーガ達の時が動き出した。
ドドドドドーンという地響きと同時に全てのオーガ達が倒れ、動かなくなっていたのだった・・・
(さて、ミヅキの所に行くとしよう。)
僕は何事も無かったかのようにミヅキの元へ転移したのだった。
僕がミヅキの所に着いた時、彼女は最後のゴブリンに止めを刺すところだった。
(ソラは・・・あっ。)
僕がソラを見つけた時、彼女はハイオークの一撃を受ける直前だった。
僕は急いでハイオークとソラの間に転移してハイオークに雷撃を放った。
『ドゴォォォーン』
ハイオークは消し飛んだのだった・・・
「ん・・・遅い・・・ソラ・・・危なかった・・・」
ミヅキが僕に文句を言って来たのだった。
「遅くなってすまなかったね。まさか、ハイオークが居たなんて思わなかったよ。まあ、ソラさんが無事で良かったよ。」
驚いた顔で僕を見つめるソラが居た。
日本に居たソラではあったが、黒目黒髪の僕の知っているソラそのものであった。
あのリフレも驚く程の胸の大きな双丘も健在だった。
ソラの事は気になるが、今はこちらに迫ってきているオークが邪魔だった・・・
「千撃剣。」
声と同時にシャキーンと音が鳴り響き、僕の周りに展開した光の粒子が剣の形状へと変化し、無数の光の剣が出現した。
そして、無数の光の剣がオーク達に向けて放たれたのだった・・・
圧倒的だった・・・
飛び出していった無数の光の剣に、成す術もなく倒されていくオーク達・・・
光の剣が放たれてから数秒で、約50体のオーク達は全滅したのだった・・・
「おし、終了ーっと。取り敢えず街へ戻ろう。」
僕は何事も無かったかのように普通に話し出し、パチンと右手の指を鳴らしてミレニアム王国のシーズン村自治区へと転移したのだった・・・
「ミヅキ、ソラさんの事しっかり守ってくれて有り難うな。」
僕はそう言いながら、ミヅキの頭を撫でた。
「ん・・・と、当然・・・ん・・・」
頭を撫でられているミヅキが、頬を真っ赤にしてニヤニヤと嬉しそうにしていた。
照れているミヅキが新鮮で可愛い。
「あ、あの、二人は恋人同士なの?」
ミヅキを見てソラが問いかけた。
「ん・・・そう・・・ミリアも・・・他にも居る・・・」
「えっ?ミリア?他にも?それって問題じゃないの?」
「ん・・・問題無い・・・皆一緒・・・幸せ・・・」
「参ったねぇ、何か誤解されてそうな気がするよ。まあ、恋人というよりは強い信頼で結ばれている仲間って思ってもらえればいいかな?今この世界で生きていくには、信頼出来る仲間は必要不可欠だからね。でも、彼女達は僕以外の男の仲間は信用出来ないと言って認めてくれないんだよ。」
僕は困った顔をしながら、ソラに話を続けた。
「ただ、彼女達には気兼ねなく過ごして欲しいから、彼女達が信用出来ない者は仲間にしないというのは、仕方がないとは思うけどね。でもね、もし、この世界に平和が訪れた時、僕はどうすればいいのかな?信頼している仲間の誰か一人だけ選んで、他の娘達には『幸せにねっ』って放り出すのが正しいかい?僕にはそれこそ最低な行為に思えてしまうんだよね。だからその時、彼女達が望むなら、僕は信頼の証として彼女達全てを受け入れるだろうね。」
僕は真剣な眼差しで胸の内をソラに話したのだ。
「確かにそうね。何となくだけど、ミヅキやミリアが貴方に惹かれたのが分かるような気がするわー。」
ソラが僕の話に反対はしなかったのが少し嬉しかった。
「ん・・・ソラなら・・・皆・・・歓迎・・・」
「えっ?私?えーと・・・」
ミヅキの言葉に戸惑うソラであったが、僕はソラに伝える事が有ったのだ。
「その前にソラさんに話が有るんだけど、いいかな?」
「はっ、はいっ。どうぞ。さん付け無しのソラで構いませんよー。」
「ソラ、この世界は厳しく残酷だけど、これからもこの世界で暮らしたいかい?それとも、元の世界に戻れるのなら戻りたいかい?」
「えっ?元の世界に戻る方法があるの?」
ソラは驚きの表情で僕を見つめた。
「ソラ限定だけどね。その代わりにもう二度とこちらの世界には来られなくなるけどね。」
僕はソラに虹色に輝く綺麗な宝玉をソラに見せる。
「この宝玉は、元々こちらの世界に居たソラの物なんだ。これを使えば元の世界に戻ることも可能だし、こちらの世界で生き残る為の力を得る事も可能になるよ。どちらを選択するのかは自由だよ。ソラが決めるんだ。」
「ミヅキも言ってたけど、こちらの世界に居たソラさん?生き残る為の力?それってどういう事なの?」
「それは、こちらに残る選択をしたら判るさ。元の世界に戻る場合は知らない方が良い事だからね。今、ソラは元の世界で人生を送るか、こちらで人生を送るかという分かれ道に立っているんだよ。ソラの人生の中で最大のスプリットポイントだね。」
僕にはソラが激しく迷っているみたいに見えたのだった。
「迷っているようだね。ソラ。1つ良いことを教えようか。この宝玉を使用すると、行き来は出来ないけど、少しの間ソラの世界、多分両親の所と繋がるはずだよ。そこで話してみてから選択する事は出来るはずだから、それで決めたらどうだい?」
「有り難う御座います。それで決めさせて下さい。」
ソラが僕の提案に乗り、宝玉を受け取った。
「そこの部屋を使うといいよ。宝玉に力を込めれば宝玉が輝き出して、向こうの世界に一時的に繋がるはずだよ。宝玉の光が点滅を始めたらタイムリミットだよ。元の世界に帰るなら宝玉を持ったまま、そのまま向こうの世界へ飛び込むんだ。こちらの世界に残るなら宝玉を床に叩き付けて壊せばいいよ。」
「分かりました。一度両親と会ってみます。どちらを選択するか、今は決まって無いけど、悔いが残らない様に選択してきます。」
「次があったなら、その時は僕の事も話そう。また会える事を願っているよ。」
「ん・・・待ってる・・・仲間・・・紹介する・・・」
「有り難う。それじゃあ、行ってきます。」
そして、ソラが僕達に挨拶をして別の部屋へ向かって行ったのであった・・・
「「「「「宇宙。」」」」」
「私、シンドールに召喚されて、ミリアとエニシに会って、ミヅキも居て、子供達が頑張って生きていて・・・えーと、えーと・・・」
「宇宙。落ち着いてゆっくり話すんだ。」
ソラの父親のハルが優しく話し掛けた。
母親のアキも微笑んでいた。
「色々あったから長いよー。」
ソラが涙を浮かべながら微笑んだ。
「俺達もシンドールに居たんだよ。フユとの子供はミヅキという名前だったんだ。」
美月の父親のナツと母親のフユがシンドールを知っていた。
ソラの両親も知っていたのだ。
「宇宙は運命の人をそっちで見つけたのね。羨ましいわ。」
涙を浮かべながら話す美月であった。
ソラは召喚されてからの出来事を話した。
その他の話も、何でもない話も時間の許す限り話続けたのだった。
そして、宝玉が点滅を始め、タイムリミットを告げた。
「「「「「頑張れー。宇宙。」」」」」
「みんな、有り難う・・・これが私の答えよ。」
『カシャーーン』
宝玉を砕くと、ソラに何かが流れ込んで来た。
「これってソラさんの記憶・・・」
両親達と過ごした日々や、ミヅキやエニシと暮らした日々等いろんな事が力とともに流れ込む。
日本で生まれるソラに神の祝福を授けたエニシや時折日本のソラを見守るエニシまで記憶に流れ込んできたのだった。
ソラは皆に会いたくなって急いで扉へと向かったのだった・・・
ソラの居た部屋の中から、宝玉を壊した音が聞こえた。
そして、部屋の扉が開かれたのだった。
「ただいまー。」
ソラが元気に飛び出し、ミヅキに抱きついた。
ソラが満面の笑顔を浮かべていた。
もう、迷いは無いのだろう。
「ん・・・おかえり・・・ソラ・・・」
嬉しそうに笑うミヅキであった。
そして、ソラがミヅキから離れて僕に抱き付いたのだった。
「随分と隠し事してたじゃないのー?私の事知ってたじゃないのー?もう全部判ったんだからねー。もう一人のソラから聞いたんだからー。今度は私が可愛がってもらうんだからねー。」
昔のソラが帰って来たかと思ったが、今のソラには双方の記憶が在るのだろう。
しかし、美少女でプロポーション抜群のソラに迫られると、流石に焦る。
「ん・・・ソラ・・・仲間・・・歓迎・・・」
今度はミヅキまで抱き付いてきた。
「ちょっ、ちょっと流石に僕には刺激が強過ぎだよ。」
「そろそろ許してあげるわー。早く世界を平和にして私も受け入れてもらうんだからね。」
ソラが悪戯な微笑みを浮かべ、彼を下から上目遣いで覗き込んだのだった。
「は、はい、頑張ります。もう一人のソラの力も手に入れたんだね。おめでとう。これで、ソラは聖女の力、いや、それ以上だから、【真・聖女】の力を手に入れたんだよ。召喚された勇者達よりも遥かに強い力だからね。これから宜しくね。」
「えっ?私って【真・聖女】だったの?」
「ソラの潜在的な力と、もう一人のソラの力が融合したからね。ミヅキや僕と変わらない力だよ。」
「ん・・・私も・・・宜しく・・・」
「私こそ、宜しくねー。色々と聞きたい事も有るしー、真・聖女の事とか、お父さん、お母さんの事とかもね。」
「それなら、シーズン村で話そう。あそこが僕達の始まりでもあるからね。仲間にも紹介したいしね。」
「私も会いたいわー。村も見たかったし。早速行きましょう。」
「ん・・・」
僕はパチンと右手の指を鳴らし、転移魔法でシーズン村へ向かったのであった・・・
「ここがソラとミヅキの両親にあやかって名付けられたシーズン村だよ。」
「私の記憶と同じだねー。何か懐かしいなー。」
ソラが嬉しそうに辺りを見渡していた。
「ソラ。覚悟が出来まして?これからは好敵手ですわよ。宜しくて。」
「私も頑張るよー。宜しくね。ミリア。」
こっそり城を抜け出してきたミリアがソラに微笑んだ。
「アリーよ。久し振りね。アキといい、ソラといい、相変わらず無駄に大きな胸ね。邪魔じゃないの?」
「えっ?アリーさんなの?とっても綺麗な人になったんだねー。素敵よー。」
「ほ、誉めたって、嬉しくなんか無いんだからね。」
真っ赤な顔で横を向くアリーだった。
「あらあらぁ、この子がソラちゃーん?可愛いわぁ。それに、凄く柔らかいわねぇ。あぁ、凄いわぁ。」
後ろからソラに抱き付いてソラの胸を触りまくるリフレ。
「え、えーと、リフレさん?リフレさんも凄いねー。私とあんまり変わらないじゃない。」
マイペースのリフレに振り回されないソラであった。
「ん・・・ソラ・・・皆・・・認めた・・・仲間・・・」
「えへへ、有り難う。みんな宜しくお願いします。」
皆に頭を下げて挨拶したソラだが、相変わらずたゆんと揺れて目の毒だ。
「そうだ。ソラにも連絡用に渡しておくよ。」
僕は箱に入った連絡用の指輪をソラに手渡した。
「有り難う・・・えっ?指輪?」
「そうだよ。嫌だったかい?」
「ううん、嬉しいよ。えーと、私こそ末永くお願いしまーす。」
そう言って嬉しそうに左手の薬指に着けるのだった。
何かまた勘違いしている気がするが・・・まあ、いいか。
「私のお父さんやお母さん、それに美月のお父さんとお母さんもここで暮らしてたんだね、前世の私とミヅキも一緒だったなんてね。ホント驚いたよ。」
「ハル達の事なら僕よりアリーが詳しいかもね。一緒に魔王を倒した仲間だからね。」
実は魔王を倒した事は子供達には秘密にしていたのだった。
ハル達の力を恐れる国々に情報が漏れないように皆気を付けていたのだ。
「えっ?魔王を倒したの?詳しく聞きたいかな。アリーさん教えて。」
「そうね・・・出逢いは世界樹の下だったわ。それから・・・」
ソラの問いに答えるように、アリーが語り始めたのだった・・・
「そんな事が有ったんだ。お父さん達って大変だったのね・・・でも子供達を気にかける所なんかは変わらないのね。アリーさん有り難う。」
「別に礼を言われるような大した話はしてないんだから。アリーでいいわよ。」
「うん。有り難うアリー。」
「・・・」
真っ赤になって黙る、照れ屋のアリーであった。
「あれっ?ソラが産まれた時にはエニシはもう居なかった筈よね?ミヅキは転生後、私と育ったから知ってるけど、ソラはどうしてエニシを知ってるの?」
前世でアリーと別れた後は神界に居た為、僕とソラの接点が無いのでは、とアリーが気が付いたのだ。
「それはねー。私とミヅキで神界に行った時にエニシと勝負してね、負けて裸にされたのがきっかけかな。」
「ん・・・私も・・・そう・・・」
「私も目撃しましたわよ。」
アリーの問いにソラが答え、ミヅキとミリアが肯定する。
「あらあらぁー?ケダモノですかぁ?」
「ちょ、ちょっとそれってどういう事なの?」
これはリフレとアリーが誤解しかねない展開だ。
僕は説明をしようとしたのだが、それからが大変だったのだ。
いつの間にか話がすり替えられて、誰が本命なのか?とか、好みのタイプは?などの話になってしまい話が全然纏まらなかったのだ。
ただ、ソラも皆と打ち解け合えたようで、話が終わる頃には皆仲良くなっていたのだった・・・
「と、兎に角、先ずはシンドールをクリエとトロイから解放しないとね。その後、皆でもう一度将来の事について話そうよ。」
何とか話が終わり僕は本来の目的を話した。
「今のメンバーなら、クリエとトロイとも渡り合える筈だ。ソラも【黒き聖女】と呼ばれていた当時と比べてみてどうだい?」
「流石【真・聖女】だねー。魔力も体力も段違いだよ。今なら一緒に召喚された勇者達も敵じゃないかもね。」
「勇者達ともいずれ刃を交えるかもしれないし、魔王達と魔物大氾濫で大発生し続けている魔物達とも戦わなければならない。世界の被害を抑えながらクリエとトロイから世界を解放するまではまだまだ長い道のりだ。それでも、ミリア、アリー、ソラ、ミヅキ、リフレ、僕と一緒に来てくれるかい?」
「「「「「はい。どこまでも。」」」」」
皆が声を揃えて返答してくれた。
いつこの世を去ってもおかしくなかった八十歳の神導縁が、病室で触れた光る端末から始まった物語・・・
いや、もしかしたら、グランデール社が絡んでいる気がするので、異世界から来たという、創造神さんが糸を引いているのかもしれない。
いつの間にか、クリエとトロイから世界を救う事になってしまったが、僕の側には、ミリア、アリー、ソラ、ミヅキ、リフレがいる。
神城翔とリリィ達の力も感じる。
今の僕は独りじゃ無いのだ。
神の導が繋ぎ結びし縁が一つになり、物語が動き出したのであった・・・
最後までお付き合いいただき有り難う御座いました。
他の短編を読んでいた方が納得の内容になっていれば良いのですが。
これで一応の完結となります。
続きは感想や評価があったら投稿しちゃうかもです。
ではまた次回作でお会いしましょう。