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2 「登場」


 それから半年後――

 7月8日 PM1:21

 某国 グランツシティ  南区



 雨期も過ぎて、ギラギラとした灼熱の出番が差し迫る―といっても、異常気象のご時世、そんなものは関係ないか―そんな学生の街グランツ。

 南区に広がるグランツ第8公園。

 かつて、南区立緑地公園と呼ばれていた都会のオアシスの一角に、広大なパーキングと隣接するコンビニエンスストアがあるのだが――。


 「おい、早く謝れよ」

 

 熱したアスファルトに座り込み、恐怖に引きつった表情を見せる男。

 彼を取り囲むのは、派手な色の髪にピアスと、あからさまに“BAD(ワル)”なガキ共。共通しているのは、彼らが全員薄い青のワイシャツを着ていることだ。

 1人に対し、囲むのは3人…いや、取り巻きを入れれば軽く10人は超えている。

 店員は駐車されているミニバンにもたれかかって、歯をガチガチと鳴らすしか手立てがない。


 そのはずだ。

 既に現場には、付近を管轄するガーディアンが到着している…はずだった。


 市立南学園の制服をまとった男女2人。

 しかし、今、その姿は傍にはない。

 遠巻きの中に、その答えはあった。

 

 男子生徒は目や鼻、口と顔の至る所から血を流し、大の字になってアスファルトの上に倒れ沈黙。

 女子生徒はクラウンのフロントガラスに上半身を突っ込ませ、小刻みに痙攣する足の間から、黄色い液体をボンネットに垂れ流していた。

 乗ってきた白い小型自動車も、大破し彼らの傍でひっくり返っている。


 最早、助けてくれる相手は誰もいない。


 「おい、どうなんだよ?」

 「そ…そんなぁ…」

 「コイツラがかわいそうだろ? 謝れよ! なあ!」

 「き、君達が万引きをしたから、こっちが止めたんじゃないかぁ…」


 そう、店員を恫喝する少年たち。実は、あのコンビニで万引きをしていたのだ。

 盗んだのは恫喝するボス猿の横に立つ、ひ弱そうな金剛力士像。

 ポテトチップスにコーラ2リットル。消費税込413円。

 お金の代わりに転がったのが、店員と、あの哀れな学生捜査官2人と言う訳。


 「コイツラは腹ペコなんだよ。可愛いコイツラのために、何か食べさせてやろうとは思わないのか?」

 「無茶苦茶なぁ…」

 「挙句にガーディアンまで呼びやがって…万引きしやすい店にしているお前らが悪いんだろ? だったら、店の責任で、コイツラに腹一杯食べさせてやれよ」


 取り巻きからも「そうだそうだ」と、古典的なヤジ。

 無茶苦茶。

 遂にしびれを切らせ、ボス猿が手にしていた鉄パイプで頭部を殴りつける!

 こういう手合は、一旦堰を切ってしまえば、後は全てが絶頂するまで止まらない!


 店員が「助けてくれ」と叫ぼうが、背後のミニバンが警報音を鳴らしながら小刻みに揺れようがお構いなし。

 鉄パイプが血に汚れ、腹部に投げつけられたゴミ箱の中身が散乱し、どの少年も猿山のような奇声で、嬉しさを表現する。

 仲間の店員も、身体を震わせて店から傍観するだけ…。


 「この野郎…まだ、あやまんねーのかっ!」


 既に店の制服は血に染まり、顔が腫れ上がっている現状、反論などできる訳がない。

 と言うより、彼は何も悪いことはしていない。

 そんなボス猿の横で、金剛力士像は「暑い」と、盗んだコーラを回し飲み。


 「仕方ねえ。このコーラ代は、お前の命で許してやるよ」


 ケタケタ笑いながら、3人は血まみれの店員を見下ろした。

 次の一振りで、彼は不条理な天国行。

 そう思われた次の瞬間。


 「やめな」

 

 この、典型的勧善懲悪。

 背後から、ボス猿の手首を掴んだのは…少女だった。

 亜麻色の髪に華奢な白い手。そして青空に同化しそうな群青の瞳の女の子。

 白い半袖のワイシャツに、紺のスカート。制服の少女が、血なまぐさい事態を仲裁したとなれば、彼女の正体は歴然。

 いや、このシリーズを見ていただいている読者なら、彼女が何者なのか分かっているだろう。


 「物を食べたきゃ金を払え。金がないなら地道に働け。それが資本主義ってやつだ。学校で習わなかったか?」

 「なんだ…テメエは…」

 

 手首を握る手が強くなり、とうとう鉄パイプを手放す。


 「アンタらが半殺しにした連中のお仲間さ。もっとも、こっちは強いバージョンだけどな」

 「ふざけんなよ!」


 ボス猿が振り返りざまに左手で拳――と言う間に、少女は片手で屈強な体をひっくり返し、地面に叩き付けると、右足で思い切り顔面を踏みつけた。

 手足を痙攣させて沈黙。

 流石に、周囲の取り巻きも動揺を隠せない。


 「さあて、確かめましょうか。アンタらの命はコーラより安いか…高いか」


 口元に笑みを浮かべた少女はそう言って、腰に差した特殊警棒を掴んで一振り。

 しかし、一見さんは分からないだろう。彼女が何者なのか。

 …どうやら地の文にしなくても済みそうだ。取り巻きのワルが、叫んだのだから。


 「誰だ! テメエ!」

 「シレーナ……シレーナ・コルデー」

 「ようし。覚えたからな。俺たち“カッター・ブリュー”を敵にまわしたことを後悔させてやるっ!」 


 彼女は応えない。その代り、群青の瞳の上に、幾重にも走った亀裂を輝かせて――!


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